風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第190回  石転ビ沢雪渓

『日本百景』 夏  第190回  石転ビ沢雪渓  〔山形県〕


梶川尾根より望む
石転ビ沢雪渓

  飯豊連峰 いいでれんぽう (磐梯朝日国立公園)
福島・山形・新潟の三県にまたがる飯豊連峰は、主峰・飯豊山 2105メートル を中心に、最高峰の大日岳 2128メートル ・花の御西岳 2013メートル ・東斜面に幾筋もの雪量豊富な雪渓を持つ北股岳 2025メートル など、標高2000m前後の個性的な峰が並んでいる。 これらの山々は、豪雪地帯にそびえているので雪食が目立ち、特に主稜線東斜面は多量の積雪によって大いに削られて急峻な地形となっている。 

一方、季節風によって雪が飛ばされて積雪が少ない西斜面は、あまり雪食の影響を受けず穏やかで、主稜線の山々は両面非対称の山容を示している。 この飯豊連峰も、東北の名峰と同じくアプローチが長い熟達者向きであるが、雪渓やお花畑を多く抱き、バリエーションルートも充実して登山心をくすぐられる山域だ。


石転ビ沢大雪渓は
北股岳より標高差1200mを誇る巨大雪渓だ

・・魅力的な登山コースとして特にお薦めは、北股岳北東斜面に広がる《石転ビ沢大雪渓》を伝うコースだ。 このコースは、そこそこの登山経験が必要なバリエーションルートではあるが、長さ2.8km・標高差1000mの雄大な雪渓を直登する醍醐味を味わえる素晴らしきコースで、夏の飯豊登山のメインルートである。




飯豊山主稜線縦走ルート 行程図

    行程表            駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR小国駅よりバス(0:55)→飯豊山荘(2:20)→石転ビ沢出合
     (3:20)→十文字鞍部(0:35)→北股岳(0:25)→十文字鞍部
《2日目》 十文字鞍部(0:50)→烏帽子岳(2:00)→御西小屋(1:25)→大日岳
     (1:10)→御西小屋(1:10)→飯豊山(1:35)→切合小屋
《3日目》 切合小屋(1:10)→三国岳(1:30)→横峰小屋跡(1:20)→御沢小屋
     (0:30)→川入・飯豊鉱泉よりバス(0:50)→山都駅

  《1日目》 石転ビ沢大雪渓から十文字鞍部・北股岳へ
このコースは、バリエーションルートとなっている《石転ビ沢大雪渓》を登っていくのである。 
この《石転ビ沢大雪渓》は最大傾斜45°の急傾斜を持ち、毎年少なからずの山岳遭難の出ているコースなのである。 従って、お粗末な装備や午後出発などの無計画・無謀は事故の元である。
ここは、確実な雪渓装備を用意して、前日に《飯豊山荘》に入っておいて、翌朝早くに出発する・・といった時間のゆとりを確保すべきであろう。


                 7月下旬の        イイデリンドウ
                  石転ビ沢雪渓の状態

さて、この“危険だが魅力ある”《石転ビ沢大雪渓》を登っていこう。 《飯豊山荘》から、車止めのゲートをまたいで砂利道の林道に入っていく。 約20分程この砂利道を歩いていくと、《ダイクラ尾根》を登る長大ルートを分けて山の方へ入っていく。 しばらく広い砂利道が続くが、《梅花皮沢》が寄り添ってきて砂防ダムが立ちはばかると、道は細り登山道らしくなってくる。 

この砂防ダムを越えると、沢沿いの土手の上につけられた道を伝っていく。 
辺りは鬱蒼としたブナ林帯だ。 このブナ林が尽きると、いよいよ山頂から続く長大な雪渓が視界に入ってくる。 雪渓の端は年度によって、また月によって異なるが、おおむねこの《地竹沢出合》まで延びている。


                イワギキョウ      マツムシソウ

沢床が雪渓となっていたなら、土手から雪渓に下りてみよう。 ここから、いよいよ雪渓歩きが始まる。 始めのうちは傾斜も緩くアイゼンがなくとも歩けるが、《入り門内沢》を分ける《石転ビ沢出合》辺りから徐々に傾斜を増してくる。 また、この出合は、道が判りにくいので注意しよう。


壮大なスケールの
石転ビ沢大雪渓

それは、進むべき《石転ビ沢》が左にそれているのに対して、《入り門内沢》は幅が広く傾斜も緩やかで、なおかつ進行方向も直進なので誤って入り込みやすいからだ。 ガスに巻かれた時などは、特に注意しよう。 《石転ビ沢出合》で進路を左に取り、徐々に傾斜を増していく雪渓を登っていく。
この辺りから、そろそろアイゼンが必要となってくる。 

あるガイドでは“キックステップ”だけで登れる・・としているが、これはとんでもない事で、アイゼン・ピッケルは必需品である。 滑落したくなかったら絶対に用意すべきだし、またアイゼンも四本爪の簡易的なものではなく、雪を蹴り込む事のできる八本爪以上の物を使いたいものだ。 

アイゼンをつけてから30分も歩くと傾斜はますますキツくなり、ピッケルなしでは前に上がれないようになってくるだろう。 ひと息つくにも、だだっ広い“滑り台”の上に立っているようなもので、立って前屈みでの休憩を余儀なくされる。 ここで腰を下ろしてくつろぐなどはもっての外で、そんな事すると“滑り台”を滑っていくようなものである。 見る見るうちに、滑り落ちてしまうだろう。


雪渓の上部は
『奈落の底』への天然の滑り台だ

従って、傾斜が急になってから、“雪渓の鼻”と呼ばれる草付きの中島までの間まではろくな休憩が取れない。 そして振り返ると、下から登ってくる人が点に見える“雪の滑り台”に神経を張りつめて登っていく。 約2時間程この緊張に耐え抜くと、まるで“雲上の楽園”が如く草付きの中島が現れる。 
既にこの中島に上陸している人達は、思い思いにくつろいでいる。 
まるで、地獄と極楽の境界にいるようだ。

そして苦労の末、晴れて上陸して下方を見下ろすと、“蜘蛛の糸”を手繰るが如く、次々と登山者がこの草付きを目指して登ってくる・・。 何とも面白い光景である。 この草付きの中島は雪渓の中の“心のオアシス”が如く、花が咲き乱れる楽園である。 しかし、ここを“元”としての落石も結構多いのだ。


               アオノツガザクラ       キンポウゲ

下の雪渓を登っている最中、ここから落ちてきた石つぶてが谷に響きながら落ちていくのを垣間見たなら、なおさら怖ろしい思いをするだろう。 この草付きの中島を登っていく時は、石を落とさぬように注意しよう。 

この草付きの中島の上まで登りつめると、ゴルジュ(雪渓の中の滝=雪渓間の段差の事)のすぐ下をくぐって、対岸の草付きにトラバースする所がある。 ここは僅か5m程なのだが、この雪渓の最も危険な場所で、過去の滑落事故もこの地点でよく発生しているのである。

雪渓の中ゆえに、普通の難所のように鎖やロープなど頼る物がなく緊張させられる。 ここは、慎重かつ速やかに渡っていこう。 この難所を乗りきって、対岸の草付きのお花畑を登っていく。 

この草付きは湧水の沢が中央を流れていて、ちょっとした沢登りのようである。 
この草付きの最上部まで登りつめると、いよいよ《梅花皮避難小屋》の建つ《十文字鞍部》が見えてくる。 だが、小屋の建つ稜線上との間に、45°という最大傾斜の雪渓を登りつめねばならない。

思わず、「どこか“巻き道”でもないか」と探したくなる状況だ。 しかし、そんな都合のいいものなどある訳もなく、最後の最後まで緊張する場面が続くのだ。 さぁ、あとひと踏ん張りだ。 確実に登っていこう。


残雪豊な飯豊の山なみ

・・これら数々のスリルある場面を乗り越えて稜線上に立つと、素晴らしい山岳風景と共に、この難所を乗り越えた自信と充実感が全身をみなぎる事だろう。 ひと息ついて余裕があれば、北股岳 2025メートル へ登って、上から今日歩いた雪渓を見下ろすのもいいだろう。


山岳美を魅せる北股岳


暮れなずむ大日岳

北股岳へは、1時間もあれば往復できる。 今日は、ここでストップとしよう。 周りのお花畑や《洗濯平》の花の波・・、飯豊連峰の山なみに明日の夢がだんだんと膨らんでくる。


雲海越しに望む
飯豊の山なみ


黄金に輝く雲海と飯豊連峰の眺めに
明日の山の夢を馳せる

   続く《2日目》以降は次回『第191回 飯豊・大日岳』で・・

    ※ 詳しくは、メインサイトのより『飯豊連峰<1>』をどうぞ。













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No title * by gre*n*hub*32
素晴らしい山岳写真の数々!、・・・目の保養になりました!。
有難う御座います。

✦『壮大なスケールの石転ビ沢大雪渓』・・・壮大の一語に尽きます。
カナダ・ジャスパ―国立公園に在るコロンビア大氷河のスケールはありませんが、優るとも劣らず!の観があります。

ナイス!〜

No title * by 風来梨
gre*n*hub*32さん、こんばんは。

この国は、狭い国土では奇跡と言っていい自然情景を魅せてくれますね。

「美味し国・日本に生まれてよかった」と思います。

コメント






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No title

素晴らしい山岳写真の数々!、・・・目の保養になりました!。
有難う御座います。

✦『壮大なスケールの石転ビ沢大雪渓』・・・壮大の一語に尽きます。
カナダ・ジャスパ―国立公園に在るコロンビア大氷河のスケールはありませんが、優るとも劣らず!の観があります。

ナイス!〜
2015-07-24 * gre*n*hub*32 [ 編集 ]

No title

gre*n*hub*32さん、こんばんは。

この国は、狭い国土では奇跡と言っていい自然情景を魅せてくれますね。

「美味し国・日本に生まれてよかった」と思います。
2015-07-24 * 風来梨 [ 編集 ]