風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第189回  仙丈ヶ岳

『日本百景』 夏  第189回  仙丈ヶ岳  〔山梨県・長野県〕


雄大な天然のうつわ
仙丈ケ岳・薮沢カール

  仙丈ケ岳 せんじょうがたけ (南アルプス国立公園)
雄大なカール地形を抱く仙丈ケ岳 3033メートル は優しい山容を示し、また高山植物の豊富な“花の峰”として知られている。 また、カールの上部は万年雪の雪渓を抱き、高山の魅力を大いに引き立てている。 万年雪と花の“うつわ”であるカールを越えると、雄大な眺めの山頂が待っている。
頂上に立つと、360°名峰がそびえ立つ大パノラマが望まれる。 


甲斐駒ケ岳より望む仙丈ヶ岳

東を見れば、甲斐国の守護神として崇められる甲斐駒ケ岳 2967メートル が、対照的な荒々しい山容を魅せている。 振り返れば、南アルプスの盟主・北岳 3192メートル ・間ノ岳 3189メートル 、更に奥には塩見岳 3052メートル など、山が途切れる事なく連なっている。

左右両サイドも名峰が目白押しだ。 右には鳳凰三山、左には中央アルプス、果てには北アルプスの剱や鹿島槍など、日本の名峰が一度に見渡せるのである。 この山なみを見渡すなら、やはり日の出が最高である。 日本の名峰が朝日を浴びて紅に染まる姿には、言葉では語り尽くせぬ“感動”がある。




仙丈ヶ岳・藪沢カール登山ルート行程図

   行程表               駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 伊那市街より車(0:45)→戸台よりバス(1:00)→北沢峠(1:50)→大滝ノ頭
     (0:50)→馬ノ背(0:50)→仙丈避難小屋(0:30)→仙丈ケ岳
       仙丈ヶ岳より大仙丈岳まで往復1時間(0:25)→仙丈避難小屋
《2日目》   仙丈避難小屋(0:30)→仙丈ケ岳(1:45)→大滝ノ頭(1:20)→北沢峠よりバス
       (1:00)→戸台より車(0:45)→伊那市街
   ※ 現在は仙丈避難小屋は食事提供のある山荘となっています。


ハクサンイチゲ

   《1日目》 薮沢カールを経て仙丈ケ岳へ
仙丈ヶ岳は、南アルプスの中でも比較的楽な“初級編”の山だ。 コースもさして厳しい所もなく、歩行時間も健脚者や上級者なら4時間を切る事も可能だろう。 当然の事ながら、前夜北沢峠泊での日帰り山行も可能である。 いや、可能というより、ほとんどの人が日帰りでこの山に登っている。

しかし、それではこの山の抱く魅力を十分に味わう事ができない。 この山の最大の魅力は冒頭でも述べた通り、朝日を浴びて紅く染まる山々の眺めにあるのだ。 これを見ずして、この山は語れない。 


グンナイフウロ

この『日本百景』の原点である“行ってみたい”“眺めてみたい”という思いに沿うためにも、ここは前夜《戸台》泊での1泊2日の行程で望む事にする。 マイカーならば、前夜のうちに《戸台》の駐車場まで入り、その夜を車中泊とすれば《戸台》発の始発バスに乗車できる。 交通機関利用ならば、JR甲府駅から《広河原》経由で《北沢峠》へアプローチして、《北沢峠》泊で翌朝登るのがベストだ。 

いずれにしても、辛く苦しい登りは、午前中の涼しい内に済ませてしまうのが山行のセオリーである。 
従って、アプローチには日程を割きたいものだ。 それでは、この魅力あふれる優しい山容の山に登ってみよう。


オヤマノエンドウ

《北沢峠》から、シラビソの原生林の中をジグザグに切って登っていく。 登山口をくぐるなり、いきなりの急登だ。 三合目付近までシラビソの樹林が深く、見通しはほとんど利かない。 三合目までの急登に耐えると平坦な尾根上に出て、周囲の樹木もシラビソからダケカンバに変わり、樹林帯の薄暗い雰囲気より解放される。 日差しの差し込む明るい尾根道をしばらく歩いていくと、《薮沢カール》との分岐である《大滝ノ頭》にたどり着く。 

目の前を小仙丈岳が盛り上がるように立ちはばかっていて、思わず唾を飲み込む眺めだ。
ここは急登で、しかも直射日光で蒸し焼きになりそうな小仙丈岳経由の“直登”コースより、花や雪渓を抱く雄大なカールを越えていこう。 分岐からは、小仙丈岳の山裾を巻くようにトラバースしていく。 

しばらくは、樹林帯の薄暗い道だ。 やがて、《薮沢》の沢音が近づいてきて、この沢を徒渉する。 
この辺りから、チラホラと高山植物が姿を魅せ始める。 沢を渡って、両側を色とりどりの花が飾る丸太の階段を登っていくと、《馬ノ背ヒュッテ》前の広場に出る。


キンバイソウ

今日の宿泊地・《仙丈避難小屋》は無人の避難小屋(現在は食事まで出る“山荘”となっているようだ)なので、装備を持たない場合は食事提供のあるこのヒュッテでの宿泊となろう。 しかし、頂上での朝日を望むには、決定的に不利であるが。 

小屋前のベンチでひと息着いたなら、再び登り始めよう。 《馬ノ背ヒュッテ》から、再び尾根筋へ登っていくのだが、その途中に《クロユリ苑》と呼ばれるお花畑がある。 その名の通りクロユリが咲き乱れるのだが、そのクロユリを引き立てるべく満開に咲くシナノキンバイの眩い黄色が印象的であった。
 

クロユリ

ただ花が多いだけでは、“花の峰”の称号は与えられないだろう。 これらの目を引く“何か”があるから、“花の峰”と呼ばれるのだと思う。 素晴らしき花の園・《クロユリ苑》が終わると、いよいよ稜線上に出る。


立体3Dの如く迫りくる
カール地形

前方には、雄大なカール地形が立体映像の如く迫力ある姿を魅せてくれる。 右側は中央アルプスの山なみが軍艦のように、雲海の雲間に浮かんでいる。 左側は小仙丈岳を登る登山者が、喘ぎながら登っているのを見る事ができるだろう。 ここに立つと、コース選択が“正解”であった事をその“眺め”によって明らかにできるのである。 


仙丈ヶ岳は“花の峰”としても有名だ

周囲に花が咲き乱れる緩やかな傾斜を、カール端に向かって登りつめていく。 登っていくにつれ、徐々にカールの全景が見えてきて広潤な雰囲気満点となる。 カール最奥にある雪渓と、カール底にちょこんと立つ《仙丈避難小屋》が視界に入ってくると、花の“うつわ”であるカール底も近い。 振り返れば、甲斐国の守護神・甲斐駒ケ岳 2967メートル が、雲海の雲間から白亜の頂を突き出しているのが望まれるだろう。 


刃先鋭い鋸岳と
雲海に浮かぶ八ヶ岳

カール底に取り付いたなら荷物を今日の宿泊場所・《仙丈避難小屋》にデポって、とりあえず仙丈ヶ岳に登ってこよう。 カールの右側からカール壁に取り付き、カール最奥に残る大きな雪渓を見下ろしながら馬蹄形にカール壁を巻いていくと、カール壁の中央にある仙丈ケ岳 3033メートル の頂上にたどり着く。 頂からの眺めは、明日の日の出時に譲るとしよう。


仙丈ケ岳頂上にて

ここまで4時間余り。 たぶん、時間にも余裕がある事だろう。 山頂でひと息着いたなら、大仙丈岳 2975メートル まで行ってみるのもいい。 大仙丈岳へは、ハイマツの中を漕ぎながら進む事約30分である。 


暮れなずむ空と
甲斐駒ヶ岳

この頂に立つと静かな雰囲気の中で、ちょっと違った北岳の眺望が期待できる。 山頂に立って充実した気分を十分に味わったなら、往路を避難小屋まで戻る。 カール底では食事の用意をしながら、暮れに染まっていく甲斐駒ケ岳や鳳凰三山を眺めるのが良し・・である。




甲斐駒ケ岳の右から昇る
サンライズ

  《2日目》 カールの夜明けを見て往路を下山
《仙丈避難小屋》の中はビニールの畳敷きで広々としているのだが、入口の扉は壊れていて、また壁も所々“ほころんで”いるので野ネズミなどが中を徘徊し、快適なのか不快なのか良く判らない小屋である。 ※ 現在は食事提供のある山荘に建て替えられています。


ここで野ネズミがレーズンパンを
カジらないのを知った


今は野ねずみの対策
なんかしなくて良くなったね
※ 2枚いずれもグーグル画像より拝借

さて、空が白み始めた4時頃に小屋を出よう。 カール壁を登るにつれ、空が紺色から紅、オレンジ・黄金色・・と七色の変化を遂げる。 その光を浴びた山なみや万年雪の雪渓が、素晴らしき色彩を魅せてくれる。 


カール壁が朝日に染まり
1日が始まる

甲斐駒ケ岳や鳳凰三山が、かぎろい色の空と黄金色に輝く雲海、そして鈍重な雲に飾られて“美しい”の一言では語れぬ“何か”の予兆を感じさせてくれる。


鈍く染まる雲が何かの“前兆”を
告げているかのようだ

程なく着いた山頂では黄金色に変わりつつある空の下、北岳 3192メートル ・間ノ岳 3189メートル ・塩見岳 3052メートル などの南アルプスの山々が凛々しくそびえ立っている。


雲海より突き出す北岳

また振り返ると、スカイブルーに変わりつつある空の彼方に中央アルプスや北アルプスの尖った山なみが望まれる。 


中央アルプスの山なみ


雲海に浮かぶ北アルプス

日本の名だたる山々が、七色の変化を遂げる明けの空とあいまって眺める事ができるのである。 
これこそ、この情景こそ、『日本百景』として選出されるべき風景なのだと思う。 この空の七色の変化と共に、様々な彩りを魅せる山なみの情景を味わう“至福のひととき”を満喫したなら、そろそろ帰路に着こう。 


東方の山なみ
八ヶ岳や浅間山が見える

《仙丈避難小屋》に戻り、荷物を回収して往路を忠実に下っていこう。 下っていく稜線の途中で振り返ってみよう。 きっと、仙丈ケ岳がカールを抱く雄大な姿を魅せて、優しく見送ってくれる事だろう。 
後は、花を撮りながらゆっくり下っていこう。 ゆっくり下っても、余裕を持って《北沢峠》10:00発のバスに乗車できるだろう。

   ※ 詳しくは、メインサイトのより『仙丈ヶ岳』をどうぞ。







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No title * by たけし
美しい画像をありがとうございます。
下界の様子が変化しても山岳は昔のまま。
若い頃の記憶が蘇り懐かしさと同時に切なさと、心臓の病によって登山のできなくなったわが身に嘆き節が出てしまいます。

ナイス!

No title * by 風来梨
たけしさん、こんばんは。

この仙丈ヶ岳に登ったのは、私がオチャメ伝説を構築する前・・、登山創世期の頃で、裕に20年を越える以前です。

この時はシュラフもなく、防寒着に・・と持ってきた服を着込んで、その上にカッパを着て凌いだのを覚えています。 若かったから凌げたのでしょうね。←この頃からオチャメをかましてたようですね。

カメラも、F1のデビュー2戦目でテカテカでした。 まぁ、このカメラ、今も現役の20年選手です。 使い方が荒いので、何度も病院送り(修理)になってます。

コメント






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No title

美しい画像をありがとうございます。
下界の様子が変化しても山岳は昔のまま。
若い頃の記憶が蘇り懐かしさと同時に切なさと、心臓の病によって登山のできなくなったわが身に嘆き節が出てしまいます。

ナイス!
2015-07-19 * たけし [ 編集 ]

No title

たけしさん、こんばんは。

この仙丈ヶ岳に登ったのは、私がオチャメ伝説を構築する前・・、登山創世期の頃で、裕に20年を越える以前です。

この時はシュラフもなく、防寒着に・・と持ってきた服を着込んで、その上にカッパを着て凌いだのを覚えています。 若かったから凌げたのでしょうね。←この頃からオチャメをかましてたようですね。

カメラも、F1のデビュー2戦目でテカテカでした。 まぁ、このカメラ、今も現役の20年選手です。 使い方が荒いので、何度も病院送り(修理)になってます。
2015-07-19 * 風来梨 [ 編集 ]