2015-07-04 (Sat)✎
『日本百景』 夏 第187回 薬師岳 その2 〔富山県〕
薬師岳とコバイケイソウのお花畑
黒部五郎岳より
立山・薬師 たてやま・やくし (中部山岳国立公園)
立山連峰の盟主・立山は大汝山 3015メートル を最高点とする山塊で、古くから山岳信仰の中心であった。 立山黒部アルペンルートが開通してからはファミリー登山コースとなってしまったが、それまではアルピニズム発祥の山として、様々な登攀争いが繰り広げられた山域だ。
それはそうとして、山の眺望はあまりにも楽に登れるのが腹立たしくなる程に素晴らしく、剱岳をはじめ、黒部渓谷・後立山連峰・槍穂高・・、果ては富士山までも見渡せる。 また、立山の麓にある広大なお花畑・五色ヶ原も、この山域の魅力を大いに引き立てている。 そして、あくまでも楽に・・という人にも“立山”は楽しめる。 それは、バス停すぐの《室堂平》や《弥陀ヶ原》などの景勝地である。
一方、薬師岳 2926メートル は、うって変わって登山者の領域である。 この山の魅力は、何といっても山岳的雰囲気に満ちあふれている事である。 薬師岳へ向かうまでに出会う様々な絶景、端正な姿が美しい薬師岳の広大な稜線を歩く高揚感、氷河時代の遺跡・金作谷の大カール。 中でも朝日を浴びて金色に輝く金作谷カールの情景には、感動以上のものがある。 また、山のもう一つの魅力・『高山植物』も豊富で、多くのお花畑の群落を成している。
・・薬師岳からひと足延ばせば、“花の大地”《雲ノ平》にも行く事ができる。 但し、山は決して、安易な考えでの登山を受け付けない。 薬師岳はアプローチに2~3日を要する長く大きな山で、時には『愛知大遭難』のように優しい姿の山が“牙”をむく時もあるのだ。
立山・薬師縦走コース 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR富山駅より鉄道利用(1:05)→立山駅よりケーブルとバス(1:00)→室堂
《1日目》 JR富山駅より鉄道利用(1:05)→立山駅よりケーブルとバス(1:00)→室堂
(1:20)→一ノ越(0:35)→富山大学立山研究所(3:00)→ザラ峠
(0:50)→五色ヶ原キャンプ場
《2日目》 五色ヶ原キャンプ場(2:20)→越中沢岳(1:40)→スゴノ頭(1:20)→スゴ乗越小屋
《3日目》 スゴ乗越小屋(3:00)→北薬師岳(1:10)→薬師岳(1:00)→薬師岳山荘
《2日目》 五色ヶ原キャンプ場(2:20)→越中沢岳(1:40)→スゴノ頭(1:20)→スゴ乗越小屋
《3日目》 スゴ乗越小屋(3:00)→北薬師岳(1:10)→薬師岳(1:00)→薬師岳山荘
(1:30)→薬師峠キャンプ場
《4日目》 薬師峠キャンプ場(0:20)→太郎平山荘(3:00)→折立よりバス
《4日目》 薬師峠キャンプ場(0:20)→太郎平山荘(3:00)→折立よりバス
(1:10)→有峰口駅より鉄道利用(0:50)→JR富山駅
※ 《1~2日目》の行程、前回の『第186回 薬師岳 その1』からの続き
《3日目》 スゴ乗越から薬師岳を経て薬師峠へ
今日は、あの優雅な薬師岳の左端から、頂上を経て右端の《薬師峠》までのロングラン行程だ。
従って、朝も5時過ぎには出発したいものである。 《スゴ乗越小屋》前のテラスを横切って樹林帯の中を少し登ると、草付きの広場の前に出る。 この辺りはお花畑となっていて、ミヤマキンバイ・オヤマノエンドウ・ハクサンイチゲなどの花々が群落をなしている事だろう。
今日は、あの優雅な薬師岳の左端から、頂上を経て右端の《薬師峠》までのロングラン行程だ。
従って、朝も5時過ぎには出発したいものである。 《スゴ乗越小屋》前のテラスを横切って樹林帯の中を少し登ると、草付きの広場の前に出る。 この辺りはお花畑となっていて、ミヤマキンバイ・オヤマノエンドウ・ハクサンイチゲなどの花々が群落をなしている事だろう。
朝の光をいっぱいに浴びて輝く
トウヤクリンドウ
ここから、潅木の樹林帯を標高差300m登っていく。 朝の柔らかい光が当たって、絶好のシャッターシーンとなっているお花畑の群落を見ながら登っていく。 300mのオーダーの割にはひと汗かく程度で、小さな池のある間山 2585メートル 山頂台地に登り着く。
ここは、旧キャンプ場跡地との事である。 ここからは、時計回りに周りながら稜線をゆるやかに・・、そして優雅な山の尾根を大らかに登っていく。 そろそろ休憩したい所だが、少し踏ん張って間山から30分程登った所にある大岩の陰まで頑張ろう。
ここまで頑張ったなら、ザックを下ろして辺りを見渡してみよう。 どこまでも青い空の下、剱岳や立山連峰が仏像のように雲海の上に鎮座している。 《有峰湖》と大きな《有峰ダム》、富山の街並みなどが雲海の切れ間から覗いている。 見上げれば、“ニセ薬師”こと北薬師岳がそうそうとそそり立っていて壮観だ。
ここまで頑張ったなら、ザックを下ろして辺りを見渡してみよう。 どこまでも青い空の下、剱岳や立山連峰が仏像のように雲海の上に鎮座している。 《有峰湖》と大きな《有峰ダム》、富山の街並みなどが雲海の切れ間から覗いている。 見上げれば、“ニセ薬師”こと北薬師岳がそうそうとそそり立っていて壮観だ。
槍を遠望す
南側は、逆光に黒光りする黒部源流の山々と槍の穂先などが見渡せる。 休息で体を伸ばすなら、最高の景色の中で気分上々で・・といきたいものだ。 ここは、そういう点でうってつけの休憩場所ではなかろうか。 ひと息着いたなら、再び登り始めよう。
相変わらずの緩やかな傾斜を登っていくと、いつしか岩がゴロゴロと転がる岩ガレ帯となり、二重山稜気味の谷部分を伝って北薬師岳の肩に着く。 肩からは稜線の北側に周り込んで、更に大きくなって一枚岩状となったゴーロ(岩石)地帯をトラバース気味に渡っていく。 これを渡りきると、“ニセ薬師”こと北薬師岳 2835メートル 山頂だ。
この頂上からは、更に大きくなった薬師本峰が雄々しくそびえ立っているのが望めるだろう。
しかし、目指す薬師岳山頂まであと小1時間は、か細い痩せ尾根を伝っていかねばならない。
正面に徐々に大きく迫ってくる薬師本峰、左下に白骸化した白砂が輝く不毛のカール・《金作谷カール》を見ながら岩の突起を上下していく。 途中に《S字状堆石丘》という天然記念物もあるので、地質に興味ある方は探求してみるといいだろう。
しかし、目指す薬師岳山頂まであと小1時間は、か細い痩せ尾根を伝っていかねばならない。
正面に徐々に大きく迫ってくる薬師本峰、左下に白骸化した白砂が輝く不毛のカール・《金作谷カール》を見ながら岩の突起を上下していく。 途中に《S字状堆石丘》という天然記念物もあるので、地質に興味ある方は探求してみるといいだろう。
“転生”の解を表す金作谷カール
薬師岳の左側をえぐるようにカールバンドを突き上げる《金作谷カール》は、北海道にみられるカールと違って、“生”の鼓動が全く感じられない。 だが、“死”にまつわる暗いイメージは皆無で、むしろ元の姿に戻っていく“回帰”の念を強く感じるカールである。 このカールバンドが突き上げてできたか細い岩稜を半周近く渡ると薬師本峰への最後の登りに取り付き、このガレ岩帯を50m程登っていくと、《薬師如来》の祀られている薬師岳 2926メートル 山頂に踊り出る。
山名の由来となった
頂上薬師如来堂にて
薬師岳山頂からは、青い空の下にチョコンと座る剱岳と立山、北ノ俣岳・黒部五朗岳といった《雲ノ平》の衛士をつかさどる山々、水晶岳・鷲羽岳といった《雲ノ平》の先にそびえる黒部源流の山々、雲海に突き出す槍の穂先などなど、360°の大パノラマで絶景が展開する。
立山・剱・越中沢岳
歩んできた山なみ
また、《金作谷カール》に続いて《中央カール》・《南稜カール》などの天然記念物『薬師岳圏谷群』が、白砂と風紋によって“転生”の解を表している。 いつまでも眺めていたいが、山の天候は午後になると大抵崩れてくるものだ。 景色を眺めるのにひと区切り着いたなら、下山に取りかかろう。
ここも“転生”の解を表す
中央カールと赤牛岳
中央カールと赤牛岳
頂上から稜線の右側を下っていくと、《東南稜分岐点》に着く。 ここには、ロシアの強制収容所よりひどい!?《薬師岳避難小屋》が建っていて、《東南稜》を指して愛知大遭難のレリーフが掲げてある。
そうなのだ、この《東南稜》に迷い込んだ愛知大の若者に、優しき姿の山が牙をむいて襲い掛かったのである。
そうなのだ、この《東南稜》に迷い込んだ愛知大の若者に、優しき姿の山が牙をむいて襲い掛かったのである。
ロシアの強制収容所より酷い!?
薬師岳避難小屋
・・昭和39年1月。 13名の若い命を奪ったこの遭難事件は、我々に“山をなめるな!”という教訓を与えてくれた。 今や、《東南稜》には遭難碑の大きなケルンが積んであって、よもや間違う事はない。
正規のルートは、南西方向にジグザグに切ってある。
“遭難尾根”と呼ばれる
薬師岳東南稜
ザラザラした砂地をジグザグを切って下っていくと、《薬師岳山荘》が建っていて缶詰や飲み物を販売しているので、長い行程のオアシスとして利用価値は高い。 振り返ると薬師岳が大きくそびえていて、“ここまで歩いてきた”という事を実感できる。
山荘からも砂礫の道の下りが続き、周りがお花畑や樹林帯に変わってくる。 しばらくすると傾斜が止まり、草原地帯に池塘が点在する風景となる。 《薬師平》である。 草原の中央には、愛知大遭難碑である大きなケルンが積まれてある。
これを過ぎると再び樹林帯に入り、沢沿いの道を下っていくと《薬師峠》のキャンプ場に出る。
《薬師峠》は、給水施設・トイレといずれも完備している好キャンプ地である。 今日は、ここにテントを張ろう。
山荘からも砂礫の道の下りが続き、周りがお花畑や樹林帯に変わってくる。 しばらくすると傾斜が止まり、草原地帯に池塘が点在する風景となる。 《薬師平》である。 草原の中央には、愛知大遭難碑である大きなケルンが積まれてある。
これを過ぎると再び樹林帯に入り、沢沿いの道を下っていくと《薬師峠》のキャンプ場に出る。
《薬師峠》は、給水施設・トイレといずれも完備している好キャンプ地である。 今日は、ここにテントを張ろう。
なお、山荘泊りならば、ここから20分程登り返した高台に建っている《太郎平山荘》で宿泊するといいだろう。 今回の山行では、立山から長大な薬師岳の稜線を歩いてきた。 もう残すは、明日の《折立》への下山のみである。
優雅な姿を魅せる薬師岳
雲ノ平にて
《4日目》 折立へ下山
道は完全に整備されていて通行の心配はほとんどなく、ともすれば退屈な下山道である。
道は完全に整備されていて通行の心配はほとんどなく、ともすれば退屈な下山道である。
下山するにあたって注意する事は、《折立》発のバスがシーズン中のみの運行で、しかも僅か運行本数が2本という事であろうか。 バスの発車時刻に間に合うように下山計画を立てて、早めに出発しよう。
太郎平小屋の裏手から下っていくが、前述の通り道は完全に整備された石畳の道である。
楽しみと言えば、両脇の砂礫のお花畑を愛でるくらいであろうか。 この石畳の道をズンズン下っていくと森林限界より下に入り、周囲は灌木帯へと変わる。 振り返って見上げると、下ってきた石畳の道が万里の長城の城郭跡のようだ。
薬師岳よさらば
この万里の長城を下っていくと、やがて1870m三角点に着く。 薬師岳の雄姿はここで見納めで、周囲の木々もこの三角点辺りを境にオオシラビソや白樺の樹林帯となる。 このまま下っていくと周囲がブナなクマザサとなり、道がつづら折れとなるとゴールは近い。
シーズン中の登山口には、登山者のマイカーが所狭しと寿司詰め状に駐車されている。
シーズンのみ1日2本のバスはここから出るが、時間が合わずに逃してしまうとタクシーで散財するハメとなるのは念の為。
- 関連記事
スポンサーサイト