風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第148回  矢岳越え

『日本百景』  冬  第148回  矢岳越え  〔熊本県・宮崎県〕
 

矢岳のサミットをスイッチバックで越える
大畑の3段スイッチバックにて
 
  《1日目》 観光列車に乗って矢岳越え
今回は霧島の山なみという九州随一の車窓景観を魅せ、スイッチバックやループ路線など興味深い鉄道施設を持つ魅力いっぱいの肥薩線・『矢岳越え』の列車の旅をしてみよう。
 
近年は観光列車を仕立てているこの『矢岳越え』区間であるが、現実の姿としては1日の列車運行本数が僅か5往復の貨客ともジリ貧の閑散線区であるのだ。 これゆえに、観光目的であれ何であれ途中の駅に下車すると、周囲に店屋は皆無で途端にその日の食糧調達が困難となるのだ。 従って、列車に乗り込む前の食糧調達は必須となる。
 

観光用に改造された車両を使う
ほぼ全席指定の
「いざぶろう」・「しんぺい」号
 
それでは、出発地である人吉駅前のコンビニ等で『必須項目』の食糧を買い込んでから、観光列車に乗り込むとしよう。 乗り込んだ観光列車の中は・・というと、「アラアラ改造しまくってますネェ」って感じであった。 その車中は観光ツアーの一団でほぼ満席状態だ。 当然の如く、この観光ツアーの一団で指定席は満杯だが、ただのボックス席でリクライニングなどはなく『ありがたみ』は皆無の指定席だ。
 
そして、指定席券を買わぬ不届き者(筆者)は、二両目端の『シルバーシート席』以外の着席を禁じられる。 その上に筆者は、いつもの旅スタイルである20㎏超のデカザックを担いでいるのだ。
従って、同義的に『シルバーシート席』の着席も禁じられているようなものであった。

このような状況で仕方なくデカザックを立て掛けて、その上にジャンバーを被せて『簡易テーブル』をこしらえて、その上にコンビニ弁当を広げて、観光案内の車内アナウンスを聴きながら飯をがっついていた。 大畑ループ下のトンネルに差しかかる時、真に飯を食い終えてデザートのヨーグルトに食指を伸ばそうとする“クライマックス”であったのは藪の中に。
 

古き良き時代の姿のまま現代へ
大畑駅舎

トンネルを越えると、スイッチバックの線形を見ながら大畑駅に到着する。 大畑では5分程停車し、ツアー観光客はワラワラと降りて、駅や列車を前にして『ピースサインの記念撮影』に興じていた。
何でも、記念撮影用のサインボードも用意されているみたいだ。 大畑駅の様子は明日にここを撮影地とする予定なので、その時に語る事にしよう。
 
さて、『ピースサインの記念撮影』は白熱化し、5分の停車が8分となるハプニングがあったが、たぶんそれは想定済みの事なのだろう。 運転士は悠然とスイッチバック越えをするべく、後部車輌の運転席に陣取る。 それを車内TVモニターで映しながら、車内アテンダントの女性乗務員が団体ツアー客にスイッチバックの説明を行なっている。 スイッチバック線に入線し、運転士は再び前の運転席に戻っていく。
 

スイッチバックへ引き込んでいく
観光列車【しんぺい】号
 

スイッチバックより駅へ進入する

運転士が前の運転席に入るとほどなく列車は発進し、ループ線へと入っていく。 
大畑駅展望場所(大きな看板が立ってたよ)などのループ線の名所毎に列車を止め、アテンダントさんが団体ツアー客に「右をご覧下さい」「左をご覧下さい」と説明に忙しい。 この列車の乗務員にとっては、ループ線の通過までが最も忙しい時間帯なのだろう。

列車は大畑から300mも標高を稼いで、路線上でのサミットとなる矢岳に入る。 ここでも5分の停車があり、ここでも指定席客(団体ツアー客)は駅構内に展示された蒸気機関車(私自身は、蒸気機関車に全く興味がないので立ち寄る事はなかった)の前での『ピースサインの記念撮影』に勤しんでいた。
まぁ、駅の雰囲気は、古き良き時代を残していて良かったが。
 

100年間峠を行く列車を見てきた駅
 

その駅名板は
時代を見続けてきた
 
矢岳も停車5分の所を7~8分使って発車。 県境とトンネルを越えて、『日本三大車窓』を眺めつつ真幸へ下っていく。 そして、最後の見せ場である真幸のスイッチバックでワタワタとした後に真幸駅に進入する。
 
私はこの駅で下車するのだが、駅に着くと同時に指定席客達及び『シルバーシート席』の『本乗り鉄』達は、ホームに飛び出して『真幸駅の幸せの鐘』を代わる代わる乱打する。 これが結構やかましい。
『KOされて、10カウントゴングが乱打されてるが如し』である。

鐘の乱打を終えた指定席客は、この列車の到着時だけ営業される行商のおばちゃんの誘いにのって宮崎の名産品を買い漁っていた。 一方、『シルバーシート席』の『本乗り鉄』は、スイッチバック線形や駅の撮影に勤しんでいた。
 

観光列車の扉が閉まった瞬間を
ひたすら待って
 
で・・、『○鉄』の私はというと、ただこの喧噪が早く去ってくれるのを願い、列車が発車するのを心待ちにしていた。 さて、列車の発車で喧噪が去った真幸駅は、いつもの静けさを取り戻す。
だが、今の列車が名称を【しんぺい】と変えて折り返してくる頃に、再び10分間の喧噪がやってくる。

この駅に降りた目的は列車がスイッチバックに入った後の『カット狙い』なので、列車が去るまでは駅舎の陰に隠れて(隠れる必要はないのだが)じっとやり過ごす。 その時の・・がコレ。 今イチですな。
もうちょっと下見の時間があれば良かったかも。
 

後で見つけた撮影地で撮れば良かった
今イチですな

さて、本日の最終列車(観光列車の・・ですよ)が発車すると、行商のおばちゃん達はそそくさと店じまいを始めて、列車発車後30分でいなくなった。 この後、18:37まで3時間のヒマだ。
 

観光列車が去った後は
長閑な山の駅に立ち戻る
 
この真幸駅からはえびの盆地の町が一望できるのだが、『ただそれだけ』で店屋の一軒もなく、自動販売機なども一切ない。 そして、行商のおばちゃん達の店も、漬物や干し柿などの名産品はあっても飲料は全く売っていなかった。 そのおばちゃん達も列車が去ると、即効車で去っていった。
・・で、干上がってきたのである。

仕方がないので、自動販売機を求めて京極温泉側を1km、吉松側を2kmほど歩く。
吉松側には『西内竪棚田一〇〇選 ⇒』なる案内板があり、『何かあるかな』と自動販売機探しのついでにめぐってみる。 矢印の通り行くと、グルリと大回りして駅裏の小学校跡に出る。
その小学校跡の背後に広がるのがこの棚田であるが、案内は悪く大回りさせられた上に棚田もショボかった。 だが、駅の裏手に出たので、いい撮影地は発見できた。

・・で、歩き周って『自動販売機』ナシのダメ出しを食らい、空も夕方から陽が落ちて暗くなった。
一応、先程の『棚田めぐり』で見つけた撮影地に陣取り、レリーズなしで18:00発のスイッチバック通過列車を撮ってみる。
 

夜の部で辛うじて見れるのがコレ
『掲載見合わせ』にすれば良かったかな?

やはり、レリーズなしではアカンかったね。 なお画像はお見せできない物体になっていたので、『掲載見合わせ』という事で。 撮影を終えて駅に戻り、さっき撮影した列車の折り返しである18:37発の人吉行に乗り込む。
 
車内は、行きの観光列車での喧噪がウソだったかのようだ。 私を含めて乗客2人を乗せた一般の気動車は、黙々とサミットを越える。 やがて、列車は大畑着。 途中駅から途中駅、しかも夜汽車で無人地帯の大畑で降りる奴など鉄道目当ての『本鉄』でもおらず、運転士氏も真幸~大畑の運賃が判らずに、運転席に戻ってワンマン運賃表を点灯させて確認していた。

こうして下車した大畑駅は、駅舎が名刺で埋もれていた。 旅の記念に・・はいいが、美的感覚は問われるわなぁ。 で、こんな中でテントを張るのも嫌だったので、駅舎の外にテントを張る。
後はいつもの如く持参した漫画見ながら飯を作って、飯食って、漫画を枕にシュラフに潜り込んで寝るだけだ。 まぁ、山の中といっても九州なので、テント内は3℃位までしか下がらなかったよ。
ランタンもあって、暖かいテントの一夜だった。
 

 

2時間歩き周って
時にはヤブ漕ぎまでして
ようやく見つけました

  《2日目》 肥薩線・大畑ループとスイッチバックを愉しむ
さぁ、今日は『撮り鉄』に勤しむとしよう。 真幸ではあまり手応えがなかったので、ここはちょっとは本腰を入れないと、観光列車に乗ってヨーグルトを立ち食いして、真幸で『幸せの鐘』の乱打に耳を劈かれ、歩き回ってショボい棚田を見て、大畑でテント張っただけに終わっちまうなぁ。 
・・という訳で、ちょっと入れ込む事にしよう。

大畑駅の列車時刻は、人吉行きの7:02と折り返しの7:35で1つの対となる。 
この後は、9:52の人吉行きの一般列車と吉松行きの【いさぶろう】があるので計4本が狙える。 だが、九州の冬の夜明けは7:20以降という事で、7:02の列車は撮影不可で見送りだ。 なので、7:35の列車時刻までに撮影地を見つける必要がある。 テントを6時に撤収して、6時半には偵察を兼ねて出撃開始。
 

冬の九州で朝7:30は
まだ夜が完全に明けやらぬ時刻なのだ

偵察の目的は、大畑のスイッチバックを俯瞰できる位置を見つける事だ。 
取り敢えず、人吉方向へ歩いていく。 国道221号沿いの大畑集落への道は以前に車で通った事があって、この道が線路とは離れているのは確認済だ。 で、線路沿いの道を行くと、300m程で立派な舗装道路に出る。 ここからウロウロと雑木のブッシュの中に分け入っていく。 なぜなら、道路があっても線路が見えなければ『鉄道撮影』もヘッタクレもないからだ。

2度のブッシュ突入で時間を浪費し、ブッシュの中で彷徨っている内に7:02の列車のスイッチバック通過音が山峡に鳴り響く。 これで時間に追われている事が確定した。 セッティングの時間(適当・いい加減がモットーのナッチャッテセッティングだが)を考えると、15分以内に撮影地を見つけねばならない。

で、無理やりブッシュを突貫して線路に下りる。 時間的にはもう、撮影地を探し歩く余裕はない。
で、スイッチバックの又の部分に陣取って、7:35の列車はスイッチバックをジグザクに行くシーンで一丁!といこう。 まぁ、駅への進入とスイッチバックの出入りと『一粒で3度美味しい』ので、撮るのが下手でも1ショット位はいけるだろう。 まぁ、失敗したら、華麗なる話術でねじ伏せればいいのだ(何を?)。
 

昼間は観光列車が通り
華やかな大畑駅のスイッチバックも
朝は陰鬱な山間の寂しさが漂っていた
 
さて、7:35の列車がループを登っていくと、9:52の列車まで2時間チョイ時間がある。
この時間で、スイッチバック俯瞰場所を発見できればいい。 ・・という訳で、大規模!?大畑索敵・偵察戦が開始される。 方向は朝に通った道で間違いないので、この道から線路の俯瞰が出来そうな土手に這い上がっていく。 踏跡を見つけたらブッシュの中に分け入っていき、ブッシュに詰まれて引き返す・・というのを3~4度繰り返し、その結果をもって「どうやらこの土手は違う」と結論づける。
 
なぜなら、『○鉄』のワテより体力のない『本撮り鉄』が、当ても確信もなくブッシュを掻き分けて撮影地を探す・・なんて事は有り得ないだろう・・と思うからである。 失敗したら『戦果ナシ』になるのだから。 失敗を恐れるデジイチ達が、そんなリスクを犯すとは到底思えないし。 でも、リスクがあるから物事は面白いし、克服した後の感動があるというのにネェ。
 
線路側の土手は先ほど歩いてボツな事が確認済みなので、今度はちょっと視野を広く取ってみる。
先ほどの立派な舗装道に出て、その周辺を偵察する。 すると、すぐに高台に登る坂があり、この高台の上からは十分に線路の俯瞰が出来そうな予測がつく。

・・で、この坂をつめてみる。 坂をつめると、田畑と民家が見えてくる。 それも数件の・・。
大畑駅は完全な無人地帯ではなく、人家が点在しているよ。 ただ、この民家の人が鉄道を利用する事はないだろうけど。
 
ここから、50m位の丘の上に『オウムの第7サティアン』のようなアルミの工作場があり、その脇を通り抜けて更に奥の丘の頂上に詰めると『ありました!』、大畑のスイッチバックを俯瞰できる好撮影地が。
たぶん、『セ・セ・セ・セ・セイシュン18きっぷ』のポスターの撮影地はここだろう・・と思う。
 

『セ・セ・セ・セ・セイシュン18きっぷ』
ポスターの撮影地にて
 
でも、その前の『第7サティアン』は怪しい。 『日中共同』何とか・・とあったし。
極力この建物は通らずに裏を周っていった方が無難か。 拉致されたら適わんし。 索敵が効を奏し撮影地を見つけられた事だし、あと1時間以上あるという事で基地の駅に戻る駅までは15分程だった。

さて、列車通過時刻の25分前に行けば、十分セッティングできる。 駅に戻って40分ほどくつろぎ、9:52の列車に備える。 【いさぶろう】よりも一般の気動車の方が絵になるかな・・と思うので、この列車を狙いの中心に据えていたのである。 さて、結果は如何に? また、【いさぶろう】もここで狙う事にしよう。 せっかく、ブッシュ突貫も厭わずに歩き回って見つけた貴重な『戦果』なのだから。
 

普通列車が山から下りきた
 

スイッチバックで切り返し
大畑駅に進入する
 

大畑駅を出た列車は
トンネルに入つて山を駆け下る
 
まぁ、熱中すると楽しいものですな。 久々に鉄道撮影に根を詰めたよ。 『鉄道編』に関しては、「撮影を愉しんだので、結果はどうでもいいや」って思えてきた。 でも、上手く撮れてたら、撮影地を探して動き回った分もあるし格別に嬉しいかも。 それでは、大畑で愉しんだひとときをごろうじろ。
 

 

 

これより『矢岳越え』に挑む
 
【いさぶろう】号を撮影すると、『旅の終わり』の時がやってくる。 2時間の列車待ちの後に、【しんぺい】号に乗り込んで人吉へ。 後は、安上がりなバスに乗って博多へ。 そして、始めは切符購入の件もあって乗るつもりはなかったけど、やはり「楽しみを与えてくれた鉄道に感謝!」という事で、ブサイクな特急に正規の特急券で乗る。 九州の特急車輌って、見た目は究極のブサイクだけど中は豪華だねぇ。
危うく、小倉までの40分で寝てしまって乗り過ごす所だったよ。

小倉に着くと、残るは大阪行の夜行バスを待つだけだ。 小倉の町をぶらぶらしながら、九州を離れるまでのひとときを愉しもう。 もちろん、お土産も買って。 もう記す事もないので、この辺で筆を置こうと思う。

   ※ 詳しくはメインサイトの『撮影旅行記』より『滝と鉄道の旅・九州 その2』を御覧下さい。
 
 
 
 


 
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No title * by タワマンぶらり旅
青春まっさかりの あの頃を思い出しました。
ありがとうございます、ナイス!

No title * by 風来梨
タワマンぶらり旅さん、こんばんは。 見て頂き、有難うございます。

以前は「青春真っ盛り」な路線が多くあったのですが、ほとんど廃止されちゃいました。 今はその頃の青春を思い返すだけですね。

あの頃に憧れてその真似事をしたのが、この鉄道旅でした。

コメント






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No title

青春まっさかりの あの頃を思い出しました。
ありがとうございます、ナイス!
2014-11-30 * タワマンぶらり旅 [ 編集 ]

No title

タワマンぶらり旅さん、こんばんは。 見て頂き、有難うございます。

以前は「青春真っ盛り」な路線が多くあったのですが、ほとんど廃止されちゃいました。 今はその頃の青春を思い返すだけですね。

あの頃に憧れてその真似事をしたのが、この鉄道旅でした。
2014-12-01 * 風来梨 [ 編集 ]