風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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日本の滝を訪ねて 第109回  立又渓谷

日本の滝を訪ねて  第109回  立又渓谷  〔秋田県〕
 

幸兵衛ノ滝の下段は
変化に富んだ落水模様を魅せてくれる
 
今回は、幸兵衛ノ滝が潜む立又渓谷に、すぐ隣の百名滝での№1人気の滝・安ノ滝の秋模様を絡めた滝めぐりをしようと思う。 なお、安ノ滝は『日本の滝を訪ねて』の第36回で記事に挙げているので、重複となるのは御容赦頂きたい。
 

森吉山麓に潜む滝めぐり
滝の位置図
 
   行程表            駐車場・トイレ・山小屋情報
JR角館駅より車(1:50)→安ノ滝駐車場 駐車場より安ノ滝まで1.9km・所要 片道40分
安ノ滝駐車場より車(0:25)→立又渓谷駐車場(0:15)→一ノ滝(0:25)→二ノ滝
(0:20)→幸兵衛滝展望所(0:50)→立又渓谷駐車場より車(0:25)→打当温泉
(1:25)→JR角館駅
 
 
  森吉山麓にひそむ名瀑めぐり
原生林の森を抱く山・森吉山。 この山は豊かな森林と清らかな水を抱き、そして清らかな水は沢を刻み、滝を掛け、渓谷というキャンパスを創り上げている。 森の中に潜むこの優美な滝たちを、森が最も美しく染まる季節・秋に訪ねてみよう。 だが、幽谷に潜むこれらの秀瀑たちを目にするには、それ相当の沢遡行を強いられる。
 

100名滝の中でも1・2の人気を誇る安ノ滝

この森吉山麓にひそむ滝の代表格は、『日本の滝100選』の中でも最も人気のある《安ノ滝》である。
その優美な落水の枝垂れ模様は多くの滝ハイカー達の心を虜にし、多数の滝紹介サイトでよくトップ画像に滝姿が飾られている『人気№1』の滝である。

それゆえに、遡行装備のない一般観光客でも滝見が適うように、この《安ノ滝》の遊歩道は完全に整備されている。 また、林道終点には立派なトイレと約25台程駐車できる駐車場と、多客時に備えて林道の500m手前に臨時駐車場を設けるスペースも確保されている。 このように訪れる観光客にとっては“至せり尽くせり”だが、その分だけ興醒めの分も湧いてくるのは確かだ。

従って、秋の多客シーズンになると人と車でごった返しになり、「滝を愛でて写真を・・」というような悠長な構えではいられないだろう。 ・・という訳で、この滝に秋に訪れる時は、平日か紅葉時でも少し早めか遅めの団体ツアーの観光客の動きが鈍い時を狙って行くのが正解だろうと思う。
 
まず、最初に述べねばならない事は、「とにかく東北は遠い」という事だろう。 首都や関西圏といった都市圏からの日帰りはまず不可能だ。 そして、基点となる秋田や盛岡からも100km以上離れている。
そして、ツアーなどのチャーターした観光バス以外に定時運行もない。 従って、車は絶対不可欠だろう。

だが、こんな遠方の地までマイカーでやってくるのも、長期休暇でもない限り不可能だ。 これらの事から、唯一の現実的な手段としては『レンタカー利用』以外にないだろう。 それを踏まえて計画を練って頂きたい。 それでは、上記の手段を採る事を念頭にガイドを始めよう。

この『森吉山麓に潜む滝』をめぐるのに、最も近いレンタカー駅は角館駅である。 だが、微妙に中間地点で、電車の乗り継ぎなどの便を考えると秋田か盛岡の方がよさそうだ。 なぜなら、秋田から羽越線(関西圏ならば在来線利用なので、最も費用を抑える事ができる)を利用して帰路に着くとしたなら、最終の特急は『秋田発16:36』(H14年現在)と、嫌がらせに等しい程に早いのである。
 
逆算で行くとしたなら、今回めぐる安ノ滝や立又渓谷なりを13:30までに発たねばならない事となる。 従って、残念な事だが時間にシビアな旅となってしまうのである。 旅において時間を気にする興醒めな事は極力したくはないのだが。

さて、レンタカー利用で、秋田からで2時間半、角館からで2時間弱で安ノ滝の駐車場にたどり着けるだろう。 ここで行楽客とバッティングして渋滞に遭遇したら、時間がシビアな故に“一夜を滝駐車場で過ごす”という以外に、この滝めぐりは不可能であろう。 まず、「旅館に泊まって云々」という旅計画は、この項目においては通用しないと想定して頂いてもいいかもしれない。

百名滝№1の人気滝
トイレも立派なものに建替えられて


話は脱線したが、始めに《安ノ滝》コースを歩く事にしよう。 打当温泉の約7kmほど先に《安ノ滝》への林道がある。 林道の延長は5kmで、林道規格なのでダート道だ。 そしてこの細い道を大型の観光バスまでが往来するので、道床は削られてツルツルになっているし、対向車とのすれ違いが困難な道なのに、多くの対向車と遭遇する“嫌な”道である。 

また、《安ノ滝駐車場》までの全線に渡って沢上の土手を走っており、ガードレールの切れている所もあるので、アプローチの車の運転だけは慎重にして頂きたい。 《安ノ滝駐車場》に着くと、明らかに観光客利便の為に建てられた観の強い立派な建物のトイレがあり、その脇から簡易舗装の急な坂道で下っていく。
簡易舗装の道は拳大の踏み石が埋め込まれていて、それに乗りながら降りていくような感じた。
だが、この踏み石は坂のストッパーにもなるが、つまづく最大要因とも成り得るので慎重にいこう。
 
これを100mほど下ると、河原跡のような大きな石が転がる中を縫うように伝い、また簡易舗装のスロープで上がっていく。 簡易舗装の道で緩やかに上下すると河床が近づいてきて、歩き慣れぬ行楽客の“飛び石伝い”を防ぐべく、河床をコンクリートで埋めている一枚岩の川岸に出る。

人気のある観光地故の性かもしれないが、こんなのを目にすると「ここまで形状を変える必要もなかろうに」と思ってしまう。 このコンクリートで埋められた河床地帯を越えると、橋で沢を渡り右岸(登り時は進行方向左側)に出る。 ここからは簡単なヘツリ帯となって、右岸の壁際を縫うように伝っていくと、“アト400m”の道標と白い簾帯をかけた大瀑布が見えてくるだろう。 《安ノ滝》の降臨である。
 

秋色に染まる安ノ滝
 
滝が見えてくると傾斜が急になり始め、気が急いて駆け上ると息が上がってくる事だろう。
坂は丸太の階段となり、これをつめていくとベンチの置かれた《安ノ滝展望所》に出る。
だが、この展望所は手狭で、三脚持ちの写真撮りがデカイ三脚を2つも据えれば途端に満杯となる。
もし行楽シーズンの祝日ならば、写真撮りの間で場所の取り合いのトラブルが発生しているかもしれない。
 

やや遅れたが
秋色を味わう事ができた

従って、こういうのを避けるべくの行程を組むのも、いい滝めぐりを行う秘訣になろうと思う。
また、この展望所より上に上っていくと《安ノ滝》の上段の落ち口の前に立つ事ができるが、ワテはなぜか上に上がる気にはなれず、今の所は上にはいっていない。

「皆が撮るものと同じようなものを撮っても仕方ない」と思えるからである。 
せっかく行くのだから、そしてそう容易く行けない遠い地へ行くのだから、トラブルの芽と成り得る行楽客の一団とはできるだけ遭遇せぬように、訪れる曜日や時間を考慮して楽しんで頂きたい。
 

私は安ノ滝の上段より
下段の白布の妙に魅せられた
※ 夏探勝時の写真です

人気のある滝だけに眺望は素晴らしく、スローシャッターを駆使して枝垂れを活かすとより魅惑的な滝である。 ただ、上段の滝の真ん中にマングースのような樹が覆い被さっており、各人により思いは違うかもしれないが、ワテは“玉に瑕”と思える。

帰りは往路を伝うが、身体ができていれば《安ノ滝》駐車場まで30分を切る事ができるだろう。
駐車場に戻ったら、次は《立又渓谷》に行ってみよう。
 
《安ノ滝》駐車場から林道を戻って、《秋田県道308号線》を宝仙湖方向・・即ち更に奥に入っていく。
この《秋田県道308号線》は3m道路だが、R341号に接続する地点までキチンと舗装してあって、観光地のパワーを見せつけられる思いだ。 人気観光地の力はものすごい。 こんな辺境の完全無人地帯、いわゆる秘境の林道規格の道でさえ完全舗装道にしてしまうのだから。

安ノ滝に勝るとも劣らない
枝垂れの妙を魅せる一ノ滝
 
さて、《秋田県道308号線》を4kmほど奥へ進むと、ぬかるんだダート道が左手に分岐している。
そこには立札の看板で“立又渓谷へ2.2km”とある。 道は横の土手からの涌水で常に泥道となっており、この道を通るとサイドの窓に跳ね上げた泥が付着するのが目に見えて判り、駐車場に着いて車体を見渡したらレンタカーが結構な泥坊主となっている事だろう。 従って、この地を訪れるなら洗車代は覚悟した方がいいだろう。

さて、道は泥道であるが、駐車場は30台ほど駐車可能な広いスペースが設けられてある。
たぶん、探勝路整備の資材置場に使われていたのだろう。 建築現場などにある仮設トイレが、広場の隅にホツネンと置かれている状況がそれを物語っている。 一応、この渓谷における“最終トイレ”なので、出かける前に用を足した方がいいだろう。
 
この《立又渓谷》は、先程の《安ノ滝》の探勝路よりは行程がキツイ。 探勝路入口の立て看板にも、「片道で2時間(多少誇大表現)かかり、急な坂道もあるので心臓の弱い方や体調のすぐれない方は探勝を自粛するように」との『余計なお世話』的な“脅し”が記述されていた。 だが、それほど警戒する必要はない。 ここで警戒するようなら《夜明島渓谷》や《松見ノ滝》は絶対にムリだし、ここで「心臓が・・」と訴えるなら、探勝行為そのものから手を引いた方が無難だろう。

さて、ルートは明確な探勝路が切られていて迷う事はないが、枯葉が埋まる粘土質の山道でスリップは注意すべきだろう。  また、所々にぬかるみがあり、スニーカーなどの足回りでは途端に靴に浸水してクチョグチョになるのがオチだろう。 ここは、最低でもトレッキングシューズ位は準備してくるべきであろう。
 

立又渓谷には
美しい落水模様を連ねる滝が潜んでいる
一ノ滝
 
この山道を15分ほど行くと、落差50m位の枝垂れ滝が見えてくる。 《一ノ滝》である。
滝は裕に50m程の落差があるように見えるのだが、公称では落差38mとの事である。
落差は元より、滝の枝垂れ模様に目を奪われる事だろう。 何とも言えない優雅な枝垂れ模様である。
ワテ的ではあるが、先程訪れた『百名滝』の《安ノ滝》に勝るとも劣らない枝垂れ模様に感じるのだが。
 

一ノ滝の枝垂れの妙に魅せられて
 

広角でも1枚に収めれないので
落差50m位あると思うのだが

さて、滝前で枝垂れの優雅さを堪能したら、先へ進もう。 《一ノ滝》の展望台に道標があり、次の《二ノ滝》まで920m、《幸兵衛滝》まで1070mとある。 何とも細かい道標だ。 ここから、入口の看板での“脅し”のあった区間となる。 結構な急傾斜の坂の登りだ。 要するに、《一ノ滝》の対岸を大きく高巻いて、滝の落ち口の上に立つように探勝路が切られているのである。
 

渓谷最大の登りの最中の『癒し』は
この美しい枝垂れ滝だろう
 
この坂を上がっていく内に、滝の落差についての疑問が生じてくる事だろう。 それは、“僅か38mの滝”を高巻く程度に対して、この坂の急傾斜度を対比させると、「絶対にこの滝は38m以上あるよね」との帰結が頭を過ぎる為だ。
 

 滝を愛でながら
ちょっとキツい坂を登っていく
 
実際に運動不足の御仁なら、「倒れて動けなくなる」とまではいかないものの、息が切れて『ヒューヒュー』と呼吸が高鳴っている事だろう。 もちろん、山慣れ・沢慣れした方には「何て事はない」坂道であるのも確かだが・・。

この登りが延長で350mほど続く。 
そして、標高差100m位をつめていくのだ。 この坂道を登りつめると、《一ノ滝》の落ち口より200m上流地点にジグザクを切って下っていく。 この地点で丸太を2本並べて滑り止めの加工をした簡易桟橋を渡り、沢の左岸(上り時は右手)を半分ヘツり気味に伝っていく。

丘状の起伏を越えて下った辺りで沢が寄り添って、函状の地形となる。 沢が近寄って水面スレスレとなった函を滑り止めの板木を打ち込んだ丸太を通して通過していたのであるが、暴風雨の影響からか丸太が留め金から外れて、滑り止めの加工がされた通路面をアサッテの方向に向けて横たわっていた。
即ち、桟道として“使えない”ようになっているのである。
 
今の現状だと、この丸太の桟道は通過の障害物とも言えなくはなさそうだ。 まぁ、それほど深刻な状況ではないのだが。 取り敢えずこの通過は、横転したこの桟道の丸太を“手すり”代わりにして、沢の水面から出ている石を伝い渡っていくしかなさそうだ。

ちなみに、この丸太の“手すり”は常時濡れていて添える手も滑るし、所々板木が外れて釘が剥き出しとなっているので、とっさにしがみついたり、手を着いたりするのは大変危険な代物でもある(手を滑らして創傷をもらった筆者本人が言うので本当です)。
 

美しい落水模様を魅せるも
周囲の滝の落水模様が秀麗過ぎて
残念な立場の二ノ滝

この函状のヘツリを越えると再びぬかるみ道となり、程なく前衛滝そのままの姿を示す《二ノ滝》が見えてくる。 《二ノ滝》は砂防ダムのような感じで、あまり情感は得にくい滝だ。 
また、滝下は倒木などが積み重なって荒れており、あまり近寄る人もいないみたいだ。
 
通路に《二ノ滝》の道標があり、《幸兵衛滝》まで150mと記されているが、この道標だけは鵜呑みにしてはならない。 《幸兵衛滝》までの直線距離が150mなのか、下段の展望所までの距離が150mなのかは判らないが、《幸兵衛滝》の展望所まではジグザグの急坂が続き、20分はかかる。 そして標高差も100m近く登っていかねばならないのだ。 まぁ、下段だけで引き上げるなら、この道標通りなのだが。
 
ちなみに筆者は、最初に訪れた時にこの道標に騙されて、下の滝が《幸兵衛滝》と思って引き上げた“塩辛い”経験があるので、この道標については念入りに説明しておく事にした。 外れた丸太の件やこの道標の件など、筆者の失敗体験を他山の石として注意して頂ければ幸いである。
 

秋色に囲まれた長大な枝垂れ
初めて訪ねた時はこんな美瀑が
潜んでいるとは露とも知らず
幸兵衛滝

さて、その《幸兵衛滝》であるが、上部は巨大な滑り滝である。 その落差は108m。 国内の主要瀑布を凌駕する落差である。 そしてその滑り滝の周囲は、ちょうど見頃の紅葉が黄色く赤く色着いている。
これほど大きな滑り滝では、滝下に近づいた所で、上部は迫り出した下部に隠れて見えはしまい。
だから、この滝は対岸の崖の上から見下ろすように望むのがベストだろうと思う。
 

秋色の十二単を纏う幸兵衛ノ滝
 
美しい紅葉と、繊細な波縞模様の水紋を魅せる滑り滝・・という絶好の絵が撮れるこの場所は、補欠ながらも『日本百景』たる情景として追加すべきと強く思ったのである。 帰りは忠実に往路を戻ろう。
なお、探勝路は整備はされているが、近年の気象災害からか一部が荒れているので、下りこそ落ち着いて戻るようにしたい。 渓谷遡行中の怪我や事故は、帰りに起こる事例の方が断然多いのだから。
 

幸兵衛ノ滝下段
落水の妙
 

夏秋揃い踏み
 
帰りの時間に余裕があるのなら、国道105号線に出るまでに通る《打当温泉》のクアハウスでひと風呂浴びてから帰るのがいいだろう。 温泉のある打当集落にはマタギの記念館や熊牧場などがあり、日程に余裕があるのなら温泉宿に泊って、クマ牧場や今回御紹介した滝や渓谷以外にも知られざる滝がたくさん潜む地域なので、それを訪ねる旅もいいだろう。 但し、森吉の山麓に潜む滝はどれも一級の遡行技術を要するものばかりなので、その点は心してかかるように。

   ※ 詳細は、メインサイトより『みちのくの滝めぐり<1>』を御覧下さい。


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No title * by リカさん
いい滝ですね。安ノ滝を初めてTVで見たときに左に立派な滝がありました。これはなんだろうと思い調べてみると幻の滝でした。水量の多い時だけ現れるそうです。

No title * by 風来梨
リカさん、こんにちは。

幻の滝の情報を頂き、有難うございます。
一度見てみたいなぁ・・ 森吉の幻の滝。 できれば、秋たけなわの季節に・・。 でも、東北は遠いなぁ。

この森吉山麓は滝の名所ですね。 また次の機会に、大御所・茶釜ノ滝をアップしたいなと・・。

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No title

いい滝ですね。安ノ滝を初めてTVで見たときに左に立派な滝がありました。これはなんだろうと思い調べてみると幻の滝でした。水量の多い時だけ現れるそうです。
2014-10-05 * リカさん [ 編集 ]

No title

リカさん、こんにちは。

幻の滝の情報を頂き、有難うございます。
一度見てみたいなぁ・・ 森吉の幻の滝。 できれば、秋たけなわの季節に・・。 でも、東北は遠いなぁ。

この森吉山麓は滝の名所ですね。 また次の機会に、大御所・茶釜ノ滝をアップしたいなと・・。
2014-10-05 * 風来梨 [ 編集 ]