2014-08-23 (Sat)✎
『日本百景』 晩夏 第129回 後立山連峰 その1 (白馬岳~小蓮華山)
〔長野県・富山県・新潟県〕
夕暮れの雲海と山なみと
最高の“アリバイ”写真
白馬岳山頂にて
後立山連峰 うしろたてやまれんぽう (中部山岳国立公園)
秀峰・白馬岳を盟主とした後立山連峰は個性的で優れた山容を持つ名峰が多く、人気・魅力とも北アルプスではトップクラスである。
秀峰・白馬岳を盟主とした後立山連峰は個性的で優れた山容を持つ名峰が多く、人気・魅力とも北アルプスではトップクラスである。
大雪渓と広大なお花畑を擁する盟主・白馬岳 2932メートル 、高山のいで湯とお花畑が自慢の白馬鑓ヶ岳 2903メートル 、山々の姿を映す八方沼と広大なお花畑をかかえる唐松岳 2699メートル 、武田氏の御陵菱を雪形に持つ五竜岳 2814メートル 、2つのピークが吊尾根で結ばれていて他の山から眺めてもひときわ目立つ後立山連峰のもう一つの盟主・鹿島槍ヶ岳 2890メートル など、今すぐにでも飛んでいきたい名峰がそろっている。
登山コースはどのルートを取っても素晴らしいものばかりだが、特に白馬岳から栂池へ下っていくコースは、山上の楽園を散歩する気分を満喫できる最高のコースである。 その他にも、唐松岳の北側にノコギリ刃のような岩峰を連ねる《不帰ノ嶮》を通るコースや、鹿島槍ヶ岳の北にある《八峰キレット》など、バリエーションコースも豊富である。
登山コースはどのルートを取っても素晴らしいものばかりだが、特に白馬岳から栂池へ下っていくコースは、山上の楽園を散歩する気分を満喫できる最高のコースである。 その他にも、唐松岳の北側にノコギリ刃のような岩峰を連ねる《不帰ノ嶮》を通るコースや、鹿島槍ヶ岳の北にある《八峰キレット》など、バリエーションコースも豊富である。
後立山連峰北部縦走ルート(白馬岳~栂池) 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR白馬駅よりバス(0:30)→猿倉(0:55)→白馬尻(1:40)→葱平
(2:00)→白馬山荘(0:15)→白馬岳(0:25)→白馬岳キャンプ場
《2日目》 白馬岳キャンプ場(0:40)→白馬岳(0:30)→三国境(0:40)→小蓮華山
《2日目》 白馬岳キャンプ場(0:40)→白馬岳(0:30)→三国境(0:40)→小蓮華山
(1:10)→白馬大池(0:25)→白馬乗鞍岳(1:30)→栂池自然園よりバス
(1:20)→JR白馬駅
《1日目》 白馬大雪渓から白馬岳へ
恐らく日本の山では、この山の頂に立った経験のある人が一番多いだろう。
今回は、その山へ最も人気のあるコースを使って極めたいと思う。
そのコースとは、北アルプス・白馬岳と『日本三大雪渓』の一つ《白馬大雪渓》だ。
《1日目》 白馬大雪渓から白馬岳へ
恐らく日本の山では、この山の頂に立った経験のある人が一番多いだろう。
今回は、その山へ最も人気のあるコースを使って極めたいと思う。
そのコースとは、北アルプス・白馬岳と『日本三大雪渓』の一つ《白馬大雪渓》だ。
このルートは技術的には初心者向きで高山植物も多く、山中での宿泊や交通の便も至って便利なので、シーズン中は尽きることなく人の帯ができる。 それでは、この山の人を集める魅力を体感してみよう。
JR白馬駅から、《八方》を経由して登山口の《猿倉》までバスの便がある。 始発の便に乗るのもいいし、前夜の内に《猿倉》にある山荘で宿泊して鋭気満々でアタックするのもいいだろう。
《猿倉》からは、車も通れる幅の砂利道を1時間弱歩いていく。 歩いていく内に正面の高台に《白馬尻小屋》の建物が見えてきて、車道から離れてやや傾斜を増した砂利道を登っていくと雪渓の入口《白馬尻》だ。
白馬尻
白馬大雪渓の下端が現れだす
小屋の裏側に周り込むと、いよいよ大雪渓の裾が白馬三山の稜線から白い帯を掛けているのが見えてくる。 通常は《白馬尻小屋》から20~30分登った辺りから雪渓の中に入っていくのだが、早い時期や雪の厚い時期などは《白馬尻小屋》のすぐそばから雪渓に入る事もある。
《白馬大雪渓》は標高差600m。 幅は広い所で100mはあり、日本の雪渓では最もスケールがデカい雪渓である。 またこの雪渓の登降に関してだが、最高の傾斜各でも25°以下で、しかも多くの登山者に踏まれてしっかりした階段状に踏み固められているので、さして神経を使わずに済む。
《白馬大雪渓》は標高差600m。 幅は広い所で100mはあり、日本の雪渓では最もスケールがデカい雪渓である。 またこの雪渓の登降に関してだが、最高の傾斜各でも25°以下で、しかも多くの登山者に踏まれてしっかりした階段状に踏み固められているので、さして神経を使わずに済む。
アイゼンをしっかり装着して
雄大な雪渓登高を楽しもう
同じ歩幅で涼しく600mの高度を稼げるので、かなり楽な印象さえ受ける。 この雪渓に限ってはアイゼンなしでも登れるが、あればあるに越した事はない。 しかし、荒天時は、穏やかすぎるこの雪渓が牙をむいて襲ってくる事も十分にあり得るのだ。
どこの山に登るにしても言える事だが、天気の見極めはしっかりとしておこう。 雪渓に入ってから1時間少々、距離にして約2km登っていくと、最後に《四号雪渓》出合付近の一番キツい傾斜を越えて、雪渓が途切れた丘の上に出る。
ガスに巻かれた際のルートの見誤りとクレバスに近づかない事さえ気をつければ、あっけなく大雪渓を越える事ができるだろう。 この丘からコンクリートの岩小屋を右上に見て、《小雪渓》の広がるモレーンに向かってジグザグをきって岩ガレ場を登っていく。 これを登りきった所が《葱平》だ。
数は少なくなったがまだ健在
白馬の“お花畑”
この辺りは上から沢が流れ込み、お花畑もそろそろ現れ始めて休憩には持ってこいの場所だ。
但し、この沢の水は山荘からの排水で汚染されているとの事なので、水の確保はできない。
但し、この沢の水は山荘からの排水で汚染されているとの事なので、水の確保はできない。
この《葱平》はシロウマアサツキという葱の匂いを放つ特有種が植生する事でも有名だ。
コオニユリ
様々な種の高山植物を見ながら登っていくと、《葱平》を越えて《小雪渓》に突入する。
見上げると、前方に白馬岳のピークと《白馬山荘》、そして左側に白馬三山の中で最も武骨な【名峰百選】・杓子岳 2812メートル が視界に入ってくる。 この方向からの杓子岳は北東稜末端の《天狗菱岩稜》を迫り出し、山岳美きわだつ眺めを魅せている。
天に鋭く突き出す
杓子岳天狗菱
《小雪渓》を越えて、お花畑と氷河遺跡の名残りを示す赤っぽい巨岩を見ながら石段状に整備された道を登りきると、《村営頂上宿舎》前に出る。 この《村営頂上宿舎》後の広場はキャンプ指定地となっているので、幕営山行ならテントを設営してから、空身で白馬岳のピークを往復するのがいいだろう。
ここから《白馬山荘》までは一投足の距離、砂利で踏み固められた稜線を25分程伝えば着く。
《白馬山荘》は、収容人員1500人と日本最大の山荘である。 山荘内には自動販売機や“雲上ビアガーデン”があるなど、少々俗化が気になる所である。 また宿泊費用も、北アルプスゆえにかなり割高である(’03現在、二食付きで8500円との事)。 山荘でひと息着いたなら、後立山の盟主・白馬岳の頂上を極めよう。 頂上までは砂礫の傾斜を僅か15分、早足だとものの10分で登り着く。
白馬岳山頂にて
白馬岳 2932メートル からの眺めは、いうまでもなく雄大だ。 剱岳が雲海に浮かぶ航空母艦のように悠々と浮かび、唐松岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳・・といった後立山の名峰が雲海という天の大海を疾走する軍艦の如く堂々と突き出している。 その背後には、槍の穂先が更に鋭く天を衝いている。
湧き立つ雲海と槍ヶ岳
山岳美を求めるなら、杓子岳であろう。 東北稜の《天狗菱岩稜》が魅せる眺めは、真に『名峰』にふさわしき気品を感じる。
美しき夕景にしばし酔おう
そして、クライマックスは夕暮れ時であろう。 雲海が黄金色に光り空がスペクトルの色彩を帯びる中、剱の空母のようなシルエットが悠然と雲海の中にたたずんでいる。 そして、空に三日月1つ。
天海に向けて船出する巨大艦に“幸多かれ”と、思わず敬礼して目を閉じる。 胸には熱い情感が込み上げてくる。 涙さえでそうな情景がそこにあった。
天海に向けて船出する巨大艦に“幸多かれ”と、思わず敬礼して目を閉じる。 胸には熱い情感が込み上げてくる。 涙さえでそうな情景がそこにあった。
天海に船出す
熱き情感が込み上げる
天海の船出を最後まで見届けたなら、今日の宿泊場所に戻ろう。
明日は、後立山連峰北部稜線を縦走していこう。
白馬岳からの広潤な気分満点の
山遊道を下っていこう
《2日目》 白馬岳から後立山連峰北部縦走
山の鉄則はここでも生きる。 朝は早く出発しよう。 この点で、幕営山行は自由が利いてよい。
5時前にキャンプ場を出ると、御来光の直前に白馬岳の頂上に着けるだろう。 白馬岳の御来光はあまり目立った山のない長野盆地辺りから昇るので、昨日の感動的な夕景と比べると今ひとつ物足りない。
山の鉄則はここでも生きる。 朝は早く出発しよう。 この点で、幕営山行は自由が利いてよい。
5時前にキャンプ場を出ると、御来光の直前に白馬岳の頂上に着けるだろう。 白馬岳の御来光はあまり目立った山のない長野盆地辺りから昇るので、昨日の感動的な夕景と比べると今ひとつ物足りない。
だが、朝日を浴びて染まる杓子岳《天狗菱》と“信州おろし”の雲が、この頂を越えて吹き降ろす様は迫力満点だ。
杓子岳天狗菱より吹き降ろす雲海
下を見ると、朝のハイマツ帯の中で、雷鳥の親子が相変わらずうろうろともたついている。
さて、空がピンク色から白色に変わるまで朝の移り変わりを見届けたなら、下山に取りかかろう。
白馬岳の頂から北に向かって下っていくと《馬ノ背》と呼ばれる痩せた岩稜となり、これを下りきると《三国境》だ。 ここは呼び名の通り、越中・越後・信濃と三国の境を成している。 ここは、雪倉岳から朝日岳への回遊コースの分岐点でもある。
この分岐からは、ほぼ水平に延びる稜線を伝っていく。 眼前に小蓮華山、背後に白馬岳の優雅な姿を見ながら広潤な気分での稜線漫歩が楽しめる。 小さなコブを幾つか越えると石屑の登りとなって、石仏と鉄剣の立つ小蓮華山 2769メートル の頂上だ。
さて、空がピンク色から白色に変わるまで朝の移り変わりを見届けたなら、下山に取りかかろう。
白馬岳の頂から北に向かって下っていくと《馬ノ背》と呼ばれる痩せた岩稜となり、これを下りきると《三国境》だ。 ここは呼び名の通り、越中・越後・信濃と三国の境を成している。 ここは、雪倉岳から朝日岳への回遊コースの分岐点でもある。
この分岐からは、ほぼ水平に延びる稜線を伝っていく。 眼前に小蓮華山、背後に白馬岳の優雅な姿を見ながら広潤な気分での稜線漫歩が楽しめる。 小さなコブを幾つか越えると石屑の登りとなって、石仏と鉄剣の立つ小蓮華山 2769メートル の頂上だ。
小蓮華岳より望む白馬三山
この頂上からは、左手に大らかな山容を魅せる北部稜線の山々が見渡せる。 右手を望むと、信州側に切れ立った白馬三山から唐松岳、大きな岩峰をもたげる五竜岳、“二ッ耳”を顕著に示す鹿島槍ヶ岳などが雲海の白い雲の上に突き出ている。 そして、左も右もスカイブルーの空の下に続いている。
素晴らしい眺めを満喫したなら、先に進んでいこう。 小蓮華山からは、コバルトブルーの水鏡を魅せる《白馬大池》を見つめながら、《雷鳥坂》と呼ばれる傾斜を緩やかに下っていく。 信州側を見下ろせば、昨日通ってきた《白馬大雪渓》の白い帯と、その裾野にある《白馬尻》の小屋が点景で望めるだろう。
《雷鳥坂》の砂礫の傾斜を下りきると、ハイマツや草原帯の広い稜線台地の上を行くようになり、残雪とお花畑に彩られた《白馬大池》の湖畔に出る。 湖畔脇のお花畑の咲く湿地帯で《蓮華温泉》への道を分け、《白馬大池》の山荘前に着く。
イワオウギ
山荘では飲み物などを販売しているので、《白馬大池》の静かな雰囲気を眺めながらひと息着くといいだろう。 山荘を出ると大池の周りを半周するように周り込んで、大池の奥にロックフィルのように積まれた黒い安山岩台地をよじ登っていく。 登りきった所が白馬乗鞍岳 2469メートル の山頂だが、これが茫洋とした広いステップ帯でどこが山頂だか検討をつけにくい。 しかし、道は山頂を越えて下り道へと続いているので、山頂を見つけない事には先には進めない。
トウヤクリンドウ
周囲を見渡すと、白馬三山から鹿島槍までの後立山主稜線が雲海に悠然と浮かんでいる。
そして、惑うばかりのケルン群。 見るもの全てが山頂の雰囲気を漂わせているのだ。
ここで迷ってうろうろしている登山者を見かける事もあるだろう。 迷わぬ為には、立ち並ぶケルン群の間を忠実に行く事と、いち早く遭難碑のレリーフのはめ込んである山頂標石を見つける事だろう。
道は頂上標柱の前にある三角点から右に進路を取って、急傾斜で下っていく。 大きな岩がゴロゴロと転がるロックガーデン状の急下降だ。 早い時期だと上部が雪渓となっていて、ルートを誤ると岩の間を踏み抜いたりして思わぬケガをするので注意が必要だ。 これを下りきると広葉樹林帯となり、これを通り抜けると《乗鞍天狗原》の湿原台地の上に出る。
道は頂上標柱の前にある三角点から右に進路を取って、急傾斜で下っていく。 大きな岩がゴロゴロと転がるロックガーデン状の急下降だ。 早い時期だと上部が雪渓となっていて、ルートを誤ると岩の間を踏み抜いたりして思わぬケガをするので注意が必要だ。 これを下りきると広葉樹林帯となり、これを通り抜けると《乗鞍天狗原》の湿原台地の上に出る。
この湿原には木道の遊歩道が敷設されているので、時間があればこの《天狗原》の散策をするといい。
イワイチョウやワタスゲなどが、山旅のフィナーレを演出してくれるだろう。 後は、ハイカーも登ってくる整備された道を花を見ながら250m下っていくといい。 下り着いた《栂池》でバスの時刻に待ちがあるなら、《栂池自然園》で高山植物観賞もいいだろう。
なお、バスはシーズン中のみ《栂池自然園》まで延長運転される。 バス便がない時は、相乗りでタクシーを利用するしかないのが難点だ。
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No title * by 風来梨
たけしさん、こんばんは。
不帰ノ嶮の第二峰ですね。天狗の大下りを経て、取り付く一枚岩盤です。 登りはともかく、逆ルートの下りは更にそそりますね。
ここも、いずれ「日本の風景」として山行記をアップしたいな・・と。
不帰ノ嶮の第二峰ですね。天狗の大下りを経て、取り付く一枚岩盤です。 登りはともかく、逆ルートの下りは更にそそりますね。
ここも、いずれ「日本の風景」として山行記をアップしたいな・・と。
下界ではめまぐるしく町が変化しますが、山は変わらずタイムスリップして昨日のように思い出されました。
ナイス!