風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第123回  剱・長次郎雪渓

『日本百景』 夏  第123回  剱・長次郎雪渓  〔富山県〕
 

剱本峰に続く剱沢の雪渓
 
今回は初心者から山の猛者まで全ての山の民が楽しめる剱岳のバリエーションルートである長次郎雪渓を登って、普段ならなかなかお目にかかれない『氷河』を見にいこう。 これを目にすれば、きっと興奮冷めやらぬ高揚感に全身を包まれる快感を体験する事となろう。
 

 

剱・長次郎雪渓 登高ルート 行程図
 
    行程表               駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR富山駅より鉄道利用(1:05)→立山駅よりケーブルとバス(1:00)→室堂
     (0:20)→雷鳥平(1:50)→剱御前小屋(0:50)→剱沢キャンプ場
《2日目》 剱沢キャンプ場(0:40)→長次郎谷出合(2:10)→熊ノ岩
     (1:00)→長次郎谷・左俣ノコル(0:20)→剱岳(2:30)→剱沢小屋
     (2:30)→室堂よりバスとケーブル(1:00)→立山駅より鉄道利用(1:05)→JR富山駅
 

朝の柔らかな光が
剱沢の雪渓を照らす

  《1日目》 室堂より剱沢へ
岩登り初級者向けコースから稜線の岩峰完全縦走まで、柔剛様々な登山コースを抱く剱岳。 
神々しいまでの岩峰美を魅せる剱岳。 さて、今回はこの魅力尽きない剱岳に、バリエーションルートである《長次郎雪渓》を使って登高してみよう。
 
一般のコースでは味わうことのできない様々な情景や体験、“一歩間違えれば・・”というスリル、登高を終えて下を見下ろす高揚感。 全ては、登った者にしか味わえぬ感覚だ。 それでは、あの高揚感を体感しにいこう。
 

剱本峰と
遙か雲海に浮かぶ後立山連峰

まず、このコースをアタックするに当たって一番考慮せねばならないのは、“如何にしたなら、《2日目》の午前中に剱岳の上に立てるか”という事である。 従って、“その為にはどうすればいいのか”を考える必要が多分にある。 アイゼン・ピッケルの装備は当然の事として、最も行程を左右するのは雪渓の状態、つまりコースの状況なのである。 

もし、途中にクレバスがあったならこのコースの登高は不可能となるし、雨が降って一夜を経たならガチガチのアイスバーンとなっている事だろう。 また、気候や気温によって、雪渓の着き具合も毎年違ってくる。 これらの状況を判断して、“行くか・・戻るか・・”の判断を的確にして頂きたい。
 
なお、《剱沢》までの道は私のHP『日本百景』の『剱岳』<1>コースにリンクを設置したので、その《1日目》を参照して頂きたい。 異なる点といえば、《別山乗越》で《剱山荘》への道を取らずに《剱沢》へ下る事位である。 さぁ、明日は、夜明けと共に出発だ。 明日の体験に胸をときめかせつつ早めに休もう。
 

 

大岩盤そびえ立つ源次郎尾根
 
  《2日目》 長次郎雪渓を登高して剱岳頂上へ
朝、スペクトルに空が変わる頃には、出発準備を整えたいものだ。 たぶん、“一服剱辺りで日の出を・・”ともくろむ登山者達と同じ時間帯での出発となろう。 違う所は、もちろん進むべきルートだ。
 
一般ルートを取るなら、《剱沢雪渓》をトラバースして《剱山荘》へ向かうのであるが、ここは雪渓を真っすぐに下降していく。 ここで雪の状態を判断するといい。 《剱沢》の雪渓が《長次郎谷》の出合まで続いていない場合、つまり出合まで雪渓を歩く事ができない程に雪渓が縮小していたなら、《長次郎雪渓》の登高はまず不可能だろう。 登高可能な時期としては、7月の下旬位までであろうか。
 

長次郎雪渓 詳細図

さて、雪渓の中を下ると、クレバスだらけの《平蔵谷出合》を経て約40分で《長次郎谷》の出合である。 さぁ、これよりバリエーションルートの始まりだ。 《長次郎》の雪渓は、出合からいきなり35°位の急傾斜となっている。 先は左にそれていて、出合からは上部は見えない。
 

剱岳頂上から
長次郎雪渓の一端を望む

この35°の傾斜を200m位登ると辺りがパッと開けて明るくなり、太陽の光と眩いまでの白銀、そして出合を隔てる黒部別山の背後に鹿島槍の双耳峰も見えてくる。 このあまりにも眩い光景に、“一歩間違えば・・”というバリエーションルートを通っている・・という事実を忘れてしまいそうになる。
だが、気の緩みは禁物。 “一歩間違えば・・”という、傾斜40°近くの“天然のすべり台”の中にいるのだ。 もし、高度感を取り戻したいのなら、下を振り返る事だ。
 

熊ノ岩の上は
後立山連峰の絶好の展望台だ

いつの間にか300mも400mも登っているのが判るだろう。 そして、まるで三角定規のように直斜線で出合へ結んでいる白銀の帯。 また、周りの岩壁がカール壁のように直立している。 
これだけ揃えば、嫌でも気が引き締まるだろう。 
 
雪渓の傾斜がますますキツくなり、右側に《八ッ峰》のⅣ峰・Ⅴ峰がそびえたってきたなら、前面に巨大な氷河遺跡である《熊ノ岩》が見えてくる。 雪渓は《熊ノ岩》で二手に分かれ、左側は深いクレパスとゴルジュ(雪渓の中の滝)を形成しているので、右側から《熊ノ岩》にアプローチする。
 

氷河遺跡の名残
熊ノ岩
 
《熊ノ岩》に取り付き、右の上部より流れる沢滝で喉を潤してから、《熊ノ岩》上部にある草付きを目指してこの沢滝のルンゼを登っていく。 この区間だけは、アイゼンが邪魔だ。 少しでも疲労を少なくする為にも、アイゼンは外していこう。 

登り着いた《熊ノ岩》の上部は格好の展望台だ。 あまりにもダイナミックな剱の《八ッ峰》岩峰群、一直線に左右2つの雪渓を突き上げている《長次郎雪渓》、標高差700mに及ぶ白銀の帯、荒々しい岩峰を並べる《源次郎尾根》から剱本峰への稜線、全てが一般のルートでは見る事ができない光景だ。 
《熊ノ岩》はこのルートで唯一、リュックサックを下ろして休憩できる所なので、じっくりとこのチャンスを享受しよう。
 

ギラギラした太陽に向かって
“剱刃”を突きたてる八ッ峰

さて、ひと息着いたなら、アイゼンをしっかりと着けて登高再開だ。 ルートは左側に突き上げる《左俣雪渓》を取るのであるが、《熊ノ岩》から《左俣雪渓》までのトラバース区間が高度感と傾斜がこれまでで最も強く感じる難所となる。
 
それは、《左俣》の下に大きなクレパスとゴルジュが口を開けていて、そこに一直線に傾斜が連なっているのが目に入る為であろう。 実際も強烈な傾斜で、斜度45°はありそうだ。
 

熊ノ岩より上は
雪渓の傾斜が更に増していく

トラバースを終えると、三段に起伏したように見える《左俣雪渓》を忠実に登高していく。 適当に三段の目星をつけて、立ち休憩(腰を下ろすのは禁物。 尻をつけると滑り落ちてしまう)を交えながら登っていこう。 そして、三段目(私にはこのように見えたので、コース説明に活用している)を登りきると、雪渓の最上部だ。
 

長次郎雪渓源頭から望む
後立山連峰

雪渓は20m位の丘を経て、《左俣ノコル》から落ちる岩盤で途切れている。 この丘の上に登り着いた時の充実感。 それは言葉では表現しきれない。 この時の私は、この嬉しさを雪渓で大の字に寝転がるなど“体”で表現したのだが。 《長次郎雪渓》登高の喜びを十分味わったなら、剱岳に向けて登っていこう。
 

北方稜線から望む剱岳岩稜
迫力満点だ
 
雪渓最上部から《左俣ノコル》まではほんの一投足だ。 岩肌を20m程登って剱岳の主稜線に出る。 
剱岳主稜線の《池ノ谷》側(北面)は、ほぼ垂直に切れ落ち迫力満点だ。 だが、あまり乗り出すと転落の恐れもあるので、程々に。
 

八ッ峰と長次郎雪渓がおりなす
岩と雪の殿堂
 
後は左に進路を取り、北面を意識しながら着かず離れずの要領で岩峰をよじ登ると、“帽子”と呼ばれる頂上部の小雪渓を越えて岩にはめられた『通行禁止』のレリーフ板の横から祠の立つ剱岳 2998メートル 本峰に出る。
 

剱岳の頂上へ続く岩稜からは
素晴らしい展望が広がる

剱岳の展望には、月並みな言葉ては表せぬ感動があった。 それは、一つのことをやり遂げた者だけが味わえる感動であると思う。 頂上で感動をかみしめたなら、下山に取りかかろう。 下山は、一般ルートの『別山尾根』だ。 しかし、相手は剱岳。 我が国随一の“岩の殿堂”である。 要所に鎖が掛けられているとはいえ、浮かれず・慌てず・慎重に下っていこう。
 

一つの事をやり遂げた充実感を胸に
剱岳を後にしよう
 
なお、下りルートの解説は、<1>コースの《1日目》と同じであるので、最初に設置したリンクを参照される事して割愛したい。 もし、前日がテント泊でテントをデポしてきたのなら、荷物を回収するべく《剱沢》へ戻らねばならないし、山荘泊なら《室堂》へ向かうべく直接《別山乗越》に進路をとってもいいだろう。
 
その際は、《室堂》発のバス発車時刻に留意しよう。 剱岳から《室堂》まで、荷物の整理を含めて下り約5時間半である。 最終バスは16時頃である。 逆算すれば、剱岳頂上を10時半までに下り始めないと、《室堂》の最終バスに間に合わなくなる。
 
また、煩わしい時間計算などやめて心地よい緊張を解かすべく、もう1日《剱沢》に宿泊するのもいいだろう。 とにかく、今日は1つの事をやり遂げた充実感に心を預けよう。

    ※ 詳細は、メインサイトより『剱岳・長次郎雪渓ルート』を御覧下さい。
 
 
 
 
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