風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第119回  祖母・傾山

『日本百景』 春  第119回  祖母・傾山 〔大分県・宮崎県〕
 

祖母山頂より傾山を望む
 
  祖母・傾山 そぼ・かたむきやま (祖母傾国定公園)
数百万年に及ぶ浸食という“洗礼”を受けてきた山、祖母山 1756メートル ・傾山 1602メートル 。 
山頂も浸食で激しく削り取られて、全体的に平らな準平原と呼ばれる地形となっている。 
山頂の特徴ある突き出た岩峰は、数百万年の風雨に削られながらも耐え抜いてきた証なのである。 

さて、主題の登山であるが、祖母山には3つのコースが設定され、宮崎県側の《五ヶ所》からのコースは比較的楽な初心者向きであるが、大分県側にある《神原口》と《尾平越》からの2つのコースは深い谷からの急傾斜が絡む玄人向けのコースで、《阿蘇》や《九重》とはひと味違った山行が楽しめる。
 

 

祖母・傾山縦走ルート 行程図
 
    行程表               駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR豊後竹田駅よりタクシー(0:40)→神原登山口(0:40)→五合目避難小屋
     (2:30)→祖母山(0:20)→祖母山九合目小屋
《2日目》 祖母山九合目小屋(0:25)→祖母山(1:30)→障子岳(1:10)→古祖母山
     (1:30)→尾平トンネル上〔尾平越〕(0:20)→キャンプ場〔水場〕(2:00)→本谷山
     (2:00)→九折越避難小屋
《3日目》 九折越避難小屋(1:20)→傾山より三ッ坊主経由(2:30)→三ッ尾(1:30)→観音滝
     (0:30)→九折鉱山・傾山登山口(0:50)→上畑バス停よりバス〔途中乗換あり〕
     (1:10)→JR緒方駅
 

祖母山系のもう一つの盟主・傾山

 《1日目》 神原登山口より祖母山頂上へ
さて今回は、美しい渓谷や滝を絡めて、九州の“奥の峰”・祖母山へ登ってみよう。 祖母山の登山口となる《神原渓谷》は、交通機関などは全くないので、今回の行程もマイカー利用が“ベター”となろう。
なお、マイカーは、《一ノ滝》の上部にある駐車場まで乗り入れが可能となっている。
 

水に恵まれた祖母山系は美しい滝が多い
一ノ滝にて
 
この事によって、祖母山登山の“ベストプラン”は、前夜に《一ノ滝》駐車場泊での早朝登山開始であろう。 今回は、この“ベストプラン”で話を進めていこうと思う。
 
さて、駐車場を出発して、林道を少し上がると登山道入口が左手に現れる。 登山道に入ると、道標が200m置きに設置されるなど、よく整備された道が続いている。 また、山の植物や地質などの説明看板も随所に現れて、一般ハイカーにかなり気を使った道である事が想像できる。 ほぼ平坦な道を1km程歩くと、通称・“御社ノ滝”という美瀑が現れる。
 

登山道の途中に現れる美瀑・御社ノ滝
水と光のおりなす神秘的な情景だ

滝を過ぎて、滝の高さ位(約20m)つづら折りで登っていくと、《祖母山五合目避難小屋》にたどり着く。 この小屋は建付けが立派で、土間と居間が仕切られて庄屋の館のようである。 
水も近くに沢があり、この小屋は使えそうである。 車で寝るより快適な睡眠が取れそうな小屋である。
 
小屋の前には、『頂上まで3km』の道標があり、その横に丸太の階段が続いている。 
これより、登山らしい急登が始まる。 『頂上まで2.6km』道標で最終の沢(ほぼ涸れている)を渡ると、さらに急な坂道が1.6km続く。 体が“山慣れ”していなければ、かなりコタえる急登である。
唯一の救いは、その名の通り『命救いの水』という岩清水である。 この岩清水は『頂上まで1.8km』地点にあるので、真に助かるのである。
 

国観峠より見上げる祖母山

さて、道標が『あと1km』を示す所まで急登を続けると、《国観峠》の広場に出る。
ここで、始めて祖母山の頂上がお目見えする。 この広場は芝生となっていて、昼近くとなるとピクニック色の強いハイカー達が弁当箱を広げてくつろいでいる事だろう。 ここまてくれば、もうひと息だ。
樹林の層がブナやミズナラなどの巨木からダケカンバなどの潅木に変わり、道がルンゼ状にえぐられてくる。 徐々に頂上に近づいている証拠だ。 

《九合目避難小屋》(有人・今はソーラー発電装置もある近代的な小屋である)への道を分けてひと登りすると、待ちに待った祖母山 1756メートル の頂上だ。 頂上には健男霜凝日子社の社があり、信仰に全く興味のない私でもつい手を拝せたくなる造りである。
 

祠が立つ祖母山頂上
 
頂上からの展望はこの山系で標高がひときわ高いだけに、傾山への緑濃い稜線は元より、《九重》や《阿蘇》の山なみが見渡せる絶景だ。 頂上で山岳展望を十分に味わったなら、《九合目避難小屋》に戻る。
 

 

傾山へ続く深い山なみ
 
 《2日目》 祖母山より祖母傾縦走路を行く
九州の山は、総じて5~6月がベストシーズンとなる。 それは、九州の山の緯度や高度からして夏山の魅力である高山植物はあまり期待できないが、その代わりにシャクナゲやツツジなど、晩春や初夏を飾る花にとっては絶好の生息条件となるのだ。

・・さて今日は、行程が20km超と非常に長い。 だが、途中にエスケープルートが数本あるので、比較的気軽にアタックできる縦走コースである。 それでは、九州随一の魅力を秘める『祖母傾縦走路』を歩いてみよう。 

《九合目小屋》には『縦走路を伝って九折越 つづらごえ までの所要時間は11時間+2時間』と、“脅し”にも似た案内が掲げてある。 これを鵜呑みにすると途端に気が萎えてしまうので、できるだけ気にせぬようにしたい。 それでも、休憩を含めると総所要時間は2ケタとなるので、日の出前には小屋をでるのは鉄則だろう。 理想をいえば、祖母山の頂で御来光を迎えるのが望ましい位である。 

縦走路は、祖母山頂にある石祠の背後から始まっている。 見た感じでは、今までのルートには全く該当しない急な岩崖の下りとなる。 夜明け前の薄暗い中を下ると、足場の確認が取り辛い。
この辺りを私が通った時には未だ薄暗かったので、このような印象をもったのだが・・。
空が明るければ何の問題もないだろう。
 

             祖母山東面の大岩壁を染める         シャクナゲ苑にて
                                      シャクナゲの花

この頂上直下の一枚岩を下りきると、ハシゴが3つ程連なってイッキに標高差150mを下る。 
すると、程なく『標高1600m』のプラカードと“シャクナゲ苑・只今開園中”との案内看板がある。 
この縦走路は長丁場ゆえにあまり寄道はしたくないのだが、これは“寄道”をする価値があるだろう。 
祖母山の山体を淡いピンクで染めるシャクナゲ群、奥岳川の源流部を刻む瀬滝、遠くに望む傾山塊と絶景の目白押しだ。 十分目の保養をしたなら、縦走を再開しよう。
 

天狗岩へは200mの登り返しだ

《シャクナゲ苑》より更に100m下ると、前方に《天狗岩》と障子岳がそそり立つように現れる。 
当然、200mの登り返しである。 これを《天狗岩》のそそり立つ障子岳の肩までつめると、稜線でも1~2を争う絶景が視界に広がるだろう。 鋭角にそそり立つ《天狗岩》や《烏帽子岩》と、岩を染めるシャクナゲの花、程よく遠くなり裾野を広げる姿が見え出す祖母山。 そして、辺り一面に、淡いピンクの斑点が咲き競う。 まだまだ遠くにうっすらと望む傾山山塊も印象深い。
 

“肩”にピンクの羽織を
まとう天狗岩

なお、障子岳 1703メートル の頂上はこの“肩”より10分先であるが、頂上サークルは潅木が育ち始めて親父山の方角以外の展望は利かない。 たぶん、絶景の“肩”で休憩を取ったであろうから、ここは先を進むとしよう。
 
障子岳より少し下ると宮崎県側の展望が良くなって、なだらかに高原に連なる風景が望める。 
《天狗岩》や《烏帽子岩》がそそり立つ大分県側の切り立った風景とは、全く対照的だ。 やがて樹林帯の中に入り、さして上下もなく古祖母山 1633メートル に着く。 古祖母山からはスイッチバック状に頂上岩塊を周り込んで、この大岩をハシゴで直下降する。 

これを越えると、落葉に埋もれた道を足を擦り下る長いダラダラ下りとなる。 こういう下りは足裏に熱がこもってきて、後半にそのツケが“バテ”という形で襲い掛かるのだ。 この長くタルい下りをこなすと、ひと息つける小さな鞍部に出る。
 
ここは《尾平越トンネル》の真上にあたる所で、トンネルの大分県側口へのエスケープルートの分岐点でもある。 何でも、30分程で下れるらしい。 《天狗岩》の取付から分岐する《黒金山尾根》と共に、荒天時のエスケープルートとして憶えておこう。
 

アケボノツツジ

本物の《尾平越(峠)》は、これより小さな上下を2度越えなければならない。 標高は1130mと、祖母山より630mも下ったことになる。 また、朽ちた道標によると、祖母山から9.5kmも歩んできた・・との事。 だが現実は、やっとここが縦走路の中間点であるという事に過ぎないのだ。 

それは、朽ちた道標の反対側に示された《九折越小屋》までの距離を見ると、一目瞭然である。 
『九折越小屋 11km』。 これを目にすると、すぐ先にある水場で水を飲むだけ飲んで、そこでテントを設営してバタンキューとなりかねないので御注意を。 この有り難くも危険!?な水場付テント場を越えると、樹林帯の中のタルく長い上り坂となる。 

古祖母山からの下りよりも長く、あれ以上にタルい・・、その上に今度は登り坂である。
展望もなく暑くタルい登りを、少なくとも2時間はこらえなければならない。 そして、喘ぎ登った本谷山 1643メートル の頂上は、潅木が生い茂って展望は今イチで登り甲斐もない。 何でも、この山は『宮崎故郷百名山』の一峰らしい。 
 
この項目で設定した時間通りに来たならば、本谷山で正午頃であろう。 だが、今までのツケが噴き出る“今日のヤマ場”が、これ以降に続く炎天下の中での《九折越》までの下りである。 

本谷山よりは下り基調なれども小さな登り返しが何度もあり、周囲は潅木林が覆って風通しが悪い上に、頭上には直射日光が降り注ぐのだ。 足の疲れが足裏の熱感として溜まってきて、一歩を繰り出すごとに火傷感を感じるのだ。 こうなると、途端に歩行ペースが落ちるのである。
 
この私の体験から、この下りは多めのコースタイム設定としたのであるが。 なお、途中の好展望は、笠松山の《東峰展望台》がいいだろう。 傾山塊が裾野から見渡せていい。 

後は傾山へ続く緑のうねりを確実に上下すると、木陰にひっそりと建つ《九折越小屋》が見えてくるだろう。 水場は《九折越》の十字路(縦走路と宮崎・大分からの登路との交点である)を宮崎県側に7~8分下った所である。
 

小屋の窓より望む“傾”に
明日の夢を期そう
 
小屋の建付けは立派で、快適な一夜を過せるだろう。 樹木の間より姿を魅せる傾山の“二ッ坊主”が残照に輝く姿が印象的だ。 これを瞳の奥に焼き付けて、明日の傾山の夢を結ぼう。
 

 

傾山での朝景
大崩山群と市房山
 
 《3日目》 三ッ坊主コースを通って下山
今日は、祖母傾山塊のもう一つの盟主・傾山の頂を踏んで下山する行程であるが、一般ルートを下るのは少々物足りない。 この『日本百景』という文集のコンセプトに従って、その項目の景勝地の魅力を最も味わえるルートを選んでいこう。

・・特異な岩峰を2つ突き出して奇怪あまりある姿を魅せる傾山を最も楽しむには、この特異な岩峰を巻き、そしてヘツるルートがいいだろう。 そこで選んだのが、『三ッ坊主ルート』である。
この『三ッ坊主ルート』は地図上では“難路”と示される手強いルートではあるが、最も傾山の魅力を味わえるルートでもある。 それでは、このルートを歩いてみよう。 

《九折越小屋》より傾山まで、空身でも1時間20分はかかる。 縦走装備を含めた重い荷物を担ぐとなると、10~20分は余計にかかるだろう。 そして、できれば山頂で御来光を拝みたい。
これらの事を踏まえると、日の出の1時間半前には小屋を出たいものだ。 

《九折越小屋》を出て50mも歩くと、大分県側の《九折鉱山》からの登路と宮崎県側の《見立》からの登路が十字にクロスする《九折越》に着く。 休日ともなると、傾山での御来光目当てに両側から登山者が夜道をやってくる。 
 
聞く所によると、宮崎県側の《見立》からだと、林道終点に車を置いて僅か40分でこの峠までやってこれるとの事である。 あまり安易に登れるルートは、環境面や山の魅力の維持の面、そして登山者のモラルの面など全てにおいてマイナスだと思うのだが。 

さて、峠を越えると、樹木に囲まれた中をさしたる登りもなく進んでいく。 
峠より少し進むと『標高1300m』のプラカードが現れるが、次の『標高1400m』はなかなか現れない。 それは傾山本峰の取付まで、ほとんど登りらしい登りがないからである。 これを伝って歩いていくと、やがて樹林の中より抜け出る。
 
周りを遮るものがなくなり、うっすらと空が白んできた中を特異な“岩坊主”二つが、ぼんやりと浮き出してくる情景が目に入ってくるだろう。 本傾と後傾の岩峰群である。 ここは思い荷物を下ろして、是非カメラを覗いて頂きたい。 きっと、思いもよらぬシーンがファインダーに現れるだろう。
 

傾の双耳岩峰
夜明けのファンタジー
 
この幻想的な情景をカメラに収めたならば、いよいよ傾山本峰への取付だ。 本峰に取り付くと標高差にして250m、その風貌どおり“杖落とし”などのルンゼ状の岩場が続くイッキ登りとなる。
朝っぱらからの強烈な急登に、山慣れしていない体が大いに悶える事だろう。 だが、グズグズしていると御来光には間に合わず、夜明け前の出発の苦労が水の泡となる。 これを乗りきると、“二ッ角の右手”、後傾の頂上だ。
 

“岩坊主”の頭上は
アケボノツツジの花飾り
 
この後傾は本峰より位置的に良く、展望と御来光はこちらがお薦めだ。 霧島山や市房山など九州南部の山々が、朝日と共に出迎えてくれる事だろう。 この後傾から“二ッ角の左手”、三角点のある本傾までは小さな上下を含めて5分程だ。
 

傾山の頂上は
ちょっとした山上庭園だ

傾山の頂上である本傾 1602メートル の頂上は大きな岩が品良く折り重なり、ヒメコマツの枝ぶりも良く、立ち枯れの白骸木のアクセントも効いてちょっとした庭園のようだ。 もちろん、アケボノツツジも枝狭しと咲き競っている。
 

ここまで歩いてきたか
祖母山が霞む
 
そして、遠くに霞む祖母山の勇姿を望むと、感慨深い思いが込み上げる事だろう。
しばし、頂上で長かった縦走の思い出を顧みよう。
 

アケボノツツジに染まる岩峰越しに
昨日通った稜線が
 
さて、下山であるが、始めに述べた通りに《三ッ坊主》越えの難路を下っていこう。 全体としてはそれ程難しくない岩場の下りではあるが、縦走装備の大きな荷物を担いでの切り立った岩場の下りいう事で普段より神経を使う事になろう。 頂上より10m程戻ると、『大白谷へ』と示す道標がある。
その下に『坊主ルート(難路)』と小さなプラカードが差してある。 

その指示通りに下っていくと、本傾を成す大岩壁の裏手をヘツるように下っていく。 途中に一ヶ所両面がツルツルの大岩があり、この通過はかなり厄介だ。 しかし本番は、これ以上に高度感が伴うのだ。
やがて、前傾の岩塊に乗り移ってこれを急登する。 《五葉坂》の急登だ。 

このコブを越えると、いよいよ“本番”への分岐に差しかかる。 道標には、『坊主ルート 危険 一般登山者は〔水場〕ルートを行く事』とある。 分岐から50m程は何でもない獣道であるが、それは《坊主岩》の縁に出るまでの事で、岩壁の縁に出るとバンド付の懸垂下降が三連発でやってくる。
 

岩崖を懸垂下降で下る
“難所越え”
 
最初の下降はホールド点が目で確認できるので大した事はないが、2つ目はルンゼ状に切られていてホールド点が視認し辛い。 だが、周りの至る所にアケボノツツジが、淡いピンクの斑点を彩っている。
岩壁に吹き寄せる涼風にアケボノツツジがチラチラと舞い降る、詩人ならばたちまち詩歌を詠んでしまうような情景がそこらかしこに広がっている。
 

アケボノツツジに染まる坊主岩
 
キツい下りに冷汗をかいて、素晴らしい情景にホッと一息着く、これを《坊主岩》崖の直下降の間で繰り返す。 「ずっとこのような感じが続くのか」と思った矢先、いきなり樹林帯に入り込んで、しかも思いもよらない急登が始まる。 先程下った分を吐き出すが如く、つめるように登っていく。
これを登りきると、《三ッ坊主ノ頭》だ。
 

 三ッ坊主の大岩

別称・“前傾”の文字通り、前に傾いた大きな岩峰がエラを張り出している。 そして、そこらかしこにピンクの斑点を散りばめるアケボノツツジと、深い谷を刻み込む《山手谷渓谷》の絶景が広がる。
振り返れば、《吉作坊主》や《二ッ坊主》などの岩峰など、このルートでしか望めぬ絶景が360°の大展望で味わえるのだ。 素晴らしい情景を前にして立ち去るのは、後髪をひかれる思いである。 

さて、《三ッ坊主ノ頭》からは、一度大きくたわんでから向かいにそびえる《吉作坊主》の岩峰へ移っていく。 おそらく、《吉作坊主》の頭へのアプローチがこのルート最大の難所となるであろう。 

角に積み重なった一枚岩群の上を巻くようによじ登り、その上に形成されたナイフリッジを跨ぐようにトラバースする所がある。 もちろん、ロープや鎖は一切ない。 一枚岩は登りにくく、この岩上にやっとの思いで這い上がっても背後が完全に切れ落ちていて、その高度感に足が竦む事だろう。
 

深い谷に向かって
岩場を下っていく

距離的には短いのだが、一枚岩群を巻いて登り、その上を跨いで伝うまでの間、延々と切れ落ちた谷底をまの当たりにするのだ。 これを越えると、樹木に囲まれて眺望が今イチの《吉作坊主》の頭を越えて、その直下にある10m位の大岩を懸垂下降(バンド付)する。
 
進路はこれを境に内々の樹林帯の中に入り込むようになり、つづら折り急下降していく。 
《二ッ坊主》との鞍部にある《アオスズ谷》の源頭まで下ると、行く手を阻むかの如く《二ッ坊主》の“本体”が立ちはばかる。

土砂崩れでも起こしたのか・・と見まがうツルツルの岩崖をよじ登って斜め右手に抜けていくのだが、見た目は左側が正しいルートのように見えるので厄介だ。 事実、間違えた人の踏跡が多数残っていた(筆者も、新たなる踏跡をつけてしまった)。 これを間違えると、15mの土砂崩れ壁上をトラバースで戻り返すハメとなるので御注意頂きたい。 

これを越えると難所はなくなり、後は《二ッ坊主》の肩口までの急登と、そこから下るつづら折りの急坂があるだけだ。 飽きる程のつづら折りを経ると、森の中で一枚の木切れ道標が落葉に埋もれているのが発見できるだろう。 ここが一般〔水場〕ルートとの合流点だ。
 
この少し先が《三ッ尾》と呼ばれる尾根の縁だ。 標高は1150m。 『坊主ルート』の分岐点より僅か400m程しか下っていない事実に驚かされる。 『坊主ルート』はコース自体の難度はともかく、度重なるアップダウンによる体力度が問われるルートのようである。
 
さぁ、後は落葉に埋もれた森の中を延々と下るだけだ。 だが、下るといっても、標高差750mに及ぶダダ下りだ。 難所を踏ん張って歩いたツケも手伝って、足取りはかなり重たいだろう。
 

 落差75mを誇る観音滝

この足取りで地図上のコースタイムを維持するのは難しく、県道7号線の《上畑》集落より出る12時過ぎのバス便には到底間に合いそうもないだろう。 覚悟!?を決めてゆっくりと下ろう。 単調な下りの中で数少ない見せ場というと、樹間に垣間見える《坊主岩》に今日の体験を思い返す事、そして落差75mの《観音滝》位であろうか。

なお、《観音滝》の周辺は滝を囲む様に馬蹄形に切れ立っていて、滝を覗き込んでバランスを失い転落する事故が多発しているとの事。 ゴールも近く、疲れも手伝って気が緩みがちだが、最後まで気を引き締めていこう。 “事故”という落とし穴は、こういう所で手ぐすねを引いているのだから。 

《観音滝》を越えて少し行くと、鉱山跡の赤茶けた水路とトロッコ跡の鉄橋が見えてくるだろう。 
この鉄橋を渡って《カンカケ谷》から《九折越》への登路を併せると、トロ道跡の高台から急降下して鉱山跡の登山口に着く。 30台は駐車できる駐車場を備えた立派な登山基点だ。
そして、大半の登山者がここまで車でやってくる。
 

麓から望む傾山

だが、祖母傾の縦走を志す者には、これより最後の使命が待ち受けている。 
それは、炎天下の中、県道7号まで4kmの舗装道歩きだ。 しかも、バスの時刻に到底間に合わない(上畑12:16発のバスを逃すと、その日の内に緒方町へ出る便がない)という心理的な荒廃感が加わると、より辛くなる事だろう。
下山後のひと風呂も“夢”と化するのである。 この山系の難点といえば、ズバリこの事であろう。

    ※ 詳細は、メインサイトより『祖母・傾山』を御覧下さい。
 
 

 
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