風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第116回  南伊勢の不動滝・白滝

『日本百景』 春  第116回  南伊勢の不動滝・白滝 〔三重県〕
 

つがいの絆を感じる真に不動なり
夫婦の滝(古和浦不動滝)
 
伊勢志摩と聞くと、どんな情景を思い描くだろう。 そう、大概の人はリアス式の美しい海岸であったり、海女さんが海に入る情景、荒々しい崖の突端にある灯台、波と戯れるサーファーの姿など海の情景を思い描くだろう。
 
だが、この伊勢志摩という所は、海岸のすぐ手前まで切り立った崖が迫り、その奥は『関西の黒部』とも称される程の秘境・源流帯なのである。 そしてその規模は、恐らくであるが黒部を凌ぐのである。
なぜなら大阪湾・伊勢湾・熊野灘と、3方向に渡っての流域の水源を一手に担っているからである。
 

人知れず落水の音を刻み
東宮不動滝
 
まぁ、その源流地帯はかなりの険しさがあり、探訪するのも一筋縄ではいかないので、これはまた次の機会に取っておくとして、今回は海岸からそうは離れていない所に潜む滝たちを紹介しようと思う。
 
この伊勢志摩の地は、滝に対しての信仰が深いようで、多くの滝が滝不動尊の御神体として奉られる『不動滝』であったり、清楚で厳かな姿を示す『白滝』であったりする。 それでは、伊勢志摩にあるこれら『不動滝』や『白滝』の一部を御紹介していこう。 なお、今回挙げた他にも、まだ数多くの『不動滝』、『白滝』が潜んでいるとの事である。
 

 

岩間に美しい白布が掛かる
 
  東宮不動滝 とうぐうふどうたき  落差15m
三重県・南伊勢町を通る国道260号線を旧南島町エリア(’05・10に南勢町と南島町が合併して南伊勢町となった)まで進む。 途中で『河村瑞賢の里・(東宮)不動滝↓』と示されたスロープがあり、国道と分かれてこれを下る。 
途中、里を流れる小川に桜並木が立つ雰囲気のいい情景が広がっている。
しかし、滝で頭がいっぱいだったので、残念ながらこの春ののどかな風景は撮らずじまいとなってしまった。 

小川沿いにつけられた細い道を伝うと、鳥居前で道が途切れていた。 ちなみに、鳥居前まで車で突っ込むと転回に苦労するので、200m下方の転回可能なスペースに車を止めた方がいいだろう。
鳥居をくぐると、石畳の遊歩道が滝まで続く。 『不動滝』と名のつく滝は神社神道の色合いが濃く、遊歩道も御神体である滝までの参道として綺麗に掃き清められていた。
 

岩陰にひっそりと祀られる祠に
滝信仰の思いを
山峡に染み入るように
響き渡る滝音に無常感を感じた
 
滝は奥まった岩盤の真ん中より水量豊富な落水を示していた。 滝上にも遊歩道が切られており、滝の落ち口から下を眺めることもできた。 そして、滝横の岩陰にひっそりとたたずむ祠に滝神道の祈りを感じた。 無常感を漂わす落水の音だけが山峡に響き渡っていた。
 

優雅な落水模様に時を忘れて
 
  河内不動滝 かわちふどうたき  落差 25m
南伊勢の桜ロード・国道260号線を『河村瑞賢の里』よりさらに西に進むと、《河内》という集落に出る。 ここで右折して、そこを流れる小川(河内川というらしい)に沿って進んでいく。
南伊勢町にある不動滝への道程は、まだ新しい案内板が示してくれているので迷う心配はない。
うららかな桜並木ののどかな里を伝うとやがて道は未舗装道となり、滝の気配が近づく事を予感させる。

滝上部の斜瀑が
より美しい白布を魅せる

未舗装道を2km程進むと森の中に入り、『滝まで500m』と記された案内板の周囲だけ簡易舗装されている所に車を止める。 
ここからは徒歩だが、道はコンクリート舗装がされており、また傾斜もなく500mの距離の割には5~6分で滝前に着く。
 
滝前から流れる沢に架けられたコンクリートの棒橋を渡って右岸(上流から左右を示すので、この場合左側)から滝そばにアプローチをする。 滝つぼまで近づいて辺りを見渡すと、薄暗い山峡に一筋だけ強い日差しが差し込んでいた。
 
そして滝の上部は岩を刳り貫いたような半開の岩洞状となり、美しい斜瀑となってその岩洞を滑り落ちていた。 下に鎮座する仏座岩といい、薄暗い山峡の中に差し込む一筋の強い光といい、滝上部の美しい滑め斜瀑といい、眺めていてとても不可思議な滝であった。
 

薄暗い山峡に一筋差し込む強い光が
神秘的な雰囲気をかもし出す
 
滝前のコンクリート棒橋から山道が切られており、滝の落ち口まで登ってみたが、足場が少し不安定だったので上の斜瀑の撮影はできなかった。 でも、上の明るい雰囲気(周囲が日の光を浴びて明るくなっている・・)はこの滝の雰囲気を殺ぐような気がしたので、撮らずにいて正解だと思った。
 

 

押淵白滝の全景
滝つぼにも清らかな水をたたえ
 
  押淵白滝 おしぶちしらたき  落差 10m
国道260号線より、押淵川のたもとから延びる町道へ入っていく。 国道から約1.5km程入ると、白い鳥居が左手に見えてくる。 これからめぐる《押淵白滝》が地域信仰の深い御神体の滝である・・という事を端的に物語っている。 鳥居より50m程奥に駐車スペース(駐車場との看板あり)があるので、そこに車を止めて出発だ。 

鳥居の所まで戻って、鳥居の先に延びる砂利道を進んでいくと、小川を橋で渡って《鬼ヶ城》との分岐に出る。 今回は残念ながら見送ったのだが、この《鬼ヶ城》も伝説の香りが漂う洞窟とのことなので、時間があれば是非足を向けて頂きたい。
 

滝は地域信仰の拠り所
御神体となるのだ

さて、『白滝神社→』との道標の示す通りに右手に入っていくと、竹ヤブに囲まれた中に白い小さな鳥居が立つ《白滝神社》の山門に出る。 この山門をくぐり、小さな丘を軽く乗り越えると、滝の落水が形成した小沢が見えてくるだろう。 そして、幾重にも立つ白木の鳥居が、これより御神体に参る・・という気持ちを高めてくれる。
 

押淵白滝の下部は
美しい白布を描き
 

 

美しい水が創造する
清らかなひととき
 
  朝日不動滝 あさひふどうたき  落差 35m
南伊勢町を横断する国道260号を更に西へ進むと、《村山》という集落に『朝日滝不動尊』と記された案内板があり、そこを右折。 道は山麓の田園集落を見ながら、山奥に向かって延びている。
 
途中、“田畑を耕すトラクターと桜の木”など、時間をかけて訪ねてみたならいい写真が撮れそうな雰囲気の里風景の中をゆく。 時間に追われている訳でもないのに、滝に気がはやってしまってこういう所に目が向けれないのである。 つくづくもったいない事だと思う。

やがて、田畑や民家は途切れて山峡を縫う峠道となる。 道は舗装はされているものの、至る所に周囲の崖からの落石が転がる“嫌な道”となる。 特に滝不動の鳥居前のカーブでは、車を降りて石を手で除けなければならない位だった。
 

落水のおりなす絹糸絵巻
 
淵の平な岩に座り
水辺の遊びを心ゆくまで堪能した

鳥居前で車を止め砂利の敷かれた坂を200m程歩くと、真新しい赤い祠とその奥に大きな斜瀑に美しいライトグリーンの滝つぼが見えてきた。 この美しい滝姿を目にして、嬉しくなって滝そばへ駆け寄る。

沢の岩を綺麗に整えた岩段を50m程登ると、参道最後の鳥居をくぐり、御神体の滝が見えてくる。 
辺りは清掃が行き届き、滝の左手には本堂が祭られている。 そして、滝前の白木の鳥居から望む《押淵白滝》は、崇高な趣を訪れた者にに示す事だろう。
 
清らかな水に透明感のあるライトグリーンの淵。 暖かい日差しが差し込む淵の畔にて、水辺の日向ぼっこでもしながら、時が経つのを忘れてたたずむ至高の贅沢。 この滝風景は、極上のひとときをワテに与えてくれた。


 

木漏れ日輝く切原白滝
 
  切原白滝 きりはらしらたき  落差 20m
更に奥に延びる道へ車を進めよう。 車で約15分、道脇の集落が消え峠越えの様相を呈してきた頃に、《切原白滝》の看板が現れる。 車は2台程なら道路脇に止められるだろう。 立て看板が示す通り、道脇の犬走り状の山道を100m程下ると、落差20m位の木漏れ日が美しい白滝が見えてくる。
 

滝上部の岩が
落水を美しい紋様に散らばせて

この滝情景を目にして言葉はいらない。 ここはカメラという通訳を駆使して、この美しい情景と語り合おう。 だが、水は少し濁っていたようだ。 そして、いくつかのゴミも発見された。 
美しい情景を見て、ゴミを落としていく。 自然に入る為のルールを守らない人間が、なぜ自然を享受するのか。
そんな問題も提起した滝であった。 少し濁った滝水がそれを物語っているのだろう。
 

滝の下部に
『川』という文字をみつけた
 

 

やがて寄り添う運命が如く
二つの滝が一つに合わさって
 
  古和浦不動滝 こわうらふどうたき  落差 35m
朝日不動滝から戻って、国道260号線を更に西へ向かうと《古和浦トンネル》というトンネルがある。 
このトンネルを過ぎるとすぐに『不動滝』の案内板がある。 案内板の指示に従って右折。
アプローチ道は今までの不動滝と違って、人里から離れていくように奥へ奥へと入っていく感じだ。
やがて、道は林道然となり、土床のダートを経てコンクリートで塗り固めたような駐車スペースのある車道の終点に着く。 ここからは歩きだ。

『不動滝』の案内板の指示に従って山道を歩いていく。 案内板に記されていたのは『滝まで650m』との事だが、ちょっとした起伏があり巨木の根が地を這う山道然とした道で、スニーカーだと徒歩で20分近くかかる。 やがて、滝のおりなす白い筋と滝の手前に木板の橋が見えてくる。 
滝信仰の御神体であるかを示すが如く、周囲の木々にしめ縄で結界が張られてあった。
 

滝の岩盤と二条の白布が
水墨画を描き
 
雄雌二つの白布が離れた所からゆっくりと、時と共につがいになるが如く寄り添っていく。 
今までに多くの滝を見てきたが、こんな形の滝は極々稀である。 不動滝として祀られているようだが、夫婦滝の雰囲気を大いに漂わす名瀑である。 また、滝の左岸(右側)の中腹に祠とあずま屋があり、周囲は綺麗に掃き清められて、今もこの滝が里の民に慕われている事が伺える。
 

 

人の手の趣を感じぬ
不思議な『不動ノ滝』だ
 
  棚橋不動滝 たなはしふどうたき  落差 15m
南伊勢町の西端に近い《棚橋竈》(たなはしがま)という所にも不動滝がある。 『棚橋不動滝 1.2km』の案内板の指示通り右折すると、車1台がやっと通れるような舗装道が右手に切ってあり恐る恐る侵入していく。
 
事によると、今回訪ねた不動滝の中で最もアプローチが困難な滝かと思われる。 なぜなら、この道を200mも進むと車1台がやっと・・どころか、少しでもハンドルを動かすと横手の石垣と崖のどちらかに擦れる程の狭い通路となるからだ。 もはや引き返す事もできず、石ころに乗り上げようがなんだろうが、とにかくハンドルを真っすぐに保つ。
 

“人知れず”の不動滝も
深い味わいがある
 
約200m程のこの極狭の通路を越えるとさすがに精神的に参って、どうにか転回の利く路辺に車を“デポって”歩いていく事にした。 この判断は正解・・というか、車でこの滝にアプローチしようとするのが間違いで、案内板前で車を止めて歩いてくれば良かったのである。 僅か3~400mで、額に脂汗をたらすハメとなったのだから。 

道は簡易舗装されているもののますます狭くなり、やがては砂防ダムの築堤の上を通るなど、あれ以上車で進むと本当に戻れなくなったかも知れない。 簡易舗装道は『不動滝まで260m』の看板で途切れ、ここから山道然となって土手に切られた踏跡を登っていく。 土手の途中に細い支滝(たぶん、渇水期には涸れるであろう)を見て、程なく落差15m程のしだれ滝が現れる。
 
滝の横に不動明王を祀る祠はあるが、今までの不動滝と違い手入れは行き届いていないようで、祠もかなりすす汚れていた。 今回訪れた『不動滝』の中で最も人里に近いはずなのに、最も俗世間から離れているように感じる滝であった。 落水と共に乱れ散る落葉が、この滝を元あった自然の姿へ回帰させているような気がした。
 

乱れ散る落ち葉と
白布によどむ淵のおりなすハーモニー

   ※ 詳細は『日本の滝を訪ねて・・』より、『南伊勢の滝』を御覧下さい。
     また滝の訪問記は、メインサイトに掲載している『南伊勢めぐり』をどうぞ。
 
 
 
 
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