風来梨のブログ

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第109回  南八ヶ岳

『日本百景』 春  第109回  南八ヶ岳  〔山梨県・長野県〕
 

一番空に近い窩
赤岳頂上小屋を望む
 
  八ヶ岳 やつがたけ (八ヶ岳中信高原国定公園)
南北に30km・東西に15kmに渡って30座を越える2000m峰を擁する八ヶ岳は、山容が南北で大いに異なり、それぞれに違った魅力を備えている。 南八ヶ岳は主峰・赤岳 2899メートル をはじめ、阿弥陀岳 2806メートル ・横岳 2829メートル ・権現岳 2715メートル などの岩峰を連ねて、稜線は痩せて嶮しくダイナミックな姿を魅せている。
 


 

南八ヶ岳主稜線 周回ルート行程図
 
    行程表               駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 茅野市街より車(1:00)→美濃戸(2:50)→赤岳鉱泉(2:00)→硫黄岳
     (1:30)→横岳(1:00)→赤岳石室
《2日目》 赤岳石室(0:50)→赤岳(0:50)→赤岳石室(0:05)→地蔵尾根分岐
     (2:30)→行者小屋(1:45)→美濃戸より車(1:00)→茅野市街

 《1日目》 赤岳鉱泉より硫黄岳・横岳・・

岩峰が連なり、ダイナミックな眺めの南八ヶ岳にアタックしてみよう。 また今回は、鎖場が連なる難所を積雪期に越えるので、それなりの装備と心身の準備が必要だ。 しかし、雪を載せた岩峰は、また違った魅力を抱いている。 この難所を越えて、雪一色の峰に立つ充実感は言葉では語れない。
それでは、魅力いっぱいの南八ヶ岳を歩いてみよう。
 
登山口まではマイカーでアプローチをしたい。 茅野市街から八ヶ岳山麓の《美濃戸口》までは舗装されているが、《美濃戸口》~《美濃戸》は未舗装で道悪なので、車の床下を擦る覚悟はせねばなるまい。
なお、車の床下を擦るのを忍びない“愛車党”には、《美濃戸口》~《美濃戸》を歩く事をお薦めする。 
所要は約1時間半位だ。 《美濃戸》には《小松山荘》と《美濃戸山荘》があり、前日までにここまで入っておいて、これらの山荘に宿泊して翌朝登山開始するのが望ましいだろう。 

《美濃戸》から《行者小屋》への道をすぐに分けて、そのまま林道の砂利道を歩いていく。 
約30分程歩くと、《柳沢》の《北沢》に遮れるように林道が尽きる。 板の桟道で沢を渡って、白樺の樹林に囲まれた沢の右岸の土手の上を歩いていく。 やがて樹林帯が途切れ、河原の方へ降りていく。 
ここからは、河原の上を岩にペンキで示された指標通り歩いていこう。 

沢をつめていくと、正面に横岳西面の鋭い岩峰群が立ちはばかってくるだろう。 この威圧感ある横岳の偉容を見ながら《ショウゴ沢》を渡ると、辺りが開けて《赤岳鉱泉》に着く。 《赤岳鉱泉》の山荘の背後には《大同心・小同心》など、横岳の岩峰による“オブジェ”が間近に迫って立ち並び壮観だ。
 

真に岩屏風
横岳・大同心峰

硫黄岳へは、《赤岳鉱泉》の裏手から《ショウゴ沢》の左側に延びる尾根を登っていく。
尾根に取り付くと、先程の偉容から創造するのと違って、樹林帯の中をジグザグに切る“普通”の登山道が続く。 時折、樹木越しに阿弥陀岳が望めるだけの単調な登りが1時間程続き、ひと汗かかされる。
 

切れ落ちた主稜線の合間に
南アルプスを望む

やがて、森林限界を越えると雪に覆われてこんもりとした急斜面となり、これを直線的に登っていくと《赤岩ノ頭》というピークに登り着く。 ここからは稜線通しの道となり、少し上部で北八ヶ岳方面・《オーレン小屋》への道を分けて、幅の広い雪付きの稜線に突き出る岩の突起を越えると、硫黄岳 2760メートルの頂上だ。
 
硫黄岳付近詳細図

硫黄岳の山頂は長い火口壁となっていて、岩が規則正しく整然と並び立つ眺めが印象的だ。 
この眺めゆえに、濃霧に巻かれた時などは現在位置を見失う“リングワンダリング”に陥りやすい。
視界の悪い時などは、東側の奥にある火口壁の縁には立ち寄らない方がいいだろう。 

だだっ広い硫黄岳の山頂より大きなケルン群に導かれて南下すると高山植物の保護柵があり、その柵に沿って緩やかに下っていく。 夏の花の季節であれば、美しい花の饗宴に酔える事であろう。 
しばらくすると、保護柵の切れ間に《硫黄岳山荘》が建っている。 ここまでは通過に何の不安もない平坦な道だが、ここからはいよいよ核心に迫る横岳の岩峰越えだ。
 

横岳主峰をめざす
 
横岳へは、《大同心峰ノ頭》の平らな岩を右に見送り、佐久側の鎖に取り付く。 “カニノヨコバイ”と呼ばれる下のスッパリ切れ落ちた岩のハングを巻いてから、頭上にそびえる頂上へ向かってルンゼ状の岩塊を登っていく。 登りきると、“岩の芸術峰”・横岳 2829メートル 頂上だ。
 

横岳から赤岳へ

横岳の頂上からは、これから乗り越えるダイナミックな岩峰群がズラリと並んで見渡せる。 
また、《赤岳鉱泉》で見上げた《大同心峰・小同心峰》の大岩壁を、今や下に見下ろして眺めるようになっている。 この岩峰が演出するすざましい眺めこそ、横岳を我が【名峰百選】に選んだ理由である。
横岳の頂上で、雪をまとった岩峰の“オブジェ”を心ゆくまで堪能したら先に進もう。
 

八ヶ岳・横岳核心部 詳細図
 
横岳の頂上からは岩ザクの小広い稜線をしばらく下るが、やがて豊富な雪をまとった岩の突起が眼前にそびえて緊張させられる。 この突起を越えて諏訪側のスッパリ切れ落ちた稜線の上を伝うと、横岳の第2峰である三叉峰 2825メートル に登り着く。 ここからは、おおむね諏訪側の岩壁を鎖片手にトラバースしていく事になる。 ザクザクした岩塊に雪がへばりつき厄介だ。 

ピークから下って、岩塊を巻いて次のピークに登る・・という順序を繰り返して、石尊峰・鉾岳・日ノ岳・二十三夜峰と岩峰を越えていく。 ただ、鉾岳を越える時だけはピークを踏まずに、その直下を巻く道を利用しよう。 この巻道の下降点は判りにくく、うっかりすると見落としてしまうので注意が必要だ。 
なお、直進して頂上を踏んでしまうと崖っぷちになり下に降りれなくなってしまうので、引き返さざるを得なくなるだろう。 

この巻道越えはこの縦走路最大の悪場で、下に広がる700mにも及ぶ標高差をスッパリと切り落とした荒涼たる眺めを見ながら、根雪の乗っかった岩盤のへりをトラバースしていかねばならない。
この高度感に足が竦む難所は、次の日ノ岳の頂上に登りきるまで続く。 日ノ岳からは佐久側に向かって斜めに下っていくが、こちらも“鉾岳越え”程ではないにしろ、滑りやすい大きな一枚岩を鎖伝いに下っていかねばならない。 まだまだ、気が許せぬ場面は続くのだ。
 

降り積もる雪は
峻峰をより嶮しく魅せる
この雪峰を越えてきたのだ

日ノ岳から斜めに下って二十三夜峰に登り返すと、そびえる主峰・赤岳の肩にへばり着くように建っている《赤岳石室》が見えてくる。 後はゴツゴツした稜線を小屋に向かって、慌てず下っていこう。 
“首なし”地蔵の置かれている《地蔵尾根》の分岐を過ぎて少し行くと、今晩の宿泊地・《赤岳石室》(現在は赤岳展望荘)だ。
 

赤く染まる阿弥陀岳

余力があれば空身で八ヶ岳主峰の赤岳に登ってくるのもいいが、午後は総じて諏訪側より吹き上げる風が強烈で、ややもすると吹き飛ばされかねない。 雪山の午後は、おとなしくしておくのが無難だ。
小屋でゆっくりと休んで、諏訪の湖と下界の街並みがおりなす夕暮れの叙情的な情景をじっくりと味わおう。
 

暮れ色に染まる
横岳・大同心峰
 
また、“岩の芸術峰”横岳の雪をまとった鋭い岩峰と夕空のおりなす情景に、カメラ片手にしばし酔うのも一興だ。 明日は、朝早く八ヶ岳の盟主・赤岳の頂上を極めよう。
 

稜線より見下ろす夕暮れの諏訪の街
 


 

朝日に染まる赤岳
 
 《2日目》 主峰・赤岳を踏んで下山
朝、日の出前に起きて小屋の外に出てみよう。 白銀の峰々が朝日に輝き、また佐久の街並みが夜明けを迎えて少しづつ動き始めるのが見えるだろう。
 

かぎろい色の空に
おぼろげに姿を現す秩父連山
 

朝の空に浮き立つ秩父連山
 
そして圧巻は、朝日の光に照らされて蜃気楼の如くにじんで見える秩父連山の盟主・金峰山 2599メートル の幻想的な姿だろう。 朝の素晴らしき眺めを見て朝食を平らげたなら、すぐ横にそびえる白銀の峰・赤岳に登ってみよう。 

小屋から更に南へ進むと、広がった稜線が徐々に狭まって山の傾斜に沿っての急登となっていく。 
しかも、吹きすさぶ風に磨かれてツルツルに凍りついたアイスバーンの急坂である。 
たぶん、夏ならはジグザグを切って登っていく道なのだろうが、積雪期は稜線のほぼ中央を直線的に登っていかねばならないようだ。 前人のつけたトレースが“登路”となるのだ。
 

山頂部の積雪期ルート

アイゼンをアイスバーンの雪面に蹴り込みながら、ピッケルを突いて一歩づつ登るので時間がかかる。
夏ならば30分足らずで登れる所も、積雪期だと倍近く時間がかかる。 雪の乗り具合によっては、両側ともスッパリと切れ落ちた氷の斜面となる危険なナイフリッジの岩突起帯を越えて更に登っていくと、《頂上小屋》の建つ山頂の一角に登り着く。 山頂の三角点は、ここから50m程か細い稜線を伝った所にある。 八ヶ岳の最高峰・赤岳 2899メートル からの眺めは、独特の魅力を兼ね備えている。
 

八ヶ岳より望む富士山
 

赤岳の岩峰群に雪がまとう

《大同心・小同心》の岩峰を従えてダイナミックにそびえる横岳、白い帽子を被った富士山、茫洋とした雰囲気に近くて遠き・・を感じさせる秩父の山々、乳房のようにまろやかな隆起を魅せる蓼科山 2530メートル 、白銀の山なみを連ねる南アルプスの山々など、素晴らしき眺めが360°の大パノラマで広がる。 そして、夏とは違う吹き荒れる季節風に、より一層感慨深い思いがめぐるだろう。 
積雪期のまた違った魅力を十分味わったなら、帰路に着こう。
 

美しい裾野を広げる蓼科山
 

赤岳山頂より望む
南アルプスの山なみ
 
アイスバーンの下りは、登り以上に危険であるので慎重を期したい。 特に注意したいのは、頂上直下の幅の狭まった岩の突起地帯だ。 岩にアイゼンを引っ掛けて転倒でもしたならば、佐久側・諏訪側を問わず奈落の底を真っ逆さま・・となるからである。 慌てずに、時間をかけてでもゆっくりと足元を確かめながら下っていこう。 従って、行程所要時間は、おおむね割増して設定してある。 

《赤岳石室》でデポした荷物を回収して、地蔵尾根を下っていこう。 小屋から見下ろせば、下に向けて一直線に落とす様には思わず足が竦んでしまうが、一番の近道でより安全に下れるコースとしてこのルートを選択した。 小屋から横岳方向へ少し戻った所が、《地蔵尾根》の下降地点だ。 
ここから真っすぐに下っていく。
 

赤岳頂上より
行者小屋を見下ろす

ここから200m程行くと方向を90°右方へ進路を変えるのだが、この間が厄介なのだ。
その理由は、諏訪側より巻き上げる風が雪庇を多く生み出してしまうからだ。 これを踏み抜くと、文字通り諏訪側へ真っ逆さまに滑落する事になろう。 右手に90°折れると大きなハング気味の岩を巻いて、岩壁に削られたか細いトレースを伝っていく。 

夏ならば鎖付きのガラ場なのであろうが、今は積雪期で鎖はほとんど雪に埋もれて使い物にならない。
それどころか、雪に埋もれた鎖にけつまずいたりはしないか・・と、余計に神経を使う。 
また、ハシゴも完全に雪に埋まり使い物にならない。 ハシゴでしか下れぬような急傾斜で、雪に埋もれたハシゴを見ながら、その横を雪を蹴り込み下っていかねばならない。 その後も、雪の乗った急傾斜をラッセル気味に下っていったり、鎖をアテにできずにハイマツの枝根にしがみついての下りが続く。 

これらの苦難から解放されるには、森林限界より下まて下りて樹林帯に突入しなければならない。 
従って、この森林限界までの標高差350mの下りに2時間近くかかるだろう。 そして、森林限界から下の標高差250mを下るのに1時間もかからないのだから、そのギャップに驚く。 

樹林帯の中をひたすら下って、最後にジグザグでこれを乗りきると、《行者小屋》の裏手の土手の上に飛び出す。 《行者小屋》前の広場より見上げる《地蔵尾根》の“岩屏風”の壮大さに、思わず息を飲む事であろう。 後は、残雪が所々残る《柳沢》の《南沢》の河原を歩くこと2時間足らずで、砂防ダムの横手から《美濃戸林道》に合流する。 この合流点から《美濃戸山荘》までは、目と鼻の距離である。

    ※ 詳細は、メインサイトより『八ヶ岳<1>』を御覧下さい。
 
 
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