風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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名峰百選の山々 第106回  西穂高岳

名峰百選の山々 第106回  『62 西穂高岳』   長野県・岐阜県
槍穂高山系(中部山岳国立公園) 2909m  コース難度 ★★★★★ 体力度 ★★★
 

荒々しい姿を魅せる西穂高岳
 
ついに・・、名峰百選もラストの100峰目を迎える。 ランダムに挙げてきたので、「最後はこの峰」との思念は皆無であったが、やはり足掛け3年近くの長期連載なので、それなりに感慨は深いものである。 
それでは、ラストの名峰を御紹介しよう。
 

 

西穂~奥穂縦走路 行程図
 
   行程表              駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR高山駅よりバス(1:35)→新穂高温泉よりロープウェイ<1回乗継あり>
     (0:25)→西穂高口(1:10)→西穂山荘
《2日目》 西穂山荘(2:50)→西穂高岳(3:00)→天狗ノコル(2:30)→ジャンダルム
     (1:00)→奥穂高岳(0:35)→穂高岳山荘
《3日目》 穂高岳山荘(0:50)→紀美子平より前穂高岳往復・約50分(2:45)→岳沢
     (2:00)→上高地よりバス(1:15)→新島々より鉄道(0:25)→JR松本駅


北ア最大の難所
西穂~奥穂の全景
 
  《1日目》 新穂高山荘より西穂山荘
このコースは、槍・穂高連峰の縦走コースの中で最大の難所として知られている。 
従って、気軽な縦走コースとして歩くと事故の元である。 このコースを歩くなら、より慎重に自らのの体力・技量を見つめなおし、装備・計画も万全を期していこう。

このコースは前述の通り“一般向け”ではないので、“高山植物を愛でながらの山旅”などといった楽しみ方はまず期待できない。 されば、「このコースの魅力は?」と問われると、ワテはこう答えたい。 
「身体の全てを使って難所を乗り越える事、そして乗り越えた後の言葉に尽くせない充実感が魅力なのだ」と。

さて、この山行を始めるにあたって、「この山行の成否は全て《2日目》にかかっている」といえるのである。 従って、明日の行程のことを最優先に考えて行動しよう。 この行程表も、《2日目》の行程を如何に体調良く、如何に安全に進めるかを考えて企画したものである。 

いつもなら、テント幕営スタイルをお薦めしているが、今回は小屋泊まりスタイルが“ベター”であろう。 
そして、《2日目》を疲れなく早朝出発できるように、行程初日をロープウェイを使っての短時間歩行にとどめておいたのである。 なお今日の行程は、コースのガイドをする程でもないので割愛したいと思う。
 

 

西穂~奥穂 核心部詳細図
 
  《2日目》 西穂高岳からジャンダルムを越えて奥穂高岳へ
北アルプスの山小屋は、朝食時間が総じて遅い。 だが、難所越えのセオリーは早発、そして早着である。 これは、山の天気は朝の方が安定しているからである。 特に難所越えでは、雨に濡れる事が最大の危険となり得るのである。 

前日でも述べたように、全ては今日《2日目》の行程に全てがかかっているのである。 
従って、今日の朝食は小屋では取らずに、持参のパンかおにぎりで済ますのがベターであろう。 それでは、自らの知力・体力の全てを発揮して、この難所にチャレンジしてみよう。

《西穂山荘》の横手にある登山道に入ると、少し登って“丸山”というハイマツの盛ったピークの上に出る。 ここから見る西穂高岳は、より鋭い尖峰を突き出している。 見る者の感性にもよるが、ワテは穂高連峰の中でこの西穂高岳がスラリとして最も美しいように思うのである。 

このピークからは、《西穂独標》に向かって一直線に岩礫帯を登っていく。 この《西穂独標》までは、一般登山者も行き交う安全な道である。 この安全な登路を疲れを知らずに、《西穂独標》まで登り着く。 難所はいよいよこれからだ。
 

西穂高岳は
笠ヶ岳の好展望台だ

《西穂独標》 2701メートル の頂から、笠ヶ岳の美しい“笠”姿を望んで気合を入れなおしていこう。 
《西穂独標》から標高差にして50mほど岩壁を下って、ピラミット峰の鞍部に下りていく。 
この途中にホールドの難しい一枚岩の下降点があり、過去に滑落事故も発生している所なので注意が必要だ。 

この鞍部より、天を突くようにそびえるピラミッド峰へ痩せた岩稜を登っていく。 
要所ごとにペンキで印が打ってあるので迷う事はないが、足の踏み場が不明瞭な所も数多くある。 
150mほど岩稜を登りきってピラミット峰の上に出ると、ようやく西穂高岳の本峰が見えてくる。 
ここから、西穂高岳本峰の取付まで砂利ガレの緩やかな道となる。 これはたぶん、通過が困難な岩峰の縁を巻いて道がつけられているからであろう。 

この辺りは雷鳥の営巣地のようで、まるまると太った“ドン鳥”がヨチヨチパッパと岩を伝っているのが目に入ってくるだろう。 この緩やかな砂利ガレ帯を越えると、いよいよ西穂高本峰の大岩稜の直登となる。 この直登で1ヶ所崩れた所があり、浮石が多く乗っかっている。 下山者がいる場合にはここが落石の基点となるので、足元と共に頭上の注意が必要だ。 これを登りきると、西穂高岳 2909メートル の頂上だ。
 

西穂高岳にて
 
西穂高岳の頂上からは、これから歩いていく《ジャンダルム》から奥穂高岳へかけての稜線がダイナミックに展開している絶景を見渡す事ができる。 これから写真を撮る事もままならない“難所”を通るので、是非にも“撮りだめ”をしておこう。 この先からは登山者はめっきりと少なくなり、岩が谷に落ちていく音が高らかに鳴り響き緊張させられる。
 

奥穂高岳に連なる
ジャンダルムの岩峰

左右がスッパリと切れ落ちた岩稜を小さく上下していくと、間ノ岳と呼ばれるピークに登り着く。 
この間ノ岳までに途中4ヶ所鎖が掛けられている所があり、いずれも信州側の高度感ある岩稜をトラバースしていくので、通過には肝を冷やす事だろう。 どの難所でもいえるだが、安全に通過する為には“基本に忠実であれ”という事である。 あまり鎖に体重をかけ過ぎずに、確実な三点指示でホールドしながらいこう。 
 

縦走路全般に渡って
逆層からなる不安定な岩場が続く

間ノ岳の頂上付近はガラガラの砕石が積み重なっていて、常に落石が谷に落ちる響音が聞えてくる。 
この頂の通過にあたって注意したいのは“浮石”である。 浮石に乗っかってバランスを失わないように注意しよう。 

間ノ岳からガラ場を小さく上下すると、飛騨側を巻いて《天狗ノ頭》と呼ばれる岩峰の上に出る。 
この辺りも逆層気味の岩ガレが続くので、浮石によるスリップに注意したい。 この頂上から鞍部に向かって下っていくのだが、途中に2~3m位ではあるが懸垂下降があり緊張させられる。
 

脆い上に懸垂下降
安全通過に全神経を注ぐ
 
この岩壁を下りきると《天狗ノコル》である。 ここからは、《岳沢》に下る踏跡が右に向かって延びている。 この分岐のすぐ先には避難小屋跡の石垣があり、かつては奥穂高への最短ルートとして使われていた事が伺える。 

このコルから、相変わらずの逆層の岩ガレ帯で形成された痩せ尾根を伝っていく。 飛騨側を巻いて痩せ尾根を登っていくと、尖った岩稜が並ぶ《畳岩ノ頭》に出る。 この辺りも、逆層気味の岩稜に砂礫が乗っかっている浮石地帯なのでスリップに注意しよう。 この《畳岩ノ頭》から見る《ジャンダルム》は圧巻だ。 頭上に迫り上げる《ジャンダルム》の姿は、崇めるに相応しい神々しさがある。
 

中央の“入道頭”が
目指すジャンダルムだ

この頂から痩せた岩稜を踏んでいくと、《コブ尾根ノ頭》に着く。 ここに立つと、より《ジャンダルム》が間近に追ってきて緊張感がより高まってくる。 ここから少し下って、《ジャンダルム》の基部に出る。 《ジャンダルム》の頂上から直接下る事もできるが、この奥穂高側は垂直な岩壁の懸垂下降となるのでザイルが必要となろう。 

普通は信濃側の巻道を伝っていく。 コルからは左へ延びるバンドを15m程伝った後に10m位直登して飛騨側に渡っていくと、ステップよく切られた下降点に出る。 これをジグザグに下って、東側に延びるバンドを伝っていく。 振り返ると、いつの間にか《ジャンダルム》を巻いて反対側の基部の上に出ている事が判るだろう。 東側に延びるバンドからフィックスザイルの所で一段下っていくと、道は一度安定してくる。 

だが、難関はまだまだ続くので油断は禁物だ。 次の難関は《ロバノ耳》である。 この岩稜も飛騨側を大きく巻くのだが、この巻道が“クセ者”なのである。 ここはステップの狭いガラ場の急下降で、霧にでも巻かれるとその露で足場が濡れて更に通過が困難となるだろう。 
それに高度感のある所での下降は、恐怖感が多分に伴うものである。 ペンキ印を確かめながら、慌てずゆっくりと下っていこう。 

このステップを下りきると横にトラバースして、ルンゼ状に彫られた岩溝の中を登って稜線上に戻る。 
《ロバノ耳》を巻き終えて稜線上に立つと、眼前に奥穂高岳がどっしりと待ち構えている事だろう。 
後は、待ち構えている奥穂高岳へ向かっていくのみだ。 《馬ノ背》といわれるナイフリッジの稜線を絡んだり跨いだりしながら登っていく。 やがて、緊張する岩峰の悪場を乗り越えて、稜線が広く安定した道となっていく。 

この安定した道を続けてひと登りすると、我が国第三の標高を誇る奥穂高岳 3190メートル 頂上だ。 
頂上に出ると、登山者の賑わいが再び耳に戻ってくる。 頂上での視界が良好なら、越えてきた《ジャンダルム》の岩稜や天衝く槍・北穂高岳から《大キレット》の稜線が見渡せる事だろう。 
難所で撮る余裕のなかった分を思う存分取り返そう。
 
後は、安全な鎖場とハシゴを数ヶ所伝って《穂高岳山荘》へ向かうのみだ。 “難所”を越えた反動により、気を緩め過ぎないようにだけ注意!?して下っていこう。
 

 

まだまだ気は抜けない
岳沢への下降路も鎖場が続く
 
  《3日目》 岳沢を経て上高地へ下山
今日の行程は『名峰百選 第95回 奥穂高岳,前穂高岳』と同一なので、詳しくはそちらを参照して頂きたい。 下山のみといえども出発は早めの方が望ましいのだが、冒頭でも述べた通り北アルプスの山小屋は朝食が極めて遅い。 ここは、多少空腹であっても、小屋で朝食を取らずに出発する方がいいかもしれない。 また、この《岳沢》の道を下るなら、是非にも前穂高岳 3090メートル に立ち寄りたいものだ。
 

前穂高岳は
槍・穂高連峰の絶好の展望台
 

前穂高岳で
越えてきた難所を偲ぶ

稜線から少し離れている所にそびえる前穂高岳からは、奥穂高岳の美しい岩屏風や雲海の果てに突き出る槍の穂先がより美しく望めるであろう。 下山道に関しては《紀美子平》直下の鎖場が少し厄介だが、総じて整備された道が続く。 《岳沢》で昨日歩いた《ジャンダルム》の稜線を見上げて、難所を乗りきった充実感をもう一度かみしめよう。
 

岳沢より望む穂高岳稜線の岩屏風

《岳沢》を過ぎると、後はハイキングコースを《上高地》まで下るだけだ。 北アの穂高を歩いたなら、その“宿命”として必ずあの《河童橋》を渡らねばならない。 しかし、これ程登山を終えた充実感を殺ぐ所も珍しい。 また、松本へ向かうバスの“待ち”にも、たぶんに気を殺がれる事だろう。 
これに巻き込まれぬ為にも、早発・早着を心掛けたい。

   ※ 詳細はメインサイトの『撮影旅行記』より
 
 

 
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