2013-08-29 (Thu)✎
名峰次選の山々 第97回 『178 蝙蝠岳 act 1』 静岡県
塩見山系(南アルプス国立公園) 2865m コース難度 ★★★ 体力度 ★★★
『大らかで草木なし』
真に乳房のようなふくよかさを抱く峰だった
蝙蝠岳
今回は南アルプスの主稜線から外れた孤高の峰・蝙蝠岳を踏破しようと思う。 この蝙蝠岳は、ワテにとっても南アルプスの主稜線で唯一未踏区だった所だ。 それは、この蝙蝠岳が微妙な位置にそびえているからであろう。 この峰を踏破するにはテント幕営が不可欠で、またそのテント幕営でさえもビバーク同様の対応が必要となる。
それでは、我が国を代表する山岳地域でありながら、容易に到達できない遥かなる名峰にアタックしようと思う。
塩見岳・蝙蝠岳 登山ルート行程図
行程記録 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR・伊那大島駅よりバス(1:50)→鳥倉登山口(2:50)→三伏峠
《2日目》 三伏峠(1:20)→本谷山(1:50)→塩見小屋(1:30)→塩見岳(0:35)→蝙蝠岳分岐
《3日目》 蝙蝠岳分岐より蝙蝠岳往復、所要・片道2時間(0:45)→塩見岳(1:05)→塩見小屋
《4日目》 塩見小屋(1:30)→本谷山(1:20)→三伏峠(2:00)→鳥倉登山口よりバス
《2日目》 三伏峠(1:20)→本谷山(1:50)→塩見小屋(1:30)→塩見岳(0:35)→蝙蝠岳分岐
《3日目》 蝙蝠岳分岐より蝙蝠岳往復、所要・片道2時間(0:45)→塩見岳(1:05)→塩見小屋
《4日目》 塩見小屋(1:30)→本谷山(1:20)→三伏峠(2:00)→鳥倉登山口よりバス
(1:50)→JR・伊那大島駅
※ 前回『名峰百選 第102回 塩見岳 act 2』からの続きです。
《3日目》 南ア・最後の未踏峰を踏んで塩見小屋へ
朝4時前に目が覚める。 昨日のテントのバタつき具合から、かなりの風が予想される。 だが、空は満点の星空だった。 これを見て、予定通り明るくなり始めた5時ごろに出発。 テントにデポってのカメラと水筒だけの空身なので身体が暖まるまでに時間がかかり、朝の強風はガタガタと震えがくるほどに寒い。 あまりにも寒すぎるので、中シャツとカッパを着込んだゴワゴワの身なりで出発。
水は、昨日の炊事跡のボイル水を元に戻した長時間殺菌済!?の混じる水だ。 計算通り、1.3㍑余り残っている。 これだけあれば、空身で往復6時間の蝙蝠岳往復と《雪投沢》までは持つだろう。
朝4時前に目が覚める。 昨日のテントのバタつき具合から、かなりの風が予想される。 だが、空は満点の星空だった。 これを見て、予定通り明るくなり始めた5時ごろに出発。 テントにデポってのカメラと水筒だけの空身なので身体が暖まるまでに時間がかかり、朝の強風はガタガタと震えがくるほどに寒い。 あまりにも寒すぎるので、中シャツとカッパを着込んだゴワゴワの身なりで出発。
水は、昨日の炊事跡のボイル水を元に戻した長時間殺菌済!?の混じる水だ。 計算通り、1.3㍑余り残っている。 これだけあれば、空身で往復6時間の蝙蝠岳往復と《雪投沢》までは持つだろう。
テントを設営した窪地を仕切る土手の上につけられた登山道を伝うと、程なく痩せ細った岩稜上に出る。
この岩稜のやや北側を巻いていくように登山道は続いているのだが、この岩稜伝いの道は地図上に『危険』の表示がない事を疑問に感じる位に危ないコース状況だ。 それに加えて、折からの朝の強風と見る見る内にガスって露と化す水滴でよろけるわ、滑るわ・・とかなりおっかない状況だった。
北俣岳の岩稜は両側はスッパリと切れ落ち
ナイフリッジも幅1mほど欠落していて
“幅飛び”を余儀なくされるデンジャラスな岩稜だ
ナイフリッジも幅1mほど欠落していて
“幅飛び”を余儀なくされるデンジャラスな岩稜だ
最も危険と思われる所を写真に撮ってみたが、ここは両方がスッパリと切り立った崖で通路も間が割れた“奈落”となっていて、“標高2900m上の岩稜での1mの幅跳び”を余儀なくされるデンジャラスなナイフリッジだった。 これを薄暗い夜明け前に通過せねばならないのである。 こんなのが続くと気が萎えてしまうが、距離自体は短くでほんの15分程で抜け出せるのでまだマシだが。
朝の光で霧が
幻想的な眩さを示してくれた
岩稜を抜けると
稜線上はただっ広い砂礫の丘となる
この難所を抜け出ると、途端に稜線はだだっ広い砂礫の丘状となる。 地図では、この砂礫の丘の方を「道に迷う」として『危険』マークを打っているのである。 でも、ここを『危険』とするなら、さっきの稜線の方がよっぽどデンジャラスである。 なぜなら、この砂礫の丘の状況は踏跡がしっかりとついているし、到る所にケルンが立ちかけてあって、この砂礫の丘でルートを見失う事はまずない・・といっていいだろう。
朝日が穏やかに照らす
優しげな砂礫の丘に向けて
直感的に『安全』という安らぎを確保したので、カメラを取り出して雲の切れ間より時折差し込む朝日とケルンを絡めてファインダーに収める。 カメラを取り出して首にぶら下げながら歩いていくと、1ヶ所だけハイマツのブッシュの中に隠されるように刻まれた判り辛い所があった。 この1ヶ所だけは、地図に記載された“道迷い”『危険』マークが納得できる。
前回の山行でUVフィルターを割った事もあったので、カメラをしまい込んでからハイマツのブッシュを漕いでいく。 このブッシュを抜けると、広大で緩やかな砂礫の大斜面の上端に出る。 これより、標高差にして100~150のダダ下りだ。
振り返り見ると
“こんなに下ったのか”と
思わずにはいられない
振り返ると、昨日テントを張った塩見岳稜線の肩(《蝙蝠岳分岐》ですね)は、かなり高く見上げる位置にあった。 知らず知らずの内に、もう200m位は下っていたようである。 だが“目先の利益”にウツツを抜かす筆者がこの斜面を下りながら思った事は、「帰りはしんどそうな登りだなぁ」と小市民的な発想だったのである。
「帰りはやだなぁ」と退廃的な考えで頭を一杯にしながら下っていくと、《二軒小屋》から来たのか・・しっかりした装備を担いだパーティと最低鞍部の所ですれ違う。 このパーティのメンバーの腕には『自然環境パトロール隊』の腕章があり、リーダーと思しき方が「稜線上でライチョウを見かけませんでしたか?」と尋ねてきた。 今回は残念ながらまだライチョウは見ていないので、その様に答える。
どうやら、ライチョウの調査らしい。
蝙蝠岳稜線に咲く花々 その1
ミヤマキンバイ
何でも、ライチョウの生息数は危機的な状況にあるという。 話は先祖還るが、こんな状況でも『北アの《立山》で犬が持ち込んだダニが原因でライチョウが皮膚病を発症した』と新聞で報じられても、『登山者の連れてきたペット犬がライチョウのヒナを咥え殺した』との目撃があっても、「犬が生態系を乱すという証拠をだせ!」、「原因を突き止めず、犬だけに責任を押し付けた悪意ある報道だ!」、「規制を目論む者が捏造した虚偽だ!」などと、「アンタ達のような人間のクズは、この世から消えて下さい」と心底願いたくなるような悪態をつく。
人間が『ローインパクト』を心に抱き心を戒めるのは当然の事なのに、その人間が私欲を満たす為だけにライチョウを始めとした野生動植物を根絶やしにしかねない事をして、平気でふんぞり返っているのである。 あまつさえ常習的にペットを持ち込む人間のクズは、この野生動物の虐殺行為を奨励さえしているのである。
蝙蝠岳稜線に咲く花々 その2
ハクサンフウロ
そういえば《鳥倉》の林道ゲート口に、犬の連れ込みを禁止する看板があったっけなぁ。 だがこの看板だけでは、注意すると『逆ギレ』をする人間のクズへの効果は疑問だ。 ここは一刻も早く、『自然界への犬の持ち込み』を犯罪として処罰する法を制定すべきだろう。 もちろん罰則に効果を出す為には、懲役刑以上の重い刑罰か300万以上の罰金は下さないとダメだろう。
まぁ、何でも法律を作っていいのなら、ワテならばこの人間のクズ共から『人権』を剥奪するけどね。
“人間失格”として『人権』を剥奪されて、石をぶつけられて、棒で叩きのめされて、人間のクズとして排除されて、今までの行いの報いを受けながらこの世から消えるといいだろう。 ああ、この事になるとエキサイトする。
これを書いていてはいつまで経っても終わらないので、先に進む事にしよう。 砂礫の大斜面を下りきった最低鞍部からは地層が変わるみたいで、潅木が茂る山肌を急登で登る。 登るといってもほんの20~30m程なのですぐに傾斜はなくなり、木々が茂る船窪状の中を行くようになる。
この船窪の中は風が完全に遮断されていて、しかもテントを設営するに丁度いい平坦地が所々にある。
もしかして、先程の『自然環境パトロール隊』の連中は、ここで幕営したのかも。 時間的にはまだ6時過ぎなので、夜通し歩くのでなければ到底《二軒小屋》からは来れる訳ないし。 緩やかな船窪の中を伝い、最後は土手を斜めを切って船窪より這い出ると再び稜線上に立つ。 天気はかなり良くなり、左手に富士山のシルエットが見渡せるようになる。
左側には霊峰・富士が
シルエットを魅せて
後は、大らかで緩やかなる山の膨らみを1歩づつつめていくと、南ア特有の角柱の道標が現れる。
この標柱には『6時間 二件小屋 ⇔ 塩見岳 3時間』と表記され、その先の岩の積み重なりが我が『南ア・最後の未踏峰』である蝙蝠岳 2865メートル だ。
感慨深く“南ア最後の
未踏峰”蝙蝠岳の頂に立つ
地図上に記載された『大らかで草木なし』との言葉が印象的だったその峰は、真に大らかなる乳房のようなふくよかさを抱く峰だった。 頂に積み重なった岩の上に立つと富士山が美しいシルエットを魅せ、その右横に二つのコブが印象的な南アの秘峰・笊ヶ岳 2629メートル が雲間より頭をもたげている。
覆いつめていたガスが散って
笊ヶ岳の“二ッ頭”が
間ノ岳や仙丈ケ岳などの峰も、時折途切れる雲間より頂を突き出してくる。 だが、残念な事に荒川三山と塩見岳の頂点部分といった南側の山々は、厚い雲で覆われていてその姿は拝めなかった。 頂上より先は、この先の長大さを思わずにはいられないが如くのうねった稜線が遙か遠くの谷間へと続いている。
竜の背のうねりの如く続く
《二軒小屋》へ続く稜線
きっと、あの谷間の底に《二軒小屋》のロッジがあるのだろう。 そして、一人の健脚と思しき登山者が、この竜の背のような長い尾根道を下っていこうとしている。 とりあえず、山の同胞の健闘を祈る。
ワテは折り返しなので、頂上の石積みの上でカメラ片手にしばらく憩う事にしようか。
振り返ると伝ってきた
稜線が一望できて更に感慨深く
「ああ・・、しんどかったけど本当に着て良かった」、「やっとこさ、念願の一つを叶える事ができた」との喜びをかみしめながら憩う中で時計を見ると、まだ7時過ぎ。 もう、かれこれ10分は憩っているので、登り着いたのは6時台て事になるなぁ。
塩見の頂上は厚い雲に覆われて
姿を隠していたので北俣岳で
確か、コースタイムは片道3時間。 「いきなり、『最盛期』への回帰か?」と都合のいい妄想で頭を一杯にするが、虚しいので辞めた。 頂上で40分ほど憩って、さすがに寒くなってきたので引き上げる事にする。 時間的にかなり余裕ができたので「写真を撮りながら戻ろう」と、カメラを首にぶら下げてあるいていく。
振り返り見ると、真にたおやかで優しい山容を示している。 何故に『コウモリ』などという名前になったのだろうか。 イメージ的には、『コウモリ』という動物はグロテスクな容姿と陰鬱なイメージで気味悪がられている部類ではないかなと思うのだが。
まるで乳房のように
緩やかな膨らみを魅せる蝙蝠岳
でも、名付けの由来を調べて納得。 それは下から見上げる頂上の雪形が、コウモリが羽根を広げた紋様となるからだそうである。 あのたおやかな稜線は、コウモリの羽根の湾曲をかたどっていたのであろう。 そして、均整の取れたあのたおやかさがコウモリが両翼を広げた姿を彷彿させるのだろう。
一度、この雪形を目にしたいものである。
でも、この峰を下から望むとなると、南アきっての難関峠と云われる《転付峠》位でしか拝めそうにないな。 それも、積雪期。 こりゃぁ、今のワテの体力では無理ですな、アッハッハッ。
続く下山行程は、『名峰次選 第98回 蝙蝠岳 act 2』にて
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