風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第83回  双門ノ滝

『日本百景』 晩夏  第83回  双門ノ滝 〔奈良県〕
 

名瀑・双門ノ滝
 
暑い今年の夏も、晩夏に差し掛かってきた。 ここは暑い夏には涼やかな景色を・・という事で、滝風景を取り上げようと思う。 でも、滝にたどり着くまでが大変キツくしんどいので、この地に訪れる事は到底“避暑”とはなりえないので、その点は悪しからず。
 

 

大峰・弥山川(双門ノ滝)ルート 行程図
 
    行程表               駐車場・トイレ・山小屋情報
大阪・阿部野橋駅より鉄道(1:15)→下市口駅よりバス(1:15)→天川村・河合バス停
(1:10)→熊渡・弥山川出合(0:30)→白川八丁(0:40)→ガマ滝(1:00)→一ノ滝
(1:50)→仙人嵓(双門ノ滝)前のテラス ※帰りは往路を戻る 所要は3時間から3時間半

朝はできるだけ早い出発が望ましい。 車を《熊渡》前の少し膨らんだ林道スペースに寄せて置き、支度が整ったなら出発だ。 まず《弥山川》を橋で渡るのだが、その入口に『双門滝コースはガマ滝奥の桟橋崩落の為、通行止』との看板が立てかけてあるのが目に入るだろう。 恐らく、この看板を見て多くの人が“引き返す”事だろう。 引き返さずとも、“引き返し”を念頭に置いた行動になる事と思う。

橋で《弥山川》の出合を渡り、《弥山川》に沿って荒れた林道を奥へ遡っていく。 
林道に立てかけてある看板や作業認可表示を見ると、どうやらこの林道は木材搬出用のものらしい。 林道を約30分程歩いていくと、木材搬出の土場に出る。 その傍らに“犬走り”のような踏跡が《弥山川》の方に向かって続いており、『弥山・双門コース⇒』と記す手製の木板が掲げてある。 

この標識の通りに河原に向けて左に下っていくのだが、『通行止』を匂わす為なのかメッタやたらに倒木が散乱して進路を塞いであった。 倒木帯を抜けると、岩がゴロゴロと転がる荒れた林道となる。
だが、なぜかガードレールがあり、薄暗い雰囲気や苔生した側壁と相俟って、何とも不可思議で不気味な雰囲気をかもし出している道である。

この不気味な河原への下降路を下りきると、真っ白な砂利石が広がる広い河原に出る。 
ここは《白川八丁》と呼ばれる所だ。 ここからは、この砂利の河原の真ん中をつめていく。 
今までの薄暗い林道から解放された事は好ましいのだが、これよりは打って変わってリングワンダリンクにさえ陥りそうな目標の定まらない河原歩きとなる。 川の流れは完全に伏流水となっていて、河床の真ん中に立っているのに全く水か見ない事にルートの不安を感じる事であろう。

河原を伝っていくと、やがて河原によくある大きな岩石が現れるようになり、ほどなく伏流となっていた川の水が見えてくるようになる。 こうなるとさしも広い《白川八丁》も終わりを告げ、両岸の岩盤が迫って《弥山川》は川から沢の流れと姿を変える。 下の河原が眩い白から沢の様相に変わる頃、右岸(下流から遡行するので、ここでは左手)の土手に取り付いて岩盤の中腹あたりをトラバース気味に伝っていく。
この土手の取付点には、『弥山・双門コース登山口』の標柱が立っている。
 

弥山川ルート詳細図

ここからは、木にくくりつけてあるリボンを頼りに崖にへばりつくように切ってある“犬走り”を伝っていくが、いつしか沢は遙か下方を流れ、薄暗い沢筋と相俟って緊張感が高まることだろう。
錆びついて支えがボロボロとなり見た目にも心許ない桟橋群を恐る恐る伝っていくと、岩瀬をかむ瀬滝を横目に見る事ができるだろう。 恐らく、これが《ガマ滝》であろう。

この瀬滝を映像として収めたかったのではあるが、かなり薄暗い峡谷の中でしかも足場が不安定と、どうにも撮影できる余地がなかったので滝画像については御容赦頂きたい。
 
《ガマ滝》を過ぎるとなお一層足場は不安定となり、崖をへばりつくように伝っていくと、《熊渡》に立てかけてあった桟橋崩落の現場にたどりつく。 朽ちた桟橋は遙か20m下の谷底に横たわり、一見すると前進不能の様相を呈している。 橋が落ちた光景は、視覚に訴える効果が抜群である。 
恐らく、何らかの恐怖心を感じる事だろう。 

さて、こういう時こそ落ち着く事が肝要だ。 よく周りを見渡してみると、上方に目立たない青いビニールテープ(薄暗い中なので、本当に見分けがつきにくい)が枝にくくりつけてあるのを見つける事が叶うだろう。 もはや崖となった土手を10m程よじ登って、桟橋の落ちた枯れ沢上部のルンゼを跨いで対岸の土手に取りつく巻き道が切られてある。 しかし、雨天ともなると、この枯れ沢のルンゼが滝となるだろうから、このルートを行く時には雨天は絶対に避けるべきであろう。

この難所を越えると、河原へ急下降していく。 難所越えで緊張した身体と心を、沢を流れる冷水で癒す事にしよう。 ここからは、沢の次なる難関である“道の不明瞭”がついてまわる。 
ルートは沢を渡って左岸を伝っていくのだが、渡渉せず右岸を伝う踏跡が残っているので、そのまま突き進んでしまうと行き詰まるのである。
 
渡渉点を示したリボンやペンキも少なく、渡渉点を見つけるのはそれなりの経験と勘が必要となるだろう。 なお、この徒渉点のすぐ上にビバークサイト(初日に体調のすぐれなかった筆者はここでビバークした)があり、目標としてはこれが当てはまるかもしれない。

左岸に渡るとしばらく歩きやすい道が続くが、やがて沢に横たわる巨大な岩石に行く手を遮られるようになる。 もちろん、ルートはこの巨岩をよじ登り、飛び越え、トラバースで伝い・・と一つづつ越えていかねばならない。 このような道筋なので、指呼の先にある《一ノ滝》にたどり着くまでに、かなりの時間を費やすのである。

沢の滑りやすく登りにくい巨石群をロープや鎖、アングルなどを手にしながらよじ登っていくと、前方に立派な吊橋が見えてくるだろう。 巨岩の上で野ざらしとなり朽ちて崩れたハシゴや、岩から抜けて宙ブラとなり錆びついたアングルを相手に格闘していた事を思うと、前方にある立派過ぎる吊橋の光景は何か釈然としない気持ちを抱く。 だが、この立派な吊橋までには、尖った一枚岩盤を足場の悪いトラバースで越えねばならない。

このトラバースはかなりのクセモノで、下りの足場がかなり狭く下は巨岩の転がる谷間となっているので否が応でも緊張する。 何とかこれを越えると、なだらかな大岩の上を一度迂回して吊橋に至る。
この大岩の上からは、吊橋前に掛かる《二ノ滝》の勇壮な姿を望む事ができる。 緊張の連続であろうから、ここは絶好の憩いの場となろう。
 

両側に大きな嵓を従える
美瀑・二ノ滝
 
落差18m(見た目は30m位はあろうかと思うのだが)とはいえ、幽谷の大岩盤に二段の直瀑を掛ける白布は疲れた心身に大いなる力を与えてくれる事だろう。 十分にこの美瀑で疲れを癒したなら、吊橋を渡って先に進む事にしよう。 吊橋を渡ると、いよいよこのコースの“名物”が登場する。 その“名物”とは、『垂直ハシゴの大攻勢』である。

まず、最初の20mほどの垂直ハシゴを昇ると、《三ノ滝》右岸の大きなの上に出る。
この上は雑木が生い茂る荒地で、道は馬蹄形に周り込んで上に抜けている。 なぜこんなまわりくどい書き方をしたか・・というと、この辺りの道はかなり解かりにくいのである。
 
周り込まずに直進すると、筆者のようにモロい土崖を登らされたり、また崩れかけの土崖を下りるハメになるので御用心。 数が乏しく、欲しい所についていないなど不親切な“道標リボン”なのだが、よくよく見渡せばチラホラと発見できるので、見落とさぬように注意したい。 道は概ねつづらを折っていて、つづらの切れない所が“垂直ハシゴ”となっているようである。

雑木が生い茂ってあまり見通しの良くない《三ノ滝》を横目に見ながら、“名物”を黙々と登っていかねばならない。 その数30連発。 それも、1本のハシゴでどれも30mは上がっている。 
これは考えてみるとものすごい事で、ハシゴを昇るにつれ、下に広がる《白川八丁》が谷底の白い光と化するのである。
ダイナミックな眺めではあるのだが、あまり下を振り返るのは精神上宜しくないであろう。

25発目辺りから“垂直ハシゴ”は途切れがちとなり、またハシゴが横たわる“桟橋”(下が筒抜けなので、こちらの方が恐怖を感じるかも)が現れるようになると、このハシゴ急登の終わりも近い。
最後は緩やかな登りでこの大きなの頂点に立ち、大きな衝立が立ちならぶ光景を目にしながら、垂直ハシゴを50mほどを巻くように下る。 下りきると、落葉がふき溜まるジメっぽい谷間に出る。
その先は沢へ向けて大きく開けている。 ここが、待ちに待った《仙人前のテラス》である。
 
鉄線で仕切られた崖っぷちの先に、2つの大きなの間に滔々と水を落とす端正な直瀑があった。 
これが、恐らく『日本の滝百選』で最も姿を望むのが困難とされる《双門ノ滝》である。
落差は70m位であろうか・・。
 

日本の滝百選で
最もアプローチが困難な滝
双門ノ滝
 
威圧感はさほど感じないが、何とも端正な美瀑だ。 だが、ここまで来るのにかなり疲れてカメラをいじる気になれなかったのも事実だ。 従って、掲載写真があまりパッとしない(この項目全体でパッとしないが)のは御容赦の程を。

さて、《双門ノ滝》を心ゆくまで望んでじっくり休憩して息を整えたなら、行程表通りに往路を戻る事にしよう。 かつてはこの先を2時間ほどで《河原小屋》という避難小屋があり、そこに泊まって翌日はそのまま遡上すると大峰山の天川ルート上の《狼平》に登りつく事ができたが、平成11年の水害により小屋は濁流により流失し、また付近も不明瞭な荒沢と化していて、一般登山者の技量では通過不能となっているとの事である。
 

河原小屋
かつては立派な小屋があったが
水害による土石流で敷地ともども
完全に流されて跡形もなくなったらしい
 
下りは往路を行くので割愛するが、沢は上りより下りの方がより困難であるので、十分注意しながら下山頂きたいと思う。

   ※ 詳細は、メインサイトより『大峰山<3>』を御覧下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
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