風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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名峰百選の山々 第98回  間ノ岳,農鳥岳

名峰百選の山々 第98回 『75 間ノ岳 ,76 農鳥岳』 山梨県・静岡県
白峰山系(南アルプス国立公園) 間ノ岳 3189m ,農鳥岳 3026m
コース難度 ★★ 体力度 ★★★
 

鶴翼の如く稜線を下ろす
間ノ岳と農鳥岳の揃い踏み
塩見岳にて
 
  白峰三山 しらみねさんざん (南アルプス国立公園)
南アルプスの北部には、北岳 3192メートル ・間ノ岳 3189メートル ・農鳥岳 3026メートル と、ひときわ高い峰が連なっている。 この3つの峰は、『白峰三山』と呼ばれている。

北岳は、“知る人ぞ知る”日本第二の高峰で、間ノ岳も日本第四位につけている。 現在は、南アルプス林道の開通によってアプローチが容易となり登山者も増えてきたが、ひと昔前はこの山に登ろうとするなら前に立ちはばかる鳳凰三山を乗り越えるしか手がなく、限られた熟練クライマーのみが登頂を許される山であった。

・・景観では北岳が特に素晴らしく、雲海から上の眺めや周りの山々全てを“肩越し”に眺める爽快感、東面に落ち込む北岳バットレスの大岩壁とその斜面を飾る花々がおりなす“アルペン”風景、そしてこの山を染める高山植物の大群落など、高山的魅力はつきない。
 

 

白峰三山周遊ルート 行程図
 
   行程表             駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR甲府駅よりバス(2:05)→広河原(2:30)→大樺沢二俣(2:00)→八本歯ノコル
     (0:45)→吊尾根分岐(0:15)→北岳(0:50)→北岳山荘
《2日目》 北岳山荘(1:35)→間ノ岳(1:10)→農鳥小屋(0:45)→西農鳥岳
     (0:35)→農鳥岳(1:10)→農鳥小屋(1:30)→間ノ岳(1:20)→北岳山荘
     (1:10)→北岳(0:45)→北岳・肩ノ小屋
《3日目》 北岳・肩ノ小屋(0:25)→小太郎尾根分岐(1:45)→大樺沢二俣
     (1:15)→広河原よりバス(2:05)→JR甲府駅
  ※ 《1日目》の行程(『名峰百選 第97回 北岳』からの続きです。
 

日の出の瞬間
空がかぎろいに染まる
 
  《2日目》 白峰三山を登頂して北岳ノ肩へ
朝、目覚めてテントを出ると、かぎろい色に染まった間ノ岳が視野に入るだろう。 そして、その視野を左に向けてみよう。 濃紺から蒼白・かぎろい色・オレンジ、そしてピンクとスペクトルの色彩を広げる空と、黄金色に輝く雲海の上に浮かぶ富士山。
 

スペクトルの空と富士山
 
濃紺に黒いシャドーの北岳や甲斐駒ケ岳と対照的に明るいオレンジ色の空に浮き立つ鳳凰三山、その山々の間から登る御来光・・という、思わずため息の出る素晴らしき景色が広がる。
 

茜色に染まる間ノ岳

この素晴らしき景色を真っ先に眺める事ができるのは、テント幕営の特権だ。 『日本百景』の素晴らしき景色を少しでも早く、そしてその最高のシーンを味わう為にも、テント幕営のスタイルは変えられない。 テントを担ぎ上げる辛さを補ってあまりある素晴らしいシーンを山は魅せてくれるのである。
 

目指すはかぎろい色に
染まるあの山だ

空の色がスペクトルから、徐々に濃紺が消えてかぎろい色や黄金色、ピンクに変わっていく。 
この変化の妙も素晴らしい。 やかて、空の左端が黄色から白くなると、この素晴らしきショーもひとまず終わりを告げる。 今日はテントに荷物をデポって、空身で農鳥岳を往復しよう。 今日は空身とはいえ、歩行時間は10時間とかなりキツイ。 夜明けのショーが終わったら、すぐにでも出発しよう。
 

山肌が茜色から
黄金色に変わる時が出発時だ

《北岳山荘》横のキャンプ場から、ほどなくジグザグの急登となる。 このジグザグの急登を乗り越えると、2つ目の3000m峰・中白峰 3055メートル だ。 この頂上からは、中央・北アルプスの山なみや伊那の街が見渡せる。
 

シルエット輝かす
鳳凰三山
 
反対側は、白く輝く雲海と富士山が小気味よい。 中白峰からは、緩やかに上下を繰り返しながら少しづつ登っていく。 ほとんど登る感覚のない楽な道だが、所々岩が崩れている箇所があるのでその通過には注意しよう。 出発してから約1時間半で、“戦艦大和”の煙突の上、もとい間ノ岳 3189メートル の頂上に立つ。
 

どっかりと鎮座する
巨峰・間ノ岳
 
風が強い、よろめくほどに。 しかし、小さなハクサンイチゲの花びらは、この風に激しくしなりながらも必死に耐えていた。 胸の熱くなるシーンである。 間ノ岳は巨大な故に上昇気流が強く、頂上付近はいつも強風が舞っている。

間ノ岳からは、ザラザラの砂地を急下降していく。 すぐ下に《農鳥小屋》がちょこんと建っているのが見えるが、なかなか着かない。 道が二重山陵の窪地に入ったり稜線上に上がったり・・と状況は変わるものの、なぜか小屋はなかなか着かない。 視野に入る小屋の大きさも変わらない。 
事によれば、これは登るより疲れるかもしれない。 特に精神的に。 

ハクサンイチゲの花飾り

登りに比べて下りに時間を要するワテなどは、間ノ岳までの登りと同じ位の所要時間がかかってしまった程だ。 何とか、このキツい急傾斜を乗りきって《農鳥小屋》に着く。 
これから、眼前にそびえる農鳥岳へと登るのだ。 400m下って、250m登り返すのだ。 この“イッキ”の登降は、南アルプスの山を登るにあたっての“宿命”である。 見た通り“イッキ”に登っていくので、そんなに時間がかからずにこの頂に登り着く事ができる。 

だが、これは農鳥岳ではなく、西農鳥岳 3051メートル だ。 この峰は農鳥岳の前にあるが、あまりにも影の薄い存在で頂上標はおろか三角点さえ置かれぬ“悲運”の山だ。 だが、“本峰”の農鳥岳より25mも高く、南アルプスでも10番目の“高峰”である。 西農鳥岳からは、砕石帯をトラバース気味に下って緩やかに登り返すと、砕石がギザギザにささくれ立った細長い峰の頂に立つ。 白峰三山の最後の峰・農鳥岳 3026メートル の頂上だ。
 

“漆黒の兜”との異名を持つ塩見岳

ここからの眺めは、“ゴージャス”のひとことである。 美しく端正な三角錐を魅せる北岳、そして二重山陵の筋を白く輝かせている巨大峰・間ノ岳の取り合わせに目を奪われる。 振り返ると、入道頭のような塩見岳 3052メートル 、その奥にそびえる悪沢岳・中岳・荒川前岳の勇姿も望める。 
農鳥岳の頂上には、詩人・大町桂月の歌碑が立っている。
 

間ノ岳と北岳を一度に眺める贅沢
それが農鳥岳の“売り”だ

あいにく、草書体で刻まれているので何と詠んでいるのかは解からないが、たぶんこの素晴らしい眺めに魅せられた“思い”を詠んだのであろう。 素晴らしき眺めに立ち去るのも口惜しいが、今日は《北岳ノ肩》までの10時間行程なので、程よい所で切り上げよう。 《北岳山荘》までは往路を忠実に戻るが、このコースは復路の方がむしろ登り基調となるので、その覚悟はしておこう。 
特に間ノ岳の二重山陵の登りは、かなり応えるだろう。
 

帰りは間ノ岳の
あの巨大な山体を
登り返さねばならない

農鳥岳までの往復もかなりの時間を要するので《北岳山荘》でストップもいいが、戻り着いた時間が1時位までなら思い切って《北岳ノ肩》まで行く事をお薦めする。 その“お薦め”の理由は、明日に述べたいと思う。 

《北岳山荘》から、仙丈ケ岳の優雅な姿を見ながら砂礫帯の登りを1時間少々で、北岳の山頂に登り着く事ができるだろう。 今日一日で日本の屋根・白峰三山の全てを踏破した喜びを胸に、ゆっくりと《北岳ノ肩》へ下っていこう。 北岳ノ肩まで30分もあれば着くだろう。 明日、好天ならば、《北岳ノ肩》まで行くことを薦めた理由が“感動”という形で理解できるだろう。
 
北岳の肩での
とっておきの夕景色

湧き立つ雲間に
峰を突き出す甲斐駒ケ岳
 

 

霧に朝日が反射して
素晴らしい色彩を創造する
 
  《3日目》 北岳ノ肩から右俣コースを経て下山
朝の光に誘われて外に出ると、錦に輝く富士山と北岳が望まれる。 日本の山の“金”と“銀”がいい配置で、しかも錦色に輝いた姿を魅せてくれるのだ。 
もちろん、かぎろいの空の背景の中を、そして黄金色に輝く雲海に浮かんで・・である。
 

“金”と“銀” 揃い踏み

これが、昨日に《北岳ノ肩》まで進む事を“是非に”とお薦めした理由だ。
なお、この場所は、富士山を“眺める”好展望地として取り上げている所である。
 

ラメ色に輝く富士山

この素晴らしき眺めを思いゆくまま満喫したなら、下山に取りかかろう。 
かぎろいの空が白く変わりつつある時が、出発にいい頃合であろう。
 

雲海にシルエットを
浮かべる鳳凰三山

白く輝く美しき山なみを見ながら、草原状のなだらかな丘を下っていく。 30分ばかり下っていくと、《小太郎分岐》という道標の立つ尾根の端に着く。 この分岐から、草原状の連なりを真っすぐに進むと小太郎山へたどり着く。 但し、ハイマツのブッシュを掻き分ける“バリエーション”コースとの事である。
下山ルートは、この分岐を右に90°折れる。

下り始めからいきなりの電光石火のジグザグ下りで、脚が膝がガクガクと悲鳴を上げる事だろう。
膝のガクガクがコタえ始めてきた頃、更に急傾斜の《草スベリ》コースを分けて、花と展望の好ルート・『右俣コース』を経由して下っていこう。 

しばらく電光石火の急下降をこなしていくと、辺りを遮っていたハイマツ帯を抜けて視界がバッと広がる。
このコースの圧巻は、何といっても《北岳バットレス》の眺めであろう。 花に飾られたバットレスの大岩壁が、上から続く急傾斜の草原に仕切られて高山的な眺めを魅せてくれる。
 

北岳バットレスとお花畑

スカイブルーの空、手の節のように節だったバットレス、斜めに仕切られた草原、そしてその草原に散らばる黄金色のシナノキンバイの花々。 息も着かせぬ素晴らしき絵姿が、視界いっぱいに広がるのだ。
この贅沢な眺めこそ、このコースの“ウリ”である。
 

北岳バットレスに
シナノキンバイをあしらってみた

この風景を広潤な気分で味わうには、行程表通りに“下り”で使うのが正解だろう。 なぜならこのコースは、《草スベリ》と肩を並べる強烈な急傾斜のコースで、分岐の《大樺沢二俣》からここまで登ってくるだけで、もはや息も絶え絶え・・という状態になるだろうからである。 
息も絶え絶えだと、この素晴らしき風景も心ゆくまで満喫できないだろうから。
 

            亜種のハクサンイチゲ          チシマギキョウ

花もシナノキンバイだけではなく、淡い藤色のグンナイフウロ・クロユリ・ハクサンイチゲ・・とカラフルに咲き競っている。 カメラ片手に“足元に注意して”下っていこう。 素晴らしい景色に夢中になり、急坂ということを忘れて転倒する事も有り得るからである。 まぁ、“転んだ本人”が言うのだから本当である。
 

南国の雰囲気を持つ高山植物
グンナイフウロ

しばらく、バットレスを眺めながら下っていくと徐々に樹林が立ち並んできて、やがて樹林帯に突入する。
この樹林帯の中も相変わらず傾斜がキツいので、樹林の根が土をせきとめる不規則な段々坂となっている。 これを下るのがかなり厄介である。 根をつかみ、足をかけて下っていくと、樹林帯の先に斜めに迫り上がっていく白い帯が視界に入ってくるだろう。 これが、登りに使った《大樺沢雪渓》である。 

樹林帯を抜けて雪渓を見下ろす高台に出ると、雪渓を喘ぎ登る登山者がゴマ粒のように見える。 
後は、お花畑の中をジグザグを切って下っていくと、コース分岐点の《大樺沢二俣》である。 
《大樺沢二俣》からは、往路を下っていけばいい。 《広河原》まで約1時間半の行程だ。 
朝、空が真っ白に輝く頃に《北岳ノ肩》を出発すると、9時半か10時には下り着く事ができるだろう。 
下山したなら、麓に湧く温泉で山の疲れを癒そう。

    ※ 詳細はメインサイトより『白峰三山』を御覧下さい。
 
 
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