風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

TOP >  『日本百景』  >  『日本百景』 夏 >  第81回  高山裏・・南アルプスの“いぶし銀”

第81回  高山裏・・南アルプスの“いぶし銀”

『日本百景』 夏  第81回  高山裏・・南アルプスの“いぶし銀” 〔静岡県・長野県〕
 

今回は荒川前岳の
“お花畑の大斜面”からの続きデス
 
前回は『お花畑の大斜面』という、中央高地きっての素晴らしい情景に魅られた。 この後は、ほとんど全ての登山者の流れは赤石岳へと向かうが、その流れとは外れて南アルプス山域の『いぶし銀』ともいえる高山裏伝いの稜線を歩いてみよう。 その時に遭遇した「オチャメな出来事」を交えながら・・。
 

 

南アルプス中央稜線縦走・行程図 その2
 
   行程記録              駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 大井川鉄道・千頭駅よりタクシー利用(1:30)→畑薙・登山者駐車場(0:55)→椹島
《2日目》 椹島(3:00)→清水平〔水場〕(3:30)→千枚小屋
《3日目》 千枚小屋(0:45)→千枚岳(1:40)→悪沢岳(1:40)→中岳分岐
      中岳分岐より荒川前岳斜面のお花畑散策、往復1時間(2:30)→高山裏露営地
《4日目》 高山裏露営地(3:20)→小河内岳(2:20)→三伏峠(2:20)→鳥倉登山口よりバス
     (1:50)→JR・伊那大島駅
   ※ 前回『第80回 荒川三山・・お花畑の大斜面』からの続きです。
 

“お花畑の大斜面”の後は
“石の海”の遊泳!?が待ち構えているのデス
 
目立たぬ荒川三山
の末っ子・荒川前岳

“お花畑の大斜面”からの帰りは登りであるが空身なので、荷物をデポした稜線の分岐まで順調に登り返す。
荷物を回収して、荒川三山の中でも最も目立たぬ“末っ子”の荒川前岳 3068メートル の頂に立つ。
これより《高山裏露営地》までは、標高差700mの“タダ下り”が待ち受けているのである。
 

高山裏への下りは
想像以上に切れたっている
 
荒川前岳の頂上を過ぎると、途端に長野側が大崩落となって切れ落ちる痩せた岩稜となる。
そして、“ナイフリッジ”そのままの岩稜の上を伝うようになる。 何気にかなりヤバいルートだ。
心なしか風も強くなってきているし。 雨でも降られたなら、転落の危険が跳ね上がりかなり厄介だ。
岩につまづかぬよう、浮石に足を乗せぬように、慎重にこの痩せた岩稜を伝っていく。
 

標高差500mにも及ぶ
瓦礫の大斜面

痩せた岩稜を伝っていくと、地図上にある2553mの突起との間にある瓦礫の大斜面にぶつかる。
ここで90°右折して、この瓦礫の大斜面を下っていく。 この情景は、まるで鋸岳の《角兵衛沢》の大瓦礫の斜面を思い起こさせる。 まぁ、あれは半端じゃないけどね。
 
川の如くの岩の波をジグザグを切って下っていく。 浮石は流れる波の如く、これを踏むと途端に足を取られて“沈没”してしまう。 当然、“やっちまう”と全身傷やアザだらけとなろう。 浮石という“波”に気を使いながら、そして重い荷を担ぐ不安定な姿で下るので、下っている間はずっと転倒の恐怖がまとわり着いてくる。

それに加えて、そろそろに出発してから7時間が経過して、肩や腰に疲労が吹き溜まってくる。
実際に、この瓦礫下りはかなりコタえた。 でも、約1時間かけてこの瓦礫を下りきっても、荒川前岳と高山裏のまだ半分しか進んでいないのだ。

瓦礫の大斜面の取付にある道標でこの現実を思い知らされて、さすがに荷を下ろして水を口に含む。
下りと決め込んで僅かしか持ってこなかった行動水のほとんどを飲み干してしまう。
もう、こうなれば、地図上にある『水場』マークのある所に水があるのを願うのみだ。
 
稜線で見かけた花たち

イワカガミ 〔悪沢岳直下の岩稜〕

ここからは完全なる“ヘバりモード”で、あちらこちらの『育ちの良さそうな』岩(平で座りやすそうな岩)に腰掛けつつ、約1時間チョイの時間をかけて“幸せ”の水場までやってくる。 
水場の手前に『高山裏小屋 1k ⇒』の看板があって、ちょっとブルーが入ったけど。

山肌に沿ってルンゼ状に切られた登山道を伝って左右に振られると、細いが岩清水系のいい水場があった。 そして、その横に立札があった。 その立札には、『高山裏で泊る人は、ここで水を汲んだ方が楽』とあった。 この水場でこのように書いてあるという事は、「高山裏の小屋前に水場はない」って事である。 従って、2.5㍑の水をここから担がねばならないって事になる。

これを目にしてからの1kmは、《酔っ払いオヤジの愚痴》モード全開に、不平不満をブツブツ念じながら歩いていく。 最後のタダ下りを終えると、テント場の如く段々に切られた仕切りを両脇に見る中を登り返していく。 その頂上が《高山裏》の避難小屋だ。 途中で幕営者を見かけてテント場について尋ねてみると、「小屋でテントサイトを決められる」との事。

想像以上に“山小屋らしい”
高山裏避難小屋

これを聞いて、「もし、一番下だったらヤダなぁ~」という思惑を抱きつつ、小屋内に声を掛ける。
・・留守だった。 小屋内に、『ちょっと、出ています 用のある方は待っていて下さい』というダンボール紙に書かれた書置きがあった。 小屋の外で30分位待つ。 汗でダダぬれとなったTシャツを脱いで、上半身裸でクールダウンをしながら・・。 
 
裸でいるとさすがに肌寒くなって、乾き始めのシケッたTシャツを着直すと程なく、『小屋番のオヤジ』そのままの爺さんが背負子に水を担いでやってきた。 爺さんが近づくにつれ、熊避けの鈴がチリンチリンとリズムを打つ。 しかし、見るからに達者そうな爺さんだった。 水を少なくとも40~50㍑は担いでいたのと違う?

そして、口ぶりも“木こりのオヤジ”そのものだった。 取りあえずテントの申し込みをする。
『小屋番オヤジ』は始めはぶっきらぼうだったが、ある会話を境に対応がフレンドリーになっていった。 
それは、ワテが最も上にある便所の側の展場を希望したからである。 なぜ上を希望したか・・というと、動くのが嫌だったからであるのは言うまでもない。
 
稜線で見かけた花たち

イワツメクサ 〔中岳のコル〕

それを聞くと『小屋番オヤジ』は見る見る内に上機嫌となって、「そうじゃろ、そうじゃろ、便所はワシがキレイにしとるからちっとも臭くない。 下の酒飲み(下のテントの人)なんかは、夜にトイレに行くくせに“臭いからイヤ”と言いよる。 それに、一番上が水はけが一番いい最高の場所なんじゃ。」と、テント場の解説をし始める。

ひと通り“テント場の解説”が終わった後、「水は大丈夫か?」と心配りをしてくれる。
「もし無ければ、水はやるからな」という爺さんに対して、「2.5㍑の水を下の水場で汲んできた」と答える。 爺さんはそれを聞くと、「最近は汲んでこん奴が多いからな」と言って満足そうに頷く。
 
続いて、私が「キツイ下りでバテましたわ。 昔はタッタカ歩けたけど、歳食って衰えたなぁ」というと、お定まりの「まだ、若いだろうが! 一番馬力のあるのがその歳じゃ!」と一喝される。
続いて「ワシも云々・・」と続くが、70歳で40~50㍑の水を担ぐアンタとは“モノ”が違うって。
 
稜線で見かけた花たち

ハクサンイチゲ 〔中岳のコル〕

すると、下の“酒飲み”がビールと水を買いにやってくる。 ビールは500ml缶で800円、水は天然水のボトル500mlで100円だった。 “酒飲み”達はビールと水をそれぞれ7~8本づつ買い溜めして、ついでに飯ごう(1000円)を借りて戻っていく。
 
この小屋の管理・経営元の《東海フォレスト》としては、こういう客の方が売り上げが上がっていいのかもしれない。 大方、10000円也の売り上げとなるのだから。 でも爺さんは、淡々と小屋番の『業務』として対応していた。 その表情に、少し寂しげな感じさえ見えたのだが。
 
稜線で見かけた花たち

キバナシャクナゲ 〔悪沢丸山の草付〕

さて、何だかんだいっても、14時に小屋前に着く事ができた。 小屋番の爺さんとの愉快なひとときを終えても、まだ15時前。 時間が余っているので、テントの中で昼寝でもする。 疲れからかグッスリ寝込んで気付かなかったのだが、猛烈な夕立が降ったようである。 テントの隅が浸水していたし。

慌てて外を見てみると、下の展場は所々に水が浮いている。 これを見て、「もし下に張っていたら、エライ目にあったなぁ・・ 小屋番の爺さん、水はけのいい場所を有り難う」と呟く。 
ちなみにこの雷雨は、近畿地方では水害になった程の豪雨だったとの事である。

土砂降りに気付かぬ程に熟睡したにも拘らず、17時半より飯食ってから寝入る。 明日は長時間の行程だし、4時起きの4時半出発だから睡眠は多く取るに越した事はない。
 

   ※ 詳細はメインサイトの『撮影旅行記』より『南ア・最後の未踏区へ その1』をどうぞ。
 
 

 

 
 
関連記事
スポンサーサイト



コメント






管理者にだけ表示を許可