2013-05-18 (Sat)✎
『日本百景』 春 第67回 皇海山 〔栃木県・群馬県〕
弧高の名峰・皇海山
皇海山 すかいさん
国民的な観光地・《日光》に隠れて、あまり訪れる者の少ない奥深き山。 それが、この『皇海山』である。 《両毛国境》の奥に雄々しくそびえる弧峰を目にすると、登山欲がムクムクと湧いてくる事だろう。 だが、その弧峰を目指すルートには厳しい岩場が行く者を阻むように立ちはばかっていて、そう易々と頂を踏むことはできない。 その試練を乗り越えた者のみが、この弧峰の頂に立てるのだ。
その“試練”こそが山に魅力を与え、人の心を誘う“名峰”としての条件を満たすのだ。
『百名山』の著者がいうような《山岳宗教》や《歴史》などでは、山の魅力は語れない。
“登ってみたい・・”という山に魅かれる心こそが、山を語る唯一の手段なのである。
国民的な観光地・《日光》に隠れて、あまり訪れる者の少ない奥深き山。 それが、この『皇海山』である。 《両毛国境》の奥に雄々しくそびえる弧峰を目にすると、登山欲がムクムクと湧いてくる事だろう。 だが、その弧峰を目指すルートには厳しい岩場が行く者を阻むように立ちはばかっていて、そう易々と頂を踏むことはできない。 その試練を乗り越えた者のみが、この弧峰の頂に立てるのだ。
その“試練”こそが山に魅力を与え、人の心を誘う“名峰”としての条件を満たすのだ。
『百名山』の著者がいうような《山岳宗教》や《歴史》などでは、山の魅力は語れない。
“登ってみたい・・”という山に魅かれる心こそが、山を語る唯一の手段なのである。
皇海山登山ルート 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR桐生駅より鉄道(1:15)→原向駅(1:40)→銀山平(2:10)→庚申山荘
《2日目》 庚申山荘(2:30)→六林班峠(1:20)→鋸山(1:30)→皇海山(1:20)→鋸山
(1:20)→六林班峠(2:10)→庚申山荘
《3日目》 庚申山荘(2:00)→銀山平(1:30)→原向駅より鉄道(1:15)→JR桐生駅
《1日目》 JR桐生駅より鉄道(1:15)→原向駅(1:40)→銀山平(2:10)→庚申山荘
《2日目》 庚申山荘(2:30)→六林班峠(1:20)→鋸山(1:30)→皇海山(1:20)→鋸山
(1:20)→六林班峠(2:10)→庚申山荘
《3日目》 庚申山荘(2:00)→銀山平(1:30)→原向駅より鉄道(1:15)→JR桐生駅
美しい模様を魅せる
原生林と皇海山
《1日目》 足尾口より庚申山荘へ
華やかな《日光》の山々とは対照的に、かなり地味めな山である皇海山。
だが、《両毛国境》にひっそりとそびえる弧峰は、登山の魅力を十分に秘めている。
登山の魅力にはいろいろあるが、この山の魅力の第一は、やはり登頂時の“充実感”である。
寂れた谷里より奥深い弧峰まで、水の流れに遡って延々とつめていく行程は、一つの物語を秘めている。 さぁ、都会の喧噪で疲弊した心と身体が無くしつつある“充実感”を取り戻しにいこう。
《両毛国境》の奥深くにそびえる弧峰・皇海山へは、群馬・栃木の両県共に登山道が開かれている。
最短ルートを取るなら群馬県側からつめればいいのだが、あまりにも簡単に山頂に立てるので、この山の抱く“奥深い弧峰をつめていく・・”という魅力を味わう事はできない。 従って、里より忠実に奥の弧峰へつめていく栃木県側ルートを行く事にしよう。 このルートは長く苦しい道程ゆえに、達成した時の充実感はひとしおである。
最短ルートを取るなら群馬県側からつめればいいのだが、あまりにも簡単に山頂に立てるので、この山の抱く“奥深い弧峰をつめていく・・”という魅力を味わう事はできない。 従って、里より忠実に奥の弧峰へつめていく栃木県側ルートを行く事にしよう。 このルートは長く苦しい道程ゆえに、達成した時の充実感はひとしおである。
賑わった往時の残骸が放置され、哀れを誘う“銅山の町”《足尾》。 地味な印象の皇海山への登山ルートは、裏寂れた廃鉱の街より始まる。 旧国鉄・足尾線であった『わたらせ渓谷鉄道』の無人駅・《原向》が最寄り駅である。
ここから、キャンプ場と国民宿舎のある《銀山平》までは、舗装道を行く。 道程は約6km。
なお、《銀山平》まではこれといったものもないので、行程ガイドは《銀山平》より始めよう。
《銀山平》の車止めゲートをくぐると林道は右の岩肌に取り付いて、《銀山平》の施設を俯瞰するように大きく高巻いていく。 ゲートから約1.5km先までは舗装されている。 やがてそれも途切れ、林道規格としてはかなり荒れた砂利道となる。 砂利道となってすぐに、遙か下の沢に“坑夫(光風)ノ滝”という意味深な名称の滝が目に入ってくる。 目の保養はこれだけで、林道の終点となる《一ノ鳥居》までは延々1時間の退屈な砂利道歩きだ。
《銀山平》の車止めゲートをくぐると林道は右の岩肌に取り付いて、《銀山平》の施設を俯瞰するように大きく高巻いていく。 ゲートから約1.5km先までは舗装されている。 やがてそれも途切れ、林道規格としてはかなり荒れた砂利道となる。 砂利道となってすぐに、遙か下の沢に“坑夫(光風)ノ滝”という意味深な名称の滝が目に入ってくる。 目の保養はこれだけで、林道の終点となる《一ノ鳥居》までは延々1時間の退屈な砂利道歩きだ。
山荘までいく途中にある庚申七滝
軽く登り気味に山肌を地形通りにつめていくと、《猿田彦神社》の前宮の赤鳥居が見えてくる。
《一ノ鳥居》である。 この奥に、今日の行程最大の景勝地である《庚申七滝》がある。
庚申山から流れ出た支沢が本流と合流する際、七段の滝となって掛け落ちるのである。
滝を見て心を和ませたなら、《一ノ鳥居》をくぐって先に進もう。
《一ノ鳥居》からは、道は山道となり傾斜も増してくる。 道中では《鎧岩》や《百丁目石標》など、随所に《猿田彦神社》ゆかりの史跡が現れる。 約1時間、2.3kmの道程で《猿田彦神社》跡の広場に出る。
ここから山荘までは約200mと一投足であるが、到着時間には十分留意しよう。
設備の整った山の基地・庚申山荘
小屋がイバラの向こう側に建っている為、暗がりだと小屋の位置が皆目検討が着かないからである。
なお、《庚申山荘》は無人であるが、炊事場・寝具完備の立派な山荘である。
《2日目》 両毛国境稜線を伝って皇海山へ
今日の行程は上りだけで6時間と、かなりの長丁場だ。 従って、日の出と共に出発しなければ、往復して戻ってくるのが困難となる。 さて、山荘を出発して進路を右に取ろう。 反対側を行くと、庚申山から“鋸山十一峰”の岩場コースである。 本来ならこちらに進路を取りたい所であるが、〔積雪期〕という事なので安全な峠道ルートを取る事にする。
今日の行程は上りだけで6時間と、かなりの長丁場だ。 従って、日の出と共に出発しなければ、往復して戻ってくるのが困難となる。 さて、山荘を出発して進路を右に取ろう。 反対側を行くと、庚申山から“鋸山十一峰”の岩場コースである。 本来ならこちらに進路を取りたい所であるが、〔積雪期〕という事なので安全な峠道ルートを取る事にする。
幾何学模様の原生林が
皇海山への道遠きを思わせる
しばらく、シラビソの樹林のトンネルの中を伝っていくと、『関東自然百選』の《天下見晴》との分岐に出る。 時間に余裕があれは、是非寄ってみたい所だ。 朝の爽やかな空の下、皇海山から『両毛国境』の山群が一望できて、その山裾全体にシラビソなどの白亜の樹林が幾何学的な枝模様を描いている。
ただ、時間の制約が大いにある長丁場の行程なので、ペース配分が心配ならば明日に取っておく・・というのもいいだろう。
皇海山への長い獣道
ルートは、この分岐を右に取る。 登山道は、山道から“犬走り”の一歩手前のレベルとなり、如実に山の奥に入っていく実感を伴うであろう。 しばらく、この“犬走り”を伝うと、道に雪が乗ってくるだろう。
5月の上旬ならば、分岐から30分も歩けば道に雪が現れてくる事と思う。 この雪がまた困ったもので、ほとんどが“根腐れ雪”で踏ん張りがほとんど利かない。 歩くごとにズボズボとはまり、時間と体力と気力を大いにロスする事になる。
また、このコースは道標が至って乏しく、オリエンテーリングで使うような赤と黄色の小さな菱形の木ギレが樹木に打ち付けてあるだけである。 これとて、樹木の倒枯や木ギレの朽腐で、半数以上が落下や破損により使い物にならない。
途中、源流沢を5~6回渡るのだが、渡った先にこの目標がなくルートを見つけるのにかなり苦労する事だろう。 「肝心な所には道標は皆無である」と想定して行動する心構えが必要であろう。
約2時間半、雪にもまれながら伝っていくと、東側がパッと開けた如実な峠地形の縁に出る。
5月の上旬ならば、分岐から30分も歩けば道に雪が現れてくる事と思う。 この雪がまた困ったもので、ほとんどが“根腐れ雪”で踏ん張りがほとんど利かない。 歩くごとにズボズボとはまり、時間と体力と気力を大いにロスする事になる。
また、このコースは道標が至って乏しく、オリエンテーリングで使うような赤と黄色の小さな菱形の木ギレが樹木に打ち付けてあるだけである。 これとて、樹木の倒枯や木ギレの朽腐で、半数以上が落下や破損により使い物にならない。
途中、源流沢を5~6回渡るのだが、渡った先にこの目標がなくルートを見つけるのにかなり苦労する事だろう。 「肝心な所には道標は皆無である」と想定して行動する心構えが必要であろう。
約2時間半、雪にもまれながら伝っていくと、東側がパッと開けた如実な峠地形の縁に出る。
《六林班峠》である。
六林班峠よりの眺め
眺めは前述の通り東側は開けてあるのだが、こちら側にはめぼしい山がなく、眺めとしては“今イチ”である。 《六林班峠》を地図上で確認すると、かなり袈裟丸山の方へセットバックしているのが判るだろう。 地形上で仕方がない事とはいえ、かなりキツいアルバイトである。 峠からの道は更に歩き辛くなる。 それは潅木の出現で、これらの上に根腐れ雪が乗っかり、これを踏み抜くと股下までズバッとはまってしまうからである。
稜線を伝って緩やかな起伏を2~3度越えると、鉾のように尖った穂先を空に向ける鋸山が現れる。
これをイッキ登りするのだが、見た目程にはキツくはない。 たぶん、雪があまり乗らない南側斜面だからであろう。 これをつめると、鋸山 1998メートル だ。
偶然パノラマが完成した
左から上州武尊山・皇海山・錫ヶ岳・奥白根山
眺めは、間違いなくルート中で最高である。 正面には雄々しい弧峰を魅せる皇海山が、北側には上州武尊山 2158メートル と遙か先に真っ白な山なみを連ねる谷川連峰が。 そして、西側には真っ白な頂をもたげる奥白根山 2159メートル、それとは対照的に全く雪がなく黒い地肌を魅せる男体山。
松木渓谷と奥日光の山々
また、谷や岩も魅せてくれる。 北海道・《日高》のカール地形を思い起こさせる《松木渓谷》や、崩壊により奇怪な姿を魅せる《鋸岳十一峰》の頂群。 そして、ついつい忘れがちになる“振り返り”見る情景も印象的だ。 心ゆくまで眺めを楽しんだなら、眼前にそびえる雄々しき弧峰・皇海山へアタックしよう。
ルートは、鋸山より皇海山の鞍部まで200mほどイッキに下るのであるが、この東斜面は季節風をもろに受けて雪がべったりと乗っかっている。 元があの鉾のような鋸山の直下降。 鎖は付いてはいるのだろうが、完全に雪の下に埋没して姿も形もなし。 しかも、相変わらずの道標の不備である。
要は、雪面の直下降を適当にルートの見当をつけて下らねばならないのだ。 もちろん、滑落の危険が大いにあるので、キックステップは元より雪面上に這い出た潅木をつかみながら下らなければならない。
何とかこの難所を下りきると、皇海山の鞍部に出る。
ここは群馬県側からの最短ルートとの合流点で、大半というか、ほとんどがこのルートを利用して皇海山に登っているようである。 所要3時間で登れるコースが開かれた現在、栃木県側のルートはほとんど利用されず、寂れるまま現状のようになったようである。 道標や道の荒れ具合も、そういう訳ならばうなづける。
ここからは雪はあるものの、しっかりと踏み固められたトレースのついた斜面を頂上に向けてイッキに登っていく。 所々、クマザサが進行を邪魔するものの、キツい所は適当にジグザグをきっていて安心して登れる。 但し、1ヶ所だけルンゼ状に掘れた岩の通過があり、融雪水が凍ってアイスバーンとなっていることがあるので、ここだけは注意しよう。 約250m登って鋸山の鉾先より高い位置にきたなら、頂上は目の前だ。
ここからは雪はあるものの、しっかりと踏み固められたトレースのついた斜面を頂上に向けてイッキに登っていく。 所々、クマザサが進行を邪魔するものの、キツい所は適当にジグザグをきっていて安心して登れる。 但し、1ヶ所だけルンゼ状に掘れた岩の通過があり、融雪水が凍ってアイスバーンとなっていることがあるので、ここだけは注意しよう。 約250m登って鋸山の鉾先より高い位置にきたなら、頂上は目の前だ。
皇海山頂上にて
青銅軒が突き立ててある岩があり、その裏手に出ると皇海山 2144メートル の頂上だ。
苦労して、怖い思いをして、多くの時間を費やした皇海山の頂上からの眺めは今イチ貧弱である。
見える山は奥白根山のみで、あとは雑木林に視界が遮られている。 《松木渓谷》側は開けているのだが、鋸岳で見た・・あの《日高》のカール地形のような眺めではなく、至って凡庸な眺めであった。
皇海山頂上からの展望は
樹木に遮られ奥白根山が望まれるのみ
樹木に遮られ奥白根山が望まれるのみ
どうやら、この皇海山という山は、キツい登りでかく汗や体験がその魅力を語る山なのである。
従って、冒頭でも述べた通り、安易なコースでこの山に登ったならば、心には乏しい思いしか残らないだろう。 この山から登頂の“充実感”を取ると、何も残らないのである。
帰路は往路を戻るが、もし頂上で雷が発生していたならば要注意。 帰路は稜線上を行くので、落雷には逃げ場がない。 その時は無理をせず、沼田側から登ってきた人に下山後の車の便乗をお願いして、エスケープルートに最短コースを取ろう。 往復だと帰りも6時間近くかかるが、最短ルートだと2時間余りで下る事が可能である。
松木渓谷方向に厚い黒雲が
この後、雷が落ちた
5月の上旬は得てして雷が発生しやすいので、頭の片隅にこの事も考えておくべきであろう。
なお、往路の下山なら、12時には下山を開始しなければかなりキツくなる。
時間に追われた場合も、エスケープの必要がでてくるだろう。
弧高にそびえる皇海山
天下見晴より
《3日目》 庚申山荘より下山
今日は、往路で通った林道を下るだけである。 ただ早く帰ってもつまらないので、時間の許す限り《天下見晴》や庚申山 1892メートル の登頂、《庚申七滝》めぐりなど、《両毛国境》の山の魅力を堪能してから帰るのがいいだろう。
今日は、往路で通った林道を下るだけである。 ただ早く帰ってもつまらないので、時間の許す限り《天下見晴》や庚申山 1892メートル の登頂、《庚申七滝》めぐりなど、《両毛国境》の山の魅力を堪能してから帰るのがいいだろう。
幾何学模様に染まる山肌と
遙か遠き皇海山
春近い両毛の山々
袈裟丸山など
なお、《庚申山荘》より《原向》駅までは、約12km・約3時間の道程である。
5月といえども、山里はまだ早春模様。 コブシや山桜が彩る里の早春を楽しみながら下っていこう。
5月といえども、山里はまだ早春模様。 コブシや山桜が彩る里の早春を楽しみながら下っていこう。
- 関連記事
スポンサーサイト