風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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名峰次選の山々 第13回  千枚岳

名峰次選の山々 第13回  『179 千枚岳』  静岡県・荒川山系(南アルプス国立公園) 2880m
コース難度 ★★ 体力度 ★★★
 

この尾根の果てが
目指す千枚岳だ
 
南アルプスの主稜線上には名峰が目白押しに並んでいる。 この名峰群を1つづつ紹介していくのであるが、縦走で山旅を愉しみながら御紹介するのが一番いいかな・・って思う。 なので、南アルプス南部の主脈への登山基地である椹島 さわらじま から、下界との境界である畑薙ダムまでを通して歩いてみよう。
 

グンナイフウロ
 
さて、南アルプスの南部へ登るとするなら、街である静岡市街や山の裏側である長野県の飯田市街から、延々と山に向かってアプローチしていかねばならない。 そして、そのどちらも一部の開かれた登山口以外は、専門家にしか扱えない未開・荒廃した登山道である。
 
南アルプスは人気の高い北アルプスと違い、このように登山道は限られてしまうのである。 
そして、ワテ自身も登山する能力に関しては普通の人と変らない(今は普通の人より劣ってたりして・・)ので、バリエーションルートを御紹介する事は適わない。
 

コオニユリ
 
だから、ガイドとしてこのシリーズを展開したいとは思うものの、現状では市販の登山ガイドと同じ道を歩き、そして記述する内容もさして変らないだろう。 それではつまらないから、市販の登山ガイドにはない『私のガイドだけのオリジナルな内容』、そう・・その時に撮った写真や縦走時に起こったハプニングや思い出をチョイスしていこうと思う。 それでは、南アルプス南部主脈大縦走の山旅を始めようか。
 

千枚岳の頂上直下
より望む『富岳百景』
 
    行程表            駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 静岡市街より車(2:30)→畑薙第一ダム(4:40)→椹島
《2日目》 椹島(3:20)→蕨段(2:00)→千枚小屋、千枚岳へは往復1時間20分
《3日目》 千枚小屋(0:45)→千枚岳(1:30)→悪沢岳(1:30)→荒川中岳(0:25)→荒川前岳
     (1:10)→荒川小屋
《4日目》 荒川小屋(0:40)→大聖寺平(1:45)→赤石岳(2:00)→百間平 
     (0:50)→百間洞露営地
《5日目》 百間洞露営地(1:30)→大沢岳(2:00)→兎岳(2:30)→聖岳、奥聖岳へは片道20分
     (1:50)→聖平
《6日目》 聖平(2:20)→上河内岳(1:30)→茶臼小屋(1:45)→柿窪沢小屋 
     (1:00)→ウソッコ沢小屋(1:30)→畑薙大吊橋(0:50)→畑薙第一ダムより車 
     (2:30)→静岡市街
 

朝の透き通った光にライトアップされた
チシマギキョウのつぼみ
 
  《1日目》 椹島へ
静岡市街から車で2時間半、バスだと3時間半をかけて《畑薙第一ダム》のダムサイトに着く。
この山の懐に入っていく道(静岡県道60号線・南アルプス公園線)は、2年に一度自然災害や土砂崩れなどで不通となる“いわく付き”の道だ。 道が崩れると、静岡からの登山バスはひと夏のシーズン全て運休となり、アプローチは費用を始めとして困難な事となる。
 
なぜなら、鉄道の終点である千頭よりジャンボタクシーで行くか、マイカー利用以外に手がないからである。 またマイカー利用は、シーズン中は確保された駐車台数以上に登山者がやってくるので、下手すると入口で進入を制限されて引き返し・・となり得るかもしれない。
 
このように、気象災害など想定外の制限が入ると登山そのものを断念せざるを得なくなるので、アプローチに関してはよく調べて的確な計画を立てる必要がある。
 
なお現在は、来訪するマイカーでの登山者の駐車場所を確保する為に、ダムサイトより2km程下のダム建設時の資材置場跡地をそのまま原野利用して駐車場としているみたいである。 東海フォレストが仕立てる椹島へのバス便もここから発着する。 なお、この駐車場の許容台数は4~500台程度であろう。
 

ミヤマオダマキ
 
さて、ここから延びる『大井川東俣林道』は、“一般車通行止”だ。 従って、全ての登山者はここから昔でいう『リムジンバス』、今はマイクロバスに乗り換えて、一大宿泊施設が整う東海フォレスト運営の椹島ロッジや二軒小屋ロッジへ向かう。 
 
だが、このバスが『リムジンバス』と呼ばれていた昔は、このダムサイトより林道を延々5時間近く歩いていったものだ。 それは、この『リムジンバス』という乗り物は、あくまでも赤石山系の私有林のほとんどを所有する『東海パルプ(株)』系の観光!?会社『東海フォレスト』が経営する山小屋への送迎バスで、それゆえに“利用客”でないテント幕営志向の者は乗車を拒否されていたのである。
 
ワテが始めて登った18年前は、マイクロバスに変ってはいたが上記のような悪しき風習は残っていて、テント持参で宿泊しない・・という事で延々林道を5時間歩かされた思い出がある。 その時のエピソードであるが、やっとの事で椹島に着いてテント設営をしていた時に、折り返しの休憩中であったバスの運転手がこちらにやってきて談笑となったのである。 
 
このバスの運転手は林道を歩くワテを見ていた様で、「長かったろう? 御苦労さん」と労いの言葉を掛けてくれたのである。 その運転手から聞いた“よもやま話”であるが、バスの運転手には「山荘予約者以外は、たとえ道端に行き倒れていても乗せるな!」との『お達し』が依頼主(東海フォレスト)より入っていたとの事である。 委託先である静岡鉄道バスの運転手が依頼元である東海フォレストの指示を聞かぬ訳にはいかないので、この悪しき慣例は『暗黙の了解』となっていたそうである。
 

千枚岳頂上直下から望む
赤石山脈の主稜線
 
だが、今は要らぬ心配となっている。 椹島ロッジや二軒小屋ロッジに宿泊しない者であっても、3000円払えば乗車可能となっている。 そりゃぁ、そうであろう。 いつまでも上記のような旧態依然の制度で「宿泊者以外拒否」を貫いていたなら、行政指導や宿泊業の営業免許剥奪やを受けかねないであろう。
 
さて、林道歩きについては、《大井川》を見ながらひたすら砂利道を歩くだけなので、特筆すべきことは何もない。 いや、もう一部が簡易舗装までされているこの林道を歩く事はないだろう。
その点では、この林道を歩ききったワテの経験は“二度と得る事のない貴重な体験”として、自身の心の中で特筆されるのである。
 

千枚岳頂上より望む富士山と
双耳峰の笊ヶ岳
 
前置きが長くなったが、今は旅館といっていい程の設備を有し、コテージやログハウスもついて別荘地の装いを持つ椹島ロッジであるが、素泊まりと2食付の旅館との露骨な差のつけ方は『健在』であった。
 旅館は全室冷暖房完備で、素泊まり棟は建替えられはしたが土間だけの畳敷で、布団はおろか毛布一枚もない(まぁ、テント装備できているので必要はないが)のである。
 
以前はもっと過酷だった。 旅館利用者と素泊まり・テント利用者とは、トイレも差をつけていたのである。 宿泊者トイレは水洗トイレで、それ以外は『公衆便所』と示されたボロ小屋のボットン式トイレであったのだ。 なお、今はトイレの使用制限はなくなっている。 それは、公衆便所を含む全てのトイレがウォシュレットトイレとなったからであろう。
 
このような訳で、この東海フォレストという会社はどうも好きになれないのだが。 まぁ、グチっても仕方がないので、明日の登山を夢見て早く寝る事にしよう。
 

ヤマを見つめて何を思う
千枚岳頂上にて
 
  《2日目》 千枚岳へ
《千枚小屋》までは約7.5km、標高差1500m。 千枚岳までに至っては、標高差1700mを越える“半端”でない登りを越えねばならない。 従って、《椹島》の早発は、反射的に行なえるであろう。 
《椹島》のキャンプ場を出て《大井川林道》を300m程進んだ所に、小さな滝を落とす支沢が派生している。 この沢に架かる橋のたもとが、千枚岳への登山口である。 

小さな滝を見やり、支沢に沿って所々に鉄網の架かる道を歩いていく。 まだ道は平坦で、足早に通過することができる。 やがて沢から離れていくと、徐々に傾斜を増して山肌を縫うようになる。 道は枯草が覆う土道で、クッションが良く効いて楽に登れる。 この状態でしばらく登っていくと、《千枚小屋》下の《駒鳥池》付近まで延びる『造林作業林道』と交差する。 

林道を少し歩いて緩く右にカーブするとハシゴがあり、これに登山道を示す看板が掲げられている。 
看板の指示通りにハシゴを登ると、小さな丘の上の広場に出る。 ここが、《小石下》という三角点のある小ピークだ。 この小ピーク辺りから、徐々に針葉樹林の割合が多くなってくる。
 

千枚岳の岩稜越しに
赤石岳を望む 
 
小ピーク少し下って先程に交差した林道を横目に見ながら、“登山道”を緩やかに登っていく。 
しばらくするとまた林道をクロスするのだが、林道を4WDの車が土煙りを上げて通り過ぎる様を目にしたなら、“本当に山に登っているのか!?”という疑問さえ頭を過ってくる。 林道をクロスして、枯草に覆われたキツくもなく緩くもない傾斜を単調に登っていく。 相変わらず林道は、100m程離れた所を平行しているようだ。 

やがて、針葉樹林の密度が濃くなってくると、そばを平行している林道と離れて山肌をジグザグに切って登るようになる。 ようやくの“らしい”急登に、なぜか安心することだろう。 急登で樹林帯の奥深くへ分け入っていくと、沢のせせらぎが耳に入ってくる。 《清水平》の水場である。 最初で最後の“まとも”な水場であるので、喉を潤すだけでなく水筒にも十分補給していこう。 

《清水平》を越えて更に傾斜を増す坂を登っていくと、三角点のある《蕨段》の上に出る。 
ここの標高は2073m。 《椹島》から1000m登ったことになる。 しかし、《清水平》の手前から傾斜を増してきたとはいえ、1000mも登った実感が余りないのだから変なコースである。
 

展望台から望む赤石岳 

この《蕨段》から次第にシダが生い茂り、切株や岩に苔が蒸しるジュクジュクした感じの道となる。 
足元も水はけの悪い粘土質の道となり歩き辛い。 晴れていたなら赤石岳の絶好の展望台となる《見晴台》を越えると、このコース最大の“アルバイト”が待ち受けている。 それは、《駒鳥池》までの標高差350mの急登だ。 所々植林したのか、背丈の低い若い針葉樹林の樹林地帯もある。 だが、晴れていたなら、この小樹林の上に赤石岳が悠然とそびえる様を望む事ができるだろう。 
 
この樹林帯の急登を乗り越えると、切株の目立つ小さなの丘の上に出る。 ここは両側は林に覆われた湿地帯で一見何もないように見えるが、この林の右側に『駒鳥池』との看板がある。 どうやら、この林のブッシュを掻き分けると池があるのだろう。 だがブヨが飛び交い、水面を微生物が漂う澱んだ池らしく、ブッシュを掻き分けてまで見る価値もなさそうなので、ここは無視して先を急ごう。
 

朝日を浴びる
グンナイフウロ
 
《駒鳥池》付近の湿地帯を越えて少し登ると、樹林帯を抜けてハイマツが生い茂る見晴らしの良さそうな岩ガレ地帯に飛び出る。 この辺りから、ポツリポツリと高山植物も顔を現し出す。 湿性のお花畑を見ながら再び樹林帯の中に入り込むと、あまりにも突然とばかりに《千枚小屋》の冬小屋が目に入ってくる。
あまりにも突然に視界に入ってくるのでにわかに信じ難く、当初はトイレか何かだと思った程だ。
 

朝の空に映える
大笊・小笊の双耳峰

さて、小屋に着いて時間と体力に余裕があるのなら、空身で千枚岳を往復してこよう。 話の都合上、千枚岳の登路は名峰百選・『悪沢岳』の項目でご紹介する事にして、頂上での写真の掲載のみに留める事にしたい。 では次の名峰百選『悪沢岳』に、乞う、御期待。
 

富士の上に幸運の矢

  ※ 詳細はメインサイトより
    『南アルプス南部大縦走』、『南ア・最後の未踏区へ その1』を御覧下さい。
 
 
 

 
 

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