風来梨のブログ

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第64回  大峰・奥駈 その2

『日本百景』 春  第64回  大峰・奥駈 その2 〔奈良県〕
 

朝の大峰・八剣山
 
今回は、総歩行距離が56kmと長大な大峰・奥駈ルート縦走の後半部分を記そうと思う。
最高峰の大峰・八剣山を越えて南へ縦走する《3日目》の行程は、それなりに身体が山に慣れていたとしても所要10時間近くのロングランだし、最終日は午前中の唯一のバス便に乗るべく舗装林道を約10km歩かねばならないなど、かなりのハードコースである。
 
特に《前鬼口》バス停発の朝8:58のバス便を逃すと、遠くからタクシーでもチャーターしない限りその日の内に洞川温泉の駐車場に置いてあるマイカーを回収して帰れなくなるのである。 このように最終日は時間に追われる行程となるので、その事は念頭においておくべきだろう。
 

大峰・奥駈道縦走ルート 行程図
 
    行程表                 駐車場・トイレ・山小屋情報  
《1日目》 大阪・阿部野橋駅より鉄道(1:15)→下市口駅よりバス(1:30)→洞川バス停
     (0:15)→稲村ヶ岳登山口(2:20)→山上辻(0:50)→稲村ヶ岳(1:30)→山上ヶ岳
     (0:55)→小笹ノ宿跡
《2日目》 小笹ノ宿跡(2:00)→大普賢岳(2:45)→行者還岳(2:00)→石休場ノ宿跡
     (1:00)→聖宝ノ宿跡(1:00)→弥山小屋
《3日目》 弥山小屋(0:35)→大峰・八剣山(2:00)→舟ノ垰(3:50)→釈迦ヶ岳 
     (1:00)→太古ノ辻(1:50)→前鬼
《4日目》 前鬼(0:40)→林道ゲート(0:30)→不動七重ノ滝展望台 
     (1:20)→前鬼口バス停よりバス(2:25)→大和上市駅より鉄道
     (1:20)→大阪・阿部野橋駅
  ※ 前回『第63回 大峰・奥駈 その1』よりの続き
 

前日の雨が残した
深い雲海のうねり
 
 《3日目》 八剣山・釈迦ヶ岳を連ねて前鬼へ下山
朝、テントを出てかぎろい色の空を望めたなら、“幸運であった”と思うべきであろう。 雨の多い地域だからこそ、より素晴らしい山岳風景を望めるのである。 入道のように頭をもたげた大普賢岳、そしてそれをスライドさせる三段の山なみ、その奥には台形の立て屏風を成した稲村ヶ岳と山上ヶ岳と、昨日一日かけて歩いてきた道程が雲海の上に映し出されている。
 

空が七色になる一瞬

対面には日出ヶ岳を盟主とした台高の山なみが、ずっしりと節々を大地にはわしている。 
1500m足らずの山なみを多く連ねる山塊とはとても想像しえない、威風堂々とした山岳風景を魅せている。 真に素晴らしくなかなかに去り難いが、今日も長い行程ゆえに、遅くとも6時には出発できるように準備しておこう。 

大峰・八剣山の頂上にて

弥山からは一度鞍部に下って、数ヶ所あるオオヤマレンゲ自生地の保護柵をくぐりながら登っていくと、大峰連山最高峰・八剣山 1915メートル の頂上だ。


大峰・八剣山より望む
奥駈の山なみ

大峰連山最高峰の上に立って、これから向かう釈迦ヶ岳への山なみのうねりを眺めたなら、いよいよ大峰連山の核心部へ向かって足を踏み入れる。 八剣山の頂上からは、シラベやトウヒ林のワラ状となった倒木帯を下り気味に伝っていく。 

道端の所々に“行”を奉納したお札を飾った岩屋や大木を見るにつけ、宗教色が濃い山なのだ・・と感じさせられる。 樹林帯の少し開けた所は《禅師ノ森》・《楊枝ノ森》・・と、たいてい“森”という名称がつけられていて、また庭園状を成しているので、これらの“森”を目安に休憩を入れていくといいだろう。
 

奥駈南部の主峰を司る
仏生ヶ岳と釈迦ヶ岳

八剣山南面の大岩壁がそそり立って見える程に歩いてくると、《舟ノ垰》と呼ばれる船窪状の所に出る。
前面には、こんもりとそびえる仏生ヶ岳が行く手の嶮しさを物語っている。 また横に迫り立つ七面山は、大きく崩れ落ちた《大》を従えた奇怪な姿を魅せている。
 

奇怪な姿を魅せつける七面山
 
《舟ノ垰》から少し先で七面山への玄人好みの道を分けて(“七面山遥拝石”という白い石柱で道を示してある)、《楊枝ノ森》という森林庭園を抜けると、いよいよ仏生ヶ岳の急登に取り付く。
 

振り返ると大峰・八剣山の
大岩壁がそそり立っている

仏生ヶ岳の急登に苦戦する中で
ふと振り返ると

樹林帯の中の標高差200mの急坂に汗を搾り取られる事だろう。 だが、ある程度登りつめると、八剣山南面の大岩壁が樹間より望まれて心強い。 この登りはより深くなった森の中で終わりを告げ、仏生ヶ岳 1805メートル の仮の頂上を示す札の横を通る。 縦走路は、本当の頂上は通らないようである。

この頂上から少し歩くと、樹林帯の際に出て見通しが良くなる。 ここで馬ノ背状に連なる山の先に、ようやく釈迦ヶ岳がピラミタルな山容を魅せてくれる。 でも、そこまではまだまだ距離がある。 樹林帯の際を数回上下しながら、この馬ノ背状の尾根筋の直下を巻いていく。
 
いつの間にか孔雀岳 1779メートル というピークを越えて少し下り気味となると、八剣山~釈迦ヶ岳の間で唯一の水場・《鳥ノ水》に出る。 この水場を過ぎると、一度大きく切れ込んでから釈迦ヶ岳への“最後の踏ん張り所”が待ち受けている。
 
キレット状に切れ落ちた《孔雀覗》の悪場を鎖片手に下りていくと、《小尻返し》・《貝ズリ》・《両部分け》などの岩場をトラバース気味に伝っていく。 東側の《前鬼川渓谷》の源流部に向けてそそり立つ『五百羅漢』の巨石群は、真に圧巻の眺めである。 

この鎖場のある巨岩の基部下りは、右手前方に《阿吽の狛犬》という岩塊を見ると終わり、これより徐々に高度を上げて《掾ノ鼻》と呼ばれる巨大岩盤の上に出る。 ここから見上げる釈迦ヶ岳は、真に“山”の姿を示している。
 
迫力ある威容に生唾を飲み込んだなら、ダケカンバの茂る急傾斜を“釈迦の手のひら”へ向けて一心不乱に登りつめるだけだ。 岩の切れ間から這い出るように登り着いた釈迦ヶ岳 1800メートル の頂上は、一等三角点が示す通り遮るもののない大パノラマが広がる。
 

釈迦ヶ岳より望む
大峰の深い山なみ
 
頂上には山名の通り『釈迦如来像』が、“この雄大な眺めは我の手の内だ”と言わんばかりに片手の上に開けて立っている。 弥山・八剣山からの山なみ、高野の山なみ・・、南奥駈にそびえる緑濃き山々、節々に重量感を感じさせる台高の山なみと、四方山なみの絶景である。 しばし、絶景が広がる山頂でそよ風に当たりながら、山を踏破した充足感に身を委ねよう。 

さて、釈迦ヶ岳からは本格的な下山となり、《前鬼》の宿坊まで標高差1000mを下りきらねばならない。
釈迦ヶ岳に登り着くまでに体力をかなり消耗しているだろうから、下りの一歩一歩が足の裏にズシリと効いてくるだろう。 もし、バテてどうしようもない状態に陥ったなら、釈迦ヶ岳から下り40分の所にある《深山ノ宿》のお堂の前で“バタンキュー”も一つの手段となる。 ここには《香精水》と呼ばれる岩清水もあるので、条件的には十分だ。 但し、確実に下山口での朝のバス便には乗車できないが。

なおここは、釈迦ヶ岳での御来光目当ての幕営者が多いみたいである。 このお堂を越えると、大日岳の岩峰を分ける尾根筋まで登り返す。 大日岳は長さ三十三尋といわれる一条の鎖が掛かる“荒行の地”である。 この山の東側は絶壁となっていて展望も申し分ないので、余裕があれば登ってみよう。 
大日岳へは、所要50分位で往復できるだろう。 

大日岳の分岐を過ぎて少し下ると、《太古ノ辻》という釈丈の突き立てられた分岐に着く。 
これを直進すると『南奥駈道』に入り、笠捨山・玉置山を経て《熊野》へと向かっている。 
《前鬼》へは、進路を左に取る。 急斜面をどんどん下り、沢沿いの岩がゴロゴロ転がる歩き辛い道を伝っていく。 

途中の名勝は・・というと、《二ッ岩》(セイタカ童子岩とコンガラ童子岩が向き合っている)位だろうか。 でも、疲れがピークに達している頃なので、気にも止まらないだろう。 沢を2回渡り、寺の支配地らしい小さな祠が両脇にチラホラと現れ出すと、程なく《前鬼》の小中坊の門前に出る。
今日は、門前下に広がる快適な芝地でキャンプを張ろう。 

また最終日だし、奮発して宿坊に泊るのもいいだろう。 明日は、林道を10km歩いて朝のバス便に乗らねばならない。 早起きは必定だ。 その為にも早く就寝しよう。
 


 

空がまだ空けやらぬ内に発たないと
その日の内に帰れない
 
 《4日目》 不動七重ノ滝を見て帰路に着く
’13年現在、下山口の《前鬼口バス停》発のバス便は、今や午前と午後の僅か2便しかない。
《前鬼口バス停》のバス通過時刻は、冒頭で記した通り8:58の1便のみだ。 これを逃すと、この地に足止めとなってしまうのである。 

10kmを歩いて朝の便に間に合うには、《前鬼》の門前を5時半までに発たねばならないだろう。 
それに備えて、朝食・荷物整理・出発準備をしておこう。 《前鬼》には《三重滝》という美しい滝を訪ねる裏行場めぐりがあるが、このバス便では連泊以外には不可能という以外にないだろう。
 

美しい淵と渓流を従える前鬼川渓谷

さて、《前鬼》の門前を出ると、《前鬼川》の渓谷に沿って石畳の急坂が40分程続く。
やがて、吊橋で川を渡って林道終点に登り返す。 ここには、釈迦ヶ岳を目指す登山者の車が数台泊っている。 ここから、延々とほとんど舗装された『前鬼林道』を歩いていく。
 

名瀑・不動七重ノ滝

途中、唯一の壮観は、『名瀑百選』にも指定されている《不動七重ノ滝》であろう。 最大の第一滝は、落差70~80mはあろうか。 両側を巨大な岩盤に挟まれた中を直瀑で水量豊かに落とす様は、正に“不動明王”のようである。
 
滝前にある展望台からは、第一瀑と第二瀑が望まれる。 少し下流に歩いた所からは、第三瀑と第四瀑も望む事ができる。 これを望んだなら、後はダム湖となった《前鬼川》を見ながら延々6kmを歩いていくのみだ。 所要で、滝から1時間40分位であろうか。 

下り着いた《前鬼口バス停》には以前は売店があったが、今は廃業して何もない。 
そして携帯も圏外地域ぽいので、朝のバス便を逃すとヒッチハイク以外に手がなくなるのである。 なおバスは、《川上村》の中心にある《杉の湯》(バス会社の系列ホテル)で乗継を経た上で、近鉄吉野線・大和上市駅、又は近鉄大阪線の大和八木駅へと向かっている。
 
今回の『奥駈道』。 さすがに修験の道らしく、とてつもなく長い。 途中で見かけた道標の距離を加えていくと、今回の行程で歩いた距離の総計は何と56km。 テント持ちの私で、都合29時間歩いた事になる。 これは、ガイド本の記す所要23時間を大きくオーバーするのである。 このことからも解かるだろう。ガイド本のコースタイムは信じるなかれ。 自分のペースを把握すべき事の大切さを。

    ※ 詳細はメインサイトより『大峰・奥駈』をどうぞ。

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