風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

TOP >  名峰次選 一覧 >  名峰次選・東日本 >  名峰次選の山々 第12回  皇海山  その2

名峰次選の山々 第12回  皇海山  その2

名峰次選の山々 第12回  『144 皇海山』  栃木県・群馬県 庚申山系 2144m
コース難度 ★★★★ 体力度 ★★★★
 

見た目は雪が少ないように見えるが
ルート上はかなり雪があるのデス
 
   行程表                駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR桐生駅より鉄道(1:15)→原向駅(1:40)→銀山平(2:10)→庚申山荘
《2日目》 庚申山荘(1:10)→庚申山(2:00)→薬師岳(1:30)→鋸山(1:30)→皇海山
     (1:20)→鋸山(1:20)→六林班峠(2:10)→庚申山荘
《3日目》 庚申山荘(2:00)→銀山平(1:30)→原向駅より鉄道(1:15)→JR桐生駅
  ※ 前回皇海山 その1』の庚申山の山頂からの続き
  

奥白根山から
奥日光へ続く山なみ

元は《六林班峠》ルートと並んで皇海山のメインルートであったのだが、沼田側からの登山道が開かれてからは急激に利用が減って、踏跡もまばらな難路となってしまったのである。 事実、訪れた人の大半が折り返すこの《庚申山展望台》からは踏跡は極端に薄くなり、オリエンテーリングの指標みたいな道標も、放置されたままに朽ちて外れ落ちたモノが多く見受けられた。

こうなると、ルートを見つけるのが厄介となってくるのである。 山の鞍部に下りての樹林帯に差しかかると、残雪期ならば雪がルートを覆い隠して更にルートの発見を困難にしている。 
つまり、鞍部の窪みが雪で完全に覆われて判断が着かない状況となってしまうのである。

ちなみにこの開けた鞍部の窪地の正しいルートは、鞍部の底まで下りきらずにトラバース気味に左に展開する支尾根に取り付いていくみたいである。 だが、同じく迷った前人の踏跡が鞍部の底まで続いているケースがあり、これにつられて鞍部の底まで下りてしまうと道をロストする訳である。
 
この左に展開する支尾根をつめていくと、《鋸山十一峰》の一つ『御岳山』である。 山とは名乗ってはいるが途中の通過点に等しく、山名を記した札がなければそれとなく通り過ぎるような所である。
展望は南側は全くなく樹林の隙間から僅かに、これから登る鋸山と皇海山が望める位であろうか。
この『御岳山』から鋸山手前の目だった岩稜である『薬師岳』までは、多少の上下がある位でそれ程に問題はないだろう。 

但し、この後に通過する《鋸山十一峰》の全ての峰が通りすがりでしかない目ただぬピークで、今自分がどの辺りを歩いているか・・の実態がつかみ辛い。 唯一頂上らしきスペースを持つ『薬師岳』も、頂上サークルは登山路と離れたサークルの中にあり、何か休息場所を取るペースのつかみ辛い登路である。
 

こんなガチャガチャした岩を
上下していく

そして、いよいよこの『薬師岳』からが、鎖場連なる難路となるのである。 
少し上下して地図上で『白山』と表記されているピークと思しき峰を越えると、30~40mの懸垂下降の鎖場が現れる。
これを鎖とロープで直下降するのだが、かなり地質が脆い粘土質の岩肌のようで、足で踏ん張る度にボロボロと崩れ去っていくのである。 また、途中から鎖が布状のロープに変っているのも心許ない。
 
この鎖場は高度があるので、下りは慎重を期して頂きたい。 これを無事に下りきると『蔵王岳』との鞍部で、『蔵王岳』へは掲げられたハシゴを2~3昇ってつめていく。 なお、この鞍部の踏跡を覆うクマザサはどういう訳かよく滑り危険だ。 懸垂下降の鎖場に出くわしての興奮冷めやらぬ所で、気が浮ついてしまうからかもしれないが。

『蔵王岳』からは先程の鎖場程の難関ではないものの、鎖付の下降が現れて再び鞍部へ下る。 
下りきった鞍部から眺めると、粘土層の一枚岩で形成された岩稜が行く手を阻んでいる。 このルートのクライマックスである『熊野岳』の難所である。 ここは見た通りに脆い粘土層の岩盤で、鎖を打ち込むアングルが固定できないが為に、岩盤の全区間がロープとなっているのである。 
また登る高さは70~80mあり、見た目取っ掛かりのないようなツルツルの一枚岩なのである。

取り敢えず真下にかけられたハシゴで5m程稼ぐと、クライマックスの難路の始まりだ。 見た目通り、足の取っ掛かりの乏しい斜面である。 
ズルズルと滑り落ちる危険性のある難所なので、心して挑んで頂きたい。
 

突起となる峰があれば鎖片手に忠実に
上下する高度感満点のスリルあるコース

これを越えて『熊野岳』の頂に立つと「もう難所は終わり」と言いたい所だが、まだ『剣ノ山』というピークの上下がある。 これまでの難所と比べて格段に容易だが、ハシゴの上下と下降の鎖場がある。 
・・というか、人の抱く心理を代弁するならば、この『熊野岳』の岩峰こそが鋸山の頂上と信じ込みたくなる所であろう。

こうして更に疲れて『剣ノ山』を乗り越え、何とか鋸山 1998メートル の頂上にたどり着く。
鋸山の頂上からの眺めは格別だ。 眼前に豊かな森林を抱く皇海山がそびえ立ち、その背後には上州武尊 2158メートル や谷川連峰 1977メートル 、右手には深く刻まれた松木渓谷を挟んで白布をまとう奥白根山 2578メートル と逆光に武骨な黒光りを魅せる男体山 2484メートル が見渡せる。
眺めだけで言うならば、この山系の盟主・皇海山 2144メートル を遙かに凌ぐだろう。
 

奥白根と日光の山なみを望む

眺めは、間違いなくルート中で最高である。 正面には雄々しい弧峰を魅せる皇海山が、北側には上州武尊山 2158メートル と遙か先に真っ白な山なみを連ねる谷川連峰が・・。 そして、西側には真っ白な頂をもたげる奥白根山 2159メートル 、それとは対照的に全く雪がなく黒い地肌を魅せる男体山。
山だけではない。
 

深く刻まれた松木渓谷を前景に
奥白根と男体山の揃い踏み
 
谷や岩も魅せてくれる。 北海道・《日高》のカール地形を思い起こさせる《松木渓谷》や、崩壊により奇怪な姿を魅せる《鋸岳十一峰》の頂群。 そして、ついつい忘れがちになる“振り返り”見る情景も印象的だ。 今まで伝ってきた稜線の起伏がさざ波のように果てまで続く様は、きっと感慨をもたらす事だろう。心ゆくまで眺めを楽しんだなら、眼前にそびえる雄々しき弧峰・皇海山へアタックしよう。
 

入道の頭のように
こんもりとした皇海山へ
 
なお、〔積雪期〕だと、これよりはかなり危険を伴うので、初心者及び時間に余裕のない方はここで引き返した方が無難である。 時間の目安としては、鋸山を10時過ぎ位までには出発したいものである。 
これより遅いと、下りの峠道は暗闇を歩くハメとなろう。 

ルートは、鋸山より皇海山の鞍部まで200mほどイッキに下るのであるが、この東斜面は季節風をもろに受けて雪がべったりと乗っかっている・・。 元があの鉾のような鋸山の直下降。 鎖は付いてはいるのだろうが、完全に雪の下に埋没して姿も形もなし。 しかも、相変わらずの道標の不備である。
 
要は、雪面の直下降を適当にルートの見当をつけて下らねばならないのだ。 もちろん、滑落の危険が大いにあるので、キックステップは元より雪面上に這い出た潅木をつかみながら下らなければならない何とかこの難所を下りきると、皇海山の鞍部に出る。
 
ここは群馬県側からの最短ルートとの合流点で、大半というか・・、ほとんどがこのルートを利用して皇海山に登っているようである。 所要3時間で登れるコースが開かれた現在、栃木県側のルートはほとんど利用されず、寂れるまま現状のようになったようである。 道標や道の荒れ具合も、そういう訳ならば頷ける。 

ここからは雪はあるものの、しっかりと踏み固められたトレースのついた斜面を頂上に向けてイッキに登っていく。 所々、クマザサが進行を邪魔するものの、キツい所は適当にジグザグをきっていて安心して登れる。 但し、1ヶ所だけルンゼ状に掘れた岩の通過があり、融雪水が凍ってアイスバーンとなっている事があるので、ここだけは注意しよう。 鋸山の鉾先より高い位置にきたなら、頂上は目の前だ。 
 

皇海山頂上にて

青銅軒が突き立ててある岩があり、その裏手に出ると皇海山 2144メートル の頂上だ。
苦労して、多くの時間を費やした皇海山の頂上からの眺めは今イチ貧弱である。 見える山は奥白根山のみで、あとは雑木林に視界が遮られている。 《松木渓谷》側は開けているのだが、鋸岳で見たあの《日高》のカール地形のような眺めではなく、至って凡庸な眺めであった。 

どうやら、この皇海山という山は、キツい登りでかく汗や体験がその魅力を語る山なのである。 
従って、冒頭でも述べた通り、安易なコースでこの山に登ったならば、心には乏しい思いしか残らないだろう。 この山から登頂の“充実感”を取ると、何も残らないのである。 
 

松木渓谷方向に厚い黒雲が
こうなると落雷の危険信号

帰路は往路を戻るが、もし頂上で雷が発生していたならば要注意。 帰路は稜線上を行くので、落雷には逃げ場がない。 その時は無理をせず、沼田側から登ってきた人に下山後の車の便乗をお願いして、エスケープルートに最短コースを取ろう。 往復だと帰りも標準で5時間近くかかるが、最短ルートだと2時間余りで下ることが可能である。 なお、往路の下山なら、12時には下山を開始しなければかなりキツくなる。 時間に追われた場合も、エスケープの必要がでてくるだろう。 
 
さて、「困難な山を極める」という充実感を味わったなら、下山に取り掛かろう。 出発前にひと言忘れたが、庚申山荘まで戻る行程を選択するなら、カンテラは必需品となろう。 下山でも裕に5時間はかかるのである。 正午下山開始としても、山荘に下り着くのは日没後の6時前後である。 また、前述の如く栃木県ルートは荒れ始めてきており、根腐れ雪で埋まった穴ぼこや沢筋で分断された徒渉点があるなど、一筋縄ではいかない。 ルートも不明瞭になり始めてきているので注意が必要だ。
 
さて、出発鋸岳までは往路を戻り、鋸山からは《鋸山十一峰》の岩稜ルートと分かれて樹林帯の中に分け入っていく。 この樹林の中は方々に根腐雪が被っただけの掘れた穴ぼこが隠されてあり、踏み抜くと派手に転倒しかねないので注意が必要だ。
 
また、同じような木々が林立する中を縫うようにいくので道は判り辛い。 目を凝らしてよく見ると、朽ちるに任せてはいるがオリエンテーリングの標識みたいな道標が樹に打ち付けてあるのでこれを目当てにすればいいかもしれない。
 
道を探し、穴ぼこや木の根に躓かぬように注意しながら進むと、すぐに2時間位は過ぎ去ってしまう。
樹林帯が途切れて視界が開ける六林班峠に差し掛かる時は、積雪期ならばもう日差しが斜陽となっている事だろう。 でも、ここから庚申山荘までは裕に2時間以上かかるのである。
 

六林班峠よりの眺め
 
また、近年の気象災害によって沢筋が崩壊して深く掘れている箇所がいくつもあり、これを忠実に上下し徒渉せねばならぬので、かなり疲労が溜まる下り道である。 そして、近年の犬連れ登山などのペット犬の持ち込みにより土壌が汚染され、この地に潜むカモシカが飢えて死んでいく事態が発生している。
カモシカと思われる白骨が、ルートに横たわっているのを見る事もあるのだ。
 
詳しくは、この項目を参照頂きたい。 要するに、山野へのペットの持ち込みは野生動物を死に至らしめる人間として恥すべき重大な犯罪行為であるという事を認識頂きたい。 その一匹のペット犬の連れ込みで、一つの山の動物種が絶滅する危険があり、その事例も少なからず報告(動物コロニーの消滅)されているのだから。
 
今日は、もう山荘に泊ろう。 夕方の5~6時に着いて、更に下らねば・・という事は無理だろう。
明日は、『天下見晴』という展望地で皇海山の情景を楽しんでから、ゆっくりと駅までの12kmを下っていけばいいだろう。
 

幾何学模様に染まる山肌と
遙か遠き皇海山
 
  ※ 詳しくはメインサイトより『皇海山』の
 


関連記事
スポンサーサイト



コメント






管理者にだけ表示を許可