2012-08-22 (Wed)✎
『私の訪ねた路線』 第105回 小湊鉄道 〔千葉県〕
ユサユサ・・、ガタゴト・・
単行の気動車が
ゆっくりと走っていく
《路線データ》
営業区間と営業キロ ’12年・運行本数
五井~上総中野 39.1km 五井~上総中野 下り3本・上り4本(土・休日は6往復)
上総牛久~上総中野 下り1本(土・休日は五井始発)
五井~養老渓谷 下り4本・上り5本(土・休日は3往復)
五井~里見 1往復(土・休日上り1本運休)
五井~上総牛久 下り19本・上り18本(土・休日は11往復)
上総牛久~上総中野 下り1本(土・休日は五井始発)
五井~養老渓谷 下り4本・上り5本(土・休日は3往復)
五井~里見 1往復(土・休日上り1本運休)
五井~上総牛久 下り19本・上り18本(土・休日は11往復)
《路線史》
首都圏から2時間弱と近い位置にありながら、駅舎や車輌、そして沿線風景などに素朴な風情を魅せて、密かに人気のある路線である。 路線名の『小湊』は、建設の目的が房総半島の東部に位置する安房(当時は天津)小湊に向けての半島横断線であったからである。
だが、資金面と国鉄木原線(現在 いすみ鉄道)の上総中野までの延伸で、半島横断の目的が達せられた事により打ち切りとなったようである。
閉塞区間は都会から
2時間圏内とは思えない長閑さだ
列車には全て車掌が乗務しており、若い女性を積極的に採用している。 今はさして珍しくもない女性の車掌だが、同鉄道が女性の鉄道勤務参加の道筋をつけた先駆けとして評価を得ている。
小湊鉄道の本業は、バス事業といっても過言ではない。 房総半島の衛星都市と県都・千葉市に拡充された市街循環の路線バスは、千葉市郊外の相次ぐニュータウンの造成もあり好業績を挙げているとの事である。
駅を守護する鳥居越しに
《乗車記》
千葉県の中核都市・市原市の代表駅・五井が始発駅となる。 五井駅の西側1・2番線がJR、3・4番線が小湊鉄道の発着番線だ。 だが、ホームの番線掲示を見る前に、ホームで列車を待つ乗客を見れば一目瞭然である。
それよりも信じられないのが、JRと小湊鉄道は別の会社の路線だというのに、1・2番ホームと3.4番ホームをつなぐ跨線橋に中間改札がなく、フリーパスである事だ。 JRから小湊鉄道へ乗り換える時のJRの料金精算の機会が放棄されているのである。 まぁ、関西圏では考えられない事であるが。
都会では考えられぬ情景が
次々と現れる路線だ
さて、車体の形は阪神電車、動力系は国鉄のキハ20系と同じ・・という小湊鉄道オリジナルのキハ200系が1両ないし2両でホームに停まっている。 これに乗り込み、発車時間を待つ。 女性の車掌(男の時もある・・)が乗り込んで程なく発車。 発車と同時に、検札兼車内補充券販売となる。
都会の様相を呈する五井駅を出て暫く走ると、田園地帯に裕福そうな民家が並ぶ片田舎の風景が広がってくる。 まもなく、上総村上に着く。 見た目はローカル線の雰囲気満点の小湊鉄道だが、廃止されるローカル線と違って『現役』の路線である事が、この上総村上駅を見ただけで解る。 上総村上駅は有人駅で、列車交換設備があり、実際に列車交換も行われていたのである。 これだけで、列車本数が廃止された過去のローカル線の4~5倍の運行本数がある事が判るであろう。
次の海士有木も、交換可能の有人駅。 何でも、以前はこの駅より分岐して千葉へ延伸する予定があったというが、千葉中央(現 京成千葉)~ちはら台までで工事は凍結されている。 次の上総三又は棒線無人駅。 駅舎もログハウス調のものに建て替えられている。
次の上総山田は2005年に無人駅となったが、交換設備は残る。 駅舎は雰囲気のいい白塗りの木造駅舎だ。 この辺りまで、田圃と裕福そうな戸建住宅が並ぶ長閑な雰囲気の中をいく。 次の光風台は、ニュータウン造成に伴って新設された駅だが、そのニュータウンも造成後30年以上の時が経ち、徐々に寂れつつある・・との事である。 もちろん、交換可能駅だ。
気動車がゆさゆさと身体を揺らして
踏切通過の何気ない瞬間も絵になる
次の馬立も、白塗りの木造駅舎と交換設備を有する小湊鉄道の標準形のような駅だ。 次の上総牛久は旧 南総町の中心で、小湊鉄道線の中心駅でもある。 列車本数も全列車本数の2/3が、この上総牛久折り返しである。 また、列車交換の設備は、この上総牛久を過ぎると全くなく、閉塞方式もスタフ閉塞(通標閉塞=タブレット方式)となる。 周辺は市原市のベットタウンで、マンションや団地などの集合住宅も見られる。
上総牛久より先は先程も述べたように、終点の上総中野までの長大な一閉塞区間となっていて、1列車しか入線できない。 従ってこれ以降は、列車間隔は2時間の間隔が開く。 そして、この駅を境に周辺の状況は更に長閑な情景となっていく。
刈り取られた稲田と
列車のおりなす原風景
次の上総川間は、庇だけの待合室の棒線駅。 駅前は水田が広がっている。 次の上総鶴舞は、元交換設備があったが、相対ホームは破棄され放置されている。 『関東の駅百選』に選出された雰囲気の良い木造駅舎が建つ駅だ。 有人駅時代の木製の改札口もレトロの情景を醸し出している。
踏切の注意札が顔に
かからなければ良かったのに
次の上総久保は、駅前に大銀杏の大樹が1本立っている。 銀杏が色づく秋は、駅が黄色く輝くのである。
また、駅前は田圃だが、田圃と線路を隔てる柵には『昭和』の雰囲気を示す広告看板が掲示されている。
あの素晴らしい大銀杏も
冬は坊主でした
次の高滝は、白塗りの駅舎と撤去されたが交換設備のあった小湊鉄道の標準タイプの駅である。
近くに夏に花火大会が行われる高滝ダムがある。 次の里見は交換可能設備のあった駅で、この駅折り返しの列車も1往復設定されている。 駅舎は、小湊鉄道の標準タイプの白塗りの木造駅舎だ。
次の飯給は、花の駅として有名だ。 駅の周辺に桜の木が立ち、春は菜の花の黄色と桜の桃色が謳歌する。 だが、それを目当てに撮影にやってくる撮り鉄が多く訪れるので、時期を考慮して上手く狙わないと『人被り』な写真しか撮れないであろう。 また、田圃を挟んである神社もいい雰囲気である。
鉄道撮影にはもってこい
の情景が点在する
次の月崎も、元交換設備のあった駅だ。 無人駅となって久しい駅舎の中には文庫本コーナーが設置されていた。 ここから、小さな丘を越えるべく、やや上り勾配となっていく。
樹を活かすように撮ってみる
雰囲気で出たかな
丘の頂点をトンネルで越えると、上総大久保に向かって下り勾配となる。 周囲は広大な田園地帯で、付近の丘の上に登って俯瞰撮影もいいかもしれない。
撮影に夢中になり気がつけば
里を俯瞰できる場所に駆け上がっていた
その上総大久保は、『トトロの駅』として知られている。 駅は大き目の庇があるだけの棒線駅だが、駅待合室内は、地元の小学生によって『となりのトトロ』の絵が描かれている。 また、桜の駅としても知られている。
“トトロの駅”として有名な
上総大久保駅
次の養老渓谷は、上総牛久以遠で唯一の有人駅。 以前は2面3線の交換可能駅であったが、現在は母家寄りのホームのみの使用となっている。 この駅で、この区間の運転列車の半数が折り返す。
駅には足湯があり、乗降客は無料で利用可能との事。 また、日帰り行楽地の養老渓谷(栗又ノ滝)への最寄り駅だ。
次は終点の上総中野だ。 この上総中野で、旧国鉄木原線の第三セクター・いすみ鉄道と接続する。
上総中野では、小湊鉄道といすみ鉄道の線路は1本につながっていて乗り入れも可能だが、往来する利用客の見込みがほぼ皆無(両線を跨いで利用する者のほぼ全てが鉄道マニアである)で、実現していない。
駅前は整然としていた
この上総中野であるが、現 いすみ鉄道の旧国鉄木原線は、この駅より約10km先のJR久留里線・上総亀山と結び房総半島横断を目指していた。 一方、小湊鉄道も、社名の如く外房線の安房小湊への延伸による半島横断を目指していた。 だが、両線とも計画は挫折したものの、この上総中野で両線が接続した事で、形上の房総半島横断線が実現したのである。
終着駅の雰囲気を出してみた
だが、内陸部の過疎化と、沿岸を走る本線系統(外房線・内房線)の高速化で、房総半島横断線の意義は完全に失われたようである。 その結果、旧国鉄木原線は廃止諮問を受けた上で第三セクターに移管され、現在も廃止の影に怯えながら細々と運行されている。 一方の小湊鉄道も、平日は4往復のみの発着と、お荷物扱いの不採算区間となっているようだ。
ローカル色豊かな
昼下がりの終着駅
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