2012-08-19 (Sun)✎
名峰百選の山々 第73回 『12 カムイエクウチカウシ山』 北海道
《八ノ沢カール》までテントを持ち上げるのがキツいのなら、ここでキャンプをして“空身”の楽な身なりでカムエクまで往復するのも一つの手だ。 だが、カムエクまで往復10時間はかかるので、それなりの覚悟は必要だ。 これより《八ノ沢》をつめていき、“夢の楽園”《八ノ沢カール》に向う。 いよいよ本番だ。
岩がゴロゴロして歩き辛い河原を、徒渉を何度も絡めながら登っていく。 今までの札内川本流遡行と違い、目印となる“リボン”の数もめっきり減って、かなりのルートファインディングが必要となってくる。
徒渉地点・土手を高巻く地点・岩を飛び越える地点と、歩く事の全てに“経験に元づく勘”が必要だ。
途中、藪コギなどもあり、距離の割に大いに時間を食うが、ここは辛抱してひたすら歩こう。
日高山系(日高山脈襟裳公園) 1979m コース難度 ★★★★★ 体力度 ★★★★
八ノ沢カールを中央に従え
威風堂々の憧れの峰・カムエクへ
十勝幌尻岳より
カムイエクウチカウシ山 登山ルート行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 中札内村・上札内より車(0:35)→ 札内ヒュッテ(1:20)→七ノ沢出合
(1:40)→八ノ沢出合(2:10)→1000m三股(2:30)→八ノ沢カール
《2日目》 八ノ沢カール(2:00)→カムイエクウチカウシ山(1:40)→八ノ沢カール
《3日目》 八ノ沢カール(2:20)→1000m三股(2:10)→八ノ沢出合(1:40)→七ノ沢出合
《2日目》 八ノ沢カール(2:00)→カムイエクウチカウシ山(1:40)→八ノ沢カール
《3日目》 八ノ沢カール(2:20)→1000m三股(2:10)→八ノ沢出合(1:40)→七ノ沢出合
(1:20)→札内ヒュッテより車(0:35)→中札内村・上札内
《1日目》 七ノ沢出合から八ノ沢カールへ
どんな山に登る時もそうだが、できるだけ早立ちするのが望ましい。 しかし、上札内に宿屋はなく、宿泊となると帯広となり早立ちは不可能だ。 そこで登山前日は快適!?な《札内ヒュッテ》に泊り、翌朝は夜明けと共に出発しよう。
《札内ヒュッテ》よりは、一般車両は進入禁止なので林道を歩いていく。 札内林道は『道道・静内-上札内線』として、日高山脈をぶち抜くべく工事が進められていた。 しかし、相当な難工事だった事と、同じく日高山脈を貫いて浦河~広尾を結ぶR236号線の天馬街道が開通した事で、不要不急道路として凍結されようである。 現在の林道終点は、《七ノ沢出合》のダムである。 ダムの堰堤を越えると、いきなり徒渉が始まる。 従って、《沢靴》と《ピッケル》は絶対の必需品だ。
どんな山に登る時もそうだが、できるだけ早立ちするのが望ましい。 しかし、上札内に宿屋はなく、宿泊となると帯広となり早立ちは不可能だ。 そこで登山前日は快適!?な《札内ヒュッテ》に泊り、翌朝は夜明けと共に出発しよう。
《札内ヒュッテ》よりは、一般車両は進入禁止なので林道を歩いていく。 札内林道は『道道・静内-上札内線』として、日高山脈をぶち抜くべく工事が進められていた。 しかし、相当な難工事だった事と、同じく日高山脈を貫いて浦河~広尾を結ぶR236号線の天馬街道が開通した事で、不要不急道路として凍結されようである。 現在の林道終点は、《七ノ沢出合》のダムである。 ダムの堰堤を越えると、いきなり徒渉が始まる。 従って、《沢靴》と《ピッケル》は絶対の必需品だ。
水量の多い札内川本流を徒渉する
七ノ沢のよどんだ流れを渡ると、札内川本流の大瀬に向って遡行していく。 本流の徒渉は八ノ沢出合まで4~5回だが、いずれも水量が多く流れも速いので、流れに足を取られて転倒しないように注意しよう。 最初の本流徒渉を終えると、中洲の河原や水量の少ない支沢をたどっていく。
途中、土手に入っていく所や徒渉地点など、道の変わり目には“リボン”が結ばれているので見落とさないように遡行していこう。 ルートは《八ノ沢出合》までのほぼ中間地点で本流を渡り、対岸の土手に上がって樹林帯を歩いていく。 尾根側の土手が大きく迫り出してくると、《八ノ沢出合》は近い。
途中、土手に入っていく所や徒渉地点など、道の変わり目には“リボン”が結ばれているので見落とさないように遡行していこう。 ルートは《八ノ沢出合》までのほぼ中間地点で本流を渡り、対岸の土手に上がって樹林帯を歩いていく。 尾根側の土手が大きく迫り出してくると、《八ノ沢出合》は近い。
この尾根の土手を過ぎる所で、札内川を渡り返して《八ノ沢》に入っていく。 《八ノ沢》の合流口付近を徒渉すると、いいキャンプサイトとなっている《八ノ沢出合》だ。
《八ノ沢カール》までテントを持ち上げるのがキツいのなら、ここでキャンプをして“空身”の楽な身なりでカムエクまで往復するのも一つの手だ。 だが、カムエクまで往復10時間はかかるので、それなりの覚悟は必要だ。 これより《八ノ沢》をつめていき、“夢の楽園”《八ノ沢カール》に向う。 いよいよ本番だ。
岩がゴロゴロして歩き辛い河原を、徒渉を何度も絡めながら登っていく。 今までの札内川本流遡行と違い、目印となる“リボン”の数もめっきり減って、かなりのルートファインディングが必要となってくる。
徒渉地点・土手を高巻く地点・岩を飛び越える地点と、歩く事の全てに“経験に元づく勘”が必要だ。
途中、藪コギなどもあり、距離の割に大いに時間を食うが、ここは辛抱してひたすら歩こう。
1000m三俣の大滝
この滝の右側を登っていく
やがて、遠目に見えていた《八ノ沢カール》が見えなくなるまで沢をつめると、落差100mはあろうかという三筋の無名滝が瀑布を掛けている“崖”にぶち当たる。 ここが《1000m三股》だ。
これから、この無名滝の中央の滝を上がっていかねばならない。 数少ない“リボン”の指示に従って、中央の滝の右側の土手を“文字通り”急登する。
途中、滝に合流する沢をよじ登ったり、滝のそばにある一枚岩を登ったりしながら、滝上部の沢に上がっていく。 この登りは滝の水で滑りやすく、かなり危険だ。 この地点は、雨が降った時は絶対に登降してはいけない。 増水すると、滝が鉄砲水となって襲ってくるからだ。
八ノ沢カール直下の無名滝
裕に落差50mはある
滝の上部に登り着くと、樹林帯と岩崖を絡めて《八ノ沢カール》から流れ落ちる沢に出る。
この沢を徒渉し、あるいは高巻くなどして着実に登りつめると、お花畑の広がる“夢の楽園”《八ノ沢カール》の下手に出る。 ここで沢から離れてお花畑の中にある踏跡を登っていくと、“夢の楽園”が眼前に広がってくる。
この沢を徒渉し、あるいは高巻くなどして着実に登りつめると、お花畑の広がる“夢の楽園”《八ノ沢カール》の下手に出る。 ここで沢から離れてお花畑の中にある踏跡を登っていくと、“夢の楽園”が眼前に広がってくる。
八ノ沢カール壁に咲く花々
ハクサンチドリ ミヤマリンドウ ウメバチソウ
“スプーンでえぐった”ようなカール壁にのっかる雪渓。 これが《八ノ沢》の源となるのだ。
そして、広がるお花畑。 カール壁の上にそびえるカムイエクウチカウシ山。 この神秘的な情景の中、キャンプを張って一夜の夢を結ぼう。
そして、広がるお花畑。 カール壁の上にそびえるカムイエクウチカウシ山。 この神秘的な情景の中、キャンプを張って一夜の夢を結ぼう。
八ノ沢カールより眺める
通称“ピラミット峰”
コバイケイソウ越しに望む日高の山なみ
《2日目》 カムイエクウチカウシ山 往復
《八ノ沢カール》の神秘的な夜明けを満喫したなら、“カムエク”と愛称されるカムイエクウチカウシ山に登ってみよう。 カムイエクウチカウシ山へは、“ピラミッド峰”と呼ばれる峻峰との鞍部に向ってカール壁のお花畑の中を登っていく。 この登りはカール壁を登るにしては傾斜が緩く、お花畑を見ながらゆっくり登れる。
《八ノ沢カール》の神秘的な夜明けを満喫したなら、“カムエク”と愛称されるカムイエクウチカウシ山に登ってみよう。 カムイエクウチカウシ山へは、“ピラミッド峰”と呼ばれる峻峰との鞍部に向ってカール壁のお花畑の中を登っていく。 この登りはカール壁を登るにしては傾斜が緩く、お花畑を見ながらゆっくり登れる。
端正な三角錐を示すピラミッド峰
だが、緩い傾斜地は、得てしてヒグマがよく出没する所でもあるのだ。 運悪くヒグマとバッタリ遭遇してしまったなら、その時は覚悟を決めて“闘う”構えで睨みつけるしかないであろう。 不意に遭遇せぬ為にも、こちらの居場所をヒグマに悟らせる“クマ避けの鈴”は絶対の必需品だ。
この《八ノ沢カール》周辺は、日高山域の中でもとりわけヒグマが出没する“クマの巣”として有名だ。
1970年に福岡大学のパーティがヒグマに襲われて、3人が犠牲になったそうだ。 《八ノ沢カール》の幕営地にある岩にはレリーフが掲げられ、山に眠る3人が祀られている。
山の鎮魂歌
大自然に抱かれて安らかに眠れ・・
さて、お花畑のカール壁を登りきると、“ピラミット峰”を先頭に日高国境稜線の山々が視界に広がってくる。 また、緑豊かな《コイボクカール》も前面に押し出してくる。 しかし、歩きよいのもここまでだ。 ここからは、ハイマツのブッシュや真下に《コイボクカール》が待ち受ける切り立ったカール壁の通過など、緊張する道が続く。 ハイマツの根に足をからまれつつ、岩をよじ登る・・といった感じでカール壁の急登を登っていく。
未知のカール・コイボクカールを見下ろす
こうして、ピラミッド峰から見上げて、カール壁の頂点と思しき所に登り着く。 だが、まだ終わりではない。 “見かけのカール頂点”に登りついたなら、下からは見えなかったカール壁の突起が次々と現れ、その都度急登が課せられる。 だが、晴れていたなら眺めは満点だ。
鶴翼の如く尾根を広げる
カムエク西南尾根
《コイボク》・《八ノ沢》と2つのカールに突き上げられたカール壁からは、2つのカールは元より、日高の山なみ、そして遠くにそびえる大雪の山々と展望が360°広がる。 この足元を気にしながらの“山遊漫歩”を続けると、ハイマツと岩場はいつの間にか過ぎ去り、斜面一帯に広がるお花畑の道となる。
あとは、このお花畑の急斜面を突っ切るように登っていけば、日高の一番“奥深き”山、そして“憧れ”やまなかった山、カムイエクウチカウシ山 1979メートル の頂上に立つ。
憧れのカムエクの上に立つ
このカムイエクウチカウシ山は一等三角点を持ち、日高山脈の中央に風格ある姿を魅せる名峰だ。
だが、この“憧れ”の山の上に立つには、これまでに述べたような困難が伴う。 それゆえ、この頂に立った時の喜びは、言葉では言い表せないだろう。
だが、この“憧れ”の山の上に立つには、これまでに述べたような困難が伴う。 それゆえ、この頂に立った時の喜びは、言葉では言い表せないだろう。
カムエクの頂より望む
日高の未開の山々
ピラミッド峰の背後に
1823峰が
カムイエクウチカウシ山の頂上を
示すものは三角点の石柱だけ
と侘しい限りだ
しかし、残念なことに山頂には一等三角点の石柱があるだけで、山頂を示す表示は全くなく(2002年に再訪した時は山名を示すキロポストのような標柱があった)、“アリバイ写真”は撮れそうにないのである。
帰りは、お花畑を楽しみながら往路を着実に戻ろう。 お花畑には、ウメバチソウ・チシマフウロ・エゾウサギギクなどの花が咲き競っている。 また、時期さえ合えば、カムイビランジ・ヒダカソウ・ヒダカイワザクラなどの日高山脈の固有種も咲いている事だろう。 でも、お花畑に見とれて足元が疎かにならないように。
カール壁上はお花畑が広がる
お花畑と国境稜線の贅沢な眺めを楽しみながら下ると、あっという間に《八ノ沢カール》に戻り着く。
余裕があれば、このままテントをたたんでイッキに下山も可能だが、都合10時間の徒歩となるので慎重に判断しよう。 下山の場合はかなりの早立ちを強いられ、また頂上稜線でのゆとりもあまりない。
そして、沢を下降する午後には、夕立に降られる可能性も高くなる。 増水時の沢が危険なのは、前にも述べた通りである。
それよりも、せっかくここまでやってきたのだからもう一夜、“夢の楽園”であるカールで夢を結んでもいいのではないだろうか。 もし、夜明けの神秘的な景色を見ていないのなら、尚更である。
“夢の楽園”・八ノ沢カールで迎える朝
《3日目》 八ノ沢を下って七ノ沢出合へ
カールの夜明けは、どうしてここまで神秘的なのだろう。 その素晴らしき光景に、しばし言葉を失う。
朝露を浴びた花が、淡い朝の光を浴びてより一層光り輝く。 陽が昇るにつれ、カール壁が紫色から赤色、そしてクライマックスのオレンジ色を経て眩い黄金色に変わっていく“七色の変化”も神秘的で、これを目にした感動は言葉では言い尽せない。
カールの夜明けは、どうしてここまで神秘的なのだろう。 その素晴らしき光景に、しばし言葉を失う。
朝露を浴びた花が、淡い朝の光を浴びてより一層光り輝く。 陽が昇るにつれ、カール壁が紫色から赤色、そしてクライマックスのオレンジ色を経て眩い黄金色に変わっていく“七色の変化”も神秘的で、これを目にした感動は言葉では言い尽せない。
朝日に染まる八ノ沢カール壁は神秘的だ
また、遠くにそびえる日高の未開の山々も、オレンジ色から黄金色に変わりゆく空の中、美しい三角錐の姿を魅せてくれる。 そして、あまりにも見事な三角錐の姿を誇る“ピラミッド峰”にカールから湧き立つ雲がかかり、空の色の七変化と相まって神秘的な情景を魅せてくれる。
カールより望む日高の未開の山なみ
朝日に染まるチシマフウロ 朝日は風景を神秘的にする
そして、陽が昇って“早朝”から“朝”へとなると、この限りなく神秘的な情景も一段落する。
一段落した所で、いつまでも飽きないこの情景ともそろそろお別れだ。 テントをたたんで出発の準備に取りかかろう。
陽の光が高くなれば
そろそろ下りにかかろう
十勝幌尻岳を見ながら
沢を下っていこう
カールのお花畑を下ると、《八ノ沢》が寄り添ってくる。 この沢を往路の通り下っていく。
沢は札内川に向って、山を深く刻んでとうとうと流れ落ちている。 振り返ると青空の下、沢のしぶきが光り輝いている。 心安らぐ情景だ。 しかし沢下りは、登り以上に滑りやすく危険だ。
また、登り以上に時間がかかり、緊張が続くので精神的な負担も大きい。 下り調子で飛ばしていくと大ケガの元だ。 ゆとりを持って慎重に行こう。 特に、《1000m三股》の無名滝への下りは一枚岩の下降もあり、足の取っ掛かりを見つけるのに苦労する。
距離の割に時間を食うこの《八ノ沢》の沢下りも、《八ノ沢カール》と“カムエク”が背後に見えるようになると、札内川が近づき終わりを告げる。 《八ノ沢出合》からは、避暑も兼ねて札内川本流をゆっくり徒渉していこう。 本流の徒渉は水量が多いので気を引き締めていこう。
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