2012-08-16 (Thu)✎
名峰次選の山々 第69回 『116 日高・1839峰 その1』 北海道
日高山系(日高山脈襟裳国定公園) 1842m コース難度 ★★★★★ 体力度 ★★★★★
遥かなる日高の峰々が載る地形図
当初は赤線の通り歩こう・・と考えていたのだ
国土地理院 1/25000 より引用
行程表 ※ この行程表は現役バリバリ時のモノです
今はこの様な行程はとても無理です
《1日目》 中札内村・上札内より車(0:35)→札内ヒュッテ
(2:30)→コイカクシュサツナイ沢・上二俣
(3:30)→コイカクシュサツナイ岳・夏尾根ノ頭(3:20)→ヤオロマップ岳
《2日目》 ヤオロマップ岳(3:30)→1839峰(3:30)→ヤオロマップ岳
《2日目》 ヤオロマップ岳(3:30)→1839峰(3:30)→ヤオロマップ岳
(3:00)→コイカクシュサツナイ岳・夏尾根ノ頭
《3日目》 コイカクシュサツナイ岳・夏尾根ノ頭(2:20)→コイカクシュサツナイ沢・上二俣
《3日目》 コイカクシュサツナイ岳・夏尾根ノ頭(2:20)→コイカクシュサツナイ沢・上二俣
(2:30)→札内ヒュッテより車(0:35)→中札内村・上札内
《1日目》 コイカク沢よりヤオロマップ岳へ
この行程を記述する前に、自分の『日高』に対する“甘さ”を反省しなければならないだろう。
それは、実際の所要時間からも判るように、一般の山ガイド本(1839峰は一般コースとは言い難いので、“一般のガイド本”とはいえないが・・)設定の1.5倍の時間を裕に必要とするのである。
この行程を記述する前に、自分の『日高』に対する“甘さ”を反省しなければならないだろう。
それは、実際の所要時間からも判るように、一般の山ガイド本(1839峰は一般コースとは言い難いので、“一般のガイド本”とはいえないが・・)設定の1.5倍の時間を裕に必要とするのである。
また、ブッシュの量も猛烈に多く、指呼の先に見える山でさえ3時間以上の時間を要するのも“当たり前”なのである。 “見込み”でガイド本などのコースタイムを記載した自分の浅はかさを恥じつつ、この山行での“苦闘”を記述したいと思う。
前述のように、この山系への行程スパンは概ね3時間とする事ができる。 従って、“1日にどれだけのスバンをこなせるか”という事が鍵となろう。 それと、日高の山で最も気掛かりなのが天候である。
雨は沢の増水を呼び、最後には沢での“缶詰”(沢の増水で下山できない事)さえ有り得るという事だ。
雨は沢の増水を呼び、最後には沢での“缶詰”(沢の増水で下山できない事)さえ有り得るという事だ。
場所は違えど、筆者も札内川・八ノ沢で四日間の“缶詰”を食らって“ヘリのお世話”になった怖ろ恥ずかしい経験がある。 それゆえに、山行前の天候の動向と一日に歩く行動計画は入念に立てて頂きたい。
それでは、ガイドを始めよう。
今日の行程は10時間近くを要する《超ハード行程》である。 前日に《札内ヒュッテ》までのアプローチは当たり前の事として、出発はできるだけ早くしたいものである。 ’97年の札内川ダム完成により新しく建て替えられたヒュッテ(山小屋としての雰囲気は、水没した旧ヒュッテが断然上である)から、これまた立派なトンネルと舗装道路を400m程行くと登山口がある。 登山口といっても、これより沢をつめていくので、ただ川が流れているだけの所ではあるが。
今日の行程は10時間近くを要する《超ハード行程》である。 前日に《札内ヒュッテ》までのアプローチは当たり前の事として、出発はできるだけ早くしたいものである。 ’97年の札内川ダム完成により新しく建て替えられたヒュッテ(山小屋としての雰囲気は、水没した旧ヒュッテが断然上である)から、これまた立派なトンネルと舗装道路を400m程行くと登山口がある。 登山口といっても、これより沢をつめていくので、ただ川が流れているだけの所ではあるが。
中部日高へのメインルート
コイカクシュサツナイ沢
道路建設の資材置場跡(現在は、登山者の駐車場)より沢に入っていく。 これより遡るコイカクシュサツナイ沢は比較的水量が少なく、また広い中州が多くあるので、沢の遡行としては初心者向けである。
だが、一部のガイドが言うように、“水量が少なければ登山靴でも渡れる”といったようなことは絶対に有り得ないので御注意を。
尾根の取付となる《上二俣》まで、技術に応じて数回から数十回の徒渉がある。 ワテとしては、幕営装備一式の重荷を背負って飛び石伝いに飛んでいくのは如何なものか!?と思うので、飛び石伝いなど無理せず徒渉した方がいい・・と考えるが。
沢の道中、砂防ダムと函状に迫った所が2ヶ所の計3ヶ所の高巻きがあり、きわどい所はこれによって難なく通過できる。 概ね、二つ連続する函の高巻き地点が、《上二俣》までの中間点である。
沢の順調につめていくと沢が二つに分かれていて、その中央から夏尾根に向って一直線に伸びている“ドン突き”に出る。 ここが、日高の山への取付点《上二俣》である。 《上二俣》は二張り程度ならテントも設営できるので、水のあるビバークサイトとしてはうってつけである。
さて、右俣に入ってすぐに土手に上がると、そこからは『日高』特有のイッキ登りが始まる。
徒渉靴から登山靴に履き替えて、水を4㍑は補給していこう。 この先、水が入手できる保証はないのである。
さて、右俣に入ってすぐに土手に上がると、そこからは『日高』特有のイッキ登りが始まる。
徒渉靴から登山靴に履き替えて、水を4㍑は補給していこう。 この先、水が入手できる保証はないのである。
コイカク沢・上二俣より見上げる
コイカクシュサツナイ岳
取付点より深いササやぶを漕いでいくと、本州の中央高地の山とは比べ物にならない猛烈なイッキ登り(約3kmで標高差1050mを登りつめる)が始まる。 しかも、先程水を持てるだけ補給したので、その分の荷重がモロに肩に食い込み、ふくら脛が悲鳴を上げるのは必定だ。 また、見通しが利かない樹林帯の中の蒸し暑い登りで、見る見る内に体の水分が汗として搾り取られる。
何でもシーズン中は、毎日のようにこのルートを行く中高年の“日高初心者”が、脱水症状や熱中症で『ヘリのお世話』になっているそうである。 “沢で缶詰を食らって”の救助ならいざ知らず、体力面でお世話になるようでは、その者にとっては『日高』は決して足を踏み入れてはならぬ領域だと肝に銘じるべきだろう。
何でもシーズン中は、毎日のようにこのルートを行く中高年の“日高初心者”が、脱水症状や熱中症で『ヘリのお世話』になっているそうである。 “沢で缶詰を食らって”の救助ならいざ知らず、体力面でお世話になるようでは、その者にとっては『日高』は決して足を踏み入れてはならぬ領域だと肝に銘じるべきだろう。
ウメバチソウ
もう秋の気配が漂っている
約1時間半ほど登ると、心なしか傾斜が緩くなりひと息着けるようになる。 この辺りから、少しづつハイマツが現れ始める。 今の段階では“カワイイ”ものだが、これが国境稜線に出ると行く手を阻む“困難”となるのだ。 徐々に傾斜が緩くなって、やがて標高1305m地点のビバーク可能な小空地に出る。
ここが尾根上で唯一、腰を下ろして休憩できる所だ。
これより先は、再び急登高となる。 休憩した小空地から、またもや空に向って反り上がっている尾根を見ると、これより先の苦闘も想像に難くないだろう。 150m程イッキ登りすると、樹林帯を抜けて裸岩の突き出した痩せ尾根の上を行くようになる。 ハイマツをつかみ、踏みしめながらこの岩尾根をつめていくと、台形状の様相を魅せるコイカクシュサツナイ岳が左正面に見えるようになる。 ここまでくれば、ハイマツの根に足を取られるものの、一投足で《夏尾根ノ頭》に出る事ができる。
これより先は、再び急登高となる。 休憩した小空地から、またもや空に向って反り上がっている尾根を見ると、これより先の苦闘も想像に難くないだろう。 150m程イッキ登りすると、樹林帯を抜けて裸岩の突き出した痩せ尾根の上を行くようになる。 ハイマツをつかみ、踏みしめながらこの岩尾根をつめていくと、台形状の様相を魅せるコイカクシュサツナイ岳が左正面に見えるようになる。 ここまでくれば、ハイマツの根に足を取られるものの、一投足で《夏尾根ノ頭》に出る事ができる。
1839峰へは望む全ての稜線を
越えていかねばならない
《夏尾根ノ頭》からは、憧れの山・カムイエクウチカウシ山 1979メートル から、1823峰 1826メートル を経て足元まで連なる緑濃き日高の国境稜線が見渡せる。 さすがに“カムエク”はデカく、風格・威圧感も他の山々とは抜きん出た存在である。 鶴翼を両側に広げるが如く、均整の取れた長い尾根がそう魅せるのだろう。
1823峰の背後には
鶴翼を広げるが如く
“憧れの山”のカムエクが
そして振り向くと、1839峰 1842メートル が『漆黒の鉄兜』の如く、派生尾根の先に突き出している。 2000mに満たない山々なれど、南アルプスの間ノ岳や塩見岳などの雄峰の容姿を彷彿させるものがある。 いや、ここまでたどり着くのが困難なゆえ、よりスケール感が胸に込み上げてくるだろう。
さて、夏尾根の頭からコイカクシュサツナイ岳 1721メートル までは僅か10分程であるが、お花畑を愛でながらの快適な稜線歩きだ。 コイカクシュサツナイ岳の頂上は狭いながらも段々状になっていて、昼寝には頃良い所だ。 この山までなら日帰りも可能なので、地元のベテラン登山者などの昼寝場所となっている。
延々とブッシュの続く
ヤオロマップまでの道
沢遡行を1つのスパン、上二俣からここまでを2つめのスパンとすると、今日最後の難関がこれから行くヤオロマップ岳までの道程だ。 今までの疲れに加えて、いよいよ“ハイマツのブッシュ漕ぎ”という日高国境稜線の洗礼を受けるのである。
コイカクシュサツナイ岳の頂上より、ヤオロ最低鞍部まで約160m下降するのだが、下るごとにハイマツの枝が膝や脛を叩き始める。 そして、標高が1500m台に突入すると、膝の位置を叩いていたハイマツの丈が上がり、腹や胸はおろか顔まで叩き始める。 それに加えて、ザックに引っ掛かったりして、なかなか前に進めない。
コイカク岳から指呼の先に見えたヤオロマップの前衛峰は、まだ遙か先の高みにある。
ブッシュをもみ分けながら最低鞍部(標高1560m)を越えると、今度はブッシュのしなりをモロに正面から受ける“登り”となる。 手足をフルに使って掻き上がる登りは、泳いでいるも同然だ。
ブッシュをもみ分けながら最低鞍部(標高1560m)を越えると、今度はブッシュのしなりをモロに正面から受ける“登り”となる。 手足をフルに使って掻き上がる登りは、泳いでいるも同然だ。
それ故に、想像以上に困難で疲れるのだ。
途中、ヤオロマップ右俣の源頭が函状の断崖となって突き上げる《ヤオロの窓》に差しかかる。
今までハイマツに隠されて高度感を麻痺させられたせいだろうか、これを覗き込むと吸い込まれそうな感覚を覚え身が竦む事だろう。
今までハイマツに隠されて高度感を麻痺させられたせいだろうか、これを覗き込むと吸い込まれそうな感覚を覚え身が竦む事だろう。
美しい紫を魅せる
ミヤマリンドウ
この間、幾つかのビバーク適地(いずれも、テント1張りが限界)を目にして、疲れも手伝って“ここらでダウン”の衝動にかられる。 だが明日は、もっと凄いブッシュ漕ぎだ。 こんな所で立ち止まっていては、右の空に穏やかにそびえる1839峰は“果てしなく遠い”ままとなる。 もう、ひとふん張り頑張ろう。
《ヤオロの窓》を越えてひと登りすると、ヤオロの前衛峰の上に出る。 ここまで来ると、標高の上でコイカク岳より高くなり、ハイマツの勢いも徐々に鎮まってくる。 そして、ようやくヤオロマップ本峰が眼前に現れる。 この前衛峰で向きを変えて、支峰を一つ隔ててヤオロマップ岳まで、吊り尾根状の細い稜線を伝っていく。 岩とハイマツのゴチャゴチャした稜線だが展望は良く、360°日高の深い山なみを見渡せるだろう。
もっとも、かなり疲れているのも事実で、それどころではないかもしれないが。
素晴らしい展望を望みながら、穏やかな姿を魅せる1839峰への稜線がつながるピークを目指そう。
そのピークこそが、今日の終着点・ヤオロマップ岳 1794メートル である。
素晴らしい展望を望みながら、穏やかな姿を魅せる1839峰への稜線がつながるピークを目指そう。
そのピークこそが、今日の終着点・ヤオロマップ岳 1794メートル である。
ヤオロマップ岳より望む
南日高・ぺテガリ岳
なお、ヤオロマップ岳頂上周辺は、3~4張り程のビバークサイトがある。 しかも、十勝側を10分(かなり急である)下れば、チョロチョロの岩清水ではあるが水を得る事ができる(これとて、通年の保証はないが)稜線きってのビバークサイトである。 “遙かなる山”・1839峰に向けて、明日もハード極まる行程だ。 早めに休んで体の疲れを取ろう。
1839峰の稜線には
“踏跡”は確認できない
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