風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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日本の滝を訪ねて 第57回  奥香肌峡 その2 宮ノ谷峡

日本の滝を訪ねて 第57回  奥香肌峡 その2 宮ノ谷峡 〔三重県〕
 

春萌える
高滝にて
 
  奥香肌峡・宮ノ谷峡 おくかはだきょう・みやのたにきょう 三重県松阪市(旧 飯高町)
 
前回のヌタハラ谷遡行の続きである。 ヌタハラ谷も沢登り中級以上レベルの難関なのだが、これより下降に使うルートも、入山する人の稀な台高山地を伝って三重県の渓谷でも転落死者が続出している魔の谷の下降・・と、スリリングな内容となっている。 しかも、この山域には寝泊りする施設は皆無で、寝具・食料一式を担いでの行動が必要となる。 前回も述べたが、「命の危険もある難所である」という事を念頭において、このルートの探勝に当たって頂きたい。
 

今回の遡行ルートの行程図

   行程表              駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 橿原市街より車 2:00)→蓮峡・ヌタハラ谷出合(1:40)→夫婦滝(1:50)→不動滝
     (0:30)→二俣(1:30)→桧塚奥峰(1:00)→明神岳(0:20)→明神平
《2日目》 明神平(0:20)→明神岳(0:20)→笹ヶ峰(2:00)→赤倉山(1:10)→池木屋山 
     (1:20)→奥ノ二俣(1:00)→高滝(1:20)→蓮峡・宮ノ谷林道終点 
     (0:45)→蓮峡・ヌタハラ谷出合より車(2:00)→橿原市街
  ※ 《1日目》行程 『第56回 奥香肌峡 その1 ヌタハラ谷』 からの続き
 
  《2日目》 台高縦走路を通って宮ノ谷峡から下山
今日の行程は《台高縦走路》を伝って、池木屋山より秀渓・《宮ノ谷峡》を下るロングランコースだ。 
山上風景あり、シャクナゲの花あり、瀑布あり、そしてスリル満点の滝側面の岩壁下りあり・・と、低山帯の縦走ながら魅力いっぱいのコースである。
 

ブナの原生林が朝日に映える

・・このコースは、歩行距離18km・実質歩行距離8時間強とかなりのハード行程であるので、《明神平》の出発は日の出と共に・・というのがベストであろう。 柔らかい朝の光が《明神平》の草原やブナの原生林を美しく染め上げる中を歩いていく。 約20分ほど緩やかに登っていくと、この山行の最高標高点である明神岳 1432メートル の頂上である。 だが、残念なことに、ブナの原生林に覆われて展望はあまり良くない。 

明神岳の頂上で桧塚への道を分けると、縦走路は痩せ尾根の急下降となる。 両側にブナが林立しているものの、下がスッパリと切れ落ちて緊張する。 
ブナの原生林が周囲を取り囲み、展望が利かぬまま100mのオーダーで下って登り返すと笹ヶ峰 1367メートル だ。 ここも、ブナの原生林に囲まれて展望はない。 だが、朝日が程よくブナの樹木を照らして雰囲気は上々だ。 

縦走路は笹ヶ峰山頂で左に折れて、朝の光で輝くブナの並木の中に突っ込んでいくように急下降する。
これを下りきって登り返すようになると、道幅も広くなり展望も良くなる。 待ちに待った山岳展望だ。 
薊岳 1406メートル ・白鬚岳 1378メートル 、そして遠くに大台ケ原の峰々を望みながら歩いていこう。
 

特徴あるトンガリ峰を
突き出す薊岳
 
途中にはヤシオツツジの白い花が山岳風景に彩りを添える名景もあり、ついつい足を止めて見入ってしまうことだろう。 笹ヶ峰から下った分に割り増しを加えて登り返すと、再び樹林に覆われた千石山 1380メートル の頂上に着く。
 

ヤシオツツジの白い花を前景に
山なみが連なる
 
当然の事ながら、展望は全くといってない。 これだけでは“ただの通過点”でしかないのだが、この山頂で縦走路は直角に右折しているので道を見失いやすい(道標も直角に折り曲げられて、直視で視認できない)。 道を見落として直進しないように注意しよう。 万が一(筆者のように!?)直進してしまったなら、道指標のリボンが激減して道も痩せて悪くなる(たぶん、このルートは千石谷からの直登ルートであろう)ので、おのずと判る事であろう。 

千石山で右折すると、道はスリップする程の急坂で150m下っていく。 イバラをつかみながらこの急下降をこなすと、キャンプ可能な大斜面が左横に広がる鞍部に着く。 ここは水場があるという事なので、飲料水の持ち合わせが乏しければ補給しておこう。 さて、鞍部からは、急激に下った分を段に分けて少しづつ取り戻す要領で登り返していく。 登っていく毎に、緑豊かな千石山の山容が視界に広がってくる。
 

未開の深い自然に包まれた
山々を望んで
 
これが千石山の頂上と同じ位の目線になると樹林帯に潜り込んで、程なく赤山 1394メートル の頂上を踏む。 この頂も、今までの如く樹林帯に囲まれて全く展望はない。 赤山からの下りも急下降で、どうやらこの山陵は南面が急斜面で、それに対する北面は緩やかな非対称山陵を形成している事が判る。
もちろん、左右両側を占める東側と西側は、《奥ノ平谷》などの源流渓谷が稜線直下まで突き上げる目も眩むような険悪な谷筋だ。 

赤山より下って鞍部に出ると、この山系の抱く地形の通りに北面を緩やかに登り返していく。 
奥ノ平峰・千里峰・霧降山・・と、標高も記されぬ高みをそれとなしに越えると池木屋山への取付だ。 
この取付の手前で今まであまり展望の開けなかった東面の展望が良くなるので、ひと息入れるには頃合であろう。 取り付くと、ブナの原生林が周囲を覆い始めて鬱蒼とした雰囲気となってくる。 

その奥ほどに、山名の由来となった《コヤ池》と小屋跡地が現れる。 もはや“ヌタ場”となった《コヤ池》と跡形もない小屋跡の情景は、周囲の深いブナの原生林とあいまって更に重々しい雰囲気を漂わせている。
 

“いぶし銀”の名峰
池木屋山の山頂にて
 
ここからほんの10分、ひと踏ん張りすると池木屋山 1396メートル 頂上だ。 この頂上も大台ケ原方面が辛うじて望めるだけで、眺望はいいとは言い難い。 流れからすると展望は途中の稜線上が良くて、山頂はことごとく良くないようである。

さて、ここから左に折れて《宮ノ谷渓谷》に下る。 なお、縦走路は《大台ケ原》まで延々と続いていくとの事であるから、チャレンジスピリットの旺盛な方はチャレンジして頂きたい。 
聞く所によると、かなりの“悪路”との事であるが。
 

池木屋山頂上は
大台ケ原の展望が少しあるのみ
 
池木屋山から渓谷の起点である《奥ノ二俣》まで、標高差にして580m。 これを2.5kmで下りきる事から、かなりの急坂が想像される。 そして、この悪い予感!?の通り、木の根を踏みしめての段差の大きい下降や、反復幅の小さなつづら折りが連続するザレ場の急下降など、一筋縄ではいかない猛烈な急下降が待ち受けていた。 特に後半のザレ場の急斜面は、踏ん張る力を失いガクガクになった膝で多分の落石を誘発しやすいので注意が必要だ。
 

ポツリポツリとシャクナゲも

ザレ場のつづら折りを乗りきると沢音か徐々に大きくなって、やがて沢の源流部に下り立つ。
《奥ノ出合》である。 かなりのハードな下りに、多少心身が滅入っている事だろう。 ここは是非、源流帯の冷たい清水で喉の渇きを癒そう。 

さて道は、《奥ノ二俣》で沢を渡って、右岸をヘツるように歩いていく。 へツリ道は、《ドッサリ滝》を高巻いてから左岸に渡ると徐々に高度を稼いでいき、《猫滝》の手前では『黒部渓谷』にひけを取らぬ程の廊下状を成していく。 やがて、《猫滝》の激しい瀑音が山峡にこだまするのが耳に入ってくるだろう。 ここからが、この下山コース最大の悪場である。 

廊下状を形成したヘツリ道から、《猫滝》に向かって絶壁を30m下降しなければならない。 
そして、ここには鎖はなく、ロープが垂らしてあるだけなのである。 このロープは垂らしてあるだけなので、頼りにはできない。 頼りすぎると、体が転覆してしまうからである。 慎重にホールドを決めながら下ると、《猫滝》の中位の辺りまで下り着く。 下り着くと『猫滝』との表示板があり、ここが滝見台のようである。
 

名称のわりにしっかりとした
直瀑の猫滝
 
しかし、ここからでは、雑木林が邪魔をして全容がはっきりと見渡せない。 滝の情景に思い入れのある人は、これでは満足できないであろう。 だが、滝の全貌を望むには、この滝見台より踏跡に従って、木の根をつかんで崖を下降しなければならない。 そういう訳で、一歩間違えれば転落も有り得るので、お薦めはできない。 

さて、《猫滝》より先は、道がより細くヘツるようになって再び高度を稼いでいく。 やがて、《高滝》の100m位上部の絶壁に取り付くようになる。 迫り出した絶壁を半周巻いてから、《高滝》の滝つぼに向かって垂直に40m、この絶壁を降下する。
 

難所のヘツリから
高滝をズームアップ!
 
もちろん、先程と同じく鎖はなく、ロープが垂らしてあるだけである。 この地点では、毎年のよう転落死亡事故が発生するというコース最大の悪場である。 下を見れば、100mと滝の落差70mの合計170mの谷底だ。 ここの通過は否応なしに緊張する。 

この山行プランではテント一式の重装備である事から、くれぐれも荷物を岩角に引っ掛けての転倒やスリップに注意をして頂きたい。 この絶壁下りを越えると急坂ではあるが悪場はなくなり、カメラ片手に木陰に見え隠れする《高滝》の瀑布を撮る余裕もできてくる。 後はつづら折りを重ねて、滝つぼに向かって一直線に下っていくのみだ。
 

直瀑70mの高滝の釜に立つ
ここまで下るとようやくひと息つける
 
・・《高滝》の滝つぼに下り着いて、その勇壮な瀑布を見上げると、緊張から解放されて肩の荷がズシリと重く感じる事だろう。 ここまでくれば、もう安全だ。 最近では、朽ちた桟橋は手直しや補強が施され、かつてのように沢をあるく事はなく渓谷入口まで伝っていける。
 

奥深き渓谷に
遅き春爛漫
 
なお、《高滝》より先は<1>コースで詳しく記しているので、そちらを参照頂きたい。
《宮ノ谷渓谷入口》より、車を留置きしている《奥香肌・蓮 はちす 》までは2.3km。
入口に着いても、もうひと踏ん張りが必要である。

   ※ 詳しくは、メインサイトより『奥香肌峡 <2>』をどうぞ。
 
 
 



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