風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

TOP >  滝を訪ねて・近畿 >  日本の滝を訪ねて 第56回  奥香肌峡 その1 ヌタハラ谷

日本の滝を訪ねて 第56回  奥香肌峡 その1 ヌタハラ谷

日本の滝を訪ねて  第56回  奥香肌峡 その1 ヌタハラ谷 〔三重県〕
 

初回はここで断念となった
夫婦滝にて
 
  奥香肌峡・ヌタハラ谷 おくかはだきょう・ぬたはらだに 三重県松阪市(旧 飯高町)
 
今回は、完全な沢登りスタイルで望む滝を御紹介しよう。 そして、沢をめぐって台高山系の頂に登り、稜線を伝って再び沢を下る山と沢の贅沢なプランを楽しんでみようと思う。 従って、今回は滝見の初心者には荷が重いかもしれない。 滑り落ちると命の危険もある滝の直登りもあるのだ。 その事を念頭に置いて、このヌタハラ谷を遡行してみよう。
 

今回の遡行ルートの行程図
 
   行程表             駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 橿原市街より車(2:00)→蓮峡・ヌタハラ谷出合(1:40)→夫婦滝(1:50)→不動滝
     (0:30)→二俣(1:30)→桧塚奥峰(1:00)→明神岳(0:20)→明神平
《2日目》 明神平(0:20)→明神岳(0:20)→笹ヶ峰(2:00)→赤倉山(1:10)→池木屋山 
     (1:20)→奥ノ二俣(1:00)→高滝(1:20)→蓮峡・宮ノ谷林道終点 
     (0:45)→蓮峡・ヌタハラ谷出合より車(2:00)→橿原市街
 
 《1日目》 ヌタハラ谷を遡上して桧塚奥峰・明神平へ
このコースは、本来なら掲載項目として取り上げるべきではないのかもしれない。 
なぜなら、このコースが沢登りを主とするかなり困難なバリエーションルートだからである。 
 

この滝を撮るのに
どれだけ苦労した事か

それは、このコースでの初回の探勝・調査結果が、“私の手に負えず”途中の《夫婦滝》で引き返した苦い経験から基づくのである。 装備や荷量を再考しての再チャレンジで何とか探勝できたものの、このように数回のチャレンジでようやく行けるであろうこのコースを“一般向け”として紹介する事は、コースガイドの概念からしても大いに問題だと思うのである。 

従って、このコースを探勝するにあたっては、この事を念頭に置いて頂きたいと思う次第である。 
また、テント一式担いでの幕営山行でもあるので、体力とルートファインデイングが大いに要求されるのである。 事前に軽登山コース等の予行訓練を踏まえて基礎体力を高めてから、本コースにチャレンジすべきであろう。
 
このコースを行くにあたっては絶対に無理は禁物であるし、できるだけ行動がしやすいように事を運ぶべきである。 もちろん、前日のアプローチは絶対条件である。 それでは、この難関たる渓谷に入っていこう。 《奥香肌・蓮》の駐車可能なスペースから土砂災害復旧中の林道を15分程歩くと、《ヌタハラ谷出合》に出る。
 

ヌタハラ谷の遡行詳細図
 
ここから、いきなりゴルジュが待ち受ける沢に下りてもいいが、ゴルジュや釜の通過にはたぶんザイルが必要となろう。 ここは、林道を100m程進んだ所にある杣道(木こり道)の残骸を伝っていく方がいいだろう。 だが、この杣道とて所々で不明瞭となり、かなりのルートファインディング力が試される事となる。 

沢の崖上につけられた道ともいえぬ“犬走り”を恐る恐る伝っていくと、下にや滝が美しい釜やナメ床を形成しているのが望めるだろう。 5~15m程のナメ滝や美瀑を幾度となく見送ると、杣道は一度大きく沢を離れて涸れた支沢を大きく迂回してから《ヌタハラ本谷》の約100m上の土手に出る。
 
ここからの杣道は更に不明瞭となっていて、振り返って“よくもまあ歩けるものだ”と感心する位に劣悪な条件となってくる。 もちろん、この劣悪な踏跡を踏み外すと、谷底に転げ落ちるのは必定である。 
やがて、杣道は沢の方へ下ってきて、《炭焼釜跡》の石垣の前で途切れている。 
 
《炭焼釜跡》で再び沢に入り、対岸の《炭焼釜跡》の草地に渡ってからは、淵や滝の釜などの深みを避けながら沢を遡っていく。 もちろん、ここは“一般向け”ではないので、徒渉位置を示すリボンなどは一切ない。 沢の流れを読む力が大いに試されるのである。 沢を2~3回渡ると、美しい釜を持つ美瀑が滔々と白布を掛けている。 この滝が《ヌタハラ谷》を『名渓』といわしめる《夫婦滝》である。
 

夫婦滝・下段35m
落水が優雅な放物線を描いている
 
ここからは、左岸を大きく高巻いてルンゼの上から滝上に這い上がるのだが、到底高巻きができるとは思えないような情景が周りを取り囲んでいる。 それでも、半分土砂崩れの支沢を文字通り這い上がっていくしか“手”がないのである。
 
登り始めは何とかなるが、やがて土砂崩れの上手が上方に迫り、前進するにはこれを直登せざるを得なくなってくる。 もちろん、左右を巻こうにも大岩盤がオーバーハングに迫り出して、上の立ち木にすら手が届かない状況である。 

踏み出せば崩れだして滑落の危険もあるこの土手を細心の注意を払って登りきると、ルンゼ状に掘られた涸れ沢の上に出る。 もう、ここでは《夫婦滝》の瀑音は聞こえない。 それ程に高巻かなければ活路が見出せないのである。 ここまで登って、ようやく左の上流側に何とかよじ登れる土手を見出す事ができる。 

立ち木を頼りに這い上がって、握ればへし折れる程に脆い雑木林をたぐり、道なき道を自らで“開拓”していく。 ここまでくると、もはや願いは“再び沢音を聞く事”であろう。 土手を下り気味に左へトラバースしていくと、幾分歩きやすくなってくる。 また沢音も、再び前方からこだましてくるだろう。
やがて、沢に出る。 だが、ここは《夫婦滝》の遙か上部で、《夫婦滝》の上段・60mの大瀑布は拝む事ができなかった。
 

斜瀑7m

もう杣道はなく

沢の直登りとなる



長いトヨ状の廊下を渡ると
段瀑が幾重にも現れる
 
しかし、あの道を引き返していく事は『リングワンダリング』に陥る自殺行為であるので、今回は自重したいと思う。 沢に出ると、7mの斜瀑と階段状のナメ滝を次々に乗り越える。 これを越えると、100m位の大きな土砂崩れ帯が現れる。 この美しい渓谷を支えている両岸は、脆い地質である事がはっきりと認識できる眺めだ。
 

 12m直瀑
これを直登する
 
ここから8mの美しい斜瀑の横を這い上がると、岩屋となりそうな巨大な岩が流れを割っている地点に出る。 これよりが、この沢最大の難関だ。 それは、この大岩の裏に7mの直瀑が掛かり、これを直登せねばならない。 そして、この直登を終えると、30mのナメ滝を挟んで両岸がオーバーハング気味に迫り出した12mの滝が現れる。 前進するには直登する以外にはない。
 
先程の7mの滝の直登より難度は高い。 滝の飛沫を浴びながらでもこれを這い上がるしか活路がない上は、より登る事が可能な左岸にアテをつけて這い上がろう。 上に登り下を望むと、滝水が玉のように弾け落ちるのが見えて恐ろしい。


不動滝・下段15m
この滝も左岸の直登だ
 
これを越えると、いよいよ《不動滝》がその姿を魅せる。 まずは、下端15mの直瀑だ。 
一見、通過が不能に思えるが左岸にヘツる事のできる岩盤があり、これを伝って上部へ抜ける事が可能だ。 だが、滝の飛沫で常時濡れているので、スリップや転落に細心の注意が必要だ。
 
これをヘツり終えると《不動滝》の下段を下に見るようになり、下段の滝を構成する岩崖を50m程伝う。 すると、頭上から冷たい飛沫が降り注いでくる事だろう。 《不動滝・上段》40mの大瀑である。 ここまでかなりの“修羅場”をくぐってきたのだから、ここらでひと息着かないともたなくなる。 
しばし、この美しい滝に見とれよう。
 

不動滝・上段40m
“修羅場”をくぐってまで
見たかったもの
 
さて、《不動滝》より先は再び大きく滝を高巻いていくのであるが、今度の高巻きはまがいなりにも道をトレース(道を読む・・、ルートを探す事)できるので気は楽だ。 また、高巻いている最中も《不動滝》が眼下に見えているので、安心度が高い。 但し、この高巻きとて『道』ではないので、ナメてかかると痛いしっぺ返しを食らうので御用心。
 

美しい階段状の小滝群
 
《不動滝》を越えると、トヨ状の長いナメ滝が刻んだルンゼの中を漕いでいく。 約150m位のナメ滝はとても水が澄んでいて、足を踏み入れるのもためらわれる。 この美しい情景を写真に撮りたい所だが、いかんせんザックを下ろす場所が見当たらず、残念ながら撮影はできなかった。 このナメ滝帯を越えると、地図上で『ビバーク適地』と表記された台地の上に出る。 だが、白骨が転がるなど雰囲気はすごぶる重く、とてもそんな気にはなれないだろう。
 

この滝には
何とか杣道があった
 
やがて、滝を従えた小さな沢谷を右に見やって、地図上の《植林小屋跡》前の大きな支沢の出合にたどり着く。 もちろん、《植林小屋》は跡形もないので、想像の域は越えないのだが。 ここから本谷を見渡せば、《ネコ滝》の2段40mの美瀑が滔々と白布を掛けているのが見渡せる。
 
ここから先の本谷は、倒木が沢を埋めるなど沢筋がかなり荒れており、また滝の両側が切り立った岩壁でこの滝を高巻く筋を見切れない。 従って、この滝の通過は断念して、先程の支沢へ進路を取った方が無難であろう。 どうしても本谷を行くのであれば、地図上では“左側を高巻く”と指示しているので、じっくりルートを見定めて行こう。

・・《ネコ滝》の上流にも深い釜を抱く《アザミ滝》25mの大高巻きがあり、それこそ今回の私のように“単独行”では手に負えそうにないであろう。 くどいようだが、この先はしっかりした沢遡行のパーテイを組んで、ザイルも用意してでなければ行くべきではないと思う。 

さて、支沢はめっきりと水量が減って、また周囲を鬱蒼と取り囲んでいた樹木も途切れて明るい日差しも差し込んでくる。 だが、水量は少なくなったとはいえ斜瀑12mの直登があるなど、まだまだ気は抜けない。 この滝を越えるとナメ滝状となり、また右手に支沢が2つ3つと現れて、上がるごとに水流を次々と削り取っていく。 5mの段滝を越えると水もチョロチョロとなり、源流近きを思わせるだろう。 

ここから前面右手の土手に這い上がり、脆い雑木帯のブッシュを漕いでいく。 
もちろん、“道”などない。 上に見える頂上丘を目指して、ひたすら“道なき道”を開拓していくだけだ。 自らが選んだルートがそのまま“道”となるのだ。 やかて、白い岩が突き出した露岩帯が現れ、この裏手にはスズタケの大草原が広がっている。 この“ただが”スズタケの美しい事。 思わず声を上げて駆け出したくなる程の眺めが、視界いっぱいに広がるのだ。
 

“ただが”スズタケが
こんなにも美しく見えるとは
 
この黄金のじゅうたんを全身で漕いで、沢の苦行を“自信”と“喜び”と“充実感”に代えていこう。 
程なく、桧塚峰 1402メートル 直下の鞍部に登り着く。 桧塚峰は三等三角点が置かれ、展望はすごぶる良い。 また、先程の“黄金のスズタケ”が前景に広がり、池木屋山など台高の山々の風景に彩りを添えている。
 

近畿地方きっての
秘峰・桧塚奥峰からの眺め
 
稜線に上がってからは、道案内指標が充実していて判りよい縦走路が高原状の山のうねりに忠実に続いていく。 これだけ指標があると、安心して歩ける。 カメラ片手に景色を楽しみながら歩いていこう。 
今日の宿泊地である《明神平》へは、桧塚より秘峰・桧塚奥峰 1420メートル を越えて所要1時間20分程である。
 

絶好のキャンプ地・明神平
 
《明神平》は、水場が近く芝生の展場がある絶好の幕営地である。 今夜は少々ハードだったので、よく眠れる事だろう。 明日も、行程8時間強とかなりハードである。
 
   続き《2日目》は、次回の『第57回 奥香肌峡 その2』にて・・
 
   ※ 詳しくは、メインサイトより『奥香肌峡 <2>』をどうぞ。
 
 
 
 


関連記事
スポンサーサイト



コメント






管理者にだけ表示を許可