風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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私の訪ねた路線  第78回  士幌線 その1 帯広~糠平

『私の訪ねた路線』  第78回  士幌線 その1 帯広~糠平  〔北海道〕
 

美しい白樺林を縫って列車はゆく
萩ヶ丘~清水谷
 
《路線データ》
  営業区間と営業キロ  輸送密度(’79) / 営業係数(’83) 廃止年月日  転換処置
   帯広~十勝三股 78.3km     359   /    1743           ’87/ 3/23       十勝バス
 
廃止時運行本数
         帯広~十勝三股 4往復《糠平~十勝三股 バス代行運転》
         帯広~糠平   1往復
         帯広~上士幌  下り1本
 
   《路線史》
大雪山麓の豊富な森林資源開発の為に、軽便鉄道法(土地を所有する者に鉄道用地を供与させるべく立法化された“何でもアリ”のザル法として有名)により建設された路線。 1925年に上士幌までが開通し、それ以後も延伸を続けて1939年には十勝三股までの在存区間が全通した。 計画では更に三国峠を越えて、石北本線の上川まで建設される予定であったという。 

『おわかれ士幌線・大平原号乗車証明書』の
裏に記されていた士幌線史

しかし、元々大雪山麓へ向かう程に人口が稀薄となっていく上に、国道の整備や林業の衰退で人口の流失が続き、末端部ではゴーストタウン化して1日どころか年間でも利用者が数十人という所まで落ち込んだという。 そのような経緯を経て、温泉地である糠平から先は代行バスによる輸送に切り替えられた。
これによって、士幌線の経常収支は3割改善されたという。

この路線も開拓路線の意味合いが強く、開拓が終わった現代は人口稀薄な酪農を主とする農村地帯や大雪山の山懐へ突き進む路線に利用客を見込めるはずもなく、当然に国鉄再建法では廃止対象の第二次候補に指定される。

地元では「帯広近郊の音更町のベットタウン化によって帯広との人的交流が増え、冬季の十勝大橋の車輌大量通行は安全上問題がある」として反対をしたが、もはや廃止の流れを止める事はできなかったようである。 そのような中で国鉄主導のペースで転換協議は進み、JR移行直前の1987年3月23日に「JR移行前にこの問題を終わらせる」とする国鉄サイドの思惑通りに路線廃止となる。
 

おわかれ士幌線
大平原号乗車証明書
 
なお、代行バス化された区間の代替バスであった糠平~十勝三股であるが、現在は完全な無人地帯となり「年間利用客が40人未満」という所まで落ち込み、2003年に撤退したという。 現在は、帯広~旭川を走る都市間長距離バスが乗客の要望にあわせて乗降扱いをするのみ・・となっているようである。

この路線の遺構として有名なのは、糠平ダムの建設に伴って水没した『タウシュベツ橋梁』であろう。 
1955年に糠平ダムが完成し、それによって路線がダム湖の湖底に沈む事から、湖を避けるように新線が敷設された。 その時の廃棄された路線上にかかるコンクリート陸橋が、この『タウシュベツ橋梁』である。
 

雪に埋もれる
タウシュベツ橋梁
 
季節や発電用に供出するべく水位が変わるダム湖では、時期によってこの橋が現れたり、完全に水没したりするので『幻の橋』との別名もある。 概ね、冬から春先にかけての渇水期に姿を現し、夏から冬にかけての湛水期は湖水に姿を隠す。 白亜のアーチ橋が湖面に幾重の眼鏡を映し出す姿は周囲の自然情景との調和を魅せ、古代ローマ建築を思わせる気品を漂わせている。 

ただ、50年以上も厳しい北海道の環境や湖水に晒されている事や、構造が鉄筋コンクリートの型の中に石を詰めているだけの粗雑工法の為に、一度崩れ出すと急速に崩壊が進んでしまうとの事である。 
『北海道遺産』にも選定されている同橋梁だが、「いずれは崩壊する命運を辿る」との事である。 

それに対しては「保存の為に対策を講じるべき」という意見と、「あえて補修や保存の手は加えず、成すがままに任せ、いずれ失われるのも止むなし」との意見に分かれているとの事である。 ちなみに、ワテが見学した時は欄干部分を除いて、湖水に没していた。

運行上においての特異な点といえば、先程も述べた糠平~十勝三股の代行バス輸送と、黒石平駅の取り扱いであろう。 黒石平駅付近は勾配がかかっていて、下り勾配となる上り列車の全列車が通過し、代わりに500m先に設けられた『電力所前仮乗降場』に停車していた。 
逆に、下り列車は全列車が同仮乗降場を通過し、黒石平に停車していた。
 

 

清水谷駅へ進入する
士幌線列車

萩ヶ岡から清水谷にかけては
美しい白樺林が並び立つ
 
  《乗車記》
北海道の地方都市の中では唯一、人口が増えているという帯広がこの路線の始発点となる。
今はもう一方延びていた広尾線も廃止になり、駅も高架化されて根室本線の完全な途中駅となってしまったが、以前はこの士幌線と広尾線を従えて十字に路線が延びるジャンクション駅であった。
それでは、帯広駅の母屋寄り1番線の士幌線列車に乗り込もう。
 

『おわかれ士幌線・線内1日フリー乗車券』にあった
士幌線時刻表と沿線の概要
 
帯広駅を出た列車は、程なく根室本線から離れて北上していく。 根室本線と離れた線路は市街地の端を周る様にめぐって、大河・十勝川を轟音を上げて渡る。 十勝川橋梁で十勝川を渡ると、程なく木野に着く。 この駅の近くには昭和石油の油槽所があり、専用路線が駅から分岐していた。
その事からかこの駅は最後まで委託ながら駅員配置駅で、列車交換の設備を有していた。
 

木野駅入場券と駅スタンプ
 
次の音更駅は、音更町の中心駅である。 ホームは相対式の配置で、列車交換可能の有人駅であった。
そして、この地域の主産業である畜産を取り扱う農協や畜産センターへの専用路線が分岐していたようである。 次の駒場は、種馬=駒を飼育した十勝種畜牧場(現在は乳牛・綿羊の飼育センター)の近くに駅が設けられた事が駅名の由来との事。
 

音更駅入場券と駅スタンプ
 
駒場を出ると寄り添ってきた十勝川を渡り、畑作地帯に入る。 程なく、畑の中にポツンとある武儀に着く。 ここは待合室が乗るだけの棒線駅だ。 武儀を出るとR241が寄り添ってきて中士幌に着く。
 
次の新士幌仮乗降場は、鉄道弘済会の『北海道版時刻表』にさえ乗っていない乗降場として鉄の間で有名となった駅だ。 列車も下り2本・上り1本のみの停車と、1日5往復とただでさえ少ない列車本数でも通過列車が半数以上と、完全に“お蔵入り”扱いの乗降場であった。 当然、周囲は完全な大規模畑作地帯で、利用客の元となる民家の姿も稀であった。
 
次の士幌は路線名の由来となった駅であるが、貨物の扱いを取りやめた昭和57年以降は閑散としていた。 かつては、この町の主産物である馬鈴薯の加工センターからの澱粉輸送に賑わった・・といい、澱粉加工工場への専用線路まであったというが。 今は鉄道公園として、駅舎が保存されている。
 

士幌駅入場券と駅スタンプ
 
次の北平和は、再び新士幌へと戻っていったのか・・と錯覚する程に、広大な畑作地帯の中にポツンと棒線駅がある。 ただ、新士幌が待合室が無かったのに対し、この駅は正駅として木造の待合室があった。
だが、民家の姿の稀さ加減は新士幌と同等のようであった。
 
次の上士幌は路線運用上の中心駅で、最終の下りはこの駅止まりで車両の留置も可能だったようである。 もちろん列車交換可能で、保線車両も保有していた駅であった。 また上士幌町の中心で、周囲には王子製紙関連の木工場が稼動している。
 

上士幌駅入場券と駅スタンプ
 
それは開拓期に水運によって木材を運び、この地を貯木場とした名残で、それから町として発展したとの事である。 だが、その木材輸送が水運から鉄道に乗り換えられていったように、今度は鉄道から陸運(トラック)に乗り換わっていった。 こうして水運を鉄道が滅ぼしたように、陸運によって鉄道が滅ぼされてしまった歴史がある。
 
上士幌を出ると、そろそろに東大雪の山懐に入っていく。 周囲は少しつづ山が迫ってきて、美しい白樺林が見え始め、高原列車の雰囲気がただよい始める。 程なく萩ヶ丘に着く。
 

民間委託で売られていた
萩ヶ丘駅発行の乗車券
 
駅舎は美しい木造駅舎で、民間委託で乗車券も販売されていた。 そして、周囲の白樺林のそれは素晴らしい情景を魅せ、これを目にした途端にこの地を撮影地に決めて下車した記憶がある。 それでは、その美しい白樺林と鉄道の姿をごろうじろ。
 

青空と白樺林が美しい


努力の跡が写真(結果)を
台無しにする例ですね
結構努力してる(歩き周ってる)でしょ


一歩離れて撮ると
美しい白樺り木陰が
白いキャンパスに現れる
 
萩ヶ丘を出ると勾配がキツくなっていき、山間へどんどん湧け入っていく。 それに応じて、民家の姿が皆無に近くなっていく。 言うなれば、山裾の原野に突入したという事であろう。 程なく清水谷。
明らかに元は交換可能設備を有した有人駅の造りの駅であるが、今は広大な酪農場とこの酪農場を運営する農家一軒以外は全て廃屋の半ゴーストタウンとなっている。
 

昭和50年頃までは
有人駅だった?

駅施設が撤去され
がらんどうとなった清水谷駅舎


近くにある酪農センターのお陰で
辛うじて『ゴーストタウン』を免れた清水谷駅
1日平均の乗降客数は1人だけだったらしい
 
清水谷を出ると右手は山が迫り、左手は十勝川の支流・音更川が渓谷を形成してくる。 山と渓谷に差し迫られた箱状の地形にへばりつくように列車は進む。 併走する国道273号線も、鉄道線路の上の位置を進む。 やがて、黒石平駅に着く。
 

黒石平表記の乗車券
糠平から乗車しても下車できないけど
 
この駅はダムの保守点検の為のダム電力所職員の住宅があった為に設けられた駅だが、末期はその住宅も移転してしまって完全なゴーストタウンとなっていた。 駅は国道より1段下に設けられて、土手と国道を階段で結んでいたが、この駅は下り列車の糠平ゆきのみの停車となっている。 そして上りの帯広ゆき列車は、そのダム電力所職員の住宅付近に設けられた電力所前仮乗降場に停車する事になっていた。 
 
これはダム電力所職員住宅がキツイ勾配上に位置し、駅をそこに設けてしまうと上り勾配の下り列車が発進できない為である。 それで、本来の駅目的地の電力所前乗降所は下り勾配の帯広方面ゆきのみが停車し、元々駅の設けられた黒石平は、電力所仮乗降所に停車できない上り勾配の糠平方面ゆきが停車する事になったのである。
 
電力所前仮乗降所を通過すると、トンネルを抜けて糠平湖の畔に出る。 勾配は糠平ダムの横に掘られたこのトンネルまで続く。 要するに、ダムの上まで登るべくの勾配って訳である。 湖畔を見ながら角度にして90度以上の大きなカーブを経て、糠平湖の下端へ向かって進んでいく。
 

自分で撮った糠平湖背景の写真は
フイルム間違いで掲載不可
そこで『おわかれ士幌線・線内1日フリー乗車券』の写真にて
 
これは、ダムの完成によりダムの東側が水没してしまった為である。 そして、その水没した旧線側に、あの有名なタウシュベツ橋梁があったのである。 やがて、温泉地の外れというか、入口というかの位置に鉄道線の終着・糠平駅がある。 温泉地へは、ここから500mほど坂を登っていかねばならない。
駅在りし時はそれほど離れている・・とは感じなかったが、鉄道資料館となった駅跡と温泉街の間を車で走ると、「コリャあ~ダメだわ」と思うほどに急勾配で離れていた。
 

昭和53年の糠平~十勝三股の代行バス化で
士幌線の実質的な終着駅となった
糠平駅(現 上士幌町鉄道資料館)


糠平駅入場券と駅スタンプ
 
そして、これより先はバス代行区間となる。 駅前のロータリーに停車している代行バスに乗り換えて十勝三股まで行くのだが、これは次回のお楽しみ・・(人気のないブログでお楽しみ・・と浮かれているのは筆者のみ)という事で。
 
   ※ 詳細は『魅惑の鉄道写真集』より『士幌線』を御覧下さい。
 
 
 
 
 

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No title * by タケちゃん
おはようございます。
懐かしい写真と言いますか・・・私が帯広へ転勤したのが昭和62年4月だったんですよね。廃止直後です。
それより以前に数回士幌線を訪れてはいましたが、糠平湖をはじめとした景色が素晴らしい印象でした。
1年早い転勤か、路線がせめてあと半年持っていてくれれば・・・・と今でも思っていますよ。

考えたら、JR化初日の特急に乗って帯広へ赴任したんだよなぁ~、とこれもまた懐かしい思い出ですね。

No title * by 風来梨
タケちゃんさん、こんばんは。

士幌線の沿線風景は秀逸でした。 今回掲載した白樺林は、中学生だったか・・の時に写真集で見た安田成視氏の写真に憧れて、いつか撮ってみたいと思った所です。

今思えば、もっと離れて撮るカットがあっても良かったかなぁ・・って思います。

ちなみにJR初日の私は、三厩から竜飛岬を彷徨っていました。
JR初日・昭和62年4月1日の竜飛崎は、波高く叙情的な情景でした。

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No title

おはようございます。
懐かしい写真と言いますか・・・私が帯広へ転勤したのが昭和62年4月だったんですよね。廃止直後です。
それより以前に数回士幌線を訪れてはいましたが、糠平湖をはじめとした景色が素晴らしい印象でした。
1年早い転勤か、路線がせめてあと半年持っていてくれれば・・・・と今でも思っていますよ。

考えたら、JR化初日の特急に乗って帯広へ赴任したんだよなぁ~、とこれもまた懐かしい思い出ですね。
2012-02-23 * タケちゃん [ 編集 ]

No title

タケちゃんさん、こんばんは。

士幌線の沿線風景は秀逸でした。 今回掲載した白樺林は、中学生だったか・・の時に写真集で見た安田成視氏の写真に憧れて、いつか撮ってみたいと思った所です。

今思えば、もっと離れて撮るカットがあっても良かったかなぁ・・って思います。

ちなみにJR初日の私は、三厩から竜飛岬を彷徨っていました。
JR初日・昭和62年4月1日の竜飛崎は、波高く叙情的な情景でした。
2012-02-24 * 風来梨 [ 編集 ]