2022-05-15 (Sun)✎
『日本百景』 春 第515回 祖母・傾山 その1(祖母・傾山縦走路)〔大分県・宮崎県〕
縦走路より見上げる盟主・祖母山
祖母山 そぼさん (祖母傾国定公園)
大分県と宮崎県の県境にある標高1,756mの山で、祖母傾山系の盟主であり、九州山地の中核をなす。
宮崎県の最高峰となっている。 頂上は大分・宮崎県の県境となっていて、山頂部は大分県豊後大野市と竹田市及び、宮崎県西臼杵郡高千穂町の境にあり、山腹は熊本県・大分県・宮崎県の3県にまたがっている。 祖母山自体の成因は隆起であるが、その元となる山地が火山活動によって形成された為に巨大な花崗岩が随所に見られる。 谷筋は渓谷が発達し、中高山部では断崖が多い。
『御社ノ滝』
祖母山域は谷筋が発達しており
山腹部には美瀑が数多くある
登山ルートは整備されたコースから、断崖を登りながら進むコースまであり、四季を通じて登山客が訪れる。 頂上付近はどのコースを辿っても急な岩登りコースがあらわれる。 祖母傾山系一帯が、1965年に祖母傾国定公園に指定されている。
祖母・傾山地域では、臼杵・八代構造線を挟んで祖母山火山岩類が分布している。 祖母山火山岩類の生成は1,500万年前とされ、同様の火山岩類は石鎚山や紀伊半島の熊野にかけて見られる。
祖母・傾山地域には、祖母カルデラと傾カルデラと呼ばれる中新世中期の2つのカルデラがある。
この地域の火山活動はカルデラ形成期をはさんで前期と後期に分けられ、前期はI期・II期・III期、後期はIV期・V期・VI期に分けられる。 2回の火山活動期のうち1回目の火山活動で、約1300万年前で陥没カルデラを形成した。 これらのカルデラは2回目の火山活動により埋没し、現在はカルデラを地表面から確認する事ができない。
祖母山塊には花崗岩で
形成された岩塔や断崖が多くある
約1290万年前に再び陥没カルデラの形成が始まり、鉱山の形成が行われたとされている。 約1000万年前に火山活動は終了して、侵食により準平原になった後に300万年前に隆起した。 また、阿蘇山系の大規模な活動による火砕流の影響を受けて、現在の祖母山の姿となった。
この山が形成された経緯から銅・錫・鉛・マンガン・水晶などの鉱物資源が豊富で、江戸時代から昭和中期まで採掘が行われていた。 祖母山の麓に遺構が残る尾平鉱山は、江戸時代初期の1617年に開鉱され、1954年に閉山となるまで我が国有数の鉱山として栄えた。 この他にも、大分県側に九折鉱山・木浦鉱山、宮崎県側に見立鉱山・土呂久鉱山などがあった。
犬連れ登山の横行などが原因で
絶滅の危機に瀕している
国の天然記念物・ニホンカモシカ
※ ウィキペディア画像を拝借
植物は九州という温暖な地で、なおかつ標高がさして高くない事から、中央高地に咲く高山植物はあまり見られず、代わりにシャクナゲやアケボノツツジなどの灌木系の花がよく見られ、また温暖な気候ゆえに花期は5月~6月上旬となっている。 また、中腹の原生林帯には国の天然記念物であるニホンカモシカが生息している。
祖母・傾山縦走路ルートの行程詳細図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR豊後竹田駅よりタクシー(0:40)→神原登山口(0:40)→五合目避難小屋
(2:30)→祖母山(0:20)→祖母山九合目小屋
《2日目》 祖母山九合目小屋(0:25)→祖母山(1:30)→障子岳(1:10)→古祖母山
(1:30)→尾平トンネル上〔尾平越〕(0:20)→キャンプ場〔水場〕
(2:00)→本谷山(2:00)→九折越避難小屋
《3日目》 九折越避難小屋(1:20)→傾山より三ッ坊主経由(2:30)→三ッ尾
(1:30)→観音滝(0:30)→九折鉱山・傾山登山口
(0:50)→上畑バス停よりバス〔途中乗換あり〕(1:10)→JR緒方駅
※ 冬季や雨天の場合は滑落の危険がある為、一般ルートで下山する事
アケボノツツジと山峡・尾平の里
《1日目》 神原登山口より祖母山頂上へ
今回は、美しい渓谷や滝を絡めて九州の奥の峰・祖母山へ登り、傾山までの縦走路を伝って、アケボノツツジ満開の傾山の岩塔めぐりの行程を組んでみた。 だが、この縦走路はかなり長大で、祖母・傾山の縦走だけでも上級者向けの登山ルートとなる。 また、傾山の岩塔めぐりは、九州の山岳随一の難路であり、レベルも熟達者向けとなるだろう。 それでは、山行を始めよう。
登山口の手前にある
神原渓谷・一ノ滝
祖母山の登山口となる《神原渓谷》への交通機関は全くなく、また登山口と下山口が車の回収が不能なほどに離れていて、マイカーやレンタカーでのアプローチは現実的ではない。 なので、費用はかかるがタクシー利用しか手はあるまい。 そして、登山口への最寄り駅である豊後竹田駅を早朝に発つ事は、竹田市内で宿泊しない限りまず不可能なので、1日目の宿泊先は良くて《九合目避難小屋》、出発が遅くなると初日は《五合目避難小屋》泊となるかもしれない事を考量しておこう。
さて、駐車場を出発して、林道を少し上がると登山道入口が左手に現れる。 登山道に入ると、道標が200m置きに設置されるなど、よく整備された道が続いている。 また、山の植物や地質などの説明看板も随所に現れて、一般ハイカーにかなり気を使った道である事が想像できる。 ほぼ平坦な道を1km程歩くと、通称『御社ノ滝』という美瀑が現れる。
祖母の育んだ清らかな水が
美しい美瀑『御社ノ滝』を創造した
滝を過ぎて、滝の高さ位(約20m)つづら折りで登っていくと、《祖母山五合目避難小屋》にたどり着く。 この小屋は建付けが立派で、土間と居間が仕切られて庄屋の館のようである。 水も近くに沢があり、この小屋は使えそうである(実際、歳食ってからの縦走では五合目避難小屋泊となった)。
五合目避難小屋は地図にも
載ってないがシッカリした建付けで
水場も沢がありかなり使える
:
現在は左のベンチの場所に
トイレが設けられている
小屋の前には『頂上まで3km』の道標があり、その横に丸太の階段が続いている。 これより、登山らしい急登が始まる。 『頂上まで2.6km』道標で最終の沢(ほぼ涸れている)を渡ると、更に急な坂道が1.6km続く。 体が山慣れしていなければ、かなりコタえる急登である。 唯一の救いは、その名の通り『命救いの水』という岩清水である。 この岩清水は『頂上まで1.8km』地点にあるので、真に助かるのである。
国見峠より見上げる祖母山
:
国見峠に立った時はいつも曇天か雨で
ここで写真が撮れないでいるので
※ ウィキペディア画像を拝借
さて、道標が『あと1km』を示す所まで急登を続けると、《国観峠》の広場に出る。 ここで、始めて祖母山の頂上がお目見えする。 この広場は芝生となっていて、昼近くとなるとピクニック色の強いハイカー達が弁当箱を広げてくつろいでいる事だろう。 ここまてくれば、もうひと息だ。 樹林の層がブナやミズナラなどの巨木からダケカンバなどの潅木に変わり、道がルンゼ状にえぐられてくる。 徐々に頂上に近づいている証拠だ。
ソーラー発電装置もあり
電気のある小屋ライフがおくれる
豪勢な無人避難小屋・九合目避難小屋
※『360°旅行ナビ』より
《九合目避難小屋》(今はソーラー発電装置もある近代的な小屋である・現在は無人小屋)への道を分けてひと登りすると、待ちに待った祖母山 1756m の頂上だ。 頂上には健男霜凝日子社の社があり、信仰に全く興味のないワテでもつい手を拝せたくなる造りである。
祖母山の頂上に奉られる
健男霜凝日子社の社
頂上からの展望はこの山系で標高がひときわ高いだけに、傾山への緑濃い稜線は元より、《九重》や《阿蘇》の山なみが見渡せる絶景だ。 今夜は設備抜群の《九合目避難小屋》に泊まって、明日の長い縦走行程に備えよう。
アケボノツツジの斑点で
彩られた天狗岩
《2日目》 祖母山より祖母傾縦走路を行く
九州の山は、総じて5~6月がベストシーズンとなる。 それは、九州の山の緯度や高度からして夏山の魅力である高山植物はあまり期待できないが、その代わりにシャクナゲやツツジなど、晩春や初夏を飾る花にとっては絶好の生息条件となるのだ。
山頂付近より
傾山までの縦走路を望む
今日は、行程が20km超と非常に長い。 だが、途中にエスケープルートが数本あるので、比較的気軽にアタックできる縦走コースである。 それでは、九州随一の魅力を秘める『祖母傾縦走路』を歩いてみよう。
小屋内には縦走路のキツさを
脅す地図案内書が掲げてある
※『360°旅行ナビ』より
《九合目小屋》には、『縦走路を伝って九折越(つづらごえ)までの所要時間は11時間+2時間』と、脅しにも似た案内が掲げてある。 これを鵜呑みにすると途端に気が萎えてしまうので、できるだけ気にせぬようにしたい。 それでも、休憩を含めると総所要時間は2ケタとなるので、日の出前には小屋を出るのは鉄則だろう。 理想をいえば、祖母山の頂で御来光を迎える位が望ましいのであるが・・。
祖母山からは
岩場の急下降となる
祖母山頂上からの縦走路は、祖母山頂にある石祠の背後から続いている。 見た感じでは、今までのルートには全く該当しない急な岩崖の下りとなる。 夜明け前の薄暗い中を下ると、足場の確認が取り辛い。
この辺りをワテが通った時には未だ薄暗かったので、このような印象を持ったのだが・・。
そして、実際にも危険な岩場下りであるので注意したい。
『シャクナゲ苑』に
咲いていたシャクナゲ
この頂上直下の一枚岩を下りきると、ハシゴが3つ程連なってイッキに標高差150mを下る。
すると、程なく『標高1600m』のプラカードと『シャクナゲ苑・只今開園中』との案内看板がある。
この縦走路は長丁場ゆえにあまり寄道はしたくないのだが、これは寄道をする価値があるだろう。
祖母山の山体を淡いピンクで染めるシャクナゲ群、奥岳川の源流部を刻む瀬滝、遠くに望む傾山塊と絶景の目白押しだ。 十分目の保養をしたなら、縦走を再開しよう。
黒金山尾根の岩屏風と
シャクナゲの花
《シャクナゲ苑》より更に100m下ると、前方に《天狗岩》と障子岳がそそり立つように現れる。
当然、200mの登り返しである。 これを《天狗岩》のそそり立つ障子岳の肩までつめると、稜線でも1~2を争う絶景が視界に広がるだろう。
アケボノツツジのピンクの斑点を纏って
艶やかで凛々しい天狗岩の岩塔
鋭角にそそり立つ《天狗岩》や《烏帽子岩》と、岩を染めるシャクナゲの花、程よく遠くなり裾野を広げる姿が見え出す祖母山。 そして、辺り一面に、淡いピンクの斑点が咲き競う。 まだまだ遠くに、うっすらと望む傾山山塊も印象深い。
障子岳はゴチャゴチャした
感じの頂上をもたげている
なお、障子岳 1703m の頂上はこの『肩』より10分先であるが、頂上サークルは潅木が育ち始めて親父山の方角以外の展望は利かない。 たぶん、絶景の『肩』で休憩を取ったであろうから、ここは先を進むとしよう。 なお、障子岳からの縦走路は、見通しの良い親父山方向ではなく、左折して植物保護柵のかかる崖を下りるように続いているので間違えないようにしたい。
障子岳からは展望のある
親父岳方向には進まないように
障子岳より少し下ると宮崎県側の展望が良くなって、なだらかに高原に連なる風景が望める。
《天狗岩》や《烏帽子岩》がそそり立つ、大分県側の切り立った風景とは全く対照的だ。
やがて樹林帯の中に入り、さして上下もなく古祖母山 1633m に着く。 古祖母山からはスイッチバック状に頂上岩塊を周り込んで、この大岩をハシゴで直下降する。 これを越えると、落葉に埋もれた道を足を擦り下る長いダラダラ下りとなる。
縦走路の足場は
ダラダラの上下だが
左右は結構切れ落ちた痩せ尾根だ
こういう下りは足裏に熱がこもってきて、後半にそのツケが“バテ”という形で襲い掛かるのだ。
この長くタルい下りをこなすと、ひと息つける小さな鞍部に出る。 ここは《尾平越トンネル》の真上にあたる所で、トンネルの大分県側口へのエスケープルートの分岐点でもある。 何でも、30分程で下れるらしい。 《天狗岩》の取付から分岐する《黒金山尾根》と共に、荒天時のエスケープルートとして憶えておこう。
祖母山から9.5km・標高差630m
離れた尾平越から祖母山を望む
本物の《尾平越(峠)》は、これより小さな上下を2度越えなければならない。 標高は1130mと、祖母山より630mも下った事になる。 また、朽ちた道標によると、(祖母山から9.5kmも歩んできた」との事である。 だが現実は、「やっとここが縦走路の中間点である」という事に過ぎないのだ。
それは、朽ちた道標の反対側に示された《九折越小屋》までの距離を見ると、一目瞭然である。
『九折越小屋 11km』・・。
10km近く歩いても
まだ半分以下で目指す傾山は遠い
これを目にすると、すぐ先にある水場で水を飲むだけ飲んで、そこでテントを設営してバタンキューとなりかねないので御注意を・・。 この有り難くも危険!?な水場付テント場を越えると、樹林帯の中のタルく長い上り坂となる。
傾山とアケボノツツジ
古祖母山からの下りよりも長く、あれ以上にタルい、その上に今度は登り坂である。 展望もなく暑くタルい登りを、少なくとも2時間はこらえなければならない。 そして、喘ぎ登った本谷山 1643m の頂上は、潅木が生い茂って展望は今イチで登り甲斐もない。 何でも、この山は『宮崎故郷百名山』の一峰らしい。 この項目で設定した時間通りに来たならば、本谷山で正午頃であろう。 だが、今までのツケが噴き出る『今日のヤマ場』が、これ以降に続く炎天下の中での《九折越》までの下りである。
本谷山の長ったるい下りの救いは
傾山の二ッ坊主特異な眺めだろうか
本谷山よりは、下り基調なれども小さな登り返しが何度もあり、周囲は潅木林が覆って風通しが悪い上に、頭上には直射日光が降り注ぐのだ。 足の疲れが足裏の熱感として溜まってきて、一歩を繰り出すごとに火傷感を感じるのだ。 こうなると、途端に歩行ペースが落ちる。 このワテの体験から、この下りは多めのコースタイム設定としたのであるが・・。 なお、途中の好展望は、笠松山の《東峰展望台》がいいだろう。 傾山塊が裾野から見渡せていい。
後は傾山へ続く緑のうねりを確実に上下すると、木陰にひっそりと建つ《九折越小屋》が見えてくるだろう。 水場は《九折越》の十字路(縦走路と宮崎・大分からの登路との交点である)を宮崎県側に7~8分下った所にある。 小屋の建付けは立派で、快適な一夜を過せるだろう。 樹木の間より姿を魅せる傾山の“二ッ坊主”が残照に輝く姿が印象的だ。 これを瞳の奥に焼き付けて、明日の傾山の夢を結ぼう。
※ 続く《3日目》の『祖母・傾山 その2』の『傾山・三ッ坊主めぐり』は次回にて・・。
この記事を書いてて
ダメ出しの如く「解らされた」事は
ワテの退化率は想像を絶するモノだって事
この記事の時は『奇跡の体力』が
衰え始めた40前の時で
概ね最初に挙げたコースタイム
通りにこの長い行程をこなせた
だが『スーパーオチャメ』をカマした
1~2年前のアラフィフに差し掛かった時に
再度このルートに挑んだ時は
初日と2日目が大雨だった事もあって
祖母山まででも5合目避難小屋泊の
2日がかりとなって
しかも9合目避難小屋まででも
所要4時間と倍近くかかっちまったよ
本番の稜線縦走も夜明けの5時に出発して
日の長いGWでも九折越に着いたのが
日没寸前の18時過ぎで水を汲みに
行く時には真っ暗となっていたよ
この記事の時は15時には着いていたのに
これでは体裁悪いし既に満員で
小屋に空スペースも無かったから
小屋前にテント張って泊ったよ
そして『奇跡の体力』のホルダーだった頃は
楽々こなせた坊主めぐりの難路も
断念して頂上ピストンに留めて
なおかつ正午過ぎに下山できたのが
コースタイム4時間半の一般ルートで
下りに7時間かかって
登山口に着いたのは15時過ぎ
でもこのヘタれた状況での身を護る術
としてヒッチハイク術は向上して
『奇跡の体力』のホルダーだった時には
成し得なかった下山日当日に
別府に戻る事ができたよ
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