2021-08-01 (Sun)✎
『日本百景』 夏 第486回 南ア・最後の未踏区へ・・その1(椹島~千枚岳)〔静岡県・長野県〕
蕨段より望む千枚岳
:
肩に千枚小屋が
建っているのが視認できる
千枚岳 せんまいたけ (南アルプス国立公園)
千枚岳は、南アルプス南部の悪沢岳を盟主とする荒川岳の最も東の位置に鎮座している標高2880mの峰である。 椹島と二軒小屋の2つの登山道の合流地点となっていて、荒川岳登山の際にに登られる山となっている。
『富岳百景』
かぎろいの空に浮かぶ富士
山頂から南側に下った所にある千枚小屋は、水場・テント場が備わった南アルプス南部縦走における拠点として機能している。 また、この峰は全国屈指の富士山の展望場所で、夜明け前に小屋を出ると、この峰の頂で朝のかぎろい色の空に浮かぶ富士の姿を望む事ができる。
椹島~千枚岳 行程詳細図
行程記録 ※ 今回実際にかかった時間ですけど・・、何か?
《1日目》 大井川鉄道・千頭駅よりタクシー利用(1:30)→畑薙・登山者駐車場(0:55)→椹島
《2日目》 椹島(3:00)→清水平〔水場〕(3:30)→千枚小屋
《3日目》 千枚小屋(0:45)→千枚岳(1:40)→悪沢岳(1:40)→中岳分岐
中岳分岐より荒川前岳斜面のお花畑散策、往復1時間(2:30)→高山裏露営地
《4日目》 高山裏露営地(3:20)→小河内岳(2:20)→三伏峠(2:20)→鳥倉登山口よりバス
(1:50)→JR・伊那大島駅
千枚岳より望む
南アの盟主・赤石岳
:
荒川岳山群の東端に位置する千枚岳は
南アルプス南部きっての山岳展望台だ
《1日目》 椹島までの過去と現在
ワテが『山旅放浪』をし始めた30年程前は、南アの山岳縦走よりも南アルプスの拠点である《椹島》に向かう事の方が困難で労を要したモノである。 それは、《椹島》には縦走登山者の拠点である『椹島ロッジ』があるのだが、辺り一帯は国有林ではなく製紙会社大手の『東海パルプ』の社有林で、この『椹島ロッジ』も『東海パルプ』子会社の『東海フォレスト』が運営しているのである。
赤石岳と悪沢岳の
2つの盟主の登山口に位置し
南アの登山拠点となっている椹島
そして、この『椹島ロッジ』のある《椹島》へ続く『大井川東俣林道』への一般車の通行は禁止されていて、車止めのある《畑薙第一ダム》から《椹島》までの15.5kmが交通機関皆無の空白区間となるのである。 そして、その『東海フォレスト』は、登山者の為に送迎バスを委託運行(静鉄バスに委託)していたのである。
『リムジンバス』と呼ばれていた頃の
東海フォレストの委託送迎バス
※ 『アルペンガイド』の掲載写真より
だが、『東海フォレスト』は、辺り一帯が親会社『東海パルプ』の社有地である事を理由に、長年に渡り運営する『椹島ロッジ』の完全利用者(1泊2食付の宿泊者)以外は、この送迎バスに乗せない処置を取っていたのである。
以前は山荘に泊る金を
惜しむ奴(テント担ぎ)は
この畑薙ダムより椹島まで
15.5km歩かされたのである
とどのつまり、「山荘の完全宿泊客以外(幕営登山者や素泊まり登山者)は客ではないので送迎バスには乗せないよ! 『大井川東俣林道』を15.5km歩いて来い!」という高飛車運営をしていたのである。
若き日のワテは、一度であるがこの15.5kmを幕営装備一式担いで歩いたよ。
だが、近年の登山ブームから、この『東海フォレスト』の運営手法は大々的な批判を浴び、事前に宿泊費として3000円を前払い(山荘に泊らなければバス代となる)すれば、どのようなスタイルの登山者でも送迎バスに乗せる事を渋々承諾したのである。
畑薙ダムのダムサイトに設けられた
静鉄バス・送迎バス乗り場
:
強引な山荘経営に多くの批判が寄せられて
現在は宿泊費の一部の前払いで
どのような山行スタイルの登山者でも
乗車できるようになった
※ 静岡市観光課のウェブサイトより
その後、稜線上の山荘も全て管理する事となった『東海フォレスト』は、この前払い宿泊費を稜線上の山荘宿泊に当てる事も可能にして、本格的な山小屋経営に乗り出したのである。
東海フォレストが運営する
南ア南部の登山基地・椹島ロッジ
:
南アを我が物のように占有する
いけ好かない山荘主だったけど
最近は変わっていってる模様
でも、その「山荘の利用客以外は客ではないので、送迎バスには乗せないよ!」という『東海フォレスト』の経営手法は、今でなら鬼畜と言われる位にエグいモノだった。 それは、「山荘予約者以外は、例え道端に行き倒れていても乗せるな!」との『お達し』を、委託バスの運転手に入れていたらしいのである。
これは、テント山行でこのバスへの乗車を拒否されて、畑薙ダムから椹島まで15.5kmをテント一式装備のザックを担いで歩かされ、5時間かけて《椹島》にたどり着いたワテに、委託バスの運ちゃんが、「キミ・・、椹島まで歩いて来たんだよね」と声をかけてきたのだが、この時にこの秘密が露呈したのである。 それは、「乗せてあげたかったんだけど、上から例え道端に行き倒れていても乗せるな!と言われているからなぁ」と、委託バスの運ちゃんがたばこを吹かしつつ真相を語ってくれたのである。
今は畑薙ダムサイトより
2kmほど手前に
登山者駐車場が設けられている
それから15年以上の時が経った今回も幕営山行だったのであるが、『奇跡の体力』を失いヘタれた身体と精神によって、「喜んで!」3000円を支払って送迎バスに乗ったよ。 もう、勢いとしては、これが5000円であったとしても、金を出して送迎バスに乗っていただろうね。
『奇跡の体力』を失った今・・
「余分に金を出してでもバスに乗ろう」と
欲する心変わりをみせた
much of ヘタレとなったワテ
朝露に濡れる
グンナイフウロ
:
千枚岳は山岳展望だけでなく
花の群落も数多く抱いている
《2日目》 椹島より千枚小屋へ
朝、4時に目覚める。 小屋泊まりでテント撤収の手間がなく、予めに朝飯用に買ってあったコンビニおにぎりを食って、4時半にはトイレ以外の出発準備を終える。 トイレを済ませて、出発は4:40過ぎ。
テント一式と2日分の食料で約19㎏位となったザックを担ぐ。
これより、コースタイム6:30の長丁場だ。 「途中でヘバりはしないか」という不安が当然つきまとってくる。 だが、以前に数回使ったルートであり水場の位置も知っている事から、水の所持は最小限の行動水だけで行ける。 これは、真に心強いのである。
このルートを行くと、幕営装備一式を担いで《椹島》までの15.5kmを歩いた最盛期の事が頭に過る。
もう、自慢以外の何物でもないが、最盛期にこのルートを登った時は5時ちょうどに《椹島》を出て、《千枚小屋》に着いたのは9:15。 何と、4:15のタイムで登りきったのだ。
グンナイフウロ
:
かつては朝の残り香が漂う
午前9時15分に登り着く猛者だったワテ
『奇跡の体力』恐るべし
荒川三山~赤石岳周遊の山中2泊3日行程だったので、荷の重さは今回とほとんど同じだったと思う。
しかし、あの時のペースを今追い求めると、確実に轟沈の憂き目を見るだろう。 だから、「ゆっくり、ゆっくり」と念仏の如く呟きながら歩いていく。
このルートは距離が長く、また横に林道が着かず離れず並走している事から、あまりキツイ登りがない分、喘ぐような場面に追い込まれる事はない。 それどころか、林道が樹林の隙間から見える区間は時間を稼ぐ事ができるのである。
このような感じなので、登った感触がほとんどないままに時が過ぎてゆき、いつの間にかルート上の水場である《清水平》に着く。 大して息も上がらずにやって来れたので、少し期待を抱いて時計を見る。
8時少し前と、以外に時間が過ぎていた事にちょっとガッカリする。 やはり、コースタイムを割る事は適わなかった。
この《清水平》からは、それなりに傾斜がキツくなっていく。 それにつれて、そろそろに18~19㎏の荷を3時間以上担いだダメージが肩に圧しかかってくる。 そして、標高2000mちょっとの《蕨段》を越えたあたりから、脂肪まみれの上半身が暴れだして息が上がり始める。
標高2000mの蕨段で
ようやく南アの盟主
赤石岳が望めるようになる
《蕨段》より少し登った所にある展望所で、息を整えるべく休む。 シャツを見ると、かなり汗でシケっている。 この汗の量を推し量ると、かなりバテているようだ。 「バテる」というものは、「身体の状態がどうこう・・」というよりも感情の起伏が大きな要因となるようだ。 この汗の量を見て途端に気が萎え始めた。
登山道脇に
咲いていたコオニユリ
:
ヘバって小休止を連発する時の言い訳は
『高山植物撮影タイム(休憩)』だ
それに呼応するが如く、ルートは《駒鳥池》まで標高差350mの最大傾斜の登りとなる。
もう「バテた」というより、「ダレた」という感覚となる。 アッチの切り株に座り、コッチの「育ちのいい」平たい岩に寝そべったりと、ひたすらダラダラと登っていく。
そういえば前の山行の時も、山頂山荘手前の平たい岩で30分位『路上寝』したっけなぁ。
もう、視線を浴びようがお構いなく、通路の真ん中で・・。 今回は「寝そべる」まではいかなかったが、アグラをかいてパンを貪り食う醜態はしっかりと晒す。 そういう訳で、《駒鳥池》へは随分と時間かかってしまった。 そして、《駒鳥池》からの標高差残り160mは、最盛期との違いをイヤという程に思い知らされる。
最盛期はものの30分とかからず、あっさりと冬小屋が見えてきた記憶が頭にこびりついている。
だが、今回はチンチクリンに射す日差しに1時間以上焼かれ、11回座り休憩を経て正午の30分前に《千枚小屋》に到着。
千枚小屋に着いた時はちょうど正午で
対峙する笊ヶ岳には
夕立を呼ぶ入道雲が湧いていた
空は、もう積乱雲が湧き立つ昼下がりの様相を呈していた。 所要時間6:30。 コースタイムとほぼ同じである。 最盛期のあの時よりも、2時間以上かかってしまったのである。 体力の衰えをこれ程までに数字でハッキリと示されると、もはや遺憾ともし難いよな。
まぁ、何はともあれ、今日の目的地である《千枚小屋》に着いたのだ。 小屋でテントの手続きをして、木陰にあるテント場(小屋より150m位離れている)で昼寝としゃれこもう。
昼寝から覚めたら
夕立を通り越して夕空だった
まぁ、こんなに疲れたなら、昼間グッスリ寝たとしても、夜も寝れるだろうしィ。 小屋や便所と離れているので用事はまとめる事を心掛けつつ、久しぶりの山登りを省みる事としようか。
明日の朝に輝く宝石となった
花をひとつまみ
『富岳百景』の絶景
おばもう一丁・・
※ 続きは、次回の『第487回 その2』にて・・
最近「勤め先を退社した」とか
今の勤め先からのフェイドアウトを
目指す『セミリタイヤ』
という言葉が目に着く
目につくのはワテもそういう年代に
差し掛かった為だろうね
そして自らの勤め先も
半年前に『残念』の手術をして
体力的にヘタッたワテを
新入社員が即効辞めるような
最もキツイ部署に配置するクソっぷりだ
でも裏付けの家主業が
完全に軌道に乗るまで
辞めて無職になろうなんて
大胆な気は起らない
だが社畜化して今のクソ会社に
もらっている給料以上に尽くす気もない
それで「使えない怠け者」と言うなら
労基局に「人道に外れた労働環境」
を訴えるなど受けて立つつもりだ
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Re: No Subject * by 風来梨
hanagonさん、こんばんは。
hanagonさんも歩かれましたか!
上高地の梓川遊歩道と違って、山の展望皆無で面白味ないんですよね。 でも、委託バスの運ちゃんとの会話で、印象的な1日となりました。
今は、静岡からの座席指定の路線バス1往復のみが接続しており、後は全てマイカーですね。 大井川鉄道の井川からは接続してないようで、座席が取れなかった私はコミニティバスで旧赤石温泉の白樺荘までいって、そこから3.5㎞歩かされましたよ。 ここに訪れると歩くのが定めとなってるのかなぁ。 3000円のバスは乗って、椹島は素泊まり小屋に泊まりましたけど。
hanagonさんも歩かれましたか!
上高地の梓川遊歩道と違って、山の展望皆無で面白味ないんですよね。 でも、委託バスの運ちゃんとの会話で、印象的な1日となりました。
今は、静岡からの座席指定の路線バス1往復のみが接続しており、後は全てマイカーですね。 大井川鉄道の井川からは接続してないようで、座席が取れなかった私はコミニティバスで旧赤石温泉の白樺荘までいって、そこから3.5㎞歩かされましたよ。 ここに訪れると歩くのが定めとなってるのかなぁ。 3000円のバスは乗って、椹島は素泊まり小屋に泊まりましたけど。
今は泊らなくても利用出来るよう改善されたんですね。
南アは昨冬の甲斐駒を除いてもう20年近く足が遠のいている気がします。