2021-01-24 (Sun)✎
『日本百景』 冬 第464回 厳冬期の北八ヶ岳縦走路 その3(天狗岳と下山) 〔長野県〕
東西で対照的な
山容を魅せる天狗岳
北八ヶ岳・天狗岳 きたやつがたけ・てんぐたけ (八ヶ岳中信高原国定公園)
天狗岳は東西二峰からなり、東天狗岳にある天狗岩と呼ぶ岩塔を天狗の鼻に見立てたのが山名の由来と云われる。 東天狗岳は長野県茅野市と同南佐久郡小海町の境に位置して、頂上を八ヶ岳縦走路が通る。
東天狗とは対照的に
まろやかでノッペリした山容の西天狗
東天狗岳は切り立った男性的な山容を示しているのに対して、対峙する西天狗岳は2646mの二等三角点をもつものの、その山容はずんぐりとしており西尾根が唐沢鉱泉へと下っている。 また、北側の黒百合平との間にある天狗ノ奥庭は、摺鉢池をはじめ点在するいくつかの小池とハイマツやコケモモ、ミネズオウなどに彩られた庭園風景を魅せる。
佐久側に東壁と呼ばれる大断崖をもつ東天狗岳は、硫黄岳の火口壁や全ての八ヶ岳の峰々と、森のうねりをそのままに望む事ができる八ヶ岳連峰随一の眺望を魅せる。 また、周囲には根石岳・箕冠山・稲子岳がある。 東天狗岳と根石岳の鞍部は、白い砂に緑のハイマツが映える広々とした所で、南東に《白砂新道》が本沢温泉へ延びている。
北八ヶ岳縦走路《3・4日目》行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR茅野駅よりバス(1:00)→ピラタス山麓駅よりロープウェイ(0:10)→山頂駅
(1:20)→北横岳ヒュッテ(0:25)→北横岳(1:00)→坪庭(0:20)→縞枯山荘
《2日目》 縞枯山荘(0:05)→雨池峠(1:00)→縞枯山(0:45)→茶臼山(1:20)→麦草峠
(1:20)→丸山(0:20)→高見石
《3日目》 高見石(2:00)→中山峠(0:10)→黒百合平(1:30)→天狗岳
※西天狗までは往復1時間10分(1:30)→黒百合平 ・・厳冬期はムリかも
《4日目》 黒百合平(1:50)→渋ノ湯よりバス(0:50)→JR茅野駅
※ 前回『第462回 厳冬の北八ヶ岳・・ その2』からの続き
月面の世界が朝日に輝く絶景
《3日目》 高見石より天狗岳へ
せっかく頑張る!?のだから、夕日と朝日はキッチリと押えたいものだ。 この《高見石》には、その名で呼ばれる巨大な岩の累積塊がある。 この上に登れば、東方向に大パノラマが広がる。 白く氷結した《白駒池》も印象的だ。 だが、風景だけでなく、巨岩を題材にするのも面白いかも。 まるで月面にでもいるような・・、摩訶不思議な情景を表現できるかもしれない。 幕営の特権である「誰よりも早く絶好の場所に立って日の出を望む」という本懐を成就したなら、縦走を始めよう。
高見石から黒百合平までは
小吹雪状態でほとんど写真を撮れなかった
ので有り合わせでゴマかそう
さて、縦走路は、小屋の前から林の中を登っていく。 傾斜はさしてキツくなく、一本調子でダラダラと登っていく感じである。 約1時間少々登ると、傾斜が緩やかになって樹林帯を抜け出す。 背後には、今まで樹林帯に隠されていた《高見石小屋》と《高見石》が見渡せる。
この縦走山行で写真が撮れない
ほど天気が悪かったのは
この区間だけだったしィ
樹林帯を抜け出すと広い雪原となり、これをラッセル気味に登っていく。 周囲はハイマツと雪に埋もれた露岩が散見され、晴れていたなら庭園状で素晴らしい風景を魅せる所だが、吹雪くとたちまち方位を見失って“リングワンダリング”に陥りやすい所である。 ワテの通った時は小吹雪状態であったので、道を確信できず何度か彷徨ったのを憶えている。
この区間写真撮ってないので
黒百合平の樹林帯おば・・
広い丘状の所なので、視界が悪いと方向は定まらない。 そして、何かのめぼしい目標もなく、荒天だとやや不安を抱く区間だ。 “彷徨う”のを防ぐ決定的な手立てはないが、頂上で左に折れるというのを意識すればいいだろう。 この丘の頂上で朽ちかけた道標があり、これに導かれて樹林のサークルの中に入ると中山 2496メートル 標高点がある。 ここは周囲の潅木が風を抑えてくれて、今日のような荒天の日には格好の休憩場所となる。
黒百合平への下りに差し掛かると
ようやく樹木の隙間より
天狗岳が望めるようになる
さて、ひと息着いたなら、《黒百合平》を目指して下っていこう。 中山からは樹林帯に突入し、その薄暗い中を伝っていく。 途中に見える景色としては、《ニュウ》と呼ばれる派生尾根のピーク位が樹木の隙間より望める位で特段に目を引くものはない。 また、樹林帯というこ事で雪が浅く、ハイペースで歩いていける。 なお、《ニュウ》を通る『白樺尾根』の道と合流する辺りから、左側が切り立ってきていつの間にか断崖となっているので、うっかり歩くと転落事故につながるので注意が必要だ。
この時は小吹雪を突いて
歩くのが磊いっぱいで・・
:
コレも黒百合平の枝樹氷
このガレ縁に沿って下りきると、《中山峠》である。 ここから今日宿泊する《黒百合ヒュッテ》へは、《中山峠》の分岐を右に折れてものの5分程度である。
厳冬期の北八ヶ岳の拠点となる
黒百合ヒュッテ
※ ヤマケイネットより
とりあえず、重い荷物を置いて一服するのと天候回復を待つ事を兼ねて、ヒュッテに入る事にしよう。
なお、3時間程すると天候が良くなってきたので(この間、コタツの中で昼寝をしていた)、天狗岳にアタックしてみようと思う。
中山峠は樹林帯に巨岩が転がる
北八ヶ岳の優しさと
天狗岳の荒々しさの境界線だ
さて、天狗岳への登路であるが、《中山峠》まで戻って分岐を縦走路の続く方向へ進んでいく。
分岐から少し行くと、鋭角的に峰を突き上げる東天狗とまろやかな姿を魅せる西天狗とが見渡せる。
急登を1つこなすと、広い台地状の所に出る。 ここは《天狗ノ奥庭》と呼ばれ、夏ならば池塘が点在する美しい庭園を魅せるが、冬季は完全な雪原となり下手に歩き回ると道をロストしかねない所だ。
荒々しさを予感させる
東天狗の山肌とまろやかな山肌に
シュカブラを描く西天狗
だが、ここからの天狗岳の眺望は素晴らしく、より迫力を増して迫る東天狗の岩稜と対照的にまろやかな西天狗が見渡せる。 なかでも、西天狗のまろやかな斜面に描かれた雪の風紋は神秘を感じさせるものがある。
振り返ると、蓼科山が柔らかな曲線で裾野を落としている。 この広い雪原を東天狗の岩稜を目指して進んでいく。 やがてこの広い雪原が途切れ、東天狗の岩稜に直接取り付くようになる。 急な雪面をイッキ登りでつめていくが、急な割には雪がよく締まり歩きやすい。 ただ、これだけ急だと下り時が少々不安だ。
これを登りつめるとハイマツ帯の縁をトラバースで右に渡っていくのだが、この取付は判り辛く各人とも迷うようで、幾本ものトレース跡が散見される。 要は張り出した岩稜を左に抜けるだけなのだが、最も渡りやすい所が判り辛く、探し回るより各人が適当にトラバースで渡っているだけのようである。
このような訳で、この区間は正しいルートを通ったかの確信は持てない。 ハイマツをつかみながらの厳しいトラバース(この辺りが道を違えてしるような気が・・)でこの岩稜を抜けると、ゴチャゴチャした岩場をつめて張り出した岩稜の基部をトラバース気味に渡っていく。 ここからが雪付きの岩稜登りだ。
氷の岩稜登りの前に
蓼科の美しい姿を
カメラに収めておこうか
岩稜の基部を巻いて、ルンゼ状に掘れた所を直登気味につめていく。 得てしてルンゼというのは風の吹き抜ける所なので、バリバリに凍っている事があるので注意が必要だ。 ルンゼをつめて、張り出した稜線の中程をトラバースで抜けるのだが、ここも足場が細い上に雪の乗り方が悪く肝を冷やす所だ。
この難所を乗り越えて東天狗が張り出す岩稜の肩に這い出る。 ここからこの岩稜を取り付くのだが、ここが今回最大の悪場だ。
雪付きの鎖場で、鎖は雪で埋もれてほとんど使えない。 ここはピッケルが必ず必要であろう。
よもやとは思うが、ストックなどで来た時はこの岩稜登りは無理である。 登る事はできても下る事が適わない。 アイゼンも前爪がなければ雪を蹴り込む事ができないので、前爪のないアイゼンでも不可だ。
ピッケルを深く突き刺して、ともすれば“刃”の部分も活用しながら雪面を蹴りこんで一歩づつ登っていく。
絶景なるも強風で15分以上の
滞在が不可能だった東天狗の頂上
:
足元で風が巻きあがって
合羽が破裂しそうな位に膨張してたよ
この岩稜をつめると、東天狗の大きな岩稜の直下の右を巻くように登って頂上に飛び出る。
頂上は遮るものがなく南八ヶ岳が一望のままであるが、何分吹きっさらしなので頂上滞在時間は15分が限界だろう。 これ以上いるのは、肉体的にはちょっと耐えれないかもしれない。
東天狗の頂は赤岳や阿弥陀岳など
南八ヶ岳の盟主群も望める絶景だが
薄眼が精一杯の強風が待っていて
下手すれば風で薙ぎ倒されかねない
北八ヶ岳方向も蓼科山まで
クッキリと望めるが
以下は上の写真のコメントと同文
また、もう一つの“天狗”西天狗であるが、ガイドでは『夏道で片道15分』とあるが、この猛烈な風の中ではこれ以上進むのはムリと判断して、東天狗岳だけで引き上げる。
目も開けられない強風に
薄眼で霞んだ西天狗を撮るのが精一杯
:
真冬に西天狗はムリっぽい
トレースも着いてないしィ
なお、西天狗は、2年後の風雪も穏やかになった春山で登っているので、その登頂の様子は来るべき『よも”ヤマ”話』で語る事にしよう。
さて下りだが、往路を忠実に戻るが、何よりも危険なのは頂上直下の鎖場の下りである。 ここでは、ピッケルの刃の部分を活用せねばならないかもしれない。 ピッケルも先のチビたものだと雪面を突き刺す事ができず、「鎖も埋もれた雪面の崖で立ち往生」という形にもなりかねない。 先ほどにも述べたが、スキーストックなどは論外だ。
難所を無事下りきったなら
『写真銀座』の絶景をカメラに収め
氷の岩稜下りで興奮した心を鎮めよう
もし、この場面でスキーストックを持ってくる御仁がいるとしたなら、「そんな“折れる”ものに、あなた・・命を預けますか?」と問いたくなるであろう。 この岩稜を下って、ルンゼも下って(下りは以外とすんなり行けた)、ハイマツ帯のトラバースを越えると、ひとまず安心である。
厳冬期に極めた峰を
味わい深く望んで・・
傾斜はキツいものの雪は堅く踏みごたえがあるので、踏ん張りを効かせて下る事ができる。
後は蓼科の山々を望みながら、そして樹氷となった木々の“雪の花”を愛でながら下っていこう。
但し、冬は日が短いので、(筆者のように)あまりヨタ歩きはせぬように。 なおワテの個人事であるが、今日はヒュッテに泊ろう。 流石に、2日続けては「持たない」かもしれないから。
昼から厳冬期の頂を往復するなんて
若かったからできたんだろうね
ゲレンデにある朝の光が
おりなす芸術で心ゆくまで
遊んでから下山に取りかかろう
《4日目》 渋ノ湯へ下山
今日は、最も安全な冬山の下山ルートを2時間程歩くだけなので、行程的にはさほど語る必要がない。
バスの時間が11時半頃なので、8時に出発すれば十分だろう。
朝の中山峠は岩と樹氷の
おりなすミュージアムだ
ここは《中山峠》まで出て、カメラ片手に樹氷という“雪の花”を愛でに行こう。 朝日が木々に当たって様々な光を示す時、虹色の光がおりなすパラダイスへと誘われる事だろう。
朝の光が樹氷を芸術に変える
青空に雪の白は良く映える
厳しい寒さに耐え抜く
ハイマツの幹も芸術を魅せてくれる
渋ノ湯への下山道は冬山のメインルートで
しっかりとトレースが着いて安心して下れる
下り始めると
一本調子の下りが続く
後は、ヒュッテより一本調子の坂を下っていくだけだ。 途中、樹氷立ちとカメラ片手に語り合ったとしても、8時にヒュッテを出ていれば、下山後に《渋ノ湯》でひと風呂浴びる事も叶うだろう。
一部の登山者にもマナー違反はいたが
それ以上に登山者拒絶で有名だった渋ノ湯
※ フォートラベルネットより
なお、《渋ノ湯》であるが、「《渋ノ湯》は登山者を嫌っている」という噂がよく耳に入ってくる。
くれぐれもアイゼンやリュックを持ち込んで、入湯拒否などをされぬよう。 最後の最後で嫌な思いをしたくないから。 でも、今の御時世で客の選り好みをしていたら、いくら名湯と云えども持たないかもね。
厳冬期は最盛期に近い頃でないと
初心者ルートでも縦走はムリかもね
前の記事のバナー下でも言った通り来週は
術後の体力回復のリハビリも兼ねて
天浜線で『スーパーオチャメ』以来
3ヶ月半ぶりに本年の写真事始めと
井川線で雪山と渓谷背景に
山期分を味わいながら雪道を歩いて
体力を回復させいこうかと
ここで困った事が一つ・・
来週は写真事始めと
初夏のヤマ再開に向けて「リハビる」ので
ブログを書くヒマがない!
・・と言う訳で
人気の無いブログの宿命として
来週の予約公開に向けて今週中に
記事を書き溜めておかないと・・
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Re: No Subject * by 風来梨
朝弁さん、こんばんは。
春の天気が安定するまでは、雪山は厳しいですよね。 それまでは雪を望む山の麓で、すこしづつ変わっていく春を愛でていこうかな・・と。 今は、ちょっと冬山は体力的にキツいので。
春の天気が安定するまでは、雪山は厳しいですよね。 それまでは雪を望む山の麓で、すこしづつ変わっていく春を愛でていこうかな・・と。 今は、ちょっと冬山は体力的にキツいので。
No Subject * by 根室大喜
そんな温泉に浸かったことあります^^)雌阿寒岳のそば、そこは登山客いらっしゃいのとこでした
ところで写真は全部日本の財産ですね^^)素晴らしい
ところで写真は全部日本の財産ですね^^)素晴らしい
Re: No Subject * by 風来梨
根室大喜さん、こんばんは。
私も雌阿寒岳・オンネトーの野中温泉で入った事があります。 ここは仰る通り「ウエルカム」でしたね。
まぁ、この体験記は20年くらい前の事なので、今は渋ノ湯さんも対応を変えてると思いますけど、それ以来はこの下山口から降りたことが無かったので、確認はしてません。
私も雌阿寒岳・オンネトーの野中温泉で入った事があります。 ここは仰る通り「ウエルカム」でしたね。
まぁ、この体験記は20年くらい前の事なので、今は渋ノ湯さんも対応を変えてると思いますけど、それ以来はこの下山口から降りたことが無かったので、確認はしてません。
雪を楽しむお写真
数々のお手本を参考に
春が来るまで楽しまないと。
日曜の遅い目覚め
岩木山が顔出しており
慌ててカメラとお日様のもとを歩いてきました。