2020-05-28 (Thu)✎
『日本百景』 春 第432回 毛勝山 その2 (下り) 〔富山県〕
滑落した事も忘れて
遠目から見てもこの角度
実際に登ると三角定規の60°辺のような
凄ましい傾斜だよ
毛勝山 けかちやま (中部山岳国立公園)
『槍・穂高』、『剱・立山』・『後立山』を擁し、多くの登山者で賑わう北アルプスにも、玄人向けの「未開の山」があるのを御存知であろうか。 それが、今回取り上げる毛勝山 2414メートル である。
大日三山と極近くに対峙してそびえているにもかかわらず、茫洋としたシルエットを魅せるこの山には神秘性が漂うのだ。 “山好き”ならば、その神秘のベールが何なのか・・と、その頂を踏んでみたくなる事だろう。 だが、容易に頂へは近づけない。 この山には、一般的な登山道がないのだ。
毛勝山の頂から登ってきた
毛勝谷雪渓を見下ろす
この山の頂を踏むには、ルート設定が何もない《毛勝谷》の万年雪渓をつめていくしか手がない。
しかも、頂上付近の雪渓は傾斜度50°となり、一般登山者にはかなり危険な内容となっている。
それでも、頂を踏んでみたい。 その心が恐怖心より大きくなったなら、きっとそれは困難を克服する力となろう。 “山好き”の“山好き”たる心を持って、この頂にチャレンジしてみよう。
毛勝山・毛勝谷〜北西尾根ルート 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
魚津市街より車(0:40)→片貝山荘(0:40)→阿部木谷・車止め(1:00)→大明神沢出合
(0:50)→1600m二股(2:00)→毛勝山(2:00)→北西尾根・毛勝谷雪渓展望所
(2:00)→1479.1m三角点(2:00)→阿部本谷林道分岐(0:20)→片貝山荘より車
(0:40)→魚津市街
※ 前回の『第431回 毛勝山 その1』からの続きです
毛勝山の方向からしか望めない
逆さに連なる八ッ峰の絶景
思いゆくままに『逆さ』の方向に広がる剱や立山、そして後立山の峰々を堪能したら、下りにかかろう。
毛勝山の頂上では
知ってる山の全てが
逆さの向きに尾根を延ばしている
逆さに尾根が展開する峰で
一番そそるのはやはり剱の八ッ峰だ
このそそる情景を
望遠で引っ張ってカメラに収めて
下山という勝負賭けを開始しよう
そう・・あの長い尾根を
果てまで下りていくのだ
その下りであるが、本来ならば往路を下るのであるが、ワテはこれより述べる2つの理由から未開の尾根筋を下る事にした。 その尾根筋とは、《毛勝谷雪渓》の右岸に沿う《北西尾根》の下降である。
この平坦な雪原が途切れる
尾根奥の端から
傾斜40°の急下降が始まる
そして、その2つの理由とは、あの雪渓の下りはかなりの困難を伴うが為の危険回避と、もう1つはやはり展望を楽しみながら下っていきたい・・という事からである。 但し、この《北西尾根》とて、頂上直下は40°の傾斜であるので念の為。 それでは、下っていこう。
下から見上げると北西尾根とて
毛勝谷直下ではかなりの
急傾斜である事が判りますね
この《北西尾根》はなかり長大で、下りでも6~7時間かかってしまうので、カンテラの用意は必要だろう。 そして、この尾根を伝っての上りとなると、恐らく途中でのビバークも想定してのテントを担いでの行程となるだろう。
この尾根のいい点は
平坦な所が多いのと
展望に優れている事だろうか
そして水は、尾根道全体に渡って入手が不可能っぽいので、雪を溶かして得る事になるだろう。
まぁ、唯一の救いは、尾根上にはテントを設営できる平坦な丘状の雪原が多くみられるって事くらいであろう。
始めは急傾斜で踏ん張って
写真を撮る余裕と根性があったけど
:
撮り終えてカメラをザックに入れた瞬間
目にサンドが走ったよ
・・つまり滑落したのである
下り始めると、困難はいきなりやってくる。 先程に予告した通り、頂上直下の傾斜40°の雪原下りである。 最近、こちらから2日がかり(先程も述べたように、このルートを登りで使うとなると1日では無理であろう)で毛勝山を極める登山者もいるので、踏跡は一応ついている。 だが、ここは雪原なので雪は深く、足を取られて滑り落ちる危険が高いのである。
鹿島槍の双耳峰を
撮った後に滑落した
:
その事はおぼろげに憶えている
そして、“いざ”という事も想定しておく事だろう。 これは筆者であるワテの体験談に基づくものであるが、筆者は御多分にもれずここで滑落をしている。 だが、“いざ”という時の対応で、まだしぶとく!?無傷で生き残る事ができたのである。 滑落自体は20m程であるが、滑り落ちた時の落ち着いた対応が運命を分けた・・と今でも思っている。
滑落した直後に誤魔化すべくの
現場写真を撮れる所が
落ち着いている証拠か?
ピッケルを思いっきり雪面に刺して体全体で押さえ込むのだが、滑り落ち始めにパニックとなると、瞬時にこれができずに谷底まで一直線に落ちてしまうのだ。 加速度がついたら、もう終わりなのである。
そういう訳では、何度も滑落している経験(恥なる経験だが)が活きたのである。
“経験は成功の母”というが、「恥な経験であっても次につながればまた重宝」と考えるのは、ワテが能天気だから・・だろうね。 まぁ、滑落しない事が最もいい事なのであるが。
傾斜が安定してくると
鹿島槍から五竜といった
後立山の名峰を撮りまくる
・・話は横道にそれたが、この頂上直下の下りを終えると傾斜は多少緩くなって安定してくる。
でも、30°位の傾斜はありそうである。 そして、この30°の傾斜が延々と続くのだ。
鹿島槍の双耳峰は裏から望むと
鋭角的でカッコイイ
:
などと知った風な事を呟いて
先程の滑落を「無かった事」に
するコスさ極まるこのタワケ
先程の滑落ゆえに、萎縮して下る速度が遅くなったワテ(この時、四つん這いで下っていた→これが伝家の宝刀『クマ下り』に進化したのは藪の中に)ならば、所要6時間の所を7時間はかかってしまう事だろうっていうか、今のワテなら真っ暗闇の中となって雪の消えた樹林帯に潜り込んで、ナシナシビバークとなるやも。
ある程度下ると右手後方に
毛勝谷雪渓が見えてくる
ここは降りてきた
傾斜全体を入れる方が
印象深い絵になるね
そして、キツい傾斜が一段落するようになると、右手に《毛勝谷雪渓》の全容が見えてくる。
見下ろす《毛勝谷雪渓》には、この難関に挑む登山者がゴマ粒のように見える。 それにしても、すざましい傾斜である。
登りつめた毛勝谷雪渓と
滑り落ちた北西尾根の雪面
また、見上げると、《北西尾根》の(先程滑り落ちた)斜面が見渡せて感慨深い!?。
ここは手持ち望遠で、思いのままに切り取ろう。
見下ろすと毛勝谷雪渓を
アタック中の登山者が見えた
それを手持ち望遠の
目一杯で引き寄せてみる
:
そうすれば雪渓を登る
臨場感が伝わってきた
でもよくよく考えると
滑落&遅れまくっている状況で
写真を撮ってる余裕なんてないんだよな
「この場所で望遠には三脚が・・」とかいう御仁も、この山は諦めて頂きたい。 これらのコースを三脚を持って登る事の無謀さを判らないようでは、山岳写真自体を自粛して頂いた方がいいかもしれない。
「2㎏の三脚を担ぐ位なら、2㍑の水・・」。 これも『山のセオリー』の1つだとワテは思う。
1479m三角点付近となると
雪渓から草地へと
周囲の情景が変わっていく
後は、右手が切れ落ちた雪原の尾根を伝っていくと《1479m三角点》の辺りで尾根より離れ、《毛勝谷》側の樹林帯の中に潜り込んでいく。 これより、延々と樹林帯の中を彷徨うが如く下っていく。
ある程度下りていくと
標高2400m台の毛勝三山も
見上げる位置にそびえる様になる
精神的にも疲れているはずなので、早足での下山は無理であろう。 また、樹林の隙間より差し込む光が明らかに日没間際の色彩を放つので、より時間に追いつめられるプレッシャーがかかる事だろう。
でも、仕方なし。 雪がなくなったといえども、まだ登山道として確立されていない道である。
道はブッシュや倒木でかなり荒れているのである。 慌てて転ぶよりは、カンテラをかざしてでも確実に下っていく事にしよう。 やがて、《阿部木谷》へ通ずる林道のちょうど中間点辺りに、飛び出るが如く下り着く。
あの急な雪渓を上下して望んだ
毛勝山からの絶景を今も忘れない
あの急な雪渓を登りきった
体験と興奮を絶対に忘れない
たぶん、もう日は暮れているはずだ。 こうなれば慌てて帰る事もない。 今夜は《片貝山荘》に戻って、ひと晩グッスリと眠って翌朝車を回収しに登山口まで出向いて戻る方が得策だろう。
困難を克服して得た自信は
ワテの一生の宝物となった
:
帰ってその体験談を文にまとめよう
今晩はTVでも見ながら、次々と思い浮かぶ山の体験談をまとめたいと思う。
いつも武漢ウイルスネタなので
今回は新作発表の場として
このスペースを活用しようかな・・と
我がメインサイト『日本百景』の
本文項目の『22 陸中海岸』の<3>項目
碁石海岸・穴通磯が完成致しましたぁ~
また先日に完成した
のドン引き内容満載の山行記もよろしくネ!
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No Subject * by 鳳山
毛勝山って玄人のみが登れる山なんでしょうね。それだけに大自然が我々素人にも印象深く迫ってきます。風来梨さんのように全国の山を制覇できる人が羨ましい。
Re: No Subject * by 風来梨
鳳山さん、こんばんは。
かなり厳しい、俗にいう『バリエーションルート』ですね。
頂上直下の傾斜50度の雪渓は。
それを若さと勢いだけで行っちゃったのが、この記事の山行ですね。 あぁ、若さとは素晴らしい。 若さは、何でもできた気がしましたね。 若い時にアタックしておいて、良かったなぁとつくづく思いますね。
かなり厳しい、俗にいう『バリエーションルート』ですね。
頂上直下の傾斜50度の雪渓は。
それを若さと勢いだけで行っちゃったのが、この記事の山行ですね。 あぁ、若さとは素晴らしい。 若さは、何でもできた気がしましたね。 若い時にアタックしておいて、良かったなぁとつくづく思いますね。
No Subject * by hanagon60
こういう山登ると生きてる実感を味わえますね。強烈に脳裏に焼き付くことと思えます。滑落も無事で良かったですね。
私は今まで雪山と滝で各一回滑落していますが、どちらも無事では済みませんでした(ーー;)。とりあえず自力帰還は出来ましたが。。
私は今まで雪山と滝で各一回滑落していますが、どちらも無事では済みませんでした(ーー;)。とりあえず自力帰還は出来ましたが。。
Re: No Subject * by 風来梨
hanagonさん、こんばんは。
お恥ずかしながら、滑落は最長で常念の一ノ沢での70mを始め、片手以上の回数でやらかしてます。 また、沢で流される通称・ムーミン(ムーミンのオープニングより)も2回ほど、骨折は肋軟骨損傷から最悪はペテガリ岳での肋骨2本まで、ハデに『オチャメ』っています。
でも、勤めを首になるのが怖くて、そのまま勤務してました。 でも、不思議に足は無かったんですよね。 2年前の西穂のロープウエー駅まで700mの地点でローリングサンダーをカマして酷い捻挫をするまで。 だから、コケてアバラ骨をポッキンしても、『オチャメ』満開で下山してました。
最近では下るのが遅くなりまくって、明るい内に下山できずにビバークしてしまう危機を迎えています。
お恥ずかしながら、滑落は最長で常念の一ノ沢での70mを始め、片手以上の回数でやらかしてます。 また、沢で流される通称・ムーミン(ムーミンのオープニングより)も2回ほど、骨折は肋軟骨損傷から最悪はペテガリ岳での肋骨2本まで、ハデに『オチャメ』っています。
でも、勤めを首になるのが怖くて、そのまま勤務してました。 でも、不思議に足は無かったんですよね。 2年前の西穂のロープウエー駅まで700mの地点でローリングサンダーをカマして酷い捻挫をするまで。 だから、コケてアバラ骨をポッキンしても、『オチャメ』満開で下山してました。
最近では下るのが遅くなりまくって、明るい内に下山できずにビバークしてしまう危機を迎えています。