2020-05-20 (Wed)✎
よも”ヤマ”話 第102話 白峰三山・塩見岳 大縦走 その1 北岳 〔山梨県〕 '94・8
北岳 3192m (2度目の登頂)
北岳の頂上直下から続く
日本一標高の高いお花畑
白峰三山 しらみねさんざん (南アルプス国立公園)
南アルプスの北部には、北岳 3192メートル ・間ノ岳 3189メートル ・農鳥岳 3026メートル と、ひときわ高い峰が連なっている。 この3つの峰は、『白峰三山』と呼ばれている。
北岳は“知る人ぞ知る”日本第二の高峰で、間ノ岳も日本第四位につけている。 現在は、南アルプス林道の開通によってアプローチが容易となり登山者も増えてきたが、ひと昔前はこの山に登ろうとするなら前に立ちはばかる鳳凰三山を乗り越えるしか手がなく、限られた熟練クライマーのみが登頂を許される山であった。
景観では北岳が特に素晴らしく、雲海から上の眺めや周りの山々全てを“肩越し”に眺める爽快感、東面に落ち込む北岳バットレスの大岩壁とその斜面を飾る花々がおりなす“アルペン”風景、そしてこの山を染める高山植物の大群落など、高山的魅力はつきない。
白峰三山・塩見岳 大縦走 1日目 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR甲府駅よりバス(2:05)→広河原(2:30)→大樺沢二俣(2:00)→八本歯ノコル
(0:45)→吊尾根分岐(0:15)→北岳(0:50)→北岳山荘
《2日目》 北岳山荘(1:35)→間ノ岳(1:10)→農鳥小屋(0:45)→西農鳥岳
(0:35)→農鳥岳(1:10)→農鳥小屋(2:30)→熊ノ平
《3日目》 熊ノ平(2:45)→北荒川岳(2:00)→塩見岳(1:00)→塩見小屋
(2:20)→三伏沢幕営場
《4日目》 三伏沢幕営場(0:20)→三伏峠(3:30)→塩川よりバス(1:25)→JR伊那大島駅
八本歯ノコルより鳳凰三山と
登ってきた大樺沢を見下ろして
《1日目》 大樺沢雪渓を経て北岳へ
このコースは、南アルプスの盟主・北岳を始めとして、間ノ岳・農鳥岳といった名だたる名峰をめぐるゴージャスさが売りものだ。 また、高低差600mを誇る《大樺沢雪渓》の登高や多彩な種の高山植物群、600mの大岩壁を振り落とす《北岳バットレス》、巨大な二等辺三角形を示す間ノ岳、南アルプスの名だたる山を見渡せる爽快感・・と、ダイナミックな風景と登山の魅力をふんだんに味わう事ができるのである。
登山を始める前に、登山口の《広河原》へは必ず前日にアプローチしておきたいものだ。
なぜなら、登山口の《広河原》の標高は1590m。 北岳までは、実に1600mの標高差があるのだ。
それを7kmの距離で登りつめるのである。 従って、コース全般に渡って急登を強いられる。
甲府方面からバスでやってきて、“朝”とはいえぬ時間に“降りたで”登山をするのは、登高最中に午後の直射日光で蒸し焼きとなる自滅行為だ。
このコースは、山の魅力を全て味わえる最高のコースであると同時に、南アルプスの第一級の登山路でもあるのだ。 当然のセオリーとして、いやマナーとして《広河原》へのアプローチに日程を割いて、翌朝の夜明けと同時に登り始めねばなるまい。 登山口にある《広河原山荘》は、朝食4時半と夜明けの出発に対応しているので利用するといいだろう。 まぁ、この頃の『奇跡の体力』満開で、しかも『放浪山旅』のワテは《広河原》でも金を惜しんでテント泊だったりして。
今回は白峰三山の奥にそびえる
『漆黒の冑』の異名を持つ
塩見岳がターゲットだ
それでは二度目の日本第二・第四の高峰の踏破に加え、『白峰三山』の残り・・三つ目の峰・農鳥岳・・、そして南アルプスのヘソの位置にある塩見岳までのロングラン縦走をやってみよう。 でも『放浪山旅』の最中で、つい3日前まで『立山・薬師・雲ノ平 大縦走』をやっていたのである。 自分で言うのも何だが、『奇跡の体力』は凄ましい限りだね。
夜明け前に起きて、朝飯は時間をかけぬようにパン食にして、即効テントをたたんで、空が白み始めた5時過ぎ頃から登り始める。 《広河原山荘》の裏手から、樹林帯の中へ分け入っていく。 まだ夜が完全に開けやらぬ中、しかも薄暗い樹林帯の中を通るので、ヘットランプを点けていく。
《大樺沢》の沢音が聞えてくると樹林帯を抜け、砂防ダムが連なる沢の土手の上に立つ。
この頃に程よく空が赤みを帯びてきて、眼前にはギザギザに伏し尖った北岳の《八本歯ノコル》が朝の柔らかい光を浴びてオレンジ色に輝くのが望める。 これを目にすると、気合も入ってくる。
これよりはしばらく“いい景色”とはお別れとなるので、十分この情景を目に焼きつけてから先に進む。
この砂防ダムより再び樹林帯に入り、沢の土手を登っていく。 しばらく見通しの利かないダケカンバのトンネルの中を通るが、やがて沢に下りてゴロゴロと大きな岩が転がる河原の上を歩くようになる。
『奇跡の体力』を情景で表すと
こういう情景デス
:
そりゃぁ・・枕が涙で濡れるわ
『奇跡の体力』満開のこの時はダケカンバのトンネルの中はアッという間に通り過ぎたので長らく印象が薄かったが、20年の時が過ぎてヘタレてからだと、登りはともかく下りでこのダケカンバのトンネルを抜けるのに2時間以上かかっちまったよ。 20年の時を経て、この時の上りのタイムの倍近くの『逆進化』を遂げた訳である。
さて、ダケカンバのトンネルを抜けると、橋で沢を渡って左岸(進行方向右手)の河原をゆくようになる。 河原の上を行くのは、転がる岩を乗り越える小さな登降を数多くこなさねばならないので歩き辛い。
『奇跡の体力』満開のこの時でも距離の割りに時間を食った河原歩きを乗り越えると、右手の土手の樹林帯に突入していく。 沢の途中にある沢滝を土手で巻いて抜けると、壮大な雪渓の端が見渡せる《大樺沢二俣》にたどり着く。
右俣ルートは
北岳バットレスとお花畑の
絶景が魅られる
ここは《北岳バットレス》の好展望ルートである『右俣コース』との分岐点で、最初の北岳アタックでは、この『右俣コース』から《北岳バットレス》とお花畑を望みながら下りてきたよ。 また、北岳登高ルート上の中継点に位置する絶好の休憩場所で、水も得る事ができるので、ここを通る全ての登山者が休憩を入れている。 そして今は、沢の途中なのに公衆トイレさえ設置されているしィ。
大樺沢二俣で二手に分かれる雪渓
:
近年の異常気象の連続で
雪渓は消滅の危機に瀕しているようだ
さて、分岐からは、上から延びる雪渓に向かって登っていく。 この《大樺沢雪渓》は途中に大きなクレバスがあり、雪渓の“中央突破”とはいかない。 雪渓の縁を巻くようにしながら登っていくのである。
従って、本格的に雪渓を登るのはせいぜい8月上旬までで、秋口に近づくとコースのほとんどが岩ガレ道の登りとなる。 であるから雪渓を登っているにかかわらず、とても“暑い”のである。 暑さに耐えて黙々と登っていくと、いつしか雪渓中央部の巨大クレバスが背後に見下ろせるようになる。 そして、ハクサンイチゲやグンナイフウロなどの高山植物も草地に咲き競うようになる。 こうなると、600mの標高差を誇る巨大な雪渓も終わりを迎える。
大樺沢雪渓端の草付に咲いていた花
スンマセン・・花の名前判りません
雪渓の最後で、雪渓の中に入って中央部にトラバースする。 《大樺沢》にほとんど雪渓が残っていない“最悪”の場合、雪渓を踏む事ができるのはこのトラバースのみとなるかもしれない。
25年前のこの時の雪渓状況は上に記した通りだが、今は毎年の如くの夏に集中豪雨が続く異常気象と暖冬で、この雪渓も消滅の危機に瀕しているようである。 20年後に登ったヘタレの夏は、雪渓を一歩も踏む事なく雪渓の上端まで登れたよ。 ルート上のマーキングペンキも、岩ガレ道上に印されていて、通年をもって雪渓には入らぬようになっているようである。 しかも、雪渓は『雪田』にまで縮小してたしィ。
トウヤクリンドウ
:
雪渓の上部にはお花畑が点在していた
雪渓を抜けると、《大樺沢》の源流の清水が流れている。 きっとこの清水は、暑くキツい登りを乗り越えた『御褒美』であろう。 十分にこの『御褒美』を味わおう。 雪渓上部の清水からは、お花畑の点在するガレ場となる。 最初はジグザグを切って登っていけるが、徐々に個々のガレ岩が大きくなってきて、岩と岩の間にハシゴが架かるようになる。
バットレスの写真を撮り忘れたようなので
バットレスのお花畑おば・・
この辺りから森林限界前の最後の樹林帯に入り、ハシゴと木の根を踏みしめながら登っていく。
樹木の間から、《北岳バットレス》の大岩壁がすざましい威容をもって迫り出してくる。 3192mの北岳を支える“屋台骨”だけあって、その壮大さと威圧感は強烈である。
ルートは最後に左に大きくそれて角度的に《北岳バットレス》が見えなくなると、ようやく《八本歯ノコル》の最低鞍部に這い出る。 朝、美しく輝いていた《八本歯ノコル》のギザギサにようやく着いたのだ。 取っていた記録によると、ここまで4時間半。 声を上げたくなるような『奇跡の体力』の凄ましさである。 まぁ、20年後は7時間かかったし・・ね。
頂が噴火したような
入道雲を乗せる富士の山
この上からは戦艦大和の艦橋のようにどでかく盛り上がる間ノ岳と、シルエット美しき“眺めるべき山”・富士山が見渡せる。 そして間ノ岳の右端、ここから距離にして300m程の所に《北岳山荘》が建っている。
夏の終わり
秋の色濃い花が山を飾る
但し、その間は深い谷底だ。 この《北岳山荘》まで行き着くには、北岳の山腹を大きく巻いて行かねばならない。 《八本歯ノコル》でひと息着いたなら、北岳の頂上に向かって登っていく。
気持ち的には《八本歯ノコル》に着いた事で、もう九割方登った気分になってしまうがこれは“甘い”考えで、実際にはあと標高差にして300m登らねばならない。
八本歯ノコルからは
ハシゴと鎖を連ねて北岳の頂へ登っていく
ガレにガレた岩道をハシゴ伝いに登っていくと、3000mを越えるお花畑があちらこちらに現れる。
富士山がほとんど高山植物のない山であるので、おそらくここが“日本一標高の高い”お花畑の群落であろう。
富士山にお花畑がないので
この北岳山頂直下のお花畑が
日本一高いお花畑だろう
薬になる花
トウヤクリンドウ
紅のぼんぼり
タカネナデシコ
秋の花
ウメバチソウ
タカネナデシコ・トウヤクリンドウ・ウメバチソウ・トリカブトなど、秋口に咲く様々な花がガレた大斜面を美しく飾る。 花々に誘われて、“もう登る所のない所”・頂上へと導かる。 3192m・・。
ワテの登りたいと思う山の中で、最も高い山の“てっぺん”だ。 この“てっぺん”からは、周りの山々を全て見下ろせる。 “名峰”と呼ばれる全ての山々を・・だ。
北岳の頂より
周囲の峰を見下ろして
オベリスク(地蔵岩)が望める
白亜の頂を魅せる峰・鳳凰三山
八ヶ岳連峰と白亜の甲冑をもたげる
甲斐の守護峰。甲斐駒ヶ岳
頂にカールを魅せる
優しき峰・仙丈ヶ岳
これより伝う縦走路の先には
『漆黒の冑』塩見岳が・・
鳳凰三山・甲斐駒ケ岳・仙丈ケ岳・八ヶ岳・浅間山・中央アルプス・北アルプス・間ノ岳・農鳥岳・塩見岳・荒川三山・赤石岳・・。 この一大パノラマを全て“見下ろす”爽快感は、言葉では語れない。
この素晴らしい眺めをいつまでも眺めていたいが、午後はたいてい天気が崩れてくるので、山頂でひと息着いたら今日の宿泊地・《北岳山荘》に向かおう。
戦艦大和のような巨大な山体の
間ノ岳を見ながら
北岳山荘へ下りていこう
下りは、前方に間ノ岳のどでかい山容と様々なお花畑の群落、そして仙丈ケ岳の優雅な稜線をみながら降りていく。 カメラ片手に下っても、1時間もあれば山荘前に着く。
こんなお花畑に魅せられると
「カメラ片手に1時間」では下れないかも
《北岳山荘》では『放浪山旅』ゆえ、もちろんテント泊だ。 この頃の《北岳山荘》のテント場は間ノ岳側の高台にあり、朝は間ノ岳が朝日に焼ける絶景が望めたのである。
斜陽に光る北岳
明日朝の絶景は次話のお楽しみ
だが現在は、公衆トイレ棟が北岳側に建設された為か、北岳側のトイレ前がテント場となって、情景的には一歩落ちる。 だが、こちら側でも、朝の北岳とスペクトルの空や御来光が拝めるよ。
※ 翌朝の絶景は、『第103話 白峰三山・塩見岳 大縦走 その2』にて
『奇跡の体力』・・書いている最中も
目から涙があふれるよ
その凄ましさは
「何でも適い、何でもできる」と
見果てぬ壮大な山旅の夢を魅させてくれたよ
でもどうしてこんなに変わったのだろう
ホント別人のようになってしまったよ
あの時のワテから見ると今のワテは
完全なる詐欺だぁね
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Re: No Subject * by 風来梨
根室大喜さん、こんばんは。
ウチも根室大喜さんのブログで、いつも美味しいものを食べた気分を味わってますよ。
富士山は、若い火山ゆえに植生が乏しいのですね。
ウチも根室大喜さんのブログで、いつも美味しいものを食べた気分を味わってますよ。
富士山は、若い火山ゆえに植生が乏しいのですね。
No Subject * by 鳳山
北岳って日本第二の高峰なんですね。ググったら3193mもあって驚きました。加えて3000m以上の高峰が21もあるんですね。意外でした。
Re: No Subject * by 風来梨
鳳山さん、こんばんは。
富士山があまりにも有名な為と、標高差がかなり引き離されている事から、ほぼ山趣味の人しか知られていない我が国第二の高峰・・、それが北岳ですね。 でも、山の魅力は富士山の何十倍もあると私は思ってます。
ちなみに、三角点の無い沢の源頭の山や仮の山頂など(例えば立山の雄山や悪沢丸山、奥穂の支峰・ジャンダルムなど)も含めると、28峰あります。 一応、富士山の登頂をもって、国内の3000mはジャンダルムを除いて制覇できました。
ジャンダルムは、奥穂~西穂で『オチャメ』って未踏ですが、近々踏破したいな・・と。
富士山があまりにも有名な為と、標高差がかなり引き離されている事から、ほぼ山趣味の人しか知られていない我が国第二の高峰・・、それが北岳ですね。 でも、山の魅力は富士山の何十倍もあると私は思ってます。
ちなみに、三角点の無い沢の源頭の山や仮の山頂など(例えば立山の雄山や悪沢丸山、奥穂の支峰・ジャンダルムなど)も含めると、28峰あります。 一応、富士山の登頂をもって、国内の3000mはジャンダルムを除いて制覇できました。
ジャンダルムは、奥穂~西穂で『オチャメ』って未踏ですが、近々踏破したいな・・と。
富士山にお花畑が無い@@;びっくり