2020-02-08 (Sat)✎
よも”ヤマ”話 第90話 トムラウシ・日本庭園 花めぐり 〔北海道〕 '94・7
トムラウシ山 2141m (2度目の登頂)
霧が晴れると
大地が白く光る様が望めるだろう
・・トムラウシの頂上にて
トムラウシ山 とむらうしやま (大雪山国立公園)
大雪山の山の中で、最もどっしりとした山容を魅せるのが、このトムラウシ山 2141メートル である。 この山は、山頂部に円頂丘を持つトロイデ型の火山で、大雪南部の盟主として知られている。
そしてこの山は、周りに素晴らしい自然の造形を創り上げている。
『トムラウシ・日本庭園』で
咲き競う小さく可憐な花々
まずは、トムラウシ山腹にある『トムラウシ・日本庭園』である。 池塘と、花と、雪渓がおりなす自然の山水画・・。 大自然が、いったいどのようにしてこの景観を創造しえたのか。
ひときわ可憐な姿を魅せる
エゾコザクラ
また、トムラウシ山の西側には、『五色ヶ原』に優るとも劣らない“花の世界”・『黄金ヶ原』がある。
『黄金ヶ原』は、ミヤマキンバイやキンポウゲなど黄金色の花が多く咲き乱れ、その名の通り花が大地を黄金色に輝かすのである。 そして、この山は“眺める”のもいいだろう。
北方の未知なる島からの使者
ホソバウルップソウも群落を成して
《化雲平》から眺めるトムラウシ山は、また格別。 すぐ間近に、トムラウシ山がどっしりと構えた姿を魅せて壮観だ。 またこの平原は、ホソバウルップソウやエゾノハクサンイチゲの大群落地としても有名で、特にホソバウルップソウが満開の時は最高。 山の緑と紫の花が美しく、この平原を飾るのである。
ヒサゴ沼~トムラウシ周遊 行程図
《1日目》 層雲峡温泉より車(1:00)→沼ノ原登山口(1:40)→沼ノ原・大沼(3:00)→五色ヶ原
(0:20)→五色岳(1:10)→化雲岳分岐(0:40)→ヒサゴ沼避難小屋
《2日目》 ヒサゴ沼避難小屋(0:35)→ヒサゴ沼分岐(0:30)→トムラウシ・日本庭園
(1:25)→北沼(0:30)→トムラウシ山(2:00)→黄金ヶ原
(1:40)→トムラウシ・南沼(1:35)→トムラウシ・日本庭園
(1:00)→ヒサゴ沼避難小屋
《3日目》 ヒサゴ沼避難小屋(1:50)→五色岳(0:15)→五色ヶ原(2:30)→沼ノ原・大沼
(1:00)→沼ノ原登山口より車(1:00)→層雲峡温泉
※ 前回『第89話 五色ヶ原・化雲平』からの続き
朝の雪渓の登高時に魅せられた
陽の光と雪渓がおりなす陽炎の神秘
《2日目》 トムラウシ・日本庭園の花めぐりとトムラウシ山・黄金ヶ原へ
さて、今日の行程は、若かったこの時だからできた行程を実行するので、避難小屋はなるべく早く出発せねばなるまい。 その「若かったこの時だからできた行程」とは、ヒサゴ沼よりトムラウシを過ぎて黄金ヶ原までの往復である。
今日はヒサゴ沼から
往復10時間の行程だ
:
前日は山上のオアシスで
十分休養したいものだ
標準的なコースタイムでは、トムラウシ山を往復するだけで6時間かかってしまうので、更にトムラウシ山より2時間先の《黄金ヶ原》までの往復となると、コースタイム10時間超となるからである。
ちなみに、『奇跡の体力』の枯れ具合が顕著になってきた10年ほど前は、ヒサゴ沼~トムラウシの往復だけで7時間かかっちまったよ。 最初の時は、ヒサゴ沼からトムラウシを踏んで天人峡までイッキに下ったんだけどなぁ。 回想すると、また今夜も枕を涙で濡らす事になるので、もう回想はヤメにしよう。
出発直後に小屋の脇で見つけた
一輪のイワイチョウ
それでは、出発しよう。 北海道は緯度が高い分夜明けは早く、夏至の時などは午前3時過ぎには明るくなり始める。 5時過ぎなどは、早朝とも言い難い『朝』の光線状況となるのだ。 8時を周ると、もう正午前の感覚となるのである。
だから、5時ちょうどの出発は、感覚的にそれほど早い出発とはならないんだな・・、コレが。
小屋を出ると、いきなり今日の行程で最も危険な所を通過する。 それは、ヒサゴ沼のヘリにある傾斜付きの雪渓のトラバースである。
このように右側の雪渓は
ヒサゴ沼に直接落ち込んでいる上に
一部が崩壊してるしィ
:
今日最大のデンジャラスゾーンは
いきなりやってくる
この雪渓は、カールバンドにスプーンカット状に乗る雪渓で傾斜がキツく、しかも雪渓の縁が沼で切れていて、滑り落ちると言うまでもなく「沼にドボン」となるからである。 でも、体力に自信のある『奇跡の体力』ホルダーだったこの時は、さして危険も感じずにホイホイ行けたんだけどなぁ。
ちなみに、『奇跡の体力』が枯れてきた10年前はアイゼン着けてもおっかなビックリで、この雪渓を越えるだけで半時間かかってたけど・・ね。
コチラの雪渓の登高は
下で沼が口を開けてない分気が楽だ
この傾斜のトラバースを凌げば、カールバンドの急傾斜を登って稜線上の縦走路と合流する。
カールバンドに雪が乗った同じ急傾斜でも、すぐ下に沼があるのとないのとは大違いで、傾斜度はコチラの方がキツいものの恐怖感は全く感じない。 まぁ、下りの時は「やや気になる下り」となるけれど。
『トムラウシ・日本庭園』までの花層は
1つの種の花が大地を染めるものだった
さて、雪渓がゴーロの岩塊となるまでカールバンドを登りつめると、程なく縦走路との分岐に出る。
縦走路はこれより、化雲岳への300mのジグザグ登りだ。 結構見上げる感じで登っていくので、下から見るとそそるモノがある。 まぁ、そのそそり具合は、体力のあるナシに反比例するけど。
『日本庭園』の入口を
黄色く染めていた花は
ミヤマキンバイの花だった
まぁ、今回はこの坂は見送って、反対側に進む。 前面が隠れる程の高みへジグザクを交えて登っていくと、前の景色を隠していた丘の上に立ち、そこから我が国屈指の山上庭園風景が広がる。
朝の光と立ち込めた霧で
大地を光の靄で包みこむ
また、朝5時に出発してからちょうど頃良い朝の時刻となったようで、朝の眩い光が大地を光の靄で包み込んでいる。
大自然が創造し
天然の庭園風景に魅せられて
やがて木道が現れて、その上を伝って行くと庭園風景を魅せる天沼の前に出る。 沼の周りにはトムラウシの噴火で噴出したであろう溶岩が、無造作でありながらも整然とした情景を創造し、周囲の緑も庭園職人が刈り込んだかのような均整の取れた円形の花のコロニーを形成している。
庭園の池塘を囲む
花のコロニーにも魅せられて
もう、見とれて足がついつい止りがちとなるが、今日はコースタイムで10時間超の行程なので、踏ん切りをつけて前に進む。
日本庭園に咲き競う花々
淡い紫が情感を呼ぶ
チシマフウロ
大地を染め上げる白い花
エゾノハクサンイチゲ
池塘をオレンジ色に飾る
エゾカンゾウ
ここから、トロイデ火山のトムラウシ山の山容を形成する溶岩の積み重なりの《ロックガーデン》まで庭園を彩るお花畑が続く。 このお花畑の特徴は、一つの種の花が大地を染める五色ヶ原とは違って、様々な色を魅せる多種の花が咲き競う事である。
前方に岩屑が積み重なる
《ロックガーデン》が見えてきた
庭園の中にハイマツが現れ出すと、前方に城壁のように岩が積み重なった《ロックガーデン》が見えてくる。 お花畑はひとまずこれまでで、一度地形の窪みを埋める雪渓に下りてから《ロックガーデン》の岩屑に取り付く。
《ロックガーデン》は単体では人間の身体より大きな岩石の積み重なりで、当然岩と岩の隙間も人がハマれば脱出不能になるような深くて危ない『ホール』もある。 ここは岩にペンキで書かれた指示に従って登っていこう。
《ロックガーデン》上部の
お花畑に咲く花々・その1
魅惑的な紫を魅せる
ミヤマリンドウ
ピンクの花じゅうたんを魅せる
エゾコザクラ
《ロックガーデン》の岩をよじ登るというよりも岩を伝いトラバースする感覚で登っていくと、岩石が突然の様に消えて草付となり、これを昇り詰めるとさっきまで《ロックガーデン》を登っていた事がウソのような丸い平原の丘の上に出る。
《ロックガーデン》上部の
お花畑に咲く花々・その2
神秘的な小さな濃紺の花に虜となる
リシリリンドウ
その名にまだ見ぬ北方の島を思い描く
ホソバウルップソウ
丘の上は再びお花畑が広がるが、こんどはミヤマリンドウやホソバウルップソウ・エゾコサクラなど紫色やピンクの濃い色の花が咲き競うお花畑となる。 そして、ようやく『本物』のトムラウシの頂が眼前に現れる。
《ロックガーデン》の
岩屑の『ヤマ』に隠れていた
トムラウシの本峰が眼前に現れる
そう・・、今まで見えたトムラウシの姿は、トロイデ火山を形成する積み重なった岩屑の塊・《ロックガーデン》だったのである。
トムラウシ直下の湧水が沼となった
透明度抜群の北沼の畔を通り過ぎ
やがて丘状の平原は、緩やかにたわんでトムラウシ直下の窪地にある北沼の畔の横を通り過ぎた後に、トムラウシ本峰の岩屑をよじ登っていく。 この岩屑は先程の《ロックガーデン》を形成する岩石より小ぶりで登るには容易だが、頂上直下に積み重なった岩石と言う事で岩と岩の隙間が無数にあり、跨ぐのに苦労する。 この隙間は比較的浅いが、落ちると尖った岩で擦り傷をもらうので注意したい。
1ヵ所あった簡単な鎖で頂上から続く肩によじ登ると、穴ボコに落ちぬように岩を伝って程なくトムラウシ山 2141m の山頂に着く。 山頂からの眺めは雄大で、360度大雪の山々を見渡せる。
大雪・旭岳のストライブや化雲岳のシンボル『デベソ岩』も視認できる。
山の民憧れの峰・トムラウシの頂に立つ
だが圧巻は、これより先の十勝岳方面・・、黄金ヶ原の情景だ。 ユウトムラウシ川のカール地形を囲むように続く大地の先が、白く光っていたのだ。
頂きから十勝岳方向を望むと
緑の平原の先が白く輝いていた
この白い大地はいったい何なのか? その答えは、次回の『第91話 黄金ヶ原』にて明かす事にしよう。
冬に夏山の記事を書くのって
結構精神が疲弊するよ
「このカテゴリはワテの山岳史だ!」
「だから仕方がない!」と
口ずさみながら季節外れの記事を書くワテ
それは異質な事をして
その難を逃れようと欲する
小市民の心意気だな
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No Subject * by 鳳山
トムラウシってググったらアイヌ語で花の多い所だそうですね。高山植物の花々が綺麗です。
Re: No Subject * by 風来梨
鳳山さん、こんにちは。
> トムラウシってググったらアイヌ語で花の多い所だそうですね。高山植物の花々が綺麗です。
トムラウシの意味がアイヌ語で花の多い所というのは、私も知りませんでした。 また一つ、貴重な知識を得る事ができました。
調べて頂き、有難うございます。 でも、この当時は、真に花の楽園でした。 それは、次話にて語りますので、宜しければ御覧下さい。
でも、大気の温暖化による雪の減少など機構の変化や、有名になり過ぎてヤマの知識に欠けたモノが多く入り込むようになって、花も次第に少なくなってきているというのが気がかりですね。
> トムラウシってググったらアイヌ語で花の多い所だそうですね。高山植物の花々が綺麗です。
トムラウシの意味がアイヌ語で花の多い所というのは、私も知りませんでした。 また一つ、貴重な知識を得る事ができました。
調べて頂き、有難うございます。 でも、この当時は、真に花の楽園でした。 それは、次話にて語りますので、宜しければ御覧下さい。
でも、大気の温暖化による雪の減少など機構の変化や、有名になり過ぎてヤマの知識に欠けたモノが多く入り込むようになって、花も次第に少なくなってきているというのが気がかりですね。