2019-12-10 (Tue)✎
『日本百景』 秋 第409回 仙人池 再び・・ その4 《仙人池~阿曽原温泉~欅平》 〔富山県〕
月明かりで神秘的な情景を魅せる
仙人池・水鏡
仙人池 再び・・
時が経つ(歳を喰う)のは早過ぎるというか残酷なもので、前回仙人池に訪れた時からもう20年経ってしまった。 あの頃は『奇跡の体力』の最盛期で、今回の所要時間の半分で駆け抜ける事ができたが、今はヘタるだけヘタれてしまったよ。
三度目で初めて魅せられた
夜明け前の月明かりの絶景
これだけヘタれると、何度か通った仙人池へのルートも「ほとんど初めて歩いた感覚」となるのだ。
それは、若き頃に保持していた『奇跡の体力』が終焉を迎え歳を喰うと共にヘタレが加速して、実際にヤマに訪れてはその事をイヤという程に思い知らされ続けて、「あの『奇跡の体力』は夢まぼろしだったのだ・・」と諦めが頭の中を支配し始めた証なのだろう。
もし、あの『奇跡の体力』の残像がまだ頭の中にこびり着いていたなら、「こんなハズではない」という思いに苛まれているだろうし・・。 それでは、何度か通ったこの仙人池へのルートを、20年の時を経て「初めて歩いた感覚」で伝ってみようと思う。
今回の山行の3日目行程図
行程記録 ・・記してて涙がこぼれそうになった行程記録
《1日目》 JR富山駅より鉄道利用(1:05)→立山駅よりケーブルとバス(1:00)→室堂
(0:30)→雷鳥平(1:50)→剱御前小屋(1:00)→剱沢(4:40)→真砂沢小屋前
《2日目》 真砂沢小屋前(1:40)→近藤岩・二股(3:20)→仙人池
《3日目》 仙人池(3:00)→仙人温泉(4:30)→仙人ダム(1:20)→阿曽原温泉
《4日目》 阿曽原温泉(6:40)→欅平より渓谷鉄道利用(1:20)→宇奈月温泉駅より鉄道利用
(0:30)→黒部宇奈月温泉駅
※ 前回『第408回 仙人池・再び・・ その3』の続きです。
岩峰が黄金色に輝く瞬間
仙人池に着いたのは、山行《2日目》の13:03。 《2日目》の地図上のコースタイムが4時間を切る行程を6時間かかったとはいえ、昼に着いて昼寝できたのは首尾上々であった。
逆光・黒光りは昼寝で撮り損ねた
ので20年前の写真おば・・
おかげで、八ッ峰の黒光りを取り損ねたよ。 でも、濡れた手袋などを天日干しして、完全に乾かす事ができたし。 そして、夕暮れ。 日の沈むのが早く、16時を周った頃には池が陰ってあまり写真を撮れなかったけど、それでも絶景なのでごろうじろ。
予想以上に陽が落ちるのが早かったよ
池が真っ暗になったので
八ッ峰をシャドーで撮ってみた
翌朝は日の出前の4時半頃に起きて、朝飯のパンを食ってテント撤収など出発の準備を整えてから、この地に訪れた目的に魅せられにいく。 なぜなら、今日は朝6時半に出て、イッキに欅平まで歩いていくつもりだったからである。
だがヤマは、これまでは割と都合よく山旅を続けていたワテに試練(スーパー『オチャメ』の連発)を与えたもうたのである。 それは帰った翌朝まで続くキッツい『試練』だったよ。 まぁ、その『オチャメ』炸裂は後ほど語るとして、しばしヤマの絶景に魅せられよう。
夜明けの空と月明かりに魅せられて
八ッ峰の尖峰が
夜明けの光にほのかに染まった時
夜明けの空と月明かりの
織りなすショータイムが幕開けとなる
尖峰を茜色に染める夜明けの光と
月の夜明かりが調和する瞬間
夜明けの光がヤマを染めて
月明かりがヤマを映す池を照らして
やがて朝の光が勝っていき
山肌に明暗を刻むようになる
そして茜色に染まっていた
八ッ峰の尖峰を黄金色に輝かす
月明かりから御来光の光へ
まだ月明かりが勝っていた夜明け前は
尖峰は美しい茜色に染まっていた
徐々に茜色に染める
朝の光が下に届いてゆき
光が下に届いた時には
山肌は茜色から黄金色に変わっていた
池の水面にも光が届き
仙人池・水鏡に魅せられる
去り難き絶景に魅せられ続けたいが、有休を取ってくるしかないしがなき勤め人の身であるので、『有休+休日』の3日目である今日に下山をせねばならない。 そして、下山のゴール地点である《欅平》は、コースタイムで9時間かかる所なのである。
だが、このタワケは、今日までに散々思い知らされたある事を、この絶景に魅せられて完全に頭からフェイドアウトしていたのである。 そして案の定、スーパー『オチャメ』が頭上に顔に尻に炸裂するのである。 でも、「このタワケはこんなに『オチャメ』ってよく生きてるなぁ・・」と、自分自身で感心するよ。
それは、もうお分かりの如く、ゴールの《欅平》まで『コースタイム』通りにいけるのは、20年前の『奇跡の体力』に準じる体力・パワーがあったればこそ・・で、初日に剱沢の下りで『下り三倍満』を叩き出してカンテラ点けてようやく《真砂沢》に着いたヘタレには不可能な事だったのである。
要するに、このシリーズの冒頭でカッコイイ事を書きながら、まだ『奇跡の体力』への妄想を捨てきれないタワケだったのである。
沢沿いの浮石だらけの下り道
コレで遅い下りが更に遅くなる
さて、下り始めは昨日の《池ノ平分岐》から《仙人池ヒュッテ》までの間と同じく、階段状の踏み板と木道が敷かれてあるが、程なく途切れて全て浮石の沢の石ころが転がる下り辛い急下降となる。
所々鎖付きの所もあるが、これは鎖に頼らずとも下っていける。
感動の絶景を魅せてくれた
八ッ峰やお月さんと別れの時がきた
下っていく毎に、素晴らしいショータイムを魅せてくれた八ッ峰とお月さんが仙人尾根に隠れていってお別れとなる。 八ッ峰が見えなくなると方向を右に変えていき、正面に後立山の峰々が現れる。
向きを90度変えて後立山の峰々を
見ながら谷に向かって下りていく
この草付の裏側が岩盤となっていて
その上部をヘツる難所となる
後立山の峰々が正面に現れると、谷に向かって更に深く下っていくようになる。 途中で左岸(下からだと右側)の岩盤高くをヘツる個所があり、テント装備一式担ぎではトラバースのし辛いザイルロープ場があり、少し緊張する。 でもココ・・、鎖でなくてザイルロープなのね。
下りていく毎に
迫る谷の岩盤が覆ってきて影となる
やがて、仙人谷の沢から離れていき、対岸の奥に白い噴煙を上げる仙人湯の源泉が見えてくる。
でも、見えてからがなかなか着かない。 あまりにも着かないのでダレてきて、なんでもない坂道て尻スライディングをしてしまったよ。 でも、上に書いた『尻オチャメ』はコレではないので念の為・・っていうか、まだ『オチャメ』るのかよ!って感じですネ。
こんなに急なのになかなか着かない
「どんなけ下りるんだ!」と言う程に
滑って尻もちを着いたすぐ先で下の仙人湯小屋が設置した塩ビの導水パイプがあり、沢水をジャブジャブ吐き出していた。 ちなみに、この先は小屋下の沢を渡る橋を過ぎると仙人ダムの手前の沢まで水を得れないので汲んでいった方が無難である。
この沢水の所から20分程で、もうとっくに営業を終えてる仙人湯小屋に着く。 小屋はもう廃屋の如くゴミが入口に放り込まれるなど荒れ放題で、「これで来年営業できるのか?」という疑問が頭の中を漂ったよ。
さて、小屋前の平らな岩に座って休憩ながら時計を見ると「ゲッ!」、9時半を周ってやがんの。
仙人池からここまで下るだけで3時間近くかかっちまったよ。 コースタイムでは1:30らしいけど、下り辛さ前回のあの下りは到底1:30では行けない・・とはいうものの、この下りで倍の3時間かかってしまうと、《欅平》が遠く霞んでくるのである。
「もう、《欅平》で渓谷鉄道に乗るのはムリだ」、「ここは日が沈むまでにに着いて、《欅平》でテントを張って、翌朝の始発に乗れば翌日の夜勤に間に合う」と行動計画を変更する。 でも、このタワケのヘタレ度合は、その修正を遥かに凌駕していたのであった。
それと、この《仙人湯小屋》である違和感がある事にも気が着いたのである。 「確か、下るルートは小屋横を真っ直ぐ進んだハズたったが、今回は道が右に折れて小屋前を沢方向へ延びている」と。
だが、小屋前に立つ道標には右を指して『阿曽原→』とあったので、逆らう事はできずに、その通り沢の方へ向かって進んでいく。
すると沢に木橋が架かっていて、これを渡るように道標リボンが指し示している。 沢を渡ると、想定外に噴煙を上げていた仙人湯の源泉に向かって登っていく。 それはまるで、下っていたのが180度向きを変えて引き戻すが如く・・である。
まさか仙人湯源泉の硫黄ガスを
浴びるとは思ってもみなかったよ
約100m近く登り返して、あらビックリ・・、ルートは噴煙噴き出す仙人湯の源泉の直下をトラバースして対岸の山肌に取り付いていたのである。 そこから更に直登に近い登りで150m登り返す。 「コレは完全に道が付け替えられたようだ」と感じながら登っていく。
阿曽原への旧道からドンドン離れていく
約30分位よじ登ると傾斜はなくなり、丘状の高みの上に出る。 そこには『1629mピーク・山頂』と記された鉄道の100m単位ポストのような道標が設置されていた。
1629mピーク付近は紅葉も見頃で
新道効果を享受したと思った矢先に
そこから暫くは緩やかな下り坂が続き、「楽で安全に下れるように道が造られたんだ」と思った矢先、遥か下に仙人ダムの青いダム湖が現れ出すと、100mはあろうかという直立の大岩盤をハシゴを連ねてほぼ垂直に下っていくのである。
このすぐ先はハシゴの連続する
直立の岩盤下りだった
ハシゴ自体はしっかりとしたモノがアングルにリベットで鉸められて設置されていたが、奈落の底に下りるが如くのハシゴは、段を踏み外したりハシゴ移動でシクジったりしたら即座に「ジ・エンド」だ。
「コレって、旧道の方が安全でない?」という疑問がフツフツと沸き上がる付け替え道だったよ。
このハシゴでの岩盤下りが終わると、痩せた尾根筋の急下降となり、そろそろに長い下りに疲れてくる。 疲れで意識が散漫になり、尾根筋で転んでケツから谷底に落ちそうになったりして・・。
まぁ、転んだ方向が雑木林だったので事無きを得たけど、『死亡フラグ』はためくビック『オチャメ』となった。
下りはなおも容赦なく続き、もう1000m以上降りた感覚と疲れがあるのに、まだダム湖の青い湖水まで300m以上の高低差はありそうだ。 もう、半分フテ腐れながらも、この300mを下りきってようやくダム湖の湖畔にかかる橋に下り着く。 ここから鎖付きのヘツリを伝って仙人ダムの堤体へ。
下り着いた所は阿曽原峠のかなり
手前にある仙人ダム湖畔だったよ
それで想定外に『撮り線路』ができたよ
ダム堤体の中で対岸から渡って来る日電歩道と合流して、阿曽原峠に登り返す・・ン? 阿曽原峠に下り着く旧道では必要のない『阿曽原峠に向けての200mの登り』となるのである。 コリは完璧に旧道の方が楽だったよ。 「旧道で事故って旧道閉鎖に追い込んだ奴! ワテの前に出て謝れ!」と叫びたい気持ちでいっぱいだったよ。
もう15時を周って22㎏を担いで10時間歩いた事となり、さすがに阿曽原峠下に登り着いた時はヘロヘロになっていた。 そして、峠下から小屋の建つ川の畔まで150mの下りで、再度『ビックオチャメ』が炸裂する。
それは、フラついて転石を踏み損ねて一回転してズッコケたのである。 しかも転んだ時に軽く顔を打って鼻血ブー。 しかも、小屋の手前僅か50m程の所で。 コレって、腹から火を噴いたあの時のシチュエーションとほとんど同じである。
鼻血垂らしながら降りてきたので、小屋前では一躍『時の人(タワケ)』となったよ。 もう16時前で到底明るい内に《欅平》まで行けそうにないし、顔から赤い液体を垂らして『時の人』となっちまったので、この阿曽原でテントを張って泊まる事にした。 転ぶまでは、オリオ沢出合まで出張ってそこにテント張ってビバークしようと思っていたのだが・・。
今回の山行の4日目行程図
:
内容的には不要だけど
せっかく作成したので
もう食糧も、手を着けなかった今日の行動食としてのバターロールパン3切れのみとなり、小屋で夕食だけ頼んでテント泊とする。 翌日は《欅平》で10時位までの列車に乗れれば夜勤に間に合うと踏んで、朝3時半起きの4時半出発とした。
今回は下ノ廊下では
コレ以外撮らなかったのに
でも、ワテの進行するヘタレは留まる所を知らず、4時半の暗い内に出発したにも関わらず、写真もオリオ沢の滝以外では撮る事ないなどほとんど立ち止まらずに歩いたのに、《欅平》まで6:40もかかってしまって10時を遥かに凌駕する11:35にようやく着いたよ。
素晴らしい思い出だけを胸に
この山旅を終えたかったけど
乗れたのは11:46発の列車で、これで今夜の夜勤は遅刻が決まったよ。 この1本前なら間に合ったのに・・。 まぁ、休み前に有給を取った手前、休み明けも休むのは気まずいし・・ね。
でも、朝3時半に起きて、《黒部渓谷・下ノ廊下》を20㎏担いで7時間歩いて、夜勤勤務とはシブとさだけは『ゴキブリ』なみだね・・、ワテは。 この山行最後の『オチャメ』は、この遅刻と7時間歩いての地獄の夜勤勤務である。
でももうちっと
下りが早くならないと
『遭難・死亡フラグ』乱立させる
危ない山ノボラーになっちまうね
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No Subject * by 根室大喜
読むだけでヘトヘトになりましたが、体験できないことを体験させてもらった気がします^^)本当のヘタレは山に登りません
Re: No Subject * by 風来梨
根室大喜さん、こんにちは。
> 読むだけでヘトヘトになりましたが、体験できないことを体験させてもらった気がします^^)本当のヘタレは山に登りません
ヘタレ登山となって得した事。 それは、このように臨場感あるヤマの記事が書ける事ですね。 もう、『オチャメ』だらけで、ネタに事欠きませんし。←コメントしてて、涙が出るのはなぜ?
> 読むだけでヘトヘトになりましたが、体験できないことを体験させてもらった気がします^^)本当のヘタレは山に登りません
ヘタレ登山となって得した事。 それは、このように臨場感あるヤマの記事が書ける事ですね。 もう、『オチャメ』だらけで、ネタに事欠きませんし。←コメントしてて、涙が出るのはなぜ?
こんばんは(^^)/ * by mt minnie
仙人池~阿曽原温泉~欅平凄いルート歩かれているのですね。
驚くほどの速さで山を歩いている人いますが、今も好きやお山
のルート歩かれているのですから、素晴らしいです。
この付近は全然詳しくなく、雷鳥平と、欅平だけは行った事
有ります。黒部のトロッコで(^^)/。
驚くほどの速さで山を歩いている人いますが、今も好きやお山
のルート歩かれているのですから、素晴らしいです。
この付近は全然詳しくなく、雷鳥平と、欅平だけは行った事
有ります。黒部のトロッコで(^^)/。
Re: こんばんは(^^)/ * by 風来梨
mt minnieさん、こんにちは。
> 仙人池~阿曽原温泉~欅平凄いルート歩かれているのですね。
> 驚くほどの速さで山を歩いている人いますが、今も好きやお山
> のルート歩かれているのですから、素晴らしいです。
> この付近は全然詳しくなく、雷鳥平と、欅平だけは行った事
> 有ります。黒部のトロッコで(^^)/。
『奇跡の体力』全盛時の私はそうでした。 コースタイム6時間半を4時間ちょっとで歩いて、午前9時過ぎにテント場に着いて寝ていた事もありました。
『仙人池 再び・・』のルートは、テント装備一式だとキツめのルートですね。 このルートを歩かれる方は小屋泊まりの方がほとんどですが、小屋は紅葉最盛期の前に営業を終えてしまっちゃいますので、小屋が閉まった以降はテントと水を担ぐ必要がありますね。 でも、あの絶景を独占できます。 私は、それを狙って『オチャメ』覚悟で挑んでいます。
> 仙人池~阿曽原温泉~欅平凄いルート歩かれているのですね。
> 驚くほどの速さで山を歩いている人いますが、今も好きやお山
> のルート歩かれているのですから、素晴らしいです。
> この付近は全然詳しくなく、雷鳥平と、欅平だけは行った事
> 有ります。黒部のトロッコで(^^)/。
『奇跡の体力』全盛時の私はそうでした。 コースタイム6時間半を4時間ちょっとで歩いて、午前9時過ぎにテント場に着いて寝ていた事もありました。
『仙人池 再び・・』のルートは、テント装備一式だとキツめのルートですね。 このルートを歩かれる方は小屋泊まりの方がほとんどですが、小屋は紅葉最盛期の前に営業を終えてしまっちゃいますので、小屋が閉まった以降はテントと水を担ぐ必要がありますね。 でも、あの絶景を独占できます。 私は、それを狙って『オチャメ』覚悟で挑んでいます。