風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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よも”ヤマ”話  第71話  大キレット

よも”ヤマ”話  第71話 大キレット 〔長野県・岐阜県〕 ’93・8
北穂高岳 3106m 〔名峰次選 20峰目〕

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このナイフリッジを伝って北穂高岳へ・・

  槍・穂高連峰 やり・ほたかれんぽ (中部山岳国立公園)
北アルプスのハイライトとして登りたい山・・。 また、眺めても美しい姿の山として圧倒的に人気があるのが、この槍・穂高連峰である。 標高が日本第3位の奥穂高岳 3190メートル や、極めて山容秀麗な槍ヶ岳 3180メートル がそびえ立つ北アルプスの代表となる山域だ。 登山ルートはバリエーションルートも含めて色々あるが、一般的なコースは上高地から槍沢経由のコースである。

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連峰の中央に位置する北穂高岳より
槍ヶ岳と北アの山なみを望む

ちょっと上級の方ならば、やっぱり縦走コースの『表銀座』・『裏銀座』を目指す事だろう。 
これらのコースは北アルプスの展望が素晴らしく、人気共々第一級の縦走コースだ。 
また、登山の“玄人”を自負する方には、槍ヶ岳から大キレットを通り奥穂高岳へ抜ける嶮しいコースもある。



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南岳~奥穂高 連峰岩稜部行程図

   行程表            駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR松本駅より鉄道(0:25)→新島々よりバス(1:15)→上高地(3:00)→横尾
     (1:40)→槍沢ロッヂ
《2日目》 槍沢ロッヂ(1:40)→氷河公園分岐(2:30)→槍ヶ岳山荘より槍ヶ岳往復・所要約1時間
     (2:30)→南岳(0:10)→南岳小屋
《3日目》 南岳小屋(1:20)→大キレット・長谷川ピーク(2:20)→北穂高岳(2:20)→涸沢岳
     (0:30)→穂高岳山荘
《4日目》 穂高岳山荘(0:50)→紀美子平より前穂高岳往復・所要約50分(2:45)→岳沢
     (2:00)→上高地よりバス(1:15)→新島々より鉄道(0:25)→JR松本駅
   ※ 前話『第70話 我が国のシンボルの峰へ・・』の続き

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夜明けの光に茫洋とそびえる
北穂高岳と大キレット
さぁ・・これを越えていこう

 《3日目》 大キレットを越えて奥穂高岳・白出乗越へ
いよいよ今日は、槍・穂高縦走路の中では難所となる《大キレット》越だ。 従って、早発が望まれるのである。 ・・といっても、夜明け前にカンテラをかざして難所に入り込む愚行はやめようね。

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中央アルプスや富士がかぎろい色に染まる時
それが理想の出発の頃合いだろう

まぁ、小屋泊りだと出発時刻が朝食時間に左右されるので、遅番に当たったりすると難所を攻める分には著しく不利となるのである。 だから、小屋泊まりなら小屋のスタッフに早発ちを伝えて、朝食は弁当(弁当はおにぎりと新香のみで、これで朝食と値段が一緒なので少し損である)を持たせてもらうようにするといいだろう。

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難所越えの気合いを入れるべく
朝の絶景を獲り込もうか・・

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朝日は常念岳の左から昇る

まぁ、早起きさえすれば出発時間を自由に設定できるテント幕営の機動性りの良さを、改めて感じるのである。 でも、この難所をテント装備一式担いで歩く・・という、体力的な不利を生じるけど。←ぢ・つ・わ・・、この記事を書いている3日前に、幕営装備一式21~22㎏を担いでこのルートを歩いていたりして・・。

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ちょうどこのコマで
1本のフイルムを撮りきった!
さぁ・・出発だ

さて、小屋を出て、小屋の裏手の丘を緩やかに登っていくと、《獅子鼻》の大岩がそそり立つ断崖に差しかかる。 いよいよ、《大キレット》越えの始まりだ。 

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いよいよ《大キレット》越えの始まりだ

この降り口から北穂高岳までは、ものの見事にスッパリと切れ落ちており、見下ろせば緊張感が全身にほどばしる事だろう。

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大キレット核心部 行程図

《獅子鼻》の大岩の横のガラガラの砕石帯を急下降していく。 踏み込むごとに砕石が崩れ落ちる厄介な道だ。 それを飛騨側の谷に向かって200m程下っていく。

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こんなガラガラの最石帯を急下降していく

最後に2ヶ所、垂直の岩崩れを鉄ハシゴを使って下りると、《大キレット》の“底”と呼ばれるキレット北部の鞍部に下り着く。

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日が昇り対峙する笠ヶ岳を覆う
大キレットの影が徐々に取り除かれていく

この鞍部は大きな岩塊が屏風のようにそびえ立っていて、それがいい日陰を作っている。
対面にそびえる笠ヶ岳の美しき姿を眺めながら、この岩陰でひと息着くのもいいだろう。
ここからも、ナイフリッジ状の痩せた尾根の登降が続く。 

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長谷川ピークに取り付く頃には
笠ヶ岳に映っていた大キレットの影は
完全に取り除かれる

この痩せ尾根を伝っていくと程なく信州側に切れ落ちたカール地形を見て、トラバース気味にカールバンド上のピークを越えていく。 このピークを越えると、砕石の積み重なったゴチャゴチャした岩場の下りとなる。 落石を起こさぬように慎重に下っていこう。 下りきると、《大キレット》の最低鞍部だ。
標高2748m。 《南岳小屋》の下降点から230m下りきった事になる。

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最低コルから望む大キレットの稜線は
恐竜の背ビレのようだ

ここから、再び飛騨側を巻くように《長谷川ピーク》と呼ばれる岩峰をよじ登っていく。 
《長谷川ピーク》の頂上で信州側に切り返し、ナイフリッジで連なる痩せ尾根をトラバースしていく。
この《長谷川ピーク》直下のナイフリッジを跨ぎ下っていくのが、《大キレット》最大の難所だろう。
それも嫌がらせのように、握り辛い太っとい鎖なのである。

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この鋭く尖った刃のような岩塔が
長谷川ピークだ

まずは、ペンキで《長谷川P》と書かれた岩を背に、張り出したナイフリッジの岩を信州側に取り付いて10mほどトラバースするが、最初に取り付く鎖の握り始めの位置からではホールド地点に足が届かず苦労する。 これはナイフリッジの尖った岩をつかみながら鎖を手繰る必要がある。 ワテが感じた「最も厄介な所」はここだろうか。

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信州側もスッパリと切れ落ちてます

鎖を手繰って無事に足をホールド点に着地させると、ナイフリッジを跨ぐ地点までホールド点は確保されているようだ。 そして次の難関は、このナイフリッジを跨いで飛騨側に乗っ越して、岩壁に設置されたアングルに足を着地させる事だ。 ナイフリッジの両側は断崖絶壁に切れ落ちているので、シクじれば確実に墜落死だろう。 まぁ、この『ナイフリッジ跨ぎ』が、《大キレット》での最大の墜死事故発生地点らしい。

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さすがに長谷川ピークの下りは
写真撮影が不可能なので
イメージとして日輪のこの写真おば・・

このアングルは結構下にあり、身長が低く足が短いワテにはやや不利だ。 だが、アングルはしっかりカマしてあって、今は足を置きやすいように鉄板のステップとなっていて難易度は下がっているようだ。
そういえば、この記事の頃(’93年)のアングルはそのような鉄板のステップではなく、そのまんまに岩に打ち込まれたボルトだったけど・・。

ナイフリッジを乗っ越すと、しばらく飛騨側の岩壁をトラバースで伝っていく。 そして、最後に3m程の大岩を鎖片手に懸垂下降すると、《A沢のコル》に下り着く。 ここは小さな広場になっていて、ようやくにひと息着ける場所だ。 

ひと息着いたなら、北穂高岳への350mのイッキ登りだ。 途中にはこのコース最大の悪場と云われる《飛騨泣き》の通過があるが、上りなので云われる程に程に大した事はない。 だが、ここから岩が飛騨側に迫り出してきて、人とすれ違うのも困難となっていく。 前を行く人の進み具合や対向者待ちで時間を大いに食って、この迫り出した岩場を登っていく。

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飛騨泣きの大岩盤を望む

すると、程なく《飛騨泣き》の核心、オーバーハングの大岩巻きに差しかかる。 下は《滝谷》がスッパリと、気持ちがいい程にキレ落ちている。 その状況で鎖片手に岩に突き刺してあるアングルを踏みながら、このオーバーハングの大岩を巻いていかねばならない。 

我がホームページ『日本百景』のガイドでは「この大岩・・、迫りだし方が半端でないので返し手が届かず、トラバースの基本である三点支持もままならない。 手をクロスして体をいっぱいに引き伸ばして、何とかこの難所を乗りきろう」と書き記したが、《大キレット》の通過が人気コースになった事から、ここも先程の《長谷川ピーク》のナイフリッジ跨ぎ地点のように鉄板のステップが設置されていて、容易に通過できるようになっている。

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《飛騨泣き》を乗り越えて
テラスでホッとひと息

これを乗りきると小さなテラスとなっていて、《滝谷》の見事な眺めを見ながらひと息着けるだろう。
この先は、信州側に向かって斜めに登っていく。 稜線上に出ると信州側に切り返し、本谷のカール壁をトラバースで伝ってから北穂高岳の取付点の前に出る。 

後は、コテコテした砂礫の岩場の250mイッキ登りだ。 先ほどまで緊張はないものの、所々で鎖やハシゴの助けを借りなければならないので気を緩めず登っていこう。 このイッキ登りを登りつめると、《北穂高小屋》の裏手に這い出るように飛び出る。

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北穂山荘前の展望テラスから
これまでに越えてきた道程を望む

登りついたなら小屋の前のテラスに立って、大キレットの尖った峰々がおりなす絶景を満喫しよう。
今、自分がこの難所を越えてきたので、その感慨もひとしおだろう。 さて、ひと息着いたなら、この稜線の5つ目の3000m峰・北穂高岳 3106メートル の上に立とう。 小屋からほんの数段の階段を上ると北穂高岳の北峰頂上だ。

北穂高岳頂上発 絶景かな・・
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北アのシンボル・槍ヶ岳

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大キレットを越えて立つ
北穂高岳頂上でのアリバイ写真

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穂高連峰の南端・前穂高岳の
方向へ進んでいこう

頂上は《大キレット》から見上げた姿からは思いもつかぬほど広々としたもので、涸沢岳・奥穂高岳の連なりの背後に前穂高岳もその姿を魅せてくれる。 ここから一度緩く下って登り返すと、北穂高岳最高点の南峰だ。

  ※ 続きは、次回の『第72話 涸沢・奥穂高』にて・・



バックパーカー部門で
現在11位らしい・・
乱・禁・愚に手を出すとは
夢にも思わなんだよ

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No Subject * by ●kuromaru
こんばんは。
槍穂は1度はやってみたかったですが、おっさんになって体力が落ちると厳しいですね。
なんで若い頃にやろうとしなかったかと後悔です。
常念辺りから対岸の大キレットを見て満足するしかありません…

Re: No Subject * by  風来梨
●kuromaruさん、こんばんは。

> こんばんは。
> 槍穂は1度はやってみたかったですが、おっさんになって体力が落ちると厳しいですね。
> なんで若い頃にやろうとしなかったかと後悔です。
> 常念辺りから対岸の大キレットを見て満足するしかありません…


ホント・・、かつての自分にあったら別人として絶対に自身の将来の姿として認めてくれないでしょうね・・。
若い頃と比べると、もう犯罪級に別人ですから。

それでも、ヒーヒーいいながらやってますね・・ヤマを。
この盆休み前も、槍沢~氷河公園~南岳~大キレット~涸沢岳~上高地と、テントを担いで縦走してきました。
もう所要時間は、概ね1.5倍~2倍かかりましたわ。

だから、テント場ごとの各駅停車の行程でしたね。

コメント






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No Subject

こんばんは。
槍穂は1度はやってみたかったですが、おっさんになって体力が落ちると厳しいですね。
なんで若い頃にやろうとしなかったかと後悔です。
常念辺りから対岸の大キレットを見て満足するしかありません…
2019-08-15 * ●kuromaru [ 編集 ]

Re: No Subject

●kuromaruさん、こんばんは。

> こんばんは。
> 槍穂は1度はやってみたかったですが、おっさんになって体力が落ちると厳しいですね。
> なんで若い頃にやろうとしなかったかと後悔です。
> 常念辺りから対岸の大キレットを見て満足するしかありません…


ホント・・、かつての自分にあったら別人として絶対に自身の将来の姿として認めてくれないでしょうね・・。
若い頃と比べると、もう犯罪級に別人ですから。

それでも、ヒーヒーいいながらやってますね・・ヤマを。
この盆休み前も、槍沢~氷河公園~南岳~大キレット~涸沢岳~上高地と、テントを担いで縦走してきました。
もう所要時間は、概ね1.5倍~2倍かかりましたわ。

だから、テント場ごとの各駅停車の行程でしたね。
2019-08-16 *  風来梨 [ 編集 ]