2019-07-07 (Sun)✎
よも”ヤマ”話 第66話 南アルプス南部・大縦走 その2《千枚小屋~悪沢岳》〔静岡県〕’93・8
千枚岳 2880m〔名峰次選 17峰目〕、悪沢ノ頭 3032m、悪沢岳 3141m【名峰百選 24峰目】
憧れの峰・悪沢岳へ・・
南アルプス南部 みなみアルプスなんぶ (南アルプス国立公園)
南アルプスは白峰三山を越えると、頂を踏むのに二日がかりとなる。 それだけに、深山の趣をあふれんばかりに感じ取る事ができるのである。 まず、『漆黒の鉄兜』の異名を持つ塩見岳 3052メートル。
この山は南アルプスのほぼ中央にあり、どこから登っても二日以上かかるのだが、頂上に立つと南・中央・北と全てのアルプス、そして日本の全ての3000m級の山を見渡せるのである。
塩見岳を越えると、南アルプスの盟主・荒川三山と赤石岳がそびえたつ。
悪沢岳 3141メートル ・荒川中岳 3083メートル ・荒川前岳 3068メートル と連なる荒川三山は、赤石岳の雄大な眺めと鞍部ごとにある広大なお花畑が素晴らしい。 中でも、荒川前岳の標高差400mにも及ぶ大斜面を染め上げるお花畑が赤石岳を借景に広がる風景は、言葉にできない雄大さがある。
もう一つの盟主・赤石岳 3120メートル は、赤みを帯びた山肌とその巨大な山容が印象的だ。
そして、その巨大な山陵から望む朝の紅に染まった富士や悪沢岳の美しさには、思わず息を飲む。
そして南部には、最後の3000m峰・聖岳 3013メートル がある。 この聖岳まで、赤石岳から僅か6km。 しかし、この間にピークが4つもあり、全て頂を越えていかねば聖岳までたどり着けない。
この苦しい登りこそ南アルプスの魅力であり、これを克服してこそ雄大な風景を思いのままに味わう事ができるのである。
また、更に南に進めば、『お花畑』との地名を持つ上河内岳 2803メートル や、“光石”を抱く光岳 2591メートル など個性的な魅力を持つ山々が連なり、広大で懐の深い山域なのである。
南アルプス南部・大縦走〔千枚小屋~荒川小屋〕行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 静岡市街より車(2:30)→畑薙第一ダム(4:40)→椹島
《2日目》 椹島(3:20)→蕨段(2:00)→千枚小屋、千枚岳へは往復1時間20分
《3日目》 千枚小屋(0:45)→千枚岳(1:30)→悪沢岳(1:30)→荒川中岳
(0:25)→荒川前岳(1:10)→荒川小屋
《4日目》 荒川小屋(0:40)→大聖寺平(1:45)→赤石岳(2:00)→百間平
(0:50)→百間洞露営地
《5日目》 百間洞露営地(1:30)→大沢岳(2:00)→兎岳(2:30)→聖岳、奥聖岳へは片道20分
(1:50)→聖平
《6日目》 聖平(2:20)→上河内岳(1:30)→茶臼小屋(1:45)→柿窪沢小屋
(1:00)→ウソッコ沢小屋(1:30)→畑薙大吊橋(0:50)→畑薙第一ダムより車
(2:30)→静岡市街
※ 前回の『第65話』の続き
朝・・小屋前に立つと
かぎろいの空に浮かぶ富士の絶景があった
《3日目》 荒川三山を踏んで荒川小屋へ
この日は昨日の午後から降った断続的な雨も上って、美しい御来光を望める最高の天気であった。
やはり、美しい風景を魅ながらゆく山旅は、この上なく楽しい。 さて、空がかぎろい色に染まる中、早発しよう。
千枚小屋から望むあの山に挑むには
『奇跡の体力』の最盛期である事が欠かせない
今日の行程は、《荒川小屋》までの5時間半と特段に時間に追われる訳でもない(でもヘタレた今は、確実に時間に追われるだろうね)が、山に登ってきたからには、朝日が山を輝かす素晴らしい情景を目にしたいものだ(ヘタレた現在は写真を撮ってさらに遅れて、日が落ちて暗くなったった稜線上をカンテラを点けて歩き、小屋やテント場でドヤされるケースが多くなりました・・、ハイ)。 これが早出の理由である。
さて、千枚岳へは、小屋の脇から延びる登路を登っていこう。 登り始めからいきなりハイマツ帯のジグザグ急登だが、かぎろい色に染まる空の中で美しいシルエットを魅せる富士山の姿には、言葉抜きに感動させられる。
富士の裾野が少しづつ白くなって
夜明けから早朝への移り変わりが判る
しばらく立ち止まって、“お気に入り”の風景を心ゆくまで味わおう。
周囲の樹木を花札のように配すると
更に絵になるね・・
朝日の放つ輝きは、山の景色だけではなく周囲に散らばる花々にも“感動”を与えてくれる。
光を浴びて黄金色に輝く花、朝露の宝石を輝かす花、風にそよぐチングルマの黄金の実・・。
名もなき花が
朝露の宝石を輝かせて・・
朝日を浴びて黄金色に輝く
五色の花々が日の光を浴びて輝き、七色に十色に変わる様にも言葉に尽くせぬ“感動”がある。
素晴らしき景色の中、あまりにも短い45分はあっという間に過ぎ去って、千枚岳 2880メートル の頂上へ登り着く。
南アの山なみを一望する
朝日の昇る方向にそびえる富士は
最後まで朝の余韻を残し・・
千枚岳からの眺めは言うまでもなく雄大で、朝の爽快な空の下、北は塩見岳へ連なる山なみ、東のまだうっすらとピンクの残る空と富士山、西はこれより登る悪沢岳、そして南は巨大な山塊で文字通り“山”を魅せてくれる赤石岳・・と名峰が目白押しだ。 この贅沢なパノラマを満喫したなら、いよいよ“憧れ”の峰・悪沢岳にアタックしよう。
もう一つの盟主・赤石岳を望んだら
盟主の峰の踏破にくり出そう
千枚岳を越えると、ガレた細い稜線の南側を“へつる”ように越えていく。 ここは、この行程唯一の鎖場で、岩目に沿って鎖と鋲が打ち込んである。 しかし、鎖を使わずとも難なく通過できるので心配はない(崩壊が進んで、現在はちょっと危険な崖下りの鎖場となっている)。
閉じたつぼみに夜露を
たっぷりと含んだチシマギキョウ
この鎖場を越えると広い草原状の尾根歩きとなり、高山植物も豊富になってくる。
辺りの斜面は白や黄色の“花のじゅうたん”で染め上げられ、また山の名物“ドン鳥”こと雷鳥も、その行動で楽しませてくれる。
野生だから悠然と構えているのか・・
それとも野生である事を忘れているのか・・
まるまると太った体で、うろちょろしている雷鳥達・・。 岩につまづいたり、ハイマツの根に引っ掛かったり・・と、真に鈍臭い。 その姿は、これから四半世紀後の今のワテを見てるようで、真に心苦しい。
ヤマをみつめて何を想う・・
:
我が子がほっつき歩いてる
のも放っぽりだして・・
その他、ヒナの事など“どこ吹く風”の如く、人が近づこうが“ボーッ”と赤石岳を見つめている姿には、「野生である事を忘れているのか?」と心配に思える程である。 まぁ、赤石岳を見つめる雷鳥は、カメラアングルとしては絵になるが・・。
ヨツバシオガマはハクサンチドリは
見分けが着きにくく思うのは気のせい?
さて、この草原状の尾根を登りつめていくと、今日最後の3000m峰・荒川丸山 3032メートル の頂上に出る。 この山は悪沢(本当にこの名の沢は存在する)源頭に位置する山で、地理学上でいう『悪沢ノ頭』、つまりこの山こそ正式な『悪沢岳』であるのだ。
美しく可憐だけど
毒花のハクサンイチゲ
だが、“学術”のみでは語れないものがある。 それは“夢”であり、“憧れ”であり、“ロマン”であろう。
従って、ワテも荒川・東岳(悪沢岳の正式名称)のことを『悪沢岳』と呼びたいと思う。
“憧れ”の念を抱く山が『東岳』のみでは、あまりにも平凡過ぎるから・・。
悪沢ノ頭よりこの山旅で
踏破する峰々を望む
さて、この荒川・丸山を越えると稜線はガレた岩場となって、そのまま悪沢岳の頂上まで続いている。
鎖場ではないが浮石はやたら多く、先程の鎖場よりよっぽど歩き辛い。
岩場の陰には
朝露を残したチシマフウロが・・
このガレ地帯を左へ周り込むように登っていき、突き刺さるように立つ大きな岩の門を“へつる”ようにくぐると、岩のオブジェが立ち並ぶ悪沢岳 3141メートル だ。
憧れの峰には
シロツメクサの群落がお出迎え・・
ずっと登頂する事を夢で魅せられた“憧れ”の峰の頂上だ。 頂上は狭く、幅は5m程しかない。
その中央にある岩塊に、『東岳』や『悪沢岳』と書かれたプラカードや、山岳部の持ち込んだリボンが無数に置かれている。 先程にも述べた通り、私は“悪沢岳”派なので、『悪沢岳』と書かれたプラカードを持って“アリバイ写真”を撮ろう。
憧れの峰に立ててゴキゲン!
さて、悪沢岳からの眺めであるが、何といっても深い谷筋を刻んで盟主たる姿を示す赤石岳が印象的である。 そして花の風景は、この悪沢岳よりが最高潮となる。 その花の織りなす情景は、次回の『第67話』で語るとしよう。
夏山は朝を過ぎると
急速に雨雲が湧き出してくる
富士と舞い上がる積乱雲
:
今日も午後はスコールか・・
花に関しては
「次の話に持ち越し」と言う事で・・
「表示を早くする」事をゴリ押しする姿は
アメブロの『芸能人ブログ』ゴリ押しと一緒だな
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Re: No Subject * by 風来梨
はなゴンさん、こんばんは・
> 「悪沢岳」という名前に憧れる気持ち、よく判ります。縦走した頃の事を記事を拝見して思い出しました。
> ところで冬毛の雷鳥は結構飛ぶのに、夏毛のそれはほとんど飛ばない(というか飛んだところを見た事がない)のは何故なんでしょう?
悪沢岳は『孤高の峰』のイメージが強いので、いくつになっても・・、何度踏破しても「憧れの峰」ですね。
冬夏通じて、つまづいてコケる雷鳥ならよく見かけますが、飛んでるのはあまり見た事がないですね。
冬毛の雷鳥が雪庇となった雪を踏み抜いて、ハイマツの上に転げ落ちてトランポリンバウンドして、ゴム鞠のように跳ねていたシーンを見て以来、丸々と太った冬毛の雷鳥を見る度に「あのシーンよ・・、もう一度」と念じる不徳な私・・(笑)。
> 「悪沢岳」という名前に憧れる気持ち、よく判ります。縦走した頃の事を記事を拝見して思い出しました。
> ところで冬毛の雷鳥は結構飛ぶのに、夏毛のそれはほとんど飛ばない(というか飛んだところを見た事がない)のは何故なんでしょう?
悪沢岳は『孤高の峰』のイメージが強いので、いくつになっても・・、何度踏破しても「憧れの峰」ですね。
冬夏通じて、つまづいてコケる雷鳥ならよく見かけますが、飛んでるのはあまり見た事がないですね。
冬毛の雷鳥が雪庇となった雪を踏み抜いて、ハイマツの上に転げ落ちてトランポリンバウンドして、ゴム鞠のように跳ねていたシーンを見て以来、丸々と太った冬毛の雷鳥を見る度に「あのシーンよ・・、もう一度」と念じる不徳な私・・(笑)。
No Subject * by 鳳山
南アルプスって、南北朝時代信濃宮宗良親王が足利方に追われ隠れたところですからいつか行ってみたいと思っています。
Re: No Subject * by 風来梨
鳳山さん、こんばんは。
> 南アルプスって、南北朝時代信濃宮宗良親王が足利方に追われ隠れたところですからいつか行ってみたいと思っています。
そうか! あの国道(酷道)152号・秋葉街道の別名が『南朝の道』と呼ばれるのはこの事からですね。
大鹿村の鹿塩・大河原は、塩見岳の登山口で秘湯・鹿塩温泉があり、絶好の温泉リゾート付の隠れ里ですね。 伊那谷の長谷村(現 伊那市)も、仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳の登山口・北沢峠へ行く南アルプス林道の伊那側の起点です。
宗良親王は通な方のようですね。(笑)
> 南アルプスって、南北朝時代信濃宮宗良親王が足利方に追われ隠れたところですからいつか行ってみたいと思っています。
そうか! あの国道(酷道)152号・秋葉街道の別名が『南朝の道』と呼ばれるのはこの事からですね。
大鹿村の鹿塩・大河原は、塩見岳の登山口で秘湯・鹿塩温泉があり、絶好の温泉リゾート付の隠れ里ですね。 伊那谷の長谷村(現 伊那市)も、仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳の登山口・北沢峠へ行く南アルプス林道の伊那側の起点です。
宗良親王は通な方のようですね。(笑)
ところで冬毛の雷鳥は結構飛ぶのに、夏毛のそれはほとんど飛ばない(というか飛んだところを見た事がない)のは何故なんでしょう?