2019-06-16 (Sun)✎
よも”ヤマ”話 第63話 大雪・トムラウシ縦走 その4 《忠別岳~トムラウシ山》〔北海道〕 ’93・7
大雪・五色岳 1868m 、トムラウシ山 2141m 【名峰百選 23峰目】
逆光に黒光りするトムラウシ本峰
トムラウシ山 とむらうしやま (大雪山国立公園)
大雪山の山の中で、最もどっしりとした山容を魅せるのが、このトムラウシ山 2141メートル である。 この山は、山頂部に円頂丘を持つトロイデ型の火山で、大雪南部の盟主として知られている。
そしてこの山は、周りに素晴らしい自然の造形を創り上げている。
まずは、トムラウシ山腹にある『トムラウシ・日本庭園』である。 池塘と、花と、雪渓がおりなす自然の山水画。 いったいどのようにして、大自然はこの景観を創造しえたのか・・。
また、トムラウシ山の西側には、『五色ヶ原』に優るとも劣らない“花の世界”・『黄金ヶ原』がある。
『黄金ヶ原』は、ミヤマキンバイやキンポウゲなど黄金色の花が多く咲き乱れ、その名の通り花が大地を黄金色に輝かすのである。 そして、この山は“眺める”のもいいだろう。
《化雲平》から眺めるトムラウシ山は、また格別だ。 すぐ間近に、トムラウシ山がどっしりと構えた姿を魅せて壮観だ。 またこの平原は、ホソバウルップソウやエゾノハクサンイチゲの大群落地としても有名で、特にホソバウルップソウが満開の時は絶景だ。 山の緑と紫の花が美しく、この平原を飾るのである。
大雪~トムラウシ縦走 2・3日目
忠別岳~トムラウシ山の行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》JR旭川駅よりバス (1:30) →旭岳温泉よりロープウェイ
(0:20)→姿見ノ池(1:45)→旭岳(1:20)→間宮岳(0:50)→北海岳
(1:05)→白雲岳避難小屋
《2日目》白雲岳避難小屋(0:40)→高根ヶ原・大雪高原温泉分岐(2:30)→忠別岳
(1:30)→五色岳(1:10)→化雲岳分岐(0:40)→ヒサゴ沼避難小屋
《3日目》ヒサゴ沼避難小屋(0:35)→ヒサゴ沼分岐(0:30)→トムラウシ・日本庭園
《3日目》ヒサゴ沼避難小屋(0:35)→ヒサゴ沼分岐(0:30)→トムラウシ・日本庭園
(1:25)→北沼(0:30)→トムラウシ山(1:30)→トムラウシ・日本庭園
(0:20)→ヒサゴ沼分岐 (0:45)→化雲岳(0:50)→小化雲岳
(1:30)→第一公園 (1:20)→滝見台 (0:45)→天人峡温泉よりバス
(1:05)→JR旭川駅
憧れの峰・トムラウシへ・・
忠別岳頂上からの眺めは雄大で、360°山なみの大展望が広がる。 ある程度離れてそびえ立つ旭岳と白雲岳、そしてそこから広がる《高根ヶ原》の大平原と、今まで歩いてきた道程が見渡せて感慨深い。
また、まだ遠きトムラウシ山の眺めにも、これからの道程にときめきを覚える。 そして何より素晴らしいのが、エゾノハクサンイチゲの大群落越しにトムラウシ山がそびえ立つ風景である。
忠別岳での雄大な眺めを
味わったなら先に進もう
忠別岳での雄大な眺めを味わったなら、そろそろ先に進もう。 あまりにも素晴らしい眺めの数々に、時の流れを忘れそうになるのをこらえながら・・。 さて、忠別岳からは、先程の登りとは打って変わって滑りやすいガレ場の急下降となり、膝が笑い出す。 この忠別岳は典型的な非対称の山で、登り返した五色岳から眺めると、《高根ヶ原》の大平原の果てがそのままストンと切れ落ちているように見える。
滑りやすいガレ場を下りきると、忠別岳避難小屋への道を分け、再び五色岳に向っての高低差150mの登りとなる。 この登りが、今日の行程で最大のアルバイトである。 ハイマツ漕ぎをしながら登っていき、ひと汗・・ふた汗・・とかいた頃に五色岳 1868メートル の頂上広場に出る。
五色岳は山容自体はあまりパッとしないが、『表大雪』の山なみと旭岳から続く緩やかな大平原が忠別岳でスパッと切れ落ちる、アクセントの効いた味のある風景を魅せてくれる。 また、五色岳は大雪の大きな分岐点となっていて、左への道は《五色ヶ原》から《沼ノ原》・石狩連峰への東大雪縦走路となっている。
《五色ヶ原》・《沼ノ原》・石狩連峰については次回に譲るとして、今回はトムラウシ山に向って進路を右に取ろう。
化雲平のホソバウルップソウ群落
:
残念ながら忠別岳から曇って
トムラウシは望めなかった
ハイマツの茂る中を歩いていくと、いつの間にか広々とした平原に出る。 ここは《化雲平》と呼ばれる所で、眺めの“売り”は池塘とホソバウルップソウ越しに望むトムラウシ山の眺めである。
また、庭園状の盛り土に群落を成すチングルマや、エゾノハクサンイチゲのお花畑も見せてくれる。
2回ほど大きな雪渓をトラバースしていくと、《化雲岳分岐》に出る。 化雲岳は“デベソ岩”などひと癖のある山であるが、この山は翌日に登る事にして、ここは先を急ごう。
ヒサゴ沼への水源となる雪渓を下ると
お花畑の楽園が広がる
化雲岳の裾を巻いて山の反対側へ越えると、“神遊びの庭”と呼ばれる庭園状のお花畑に出る。
ここが今夜の宿泊地・《ヒサゴ沼避難小屋》への分岐である。 分岐からは、《ヒサゴ沼》への水源となる巨大な雪渓を下っていく。 ここは、濃いガスの発生時、方向感覚を失って同じ所をさまよう『リングワンダリング』や、違った方向へ下ってしまいかねないので充分注意しよう。 この雪渓は、“右より”を意識して下っていくといいだろう。
長い雪渓を下りきると、《ヒサゴ沼》と避難小屋が見えてきてホッとする。 ここは冷たい雪渓の雪解け水で、雪渓歩きで緊張した心を癒そう。 雪渓下部の草地を下って《ヒサゴ沼》の湖畔に出ると、《ヒサゴ沼避難小屋》は近い。 この《ヒサゴ沼避難小屋》は、トムラウシ山への絶好の位置にあり、夏のシーズンは常時“すし詰め”の満員で、“三角座り”で寝るハメとなろう。
シーズンは激混みとなる
ヒサゴ沼避難小屋
※ 十勝振興局環境部のウエブサイトより
また、早く着いても、後から小屋泊を決めこんでロクな装備も持ってこない中高年のおばさん達が次々とやってくるので、決してくつろげそうにない。 ちなみに『奇跡の体力』に近づいたワテは、午前中に避難小屋に着いちまったよ。
ヒサゴ沼避難小屋内部
空いてたら快適な小屋である
※ 十勝振興局環境部のウエブサイトより
でも、時間を追う毎に登山者がやってきて、ついには「床の戸板一枚の幅に一人」になって、早く着いた甲斐が全くなかったよ。 まぁ、早く着いたから昼寝はできたけど。 午後3時頃から雨も降りだして、雨の中やってきた登山者が多数入って来て混むは蒸れるわ・・と、泊まり心地はあまり良くなかったかな。
まぁ、この避難小屋での体験が、「次はテント」を想定するキッカケになったみたい。
この便所の壁に
ワテを唸らせる名句が刻まれてあったよ
※ 十勝振興局環境部のウエブサイトより
それと、この小屋の便所で感銘を受ける詩が刻まれてあったよ。
「大雪の山ふところに抱かれて ウンと力めり ウン海の上 ・・ 和馬」。
今もワテの記憶に刻まれた名句だと思う。
いよいよ明日は、盟主・トムラウシ山への登山である。 明日のヤマの夢を馳せるべく、早めに寝入る事にしようか。 この混み様ならば、「速く寝た者勝ち」だし・・。
今日・・ トムラウシを踏む
《3日目》 ヒサゴ沼からトムラウシ山往復と下山
《ヒサゴ沼》からトムラウシ山までの道程を一言で言うと、“楽園”そのものだ。 自然の創造力に改めて敬意の念を感じる。 トムラウシ山までは、“楽園”で立ち止まる時間も食い込んでしまう為であろうか・・、思った以上に時間がかかるので“早出”は絶対の条件だ。
従って、5時頃の出発は必須条件だろう。 早朝の清々しい雰囲気の中を歩いていこう。
《ヒサゴ沼避難小屋》を出ると、《ヒサゴ沼》に沿って《大雪万年雪渓》の縁をトラバースしていく。
しかし、いつ崩れるかわからぬ雪渓の縁を歩くのは、かなりおっかないものである。
崩れ落ちると、もちろん沼に“ドボン”である。
この雪渓のトラバースを越えると、《ヒサゴ沼》右側の急な雪渓を登っていく。
この雪渓はかなり急で、しかも吹き降ろす風の影響でアイスバーン状になっている事もあり、滑落の危険が大いにある。 滑落すると、間違いなく《ヒサゴ沼》に“ドボン”である。 ここは、ピッケルを突いて慎重に登っていこう。 なお、この雪渓登りに自信のない方は、《ヒサゴ沼》左側の比較的緩やかな雪渓を登って、《化雲平》を経ての迂回ルートもある。 この場合、歩行時間は1時間余分にみておこう。
雪渓を登りきって振り返ると
縞模様を映すヒサゴ沼と石狩連峰の絶景が・・
このように、のっけから緊張する場面が続くが、この雪渓の急登を乗りきると、岩がゴロゴロする岩石帯を通る。 ここは岩の一つ一つがかなり大きくて、その間を飛び越えていかねばならないので、結構疲れるのである。 ここも岩を飛び損ねると大ケガにつながるので、慎重にいこう。 岩石帯が途切れると《ヒサゴ沼分岐》である。
ヒサゴ沼~トムラウシ 行程図
《ヒサゴ沼》から、トムラウシ山を往復して《ヒサゴ沼分岐》まで戻ってくるのに、山頂での滞在時間も含めて6時間近くかかるので、そのことを念頭においておこう。 この際荷物は、《ヒサゴ沼分岐》にデポしていくのが妥当だろう。
これよりはトムラウシ・『日本庭園』や《ロックガーデン》、《北沼》などのお花畑、そしてトムラウシ山の眺望など、“聖地”として岳人が憧憬を抱く素晴らしい景色を魅せてくれる。 時を忘れていつまでも眺めていたい情景が続くが、今日中に《天人峡》まで下りて行かねばならないので、あまり時間の余裕はないのである。
《ヒサゴ沼分岐》からは緊張する状況から解放されて、広い稜線上の道となる。
分岐から目の前に見える砂礫地の丘をジグザグ登りでつめると、丘いっぱいに“夢の楽園”が広がる。
ここが《トムラウシ・日本庭園》である。
大自然の創造美・・
トムラウシ・日本庭園
・・ナキウサギの鳴き声がどこからか鳴り響き、お花畑が庭園を創造して整然と咲き競っている。
あちらこちらに点在する池塘が、静かに波紋を漂わせている。 そして、背後にそびえるトムラウシ山。 いったい、どのようにしてこのような風景を創造しえたのか・・。 もし、神として崇めるなら、このような風景を創造した大自然こそ“神”だと思う。
東大雪の山々を望む
庭園の風景だけでなく、周囲の風景も素晴らしい。 筋雲を映し縞模様に光る《ヒサゴ沼》、シルエットを魅せる“遙か遠き山”・石狩連峰など、眺めは申し分ない。 チングルマ・イワイチョウ・エゾコザクラ・エゾノハクサンイチゲ・リシリリンドウ・・など、庭園のお花畑に彩られた池塘の周りをゆっくりと、“神”の創りし風景を味わいながらいこう。 《ヒサゴ沼》からトムラウシ山までは約3時間だが、このような風景を魅せられると、もっと時間がかかりそうである。
ハイマツと露岩で創造された庭園風景
この静かなる情景の庭園を越えると、雪渓と露岩帯に突入する。 ここも大岩がゴロゴロしていて、岩をよじ登ったり飛び越えたり・・と、距離の割には結構時間を食う。 この露岩帯を岩を選びながら飛び越えていく。
トムラウシまでの試練・・
これより前に臨む雪渓と露岩帯を急登する
一度、谷地形に下ってから、今日の行程最大の登りとなる通称『ロックガーデン』といわれる高低差200mの露岩帯の急登が始まる。 岩をよじ登り、飛び越え、あるいは大岩の縁をトラバースしたりしながら登っていく。
ロックガーデン直下のお花畑
途中、イワギキョウやミヤマリンドウなどが岩の間から顔をのぞかせているが、この登りはなかなかキツく、この場面では花を愛でる余裕は持てないだろう。
ロックガーデン上の
砂礫帯に咲くイワブクロ
これを越えると広い砂礫地の丘となり、エゾノハクサンイチゲ・エゾツガザクラ・ミヤマリンドウ・タカネナデシコ・チングルマのお花畑が丘一面に広がる。 しかし、トムラウシ山は、この丘の陰に隠れて見えなくなる。
エゾマハクサンイチゲと
ウルップソウの花飾り
実を言うと、『ロックガーデン』で見えた山頂は、この丘の“てっぺん”にあたるのである。
本当の頂上は、この丘を越えて《北沼》の畔の高台まで行って、初めて見えるのである。
このトムラウシ山の頂を隠す丘を登りつめると、辺りが開けて《北沼》と待望のトムラウシ山の勇姿が望まれる。
なぜかトムラウシではなく
振り返って旭岳を撮っていた
トムラウシ山は全体が岩石で積み重なって、どっしりとした重厚な山容を魅せている。
丘の頂からは、《北沼》に向けて緩やかに下っていく。 目の前に“憧れの山”がそびえ立ち、しかも緩やかな下り坂で思わず駆け出したくなるような状況であるが、これからの長い下山を控えて足を痛めぬようにゆっくりと下っていこう。
トムラウシに咲く花の母なる沼・北沼
そして、《北沼》の湖畔に着いたなら、トムラウシを眼前においてゆっくり休憩しよう。
沼を眺めると、畔の至る所から泉が湧き出ているのが発見できるだろう。 どうやら、この沼は天然の湧泉沼のようで、その泉の上をハクサンイチゲが咲いている幻想的なシーンが見られる。
このシーンをカメラに収める事ができれば、写真好きとしては至福の喜びである。
湧き出る泉の上に咲いていた
エゾノハクサンイチゲ
さあ、これより“憧れの山”に登頂するのだが、息を切らして登頂するのは“憧れの山”に対しての礼儀に反する・・と思うので息を整えていこう。 そして、ひと息着いたなら、“憧れの山”の頂に立とう。
露岩帯を斜めによじ登っていくと、一ヶ所鎖場を越えて約20分で“憧れの山”・トムラウシ山 2141メートル の頂に立つ。
憧れの峰・トムラウシの頂上にて・・
“憧れの山”からの眺めは、その期待を裏切らない素晴らしい眺めで、化雲岳の“デベソ岩”や、旭岳・白雲岳など『表大雪』の山々、そして《高根ヶ原》から続く大平原、遙か遠くそびえる石狩連峰の山なみ・・と続く。 また振り返れば、十勝連峰や美しい三角錐を魅せるオプタテシケ山が、雲海を分ける『天ノ橋立』の如く連なっている絶景が望めるだろう。
トムラウシの頂上発・・ 絶景かな
今まで歩いて来た道程を望む
十勝の山なみは雲海に浮かんでいた
雲海を隔てる“天ノ橋立”・・
十勝連峰の山なみ
その絶景は真に"神遊びの庭"だった
・・こんな絶景に魅せられると真に立ち去り難いが、また訪れて魅せられる事をヤマに誓って下山に取り掛かる事にしよう。 なぜなら、トムラウシの頂上から天人峡まで17km近く・・。
健脚な御仁でやっと成し得るオーダーである。
これよりは花を愛でるのも
キツい長大な下山が控えている
もちろん、ワテも『奇跡の体力』の一歩手前・・だったからこそ天人峡までの下山ができた訳で、天人峡ので下山する自信がなければ、空身でヒサゴ沼避難小屋~トムラウシの往復で1日、下山で1日の2日行程とすべきだろう。
続くフィナーレの『下山編』は、次回の『第64話』の《その5》にて・・。
記事にかけた時間と費用と情熱は
売上(アクセス数)に比例せず
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No Subject * by 鳳山
三角座りで寝るのはきつそうですね。大自然の中のトイレ、経験はしてみたいですが積極的に行きたいとは思いません。
No Subject * by ラスカル
初めまして
たくさんの写真アップ、素晴らしい大自然ですね。
楽しめました。
たくさんの写真アップ、素晴らしい大自然ですね。
楽しめました。
Re: No Subject * by 風来梨
鳳山さん、こんばんは。
> 三角座りで寝るのはきつそうですね。大自然の中のトイレ、経験はしてみたいですが積極的に行きたいとは思いません。
三角座りがきつく感じたのが、テント山行にスタイルを変えた理由ですね。 でも、北海道の他の山では避難小屋がないので、テントは必須ですね。
山のトイレはドラマがありますが、あえてお勧めはしません(笑)
Re: No Subject * by 風来梨
内緒さん、こんばんは.
そちらのブログさんに、コメントを入れさせて頂きました。 ご参照下さいね。
そちらのブログさんに、コメントを入れさせて頂きました。 ご参照下さいね。
Re: No Subject * by 風来梨
ラスカルさん、こんばんは。
> > 初めまして
> >
> > たくさんの写真アップ、素晴らしい大自然ですね。
> > 楽しめました。
>
> 今まで撮ったリバーサルフイルム35000コマの利用促進ブログです(笑) 今後とも宜しくお願いします。
> > 初めまして
> >
> > たくさんの写真アップ、素晴らしい大自然ですね。
> > 楽しめました。
>
> 今まで撮ったリバーサルフイルム35000コマの利用促進ブログです(笑) 今後とも宜しくお願いします。