風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第376回  常布ノ滝

『日本百景』 春  第376回  常布ノ滝  〔群馬県〕

ns376 (2) 奇怪な岩肌と虹を従えて・・

  常布ノ滝 じょうふのたき  落差 40m  群馬県・草津町
異様な色を纏った絶壁に囲まれて、長い年月をかけ削り取られた滝口から勢い良く落下している。
コントラストの豊かな情景を魅せる最も訪れたき『憧れの滝』である。 だが、現在は沢筋の崩落によって滝への探勝ルートが破壊されてそのまま放棄されているようで、以前に増してかなり厳しいルートとなっている。 それでは、『憧れの滝』を訪ねるべくの苦闘の様子を書き記すとしようか。



ns376 (11) 常布ノ滝探勝路(閉鎖中) 行程図

   行程表            駐車場・トイレ・山小屋情報 
国道292号線・天狗山第六駐車場奥に続く林道 (0:40)→常布ノ滝展望台
(1:50)→常布ノ滝・滝壺

  ※ 矢沢川に沿う林道は途中で岩石が崩落しているので、現況は通行止で復旧
    する気配もない。 正規ルートは、草津温泉からの芳ヶ平ハイキングルート。
    また、現地の方針では常布ノ滝は展望台のみの公開のようで、滝そばに向
    探勝道は放置されて廃道化して、藪に覆われ道が著しく不明瞭なので要注意。


この滝を取り上げたブログや滝のホームページサイトでは結構簡単に記述してあるが、これはこの探勝ルートが通行可であった以前の事で、現在は藪がブッシュ化して道を消し、雪渓が道を埋め、転落防止やトラバース帯に設置された鎖は支柱が抜け、進入を防ぐべくのロープはほつれたり切れたりする「とんでもない悪路」と化している。

ns376 (9) この廃道・・ナメてかかれば
命の危険もある荒れっぷりでした

また、滝への高巻きする所は土砂崩れを起こして、巨大な浮石となった落岩石がゴロゴロと転がるかなり危険なルートとなっている。 
もちろん、現地もこの探勝道は廃道として放棄する方針のようで、全く復旧整備する計画はなさそうだ。

つまり現地の考えとしては、冒頭で述べた通りに《芳ヶ平ハイキングルート》上の《常布ノ滝展望台》のみ解放する事のようである。 まぁ、滝の知識を持たない一般の観光客やハイカーとしてやってきたなら、この滝は展望台より遠望で眺めるだけで十分に満足を得る事ができるだろう。

だが、この滝の神秘的な姿を知識として「知ってしまった」ならば、遠望だけでは収まらないのである。 だから、こんな命の危険もある廃道を伝っていこう・・というバカな思惑も頭にもたげてくるのだと思う。 でも、装備と心掛けがなければ、真に命の危険がある荒れっぷりでしたよ・・、この廃道。
それでは、その苦闘の記しを語っていこうか。

ns376 (1) 当初はこれで諦めるつもりでした・・ ハイ

出発地点である《天狗山第六駐車場》の事は、ネットで得た知識である。
そして、《常布ノ滝》の訪問記を記したブログやHPを見ると、『厳しい道』とは書いてあるが『危険極まる』などと書いてあるモノは皆無であった。 そして、ひと通り見た感想であるが、「気をつけさえすれば、30分位で行けるよ」と、結構安直に書いてあるものがほとんどであった。

当然の如く先駆者の情報を目にしたなら、そして自身の山岳経験(ナンチャッテだけどね)と照らし合わせると、「結構安直なんだ」と軽く思ってしまう。 でも、現実を見て、そして体験して、「それらの情報が過去のモノで、現在とは大いに異なるモノだ」とダメ押しの如く教えられるのである。

ns376 (4) 
予想外の道の悪さに
滝見に2日掛かりとなったよ・・

それは、「この滝を訪問するのに二日掛かりとなった」事が挙げられる。
「ネットで得た情報」だけで挑んだ最初のアタックで、雪渓が谷底まで連なって道を埋める現状と探勝道入口に掲げてあった「常布ノ滝上級者ルートは、ルートの途中が崩落しているので当分の間閉鎖します」という立て看板を目にした時、『2回目のアタック』が必須となったのである。

つまり、「この装備(登山靴のみ)ではムリ」と判断して引き返したのである。
そしてこの時は、遠望地である《常布ノ滝展望台》で数枚撮って終わらせたのである。

アタックが失敗したこの日は長かった。 当然遠望しかできない展望台で数枚撮ったのみだから、AM9時前には《天狗山第六駐車場》に戻る。 最高の天気なのに時間が余りに余って、「取り敢えず計画の前倒し」と前項目で掲載した《嫗仙ノ滝》を訪ねる事にした。

ns376 (13) 嫗仙ノ滝
断念して予定外の滝にいくのは
なにか複雑な気分だったよ

実を言えば、《常布ノ滝》めぐりを軽く考えていた今日の出発時の計画では、午前中の早くに《常布ノ滝》めぐりを終えて、引き続き《嫗仙ノ滝》の滝見を目論んでいたのである。 それが進入禁止の立て看板と谷底まで続く雪渓を目にした時、その甘い目論見が泡の如く消え去ったのである。

まぁ、《嫗仙ノ滝》は坂が急でややキツめであったが、総じて言えば「何て事ない」のである。
《常布ノ滝》めぐりにシクじって時間が余っていた事もあって、《嫗仙ノ滝》は時間をかけて探勝する。 時間をかけたのは、やはり《常布ノ滝》めぐりにシクじって落ち込んだ心を誤魔化す思考もあったと思う。 でも、昼の2時頃には草津温泉街に戻る。

気持ちとしては、「一般の観光客やハイカーでもいいか・・」という所に傾きかけていた面もあった。
それは冒頭で記した通り、「今回のこの滝は今日の遠望だけで納めて、あの谷までの雪が消える6月か7月に再訪しようか」という断念の思考であった。

でも、草津の湯に浸かるべく高い駐車場代を払った時に考えが変わった。 
「草津まで来て、高い駐車料金払って湯に浸かるだけで終わりかよ!」と・・。 この後の山の計画をボツにして、この旅の日程の全てを滝めぐりに費やす方向に方針転換と相成ったのである。

幸い旅の後半は北アルプスへ行く目論見だったので、ピッケルや10本爪アイゼンなどの雪山用の道具は用意していた。 これを見ながら、「明日はコレを着けてリベンジあるのみ!」と心に決める。

ns376 (12)
 今回のルート詳細図

翌日の『リベンジ日』も、これとない晴天。 昨日より30分早い6:40、リベンジを目論んで少し掛り気味に《天狗山第六駐車場》を出発する。 もちろん、昨日に挙げた雪道具を持って・・である。
矢沢川に沿う林道の土砂崩れ崩壊は、昨日も通過したので何て事はない。 

《天狗山第六駐車場》から30分足らずで、《芳ヶ平ハイキングルート》と合流する。
コチラの方はハイキング向けに整備されているようだが、残雪が所々に残ってヌタっているようである。 この合流地点から200m程ゆくと、遠望地である《常布ノ滝展望台》だ。

この辺りから、ハイキングコースも残雪に覆われ始める。 この展望台から150m程先が、例の『廃道と化した滝探勝道』の入口である。 入口には当たり前の事であるが、昨日と同じく『崩落の為進入禁止』の警告板が掲げられてある。 でも、その事を知り得て、その為に道具を持ってきたので心強い。
で、早速に10本爪アイゼンを着けて、ピッケルを着いて谷底まで連なる雪渓に降りる。

ns376 (7) 
                   ’12年以来通行止の滝探勝道入口
                   もう修復する気ないみたいですね

雪渓を道具を駆使しながら降りていくと、後方からチャレンジャーのカップルがやってきた。
男は革ブーツで女はスニーカーと、昨日のワテより『ラフな井出達』でやんの・・。
でも彼らは、私にないモノをもっていた。 それは『若さ』である。 これより、彼らと共に行動する事になる。

話をしていると、彼等は滝を見に来たのではなく、「滝の近くにある温泉を目的に来た」との事である。 たぶん、滝の近くにあった♨マークに、「温泉がある」と錯誤してやってきたようである。
でも、『若さ』ってスバラシイ。 コッチがアイゼンとピッケルを駆使して雪渓を下る傍らで、ササ藪のブッシュを突貫していくのだから・・。

・・で、運命の錯誤地点にさしかかる。 まぁ、運命って程のモノでもないけど。
それは途中からルートらしき踏跡を見つけて伝っていったのだが、やがて猛烈なブッシュに道が塞がれて仕方なく、再び雪渓に下りていったのである。 踏跡も、見た目は雪渓方向に着いていたし。
でも、正しいルートはこの猛烈なブッシュを突貫するのである。 このブッシュの先に鎖があったのである。 それは帰路の時に判った事であるが。

それで、天下一安い我が『伝家の宝刀』《クマ下り》を発動せねばならぬ程に傾斜が増した雪渓を下りきって、滝からの沢の前に出る。 形上は、滝までこの沢を遡って行けばいいのである。
追随してきた若い彼等であるが、さすがにアイゼン・ピッケルなしではこの雪渓下りは厳し過ぎたようで、雪渓際のブッシュとなったササをつかみながら降りてきたようだ。

・・で、沢の縁まで雪渓が消えて沢筋となった所をつめていくが、この沢筋・・最後は4~5mの滝となって落ちてたよ。 直前がブッシュで隠されて見えなかったが、このまま突っ込んでたら滝に落ちて「サヨナラ」だったよ。


これを見て、ブッシュをつかんで下りてくる彼らに、「滝となって落ちて行き止まりだ」、「ブッシュをそのまま伝って左へ登って行け」と伝えて、自身もブッシュをつかんで左の上流方向へ藪漕ぎ突貫していく。

ns376 (6) 
この滝にたどり着いて知った事・・
「若さ」って素晴らしい(涙)

でも、彼らは『若い』・・じゃなかった、『速い』。 「何が」っていうと、ブッシュの突貫速度である。 これを目にして、「コレが若さか・・」とガンダムのシャアの如く呟いたよ。

ブッシュの藪の突貫が始まってからは邪魔なアイゼンは脱いでザックに仕舞って、ピッケルで藪を払いつつ進んでいく。 最も厄介なのは、雑木の『枝ブッシュ』である。 
雑木の『枝ブッシュ』は一つ一つくぐらねばならなく、必要以上に時間と体力を要するので、この『半分遭難しかけ』の状況では著しく不利なのである。

従って、灌木の『枝ブッシュ』を避けながら、右往左往しつつ進んでいく。
実を云うと、この時点でルートを外しているのだから、元々ルートだった所では有り得ない『枝ブッシュ』が行く手を塞ぐのであるが・・。

どれほどの時間が経ったのか・・、時計など見ているヒマがない程に進軍に必至となっていたが、やがて救世『物』が現れる。 その存在は、『若さ』でブッシュをねじ伏せ先行していた兄さんが、突然声を挙げた事で解った。 「ロープがある!」と・・。

ns376 (8) 滝に辿り着くまでの苦難が多過ぎて
撮影まで頭が回らなかったよ

の救世『物』とは、道の在り処を示す『ゼブラロープ』である。 これで、相変わらずササブッシュで道は不明瞭だが、ロープの存在で道の方向が明らかとなったのである。 そして何よりな事は、これまでは「道でなかった」ので『枝ブッシュ』が行く手を遮ていたが、ゼブラロープのある方向に進めば『道』を進むので『枝ブッシュ』は無くなるのである。

でも、この時点では、これが正しい道だとは考えてもいなかった。 なぜなら、「正しい道だとしたなら、これは荒れ過ぎている」→「正しい道ではない」と思っていたからだ。 
3人共通で思っていた事は、「これは道を間違えていて、きっとこの上方には歩き良い道があるに違いない!」というお花畑な欲望であった。

ロープを伝っていくと所々支柱の抜けた『危ない』鎖場に差しかかり、強度を確認しながら土砂崩れとなった斜面をトラバースする。 まぁ、鎖の支柱が抜けてブラブラとなっているのを目にすると、「これにしがみつきたいのは山々だが、ちょっとねェ~」って気持ちになるのである。

「コレが入口の看板で警告していた崩壊地なのかな?」と思いつつこの鎖場を伝っていくと、ありましたよ! 超絶な崩落現場が・・。 完全無欠に下の沢まで、100mに渡って大崩落していたよ。
だが、この崩落現場を乗り切ると、滝前に出れるようだ。

つまり、「滝の目前」って訳である。 幸い、後付けどうかは解らないがゼブラロープが垂らされてあって、これを使ってこの崩落地は渡る事が可能である。 でも、シクじると100m下の沢に転げ落ちるのが必定のデンジャラスな崩壊地である。

この崩壊地を30m程下降し、崩落した岩石帯を跨いで、崩落で薙倒された倒木の枝ブッシュを掻き分けて突き抜けると待望の《常布ノ滝》前に着く。 苦難の末にたどり着いた《常布ノ滝》は、もう言葉では表せない。 ・・という訳で、掲載写真をとくとごろうじろ。

ns376 (5) ごろうじろ・・って記したけど
ただ撮っただけ・・だぁね

苦難の末やってきたので、少しでも『元を取るべく』1時間以上滝そばでネバる小市民な筆者であった。 一方、彼らカップルは、男の方がオチャメに元気で、崩落した岩石が積み重なる滝つぼに駆け下ったり、滝壁に登って温泉を探したりしていたよ。 彼女の方は「アホなんです、コイツ」と呆れていたようである。

でも、温泉などあるハズもなく、「展望地にチョロチョロと流れ込んでいるのが温泉だよ」と教えてあげると、「まっ、いいか!」という表情で納得していた。

さて、帰りであるが、「とりあえず、鎖とロープを辿っていくのがいいか・・」と、これを見つけながら進んでいく。 滝直前の崩落地であるが、ロープの垂れている位置が上りには悪く、下りより厄介だったよ。

つまり、上り時にはロープが離れてつかめなかった所があったのである。 これは、巨大なササくれた岩を伝っていって難を逃れたけど。 その後は、支柱の抜けた鎖場である。 だが、「一度通った杵柄!?」で、行きよりは無難に通過する。 鎖場を過ぎたらゼブラロープを指標に見ながら歩いていく。

ns376 (3) 最近は落水の高速シャッターにハマってる・・
って言っても30年前のカメラなので1/2000だけど

でも、廃道として放棄され手入れされないと、こんなに道が荒れるのね。
やがて、ゼブラロープが切れて途切れる「ちょっとヤバめ」の場面に遭遇する。
つまり、指標であるゼブラロープが途切れて、進むべき方向が判らなくなるのだ。
そして周囲は、猛烈なササブッシュ・・。

道が判らず5分程ウロウロと行ったり来たりするが、「枝ブッシュのある所は道でない」という事でササブッシュに向かって突貫する。 すると、ありましたよ、所々支柱の抜けた鎖場が・・。
でも何で、ここでも所々支柱が抜けているのだろうか? 取り立てて崩落してないのに・・。

この後はゼブラロープは見えなくなったが、所々に鎖場が現れて道と確認できる状況が暫く続き、足場もササブッシュはあるものの、ルートと判読できる状況が続く。 進んでいくと、往路で下った雪渓が見えてくる。 どうやら、滝探勝のルートは雪渓のかなり上にあったようである。

だが、雪渓に近づくにつれてササブッシュが激しくなってきて、ついには完全に進路を塞いでしまったのである。 でも、今日の経験則から「ササブッシュは黙って突貫するのが、このルート攻略法だ」と思い、行く手を塞ぐササブッシュを突貫していく。 すると、何度かの突貫を経て、行きの時にササブッシュに行く手を塞がれて雪渓に下ったあの踏跡が現れたのである。 これが、往路時に記した『運命の錯誤地点』である。

ns376 (10) 今回の滝見は
行くだけが全て・・でした ハイ

この『運命の錯誤地点』を過ぎるとその先で、かなり高い位置で雪渓に合流する。
「もうデンジャラスな所はないな・・」とホッとひと息着きながら、心を落ち着けるべくモタモタとアイゼンを着ける。 今日はさすがに気が張って疲れたので、ダラダラと雪渓を登って《芳ヶ平ハイキングルート》の滝探勝道入口へ・・。

後は、往路を戻るのみである。 まぁ、この筆者(タワケ)は、こういう気が張ったミッション!?の後には気が抜けて、なんでもない所でハデに転んだりして恥をかく人種なので、最後・・「特に車を駐車してある《天狗山第六駐車場》に着いた途端・・」ってのが、二次災害の最大の『デンジャラスゾーン』である。

ちなみに、この『デンジャラスゾーン』は無事に、何事もなく回避。 到着は何とお昼を周った12時半。 往復で6時間。 アプローチ林道の所要時間や滝前での滞在時間を差し引いたなら、あの廃道の通り抜けで、片道2時間はかかったみたいだね。

そして、『若い』彼らは凄かったよ。 最後は彼女の方がササブッシュのササが鼻に刺さって、鼻に詰め物する怪我をもらっていたけど・・。 でも、若いって凶器だね。 あんなのを見せつけられると・・。 心にグサグサと刺さったよ。 そして、今日も涙で枕を濡らすのだな。

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移転したてはキビシいね・・
なので絶賛『営業中』でっす
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