風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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よも”ヤマ”話  第57話  南八ヶ岳・主稜線縦走

よも”ヤマ”話  第57話  南八ヶ岳・主稜線縦走 〔長野県・山梨県〕 ’93・5
八ヶ岳・横岳 2829m 【名峰百選 21峰目】、八ヶ岳・赤岳 (二度目の登頂)


残雪まとう朝の八ヶ岳の盟主・赤岳

   八ヶ岳 やつがたけ (八ヶ岳中信高原国定公園)
南北に30km・東西に15kmに渡って30座を越える2000m峰を擁する八ヶ岳は、山容が南北で大いに異なり、それぞれに違った魅力を備えている。

南八ヶ岳は主峰・赤岳 2899メートル をはじめ、阿弥陀岳 2806メートル ・横岳 2829メートル ・権現岳 2715メートル などの岩峰を連ねて、稜線は痩せて嶮しくダイナミックな姿を魅せている。 
 
一方、北八ヶ岳は、北横岳 2480メートル を盟主に樹木に覆われたなだらかな山々が続き、山腹には池沼や草原がひっそりと点在し、静かで瞑想的な雰囲気を漂わせている。




南八ヶ岳主稜線縦走 行程図

    行程表         駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 茅野市街よりバス(1:00)→美濃戸口バス停(1:30)→小松山荘
     (2:50)→赤岳鉱泉(2:00)→硫黄岳(1:30)→横岳(1:00)→赤岳石室
《2日目》 赤岳石室(0:50)→赤岳(0:50)→赤岳石室(0:05)→地蔵尾根分岐
     (2:30)→行者小屋(1:45)→小松山荘(1:30)→美濃戸口バス停よりバス
     (1:00)→茅野市街
 
            ※ 前回の『第56話 南八ヶ岳・横岳』からの続き

横岳の頂上からは岩ザクの小広い稜線をしばらく下るが、やがて豊富な雪をまとった岩の突起が眼前にそびえて緊張させられる。 この突起を越えて諏訪側のスッパリ切れ落ちた稜線の上を伝うと、横岳の第2峰である三叉峰 2825メートル に登り着く。 ここからは、おおむね諏訪側の岩壁を鎖片手にトラバースしていく事になる。 ザクザクした岩塊に雪がへばりつき厄介だ。 


横岳岩峰核心部 詳細図

ピークから下って、岩塊を巻いて次のピークに登る・・という順序を繰り返して、石尊峰・鉾岳・日ノ岳・二十三夜峰と岩峰を越えていく。 ただ、鉾岳を越える時だけはピークを踏まずに、その直下を巻く道を通る。 この巻道の下降点は判りにくく、うっかりすると見落としてしまうので注意が必要だ。 
なお、直進して頂上を踏んでしまうと崖っぷちになり下に降りれなくなってしまうので、引き返さざるを得なくなるだろう。 


難路縦走中はガスってたし
カメラを取り出す余裕もなかったので
下山の時に撮ったこの写真で・・

この巻道越えはこの縦走路最大の悪場で、下に広がる700mにも及ぶ標高差をスッパリと切り落とした荒涼たる眺めを見ながら、根雪の乗っかった岩盤のへりをトラバースしていかねばならない。
この高度感に足が竦む難所は、次の日ノ岳の頂上に登りきるまで続く。 日ノ岳からは佐久側に向かって斜めに下っていくが、こちらも“鉾岳越え”程ではないにしろ、滑りやすい大きな一枚岩を鎖伝いに下っていかねばならない。 まだまだ、気が許せぬ場面は続くのだ。 

日ノ岳から斜めに下って二十三夜峰に登り返すと、そびえる主峰・赤岳の肩にへばり着くように建っている《赤岳石室》が見えてくる。 後はゴツゴツした稜線を小屋に向かって、慌てず下っていく。 
“首なし”地蔵の置かれている《地蔵尾根》の分岐を過ぎて少し行くと、今晩の宿泊地・《赤岳石室》(現在は赤岳展望荘)だ。 


当時の赤岳石室は「ランプの灯かり」の小屋で
山小屋の雰囲気満点!

余力があれば空身で八ヶ岳主峰の赤岳に登ってくるのもいいが、午後は総じて諏訪側より吹き上げる風が強烈で、ややもすると吹き飛ばされかねない。 雪山の午後は、おとなしくしておくのが無難である。
小屋でゆっくりと休んで、諏訪の湖と下界の街並みがおりなす夕暮れの叙情的な情景をじっくりと味わうとしようか。 この日の夕焼けは、ヤマが”エロティク”な色に焼けて染まり印象的だった。 


東の秩父の方向が暗くなり始め


西空の彼方に夕日が落ちていくのは
いつもの夕景だったが


陽が沈むと突然に
空の雲が混とんと乱れて


諏訪の街へと横岳を包んでいた
ガス雲の一部が急速に流れ込み


八ヶ岳の阿弥陀岳が
エロティックな夕光に染まる
独特な夕空だったこの日

また、“岩の芸術峰”横岳の雪をまとった鋭い岩峰と夕空のおりなす情景に、カメラ片手にしばし酔うのも一興だろう。 でも、残念ながら、この日は横岳の方向は濃いガスに覆われていてヤマが姿を現さなかったよ。 明日は、朝早く八ヶ岳の盟主・赤岳の頂上を極めよう・・。




夜明けの盟主・赤岳の雄姿
翌朝は昨日の夕空が示した
「天気が崩れる前兆」を払拭する
日本晴れの朝だった

  《2日目》・・本当は《3日目》 主峰・赤岳を踏んで下山
朝、日の出前に起きて小屋の外に出てみよう。 白銀の峰々が朝日に輝き、また佐久の街並みが夜明けを迎えて少しづつ動き始めるのが見えるだろう。


昨日はガス雲に覆われて
全く姿を現さなかった横岳が
武骨な岩峰を朝の光にさらして


盟主・赤岳は
ほんのりとピンク色に染まって


陽が昇るにつれ
頂から山腹へと輝き始める


その輝きの移り変わりを魅せられると
登山の意欲は更に増してくる

そして圧巻は、朝日の光に照らされて蜃気楼の如くにじんで見える秩父連山の盟主・金峰山 2599メートル の幻想的な姿だろう。

夜明けの空の営みとは『地の創造』なのか

御来光は東の空
秩父の方向より昇る


やがて御来光のその時を迎え


ヤマを黒影に落とす程の
強烈な輝きを魅せ


いっとき全ての色を消失させる
モノトーンの世界を創りだす


そして徐々に
この世の色を復元していくのだ

朝の素晴らしき眺めを見て、小屋に戻って朝食を平らげたなら、すぐ横にそびえる白銀の峰・赤岳に登ってみよう。 


色の復元が終わった
朝の山の景色を眺めながら登っていこう

小屋から更に南へ進むと、広がった稜線が徐々に狭まって山の傾斜に沿っての急登となっていく。 
しかも、吹きすさぶ風に磨かれてツルツルに凍りついたアイスバーンの急坂である。 
たぶん、夏ならはジグザグを切って登っていく道なのだろうが、積雪期は稜線のほぼ中央を直線的に登っていかねばならないようだ。 前人のつけたトレースが“登路”となるのだ。 


空がスカイブルーになり始めた頃
富士山がクッキリと姿を現した

アイゼンをアイスバーンの雪面に蹴り込みながら、ピッケルを突いて一歩づつ登るので時間がかかる。
夏ならば30分足らずで登れる所も、積雪期だと倍近く時間がかかる。 雪の乗り具合によっては、両側ともスッパリと切れ落ちた氷の斜面となる危険なナイフリッジの岩突起帯を越えて更に登っていくと、《頂上小屋》の建つ山頂の一角に登り着く。

ちなみに、頂上直下ではアイゼンで合羽の裾を踏んづけて、身体が稜線上にびったりヘバリつく『オチャメ』をかましたよ。 でも、少しでもズレたら、諏訪か信濃の方向へ真っ逆さまに”そり”の如く落ちていっただろうね。 剣呑、剣呑・・。


頂上小屋を望む
はじめは「黒点(人の影)が入ってる」と
ボツ判定の写真だったが
こうしてみるとかなりいい写真だね

山頂の三角点は、ここから50m程か細い稜線を伝った所にある。 八ヶ岳の最高峰・赤岳 2899メートル からの眺めは、独特の魅力を兼ね備えている。 

八ヶ岳・頂上より・・”絶景かな”
八ヶ岳の頂上にて・・
ヤマの上は今も30年前も変わっていない

《大同心・小同心》の岩峰を従えてダイナミックにそびえる横岳、白い帽子を被った富士山、茫洋とした雰囲気に近くて遠き・・を感じさせる秩父の山々、乳房のようにまろやかな隆起を魅せる蓼科山 2530メートル ・・、白銀の山なみを連ねる南アルプスの山々など、素晴らしき眺めが360°の大パノラマで広がる。 そして、夏とは違う吹き荒れる季節風に、より一層感慨深い思いがめぐるだろう。


八ヶ岳の主稜線の奥に
南アルプスの白峰が


南アルプスの白峰を望遠で引き寄せて


甲斐駒ヶ岳と北岳の揃い踏み


茅野へと続く
まだ未踏の八ヶ岳縦走路


清里の眺めも忘れずに


圧巻は昨日まで歩いてきた
横岳からの主稜線

昨日の夕方は横岳の方向が濃いガスに巻かれてほとんど見えなかった事や、夕景の”エロい”色の空は翌日に雨をもたらす兆候の如く・・だったので心配したが、どうやらそんな心配無用の日本晴れだったよ。
日本晴れの空の下、積雪期のまた違った魅力を十分味わったなら帰路に着こう。


さて・・ヤマを堪能したし
帰路につくか

アイスバーンの下りは、登り以上に危険であるので慎重を期して下りる。 特に注意したいのは、頂上直下の幅の狭まった岩の突起地帯だ。 岩にアイゼンを引っ掛けて転倒でもしたならば、佐久側・諏訪側を問わず奈落の底を真っ逆さま・・となるからである。 慌てずに、時間をかけてでもゆっくりと足元を確かめながら下っていく。


この情景・・ 圧巻だね

《赤岳石室》でデポした荷物を回収して、地蔵尾根を下っていく。 小屋から見下ろせば、下に向けて一直線に落とす様には思わず足が竦んでしまうが、一番の近道でより安全に下れるコースがこの地蔵尾根なのである。 小屋から横岳方向へ少し戻った所が、《地蔵尾根》の下降地点だ。 
分岐には“首なし地蔵”(今は復活してるだろうけど)が鎮座しており、ここから真っすぐに下っていく。 


首なし地蔵の分岐点より
盟主・赤岳に「so long (またくるよ)!」

ここから200m程行くと方向を90°右方へ進路を変えるのだが、この間が厄介なのだ。 
その理由は、諏訪側より巻き上げる風が雪庇を多く生み出してしまうからだ。 
これを踏み抜くと、文字通り諏訪側へ真っ逆さまに滑落する事になろう。 右手に90°折れると大きなハング気味の岩を巻いて、岩壁に削られたか細いトレースを伝っていく。 


コレで撮り収めて・・ これからは真剣に
『(宇宙一安い)伝家の宝刀』”クマクダリ”

夏ならば鎖付きのガラ場なのであろうが、今は積雪期で鎖はほとんど雪に埋もれて使い物にならない。
それどころか、雪に埋もれた鎖にけつまずいたりはしないか・・と、余計に神経を使う。 

また、ハシゴも完全に雪に埋まり使い物にならない。 ハシゴでしか下れぬような急傾斜で、雪に埋もれたハシゴを見ながら、その横を雪を蹴り込み下っていかねばならない。
その後も、雪の乗った急傾斜をラッセル気味に下っていったり、鎖をアテにできずにハイマツの枝根にしがみついての下りが続く。 

これらの苦難から解放されるには、森林限界より下まて下りて樹林帯に突入しなければならない。 
従って、この森林限界までの標高差350mの下りに2時間近くかかるだろう。 
そして、森林限界から下の標高差250mを下るのに1時間もかからないのだから、そのギャップに驚く。 

樹林帯の中をひたすら下って、最後にジグザグでこれを乗りきると、《行者小屋》の裏手の土手の上に飛び出す。 《行者小屋》前の広場より見上げる《地蔵尾根》の“岩屏風”の壮大さに、思わず息を飲んだよ。 後は、残雪が所々残る《柳沢》の《南沢》の河原を歩く事2時間足らずで、砂防ダムの横手から《美濃戸林道》に合流する。 この合流点から《美濃戸山荘》までは、目と鼻の距離である。 


でも・・『撮り鉄』部門は
ショボイものしか撮れませんでした

いつもなら入山時に宿泊した《小松山荘》から車で林道を抜けて、麓の温泉場に直行!なのだが、今回はこの後に控える「登山靴履いて、ピッケルを一脚代わりに小海線で『撮り鉄』」を目論んでいたので、バス停まで更に1時間半の歩きと、バス待ちの1時間が加わって温泉どころじゃなかったよ。
まぁ、翌日に小海線沿線の共同浴場で「ヤマの後のお決まり」は果たせたけど。

 




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No title * by chinu
こんばんは。八ヶ岳の山頂からの景色は素晴らしいですね。上った人しか味わえない景色ですもんね。こちらのブログの写真は、撮影した人の気持ちが伝わってワクワクします。
とはいいつつ、とてもマネできない自分が歯がゆかったりしますが。あと20年前から始めれば・・・なんてお、思ったりもします。

No title * by なべ
こんにちは。学生時代に行った事がありますが、GWの頃で雷雨にやられ散々でした。山での雷って怖いですよね。

No title * by 風来梨
chinuさん、こんばんは。
いつも見て頂いて有難うございます。

実は山に登る前は、ちょっとでも雨がパラついてたり雪の傾斜がキツかったりするのを目にすると、「やめとこうかな~」って事が先に思い浮かびます。

放浪期の『奇跡の体力』を保持していたときも、旅立ち前は「やめとこうかな~」と思いながら出てましたね。

でも、帰りは「もっと山旅を続けたい」に変わってますね。 その時に、「気が乗らなくても踏ん切って行って良かったなぁ」としみじみ思いますね。

Yahoo!ブログが大変な事となりましたので、このブログは6月頃からを目処に、FC2に移転しようと思います。

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なべさん、こんばんは。

5月のゴールデンウィークは、年毎に状況が一変してますね。 私が登った時は、3月並の大雪と、今回のような雪解けが進んで山肌が露出した頃ですね。

雷は、九州の屋久島で経験あります。
屋久島はご存知の通り日本一の雷雨地帯で、木のてっぺんに火の玉のような雷が当たって、パンと木の先が破裂したのを見ましたよ。 あれは凄かったなぁ。

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こんばんは。八ヶ岳の山頂からの景色は素晴らしいですね。上った人しか味わえない景色ですもんね。こちらのブログの写真は、撮影した人の気持ちが伝わってワクワクします。
とはいいつつ、とてもマネできない自分が歯がゆかったりしますが。あと20年前から始めれば・・・なんてお、思ったりもします。
2019-03-07 * chinu [ 編集 ]

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こんにちは。学生時代に行った事がありますが、GWの頃で雷雨にやられ散々でした。山での雷って怖いですよね。
2019-03-08 * なべ [ 編集 ]

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chinuさん、こんばんは。
いつも見て頂いて有難うございます。

実は山に登る前は、ちょっとでも雨がパラついてたり雪の傾斜がキツかったりするのを目にすると、「やめとこうかな~」って事が先に思い浮かびます。

放浪期の『奇跡の体力』を保持していたときも、旅立ち前は「やめとこうかな~」と思いながら出てましたね。

でも、帰りは「もっと山旅を続けたい」に変わってますね。 その時に、「気が乗らなくても踏ん切って行って良かったなぁ」としみじみ思いますね。

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2019-03-08 * 風来梨 [ 編集 ]

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なべさん、こんばんは。

5月のゴールデンウィークは、年毎に状況が一変してますね。 私が登った時は、3月並の大雪と、今回のような雪解けが進んで山肌が露出した頃ですね。

雷は、九州の屋久島で経験あります。
屋久島はご存知の通り日本一の雷雨地帯で、木のてっぺんに火の玉のような雷が当たって、パンと木の先が破裂したのを見ましたよ。 あれは凄かったなぁ。

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2019-03-08 * 風来梨 [ 編集 ]