風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第349回  裏剱・仙人池 act 1

『日本百景』 秋  第349回  裏剱・仙人池 act 1  〔富山県〕


紅葉の十二単衣を待とう裏剱・八ッ峰

  剱   岳 つるぎたけ (中部山岳国立公園)
立山連峰の中でひときわ嶮しく、氷河地形を顕著に示しているのが剱岳である。 山頂は氷食尖峰で、氷河が永い時をかけて多くの嶮しき谷を創りだしている。 これらの谷は、《長次郎谷》・《平蔵谷》・・など、これらの谷を世に広めた先駆者達の名前がつけられている。

剱岳の魅力は、何といっても“奥の深い”楽しみ方にある。 初心者ならば、室堂からお花畑を突っ切って剱の頂に立つコースがお勧めである。 山歩きに慣れた中級者ならば、剱沢雪渓を渡って仙人池・黒部渓谷に至るコースがいい。 剱沢の万年雪渓を突っ切って、裏剱の八ッ峰と仙人池を目指すのである。


裏剱の素晴らしき情景をひとつまみ

このコースの全般に渡って眺められる裏剱の景観は、とにかく“素晴らしい”のひとことに尽きる。
八ッ峰
を映す仙人池や彩り鮮やかな池ノ平、そして夏の“まだ人知れぬ”池ノ平山のお花畑、秋の燃える紅葉と、魅力が盛りだくさんである。

そして、上級者ならば、楽しむ観点はやはり“直に観る”であろう。 《長次郎谷》から標高差1000mの雪渓を乗り越えて頂上に立ったり、八ッ峰を“眺める”ではなく直に登る・・というのも上級者ならではの楽しみ方であろう。 また、一生涯をかけて、“幻の滝”・剱大滝にアタックするのも夢がある。
・・このように、どのレベルの登山者でも楽しめるのが、この剱岳である。




裏剱・仙人池・黒部渓谷ルート 行程図

    行程表              駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR富山駅より鉄道利用(1:05)→立山駅よりケーブルとバス(1:00)→室堂
     (0:20)→雷鳥平(1:50)→剱御前小屋(0:40)→剱沢キャンプ場
《2日目》 剱沢キャンプ場(0:30)→剱沢雪渓取付(1:50)
→真砂沢ロッジ
     (1:30)→近藤岩・二股(2:20)
→仙人池(4:30)→池ノ平
       途中の仙人峠より仙人池まで片道5分、池ノ平まで片道30分
《3日目》 池ノ平(0:35)→
仙人池(1:20)→仙人温泉(1:20)→阿曽原温泉
     (4:30)→欅平より渓谷鉄道利用(1:20)→宇奈月温泉駅より鉄道利用(1:30)→富山駅


  《1日目》 室堂より剱沢へ
『よも”ヤマ”話』の剱岳の項目でも語ったように室堂に着いて登山を開始する時間が、剱岳の山域での行程を決める”キモ”となるのである。 それは、ケーブルと高原バスの乗車待ちで時間を取られれば取られる程に、初日の行程が窮屈になっていくのである。

初日の行程が窮屈になると、土日という週末休みで行程をこなす事が厳しくなってしまうのである。
いや、剱岳の往復のみにしても、土日の2日では下山を相当早くこなさねば室堂での最終バスに乗れなくなってしまうのである。

でも、『日本百景』の旅では、そんな余裕のない山旅はしたくないのである。 従って、土日の連休に1日加えて2泊3日の行程としたのである。 そして、土日の連休に加えて1日増やす日程を金曜日に据えて、極力押し寄せる観光客をかわす事が望ましいだろう。 それでは、裏剱の絶景に魅せられにいこう。


剱の岩峰の朝景


朝日に輝く剱の本峰

《室堂》のバスターミナルを3階まで上がると、《室堂平》のゲレンデだ。 眼前にある『銘水百選・立山の湧水』で水筒を満たしてから、剱御前の後にひょっこりと突き出す剱岳に向かって歩いていこう。
ターミナルから剱岳のそびえ立つ左側へ進路を取ると、程なく《ミクリヶ池》に出る。 ここは、水面に立山の山屏風が投影される絶好の撮影ポイントである。

《ミクリヶ池》を越えると、《ミクリヶ池温泉》の建物の前を通る。 ここから、この温泉の湯元である《地獄谷》に向かって、標高差150m下っていく。 下る程に、硫黄臭が鼻をついてくるだろう。
《雷鳥沢ヒュッテ》を過ぎて更に下った所が、《雷鳥沢》のキャンプ場だ。 この先にある《雷鳥沢》を桟橋で渡ってから、剱御前に向かって登り返していく。

なお、剱・立山の山小屋の営業期間は10月の第二日曜日・・、『体育の日』の絡む連休位までで、それを過ぎると雷鳥沢にかかる橋は外されて細い1本の角材が架けられるのみとなるので注意が必要だ。
また、小屋が営業を終えて閉まるとキャンプ場の施設も閉鎖されて使えなくなるので、この雷鳥沢で予め水を汲んで持ち上げる事が必要となってくるので念の為。


剱御前から室堂平を見下ろす

登山道は剱御前の南斜面に広がる沢地形の縁に沿ってついてあり、これをジグザグに切りながら登っていく。 やがて、沢地形の上部に出て山肌の左側を巻くようになると、この登りの頂点である《剱御前小屋》は近い。 《剱御前小屋》の建つ《別山乗越》からは、待ちに待った剱本峰の勇姿が望めるであろう。


雪をまとった剱は美しいが・・


同時に滑落の危険も跳ね上がる

さて、これよりは露営地となる剱沢キャンプ場まで下っていくのであるが、気になるのは初雪の時期であろう。 例年で10月20日前後で、どうやら剱沢山域の山小屋はこの初雪を迎える前に営業を終えて”冬眠”するようである。

剱沢発 朝の絶景かな その1

ぢ・つ・わ・・ 小屋が”冬眠”してからの方が
紅葉が最盛期を迎えるのだった


剱の八ッ峰が朝日に輝き

まぁ、小屋が閉まると登山者のほとんどが消えて、ケーブルや高原バスといった室堂へのアプローチの待ち時間はなくなるが、テント必須で水も担ぎ上げねばならなくなる事と冠雪のリスクを負う事になるが、山を楽しみたいのなら、山小屋閉鎖後がお勧めである。 だが、冬を間近に控えた剱沢のキャンプ場は誰もいないし、また夜は湯たんぽを拵える事が必要に位に冷え込むので、その対策はぬかりない様に。

剱沢発 朝の絶景かな その2

山屏風が朝日を浴びて錦絵巻に


この朝の情景に魅せられて
この地に通う事になったよ




秋を彩る剱の岩峰に
魅せられる特上ルートをゆく

  《2日目》 剱沢雪渓を通って裏剱・仙人池へ
テントを畳んで《剱沢》を出発。 他の2組のテント(後から2組ほどやってきた)はワテの少し前に《剱御前》の方へ戻っていったみたいである。 《剱沢》の雪渓へ下るのはワテだけのようだ。
テント一式を担いでノタノタと下っていく。 秋口の雪渓はクレバスだらけで、道のほとんどが右岸につけられた高巻き道である。


秋の雪渓はクレバスだらけで
踏み抜くと『死亡フラク』モノなので緊張する


雪渓への取り付きも
縁が大きくエグられていた

《剱沢小屋》前の涸れ沢を下っていくと、やがて《剱沢雪渓》の白銀の帯が見えてくるだろう。 
この雪渓は比較的平坦でアイゼンなしでも歩いていけるが、“素”だと疲れるのも早いのでアイゼンを着けた方が得だ。 雪渓に入ってから20分程歩いていくと、
剱岳の大岩盤に昇り竜の如く一直線に突き上げている雪の筋を見る事ができる。 


雪渓の間から平蔵谷を覗き見る

これが《平蔵谷》の雪渓だ。 何でも平均傾斜35°、《平蔵ノコル》付近の最上部に至っては45°とも50°ともいわれる急傾斜だ。 これが剱岳の最短ルートだ・・と言われても、さすがに登っていく気にはなれないだろう。 また、このルートを行くのであれば、それなりの装備と気構えが必要だろう。 

秋ならば、この辺りからそろそろ錦の帯を山肌に掲げてくるだろう。 雪渓の奥を望むと、後立山連峰の山なみが雄々しくそびえ立っている。 広い雪渓の中央に荷物を下ろして、カメラ片手に駆けまわりたくなる風景が次々と惜しみなく現れる。


長次郎谷出合
雪渓の前にある大岩が目印だ


白い帯を一直線に突き上げる長次郎雪渓

絶景の中を進んでいくと、紅葉の両側を飾られた明るい雪渓の谷筋が視界に入ってくる。
これが《長次郎谷》の雪渓である。 《長次郎谷》の出合から先の《剱沢》は更に明るく開放的となり、広潤な気分満点に歩いていける。 やがて雪渓が薄れて退くようになっていくと、程なく《真砂沢ロッジ》前の広場に出る。


雪渓が途切れて下に河原が
見え始めると真砂沢出合も近い

ロッジの建物の脇を下っていくと《剱沢》の河原に出る。 シーズンが終わってやや荒れ始めてきた登山道を《仙人池》の方向に進む。 石コロが転がる道を10分ほど歩くと、ドでかいスノーブリッジが沢を完全に覆い尽くした所に出る。 まぁ、結構ぶ厚そうなスノーブリッジで恐怖感はなかったが、『秋の残雪のスノーブリッジを渡れ!』とは常識で考えたらかなりおっかないのである。 崩落でもしたら、もちろん生き埋めとなって助からないだろうし。

このスノーブリッジを渡った対岸の土手にはロープが垂れ下がっており、道を示す『道標リボンの花』もチラホラと咲いていた。 ちなみに、これが《ハシゴ谷乗越》へのルートの入口である。 
《ハシゴ谷》へのルートを見送って飛び石伝いに歩いていくと、裏剱の末端から延びる雪渓を渡っていく。 

この雪渓は《南股の雪渓》と呼ばれていて、例年秋のシーズン時期には《剱沢》に流れ込む支流に大きなスノーブリッジをかけるので通過には注意が必要だ。 《南股の雪渓》を越えると概ね
《剱沢》の右岸を伝っていくようになるが、沢に迫り出した岩をへつる鎖場があったり、大岩を高巻きしたりと結構“忙しい”道程である。 


剱沢の流れを魅ながら
沢岸をヘツリ気味に伝っていく

この沢のそばを1時間半ほど歩いていくと下流方向の視界が開け出し、左側に《三ノ窓谷》の雪渓と紅葉に覆われた八ッ峰の絶景が見渡せるようになるだろう。 そうなれば、《二股》も近い。 
《二股》には巨大な岩小屋・《近藤岩》が
《剱沢》の中央にデンと居座り、沢の流れを二つに割っている。 


下にデンと居座る大岩が
剱沢を”二俣”に割る《近藤岩》

《二股》に着くと立派な吊橋で《北股》を渡り、《近藤岩》のたもとを通って《仙人池》と《池ノ平》の分岐に出る。


秋の沢は冷たいよ~

なお、ここもシーズンが終わると橋が撤去されるので、撤去されたなら素足で沢を渡るしか手がないのである。 ちなみに、私の通った時は運よく橋の撤去前だったので事なきを得たが、《二俣》での渡渉は確実と見ておいた方がいいだろう。 

どちらが好み?

小屋が営業中の9月末の
強烈な雪渓姿を魅せる三ノ沢雪渓


穏やかな秋の情景を魅せる三ノ窓雪渓

直進して《三ノ窓》の雪渓を絡んで《北股沢》へと続く道が、《池ノ平》へのルートである。 
この道は上級者向けとの事なので、あえて回避しよう。


池ノ平へのルートとなる
《北股沢》の雪渓

目指す《仙人池》へのルートは、右手の樹林帯の中へ入っていく。 階段状の急坂を登っていくと、ザレ状の道を経て尾根上に出る。 尾根上は樹木が薄れて所々視界が利くようになり、左手に《三ノ窓》の大雪渓と剱の《八ッ峰》が現れる。 また右手には、後立山の盟主・鹿島槍ヶ岳が双耳峰をそろえて対峙している。 


仙人池へのルートは樹林帯で
眺めはほとんど期待できないが
鹿島槍がときおり姿を魅せてくれる

その懐に向かって“幻の大滝”『剱大滝』を抱く《剱沢》が、緑を深く刻んでいる。 
これらを見ながら登っていくと、樹木に覆われたピークを2つ程越えて進行方向が右に変わる。 
すると、谷を隔てて《仙人池ヒュッテ》の屋根が見えてくる。 こうなると、《仙人峠》は近い。 

後は尾根下を巻くような感じで伝っていくと、《仙人峠》の分岐に出る。 この分岐を左に進むと、情緒豊かな《八ッ峰》の情景を魅せてくれる《池ノ平》へと誘ってくれる。 《仙人池》へは、右に進路を取る。 高山植物の保護の為のロープで仕切られた道を下る事15分で、《仙人池》に着く。 
たどり着いた《仙人池》では、時の流れを忘れさせる情景を魅せられる事だろう。 


秋の絶景
剱・八ッ峰を映す仙人池”水鏡”

波紋一つない水面に投影される裏剱の《チンネ》・《八ッ峰》・《クレオパトラニードル》などの岩峰、池を取り囲む紅や黄色に色づいた樹木、岩を刻み“窓”をくり貫く長大な雪渓・・。 
この情景に言葉はいらない。 時の流れを止めて、ただひたすら眺めていたい。


池ノ平からの剱・八ッ峰の
眺めも絶景だよ!

なお、《仙人池ヒュッテ》は他の山小屋と同じく営業を終了して閉鎖されており、また池の周囲は幕営禁止との事なので、今日は《池ノ平ヒュッテ》(こちらも”冬眠”に入っている)まで向かって、《池ノ平》の幕営指定地でテントを張るしかないだろう。 明日の朝、《八ッ峰》を眺める期待を胸に休もう。


《チンネ》・《八ッ峰》・《クレオパトラニードル》などの岩峰に
明日の絶景の夢をつなげよう

   ※ 続く《仙人池》のクライマックスは、
     次回の『第350回 裏剱・仙人池 act 2』にて・・







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