2011-05-22 (Sun)✎
名峰次選の山々 第22回 『146 戸隠・西岳』 長野県
戸隠山系(上信越高原国立公園) 2053m コース難度 ★★★★★ 体力度 ★★★★★
戸隠・西岳の嶮峰群
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
長野市街より車(0:40)→森林植物園(0:30)→戸隠奥社(2:00)→八方覗(1:40)→本院岳
(0:50)→戸隠・西岳(0:30)→第一峰〔P1〕下降点(1:00)→蟻ノ戸渡リ(2:50)→鏡池
(0:40)→森林植物園より車(0:40)→長野市街
長野市街より車(0:40)→森林植物園(0:30)→戸隠奥社(2:00)→八方覗(1:40)→本院岳
(0:50)→戸隠・西岳(0:30)→第一峰〔P1〕下降点(1:00)→蟻ノ戸渡リ(2:50)→鏡池
(0:40)→森林植物園より車(0:40)→長野市街
戸隠・西岳 縦走 行程図
さて、この項目では、“難路”といわれる戸隠・西岳の稜線にチャレンジしてみよう。 行程的には空身の日帰り装備で周回するのだが、かなりの難路であるので、難路通過の自信のない方は回避した方がいいかもしれない。 もちろん、前夜宿泊の早朝出発は当然の事である。
この行程は、“日帰り”とはいっても、周回に11時間強かかる大強行軍である事を忘れてはならない。
さて、この項目では、“難路”といわれる戸隠・西岳の稜線にチャレンジしてみよう。 行程的には空身の日帰り装備で周回するのだが、かなりの難路であるので、難路通過の自信のない方は回避した方がいいかもしれない。 もちろん、前夜宿泊の早朝出発は当然の事である。
この行程は、“日帰り”とはいっても、周回に11時間強かかる大強行軍である事を忘れてはならない。
だが、恐れるばかりでは何も始まらない。 この困難を乗りきった先には必ず、より深い山への思いと克服の後に得られる自信で満ちあふれた“自分”を発見できる事であろう。 それでは、この“プレミアム”ルートを体験してみよう。
さて、登山口より戸隠連峰の稜線に上がるまでは『名峰百選 第22回 戸隠山・高妻山』と同一であるので、詳しくはそちらの方を御参照頂きたい。
途中、《蟻ノ戸渡リ》という幅50cmのナイフリッジがあり、前の項目でも述べたが、これの通過には“跨いで馬乗り”を強いられるのである。 これより先の“難路”への導入としては的確な難所で、“足慣らし”と気を引き締めるには十分である。
さて、《蟻ノ戸渡リ》を越えると、すぐに《八方睨》に登り着く。 前回でも述べたが、この《八方睨》は天気が良ければ後立山連峰の最高の展望台となるのだが、どうやら私はこの山系では天候運に見放されているようで、何も望む事が叶わなかった。
さて、この《八方睨》より200m先の戸隠山 1904メートル を往復した後は、いよいよ戸隠連峰岩稜の核心部にアタックしよう。 《八方睨》より縦走路は右手の方に進んでいくが、今回は左手に進んでいく。
これより先は超“難路”であるのだが、その割には『西岳 180分』との道標があるだけで、誰でもすんなりと入れる状態にある。 よもや間違える事はないと思うが、この“難路”を軽く考えて進んでしまう者も有り得るのではないかと思ってしまう。
一瞬見えた戸隠・西岳
さて、稜線の道であるが、始めのうちはやや広い草付きを緩やかな下り気味で進んでいく。
途中、花々も咲いていてひとときの安らぎとなる。 途中、潅木帯の急下降があり、樹木の枝や岩角をつかんでの下降となるが、これが“難路”の核心だと思うのは大きな間違いだ。 やがて、《栂ノ廊下》という鞍部上の小ピークを越えて、再び急下降で稜線の最低鞍部に下りる。
これより、稜線は草付きの穏やかなものから、徐々に岩稜の上下へと変わっていく。 また、周りも岩稜が立ちはばかり、進路が塞がれている感じがするだろう。 少し登って《一息ノ峰》という小突起を越えてひと登りすると、前面に立ちはばかっていた岩稜の下に出る。 この岩崖は登れないので、道は右へトラバースして枝尾根に取り付く。
シラネアオイが多く咲いていた
ダケカンバの木立の中を縫うように登っていくと《板倉清水》という岩清水があるとの事であるが、枯れている事が多いらしく発見はできなかった。 枝尾根を登りつめると再び主稜線に戻り、東側の断崖の縁を伝うようになる。 ここにはタカネナデシコやチングルマなどが咲いていてアルペンムードが漂うが、足下は奈落の底であるので緊張感も増してくる。 やがてこれも行きづまり、尾根の右側に周って薄暗い樹林帯に突入する。
苔むした岩を縫うように登っていくと、本院岳手前のピークに出る。 これより10分程で本院岳 2030メートル の頂上だ。 頂上は潅木に囲まれた狭いピークで、休憩を取るなら少し先の緩やかな岩斜面がいい。 ちょうど、腰掛けるのにいい案配の岩がある。 ここで、十分に息を整えよう。
苔むした岩を縫うように登っていくと、本院岳手前のピークに出る。 これより10分程で本院岳 2030メートル の頂上だ。 頂上は潅木に囲まれた狭いピークで、休憩を取るなら少し先の緩やかな岩斜面がいい。 ちょうど、腰掛けるのにいい案配の岩がある。 ここで、十分に息を整えよう。
これよりが、“本番”の西岳の登りだ。
西岳キレットを渡ると
絶壁の直登だ
これを直に登るのだ。 泥と岩のミックスした岩壁を鎖片手に登るが、滑りやすい上に欲しい所に鎖はなく、岩角に爪先立ちでハイマツをテコによじ登らねばならない。 もちろん、下は断崖絶壁だ。
ここは、絶対に下を見てはいけない。 ここで気が萎えてしまうと、足が竦んで岩崖で一歩も動けない事態に陥りかねないからだ。 もはや鎖はアテにはできず、素手で登攀せざるを得なくなるだろう。
実際、ワテの登っていた時は、雨が降っていて事態は最悪であった。 ワテの緊張と苦労を“他山の石”として、このコースを行く時は天候をしっかりと見極めて頂きたい。
こうして、冷汗タラタラで西岳の頂上に這い上がる。 苦労と緊張の末に登り着いた西岳 2053メートル の頂上は、周りがブッシュに取り囲まれて展望はない上に三角点すらなく、本当にガッカリさせられる。 だが、西岳の頂上から第一峰〔P1峰〕へは緩やかな上下となり、息を整える事ができるだろう。
鞍部まで下り、断崖の縁を伝って登り返すと、岩と潅木のおりなす高山的な第一峰〔P1峰〕 1989メートル に着く。 ここは展望が良さそうな所だか、残念ながら雨で何も見えなかった。
雨に濡れる花
さて、これより里に下ろう。 先程の西岳の登りが“このコース最大の難所だ”と思われるだろうが、それは“認識が甘い”と言わざるを得ないのである。 “真打ち”はこれからなのである。 第一峰〔P1峰〕よりの急峻な尾根を下っていくのだが、これが半端ではないのだ。
第一峰〔P1峰〕より10分間は何事もなく歩けるが、それより先には《不帰ノ嶮》という鎖場となる。
まずは、4回連続オーバーハングの懸垂下降だ。 しかも、その全てが泥で固められた泥炭層の岩層で、足を掛けると1/2の確率で“ボロッ”と崩れるのである。
そして、最も難儀なのが4つ目の懸垂下降だ。 この懸垂下降は、下り着く先・・つまり“着地点”がキレットのナイフリッジの上なのである。 例えるなら、これは鎖一本で垂直の壁を下って、平均台の上に着地するようなものである。 平均台から落ちても「痛い!」で済むが、これの着地にしくじると、断崖絶壁の奈落の底へ落ちてしまうのである。 落ちると、確実に“死”が待ち受けている。
渡り終えてヘタりながら撮った力作
《不帰ノ嶮》と《蟻ノ戸渡リ》
文献によると、この場所は過去に何件も墜死事故が起こっている“魔のスポット”との事である。
そして、この“平均台”の上に着地しても、まだ安心はできない。 今度は、この“平均台”を馬乗りスタイルで渡らねばならないのである。
《蟻ノ戸渡リ》・・。 戸隠山直下のナイフリッジと呼び名は同じであるが、恐怖感はこちらの方が上だ。 なぜなら、先程のオーバーハングからの着地で、神経を目一杯擦り減らしているからである。
そして、両サイドの切れ落ち具合も、こちらの方が“エゲツない”のである。 もちろん、ここも墜死事故多発の“魔のスポット”である事は言うまでもない。
崖っぷちに花
ミヤマアズマギク
何とか跨ぎきって(よもや、歩いては渡れまい)対岸のヘツリに乗り移ると、たぶんヘタリ込む事であろう。 しばし、ヘツリの岩壁に背をつけて“クールダウン”をしよう。 この先も難所は続くので、冷静さを取り戻すのも必要となる。
これより、岩のヘツリを膝がガクガクいう程に下ると、《無念ノ峰》の登りに差しかかる。
これより、岩のヘツリを膝がガクガクいう程に下ると、《無念ノ峰》の登りに差しかかる。
“峰”とはいっても断崖絶壁で、これをハシゴで登るのであるが、“ここはハシゴがあるから簡単だ”などと努々思わないで頂きたい。 なぜなら、“ハシゴ”は途中までしかないからである。
そして、その上はハイマツによって頭上を塞がれて、アングルとハイマツの根を伝っての“空中トラバース”(アングルに足を乗せて、ハイマツの根にぶら下がってトラバースする)を強いられるのである。
この時の天候は“雨降り”と最悪であったこともあり、アングルはツルツルと滑って役を担いそうになかったのである。 これの乗りきりにも、“命を削られる”思いをする事であろう。
この時の天候は“雨降り”と最悪であったこともあり、アングルはツルツルと滑って役を担いそうになかったのである。 これの乗りきりにも、“命を削られる”思いをする事であろう。
これを乗りきると猛烈な下りが続き、やがて《猿ノ岩場》という鎖場に出る。 この岩場を直進すると断崖絶壁となって行きづまるので、右の草付きのルンゼの中を下っていく。 泥炭層の脆い岩コブに打ち付けられた鎖はそれは頼りなく(岩コブは強く握ると『ボロッ』と抜け崩れる)、恐る恐る下っていかねばならない。 これがまた長い鎖場で、ここでも神経を擦り減らす事だろう。
これを伝い下ると、《熊ノ遊場》というスラブ状の大岩の斜面に出る。 この岩とその下の草付きの間を右にトラバースして鎖を1本下ると、緊張する場面は一応終わる。 後は、細い尾根上の小突起を幾つも越えながら高度を落としていくのだが、中程の小突起峰の下りで最後の鎖場があるので要注意だ。
これまでの難所の下りで神経も擦り減って足もガクガクになっているであろうから、ふっと気が抜けて転落事故(ここでは、落ちても死ぬ事はないだろうが)につながる恐れがあるからだ。 やがて、《望岳台》と呼ばれる露岩の上に立つが、天候が悪いので何も見えず、見えたとしても精神的に疲れていてそれ所ではないかもしれない。
これよりは、“一般コース”と変わらぬ緩やかな下りとなり、豊富な自然林の中をたどっていく。
やがて、今までの事が“夢まぼろしなのか”と声を上げたくなるような光景が見えてくる。 どこまでも穏やかな・・、広い緑の草原が広がっているのだ。
今までの事が夢まぼろしなのか!?
と思うような眺めが広がる
と思うような眺めが広がる
ここは《天狗平》といい、かつてはススキの荒れ野原であったとの事だが、今は牧草地となっている。
この《天狗平》の左端を伝い、『大平』との道標を見て林の中へ分け入る。 小沢を渡ると急下降となり、《楠川》まで下る。 まだ“沢”の領域を出ていない《楠川》を飛石伝いに渡ると、《楠川分岐》である。 真っすぐ下へ進むと《宝光社》へ、山肌を登っていくと《鏡池》に出る。
この《天狗平》の左端を伝い、『大平』との道標を見て林の中へ分け入る。 小沢を渡ると急下降となり、《楠川》まで下る。 まだ“沢”の領域を出ていない《楠川》を飛石伝いに渡ると、《楠川分岐》である。 真っすぐ下へ進むと《宝光社》へ、山肌を登っていくと《鏡池》に出る。
今頃日差しが出てきた
鏡池にて
ここから、《鏡池》までは30分位だ。 《鏡池》からは車道もあり、ロッジもあり、遊歩道もあり・・と、何の心配もいらない。 唯一、この山行でズタボロになった“身なり”を除いて・・。 後は、遊歩道を歩いて《森林植物園》でも散策しながら戻るとしよう。
・・これだけのコースを一周すると、総所要時間で12時間近くかかるであろう。 このコースだけは、自分の体力・経験・天候・時期(冬に行くのは自殺行為、できるだけ日の長い夏至近くがいいだろう)、全ての事を計算した上でアタックすべきであろう。
後は、《戸隠神社》の中社にある《神告温泉》で汗と疲れ、そして神経のこわばりをゆったりと癒そう。
“神経のこわばり”。 やがて、それは大きな自信となり、自分自身の大いなる“誇り”に変わっていくだろう。
“神経のこわばり”。 やがて、それは大きな自信となり、自分自身の大いなる“誇り”に変わっていくだろう。
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No title * by 風来梨
こんばんは。 お返事が遅れました。
一応、道標やらはあるのですが、難所のレベルがかなり高いです。
この場所を通ると、シャツを絞れば汁が出るほどに汗(冷汗かも)が出るし、下りた瞬間はズタボロでしたが、ものすごい興奮がありました。
たぶん、公認ルートであったが、墜死事故多発で「なるべく通らぬように」となったルートかもしれませんね。
一応、道標やらはあるのですが、難所のレベルがかなり高いです。
この場所を通ると、シャツを絞れば汁が出るほどに汗(冷汗かも)が出るし、下りた瞬間はズタボロでしたが、ものすごい興奮がありました。
たぶん、公認ルートであったが、墜死事故多発で「なるべく通らぬように」となったルートかもしれませんね。
雨に濡れた花、清楚ですね。サンカヨウでしょう。