2017-06-25 (Sun)✎
『日本百景』 夏 第295回 蓮華ノ大下リ 〔富山県・長野県〕
《蓮華ノ大下リ》の途中から望む
針ノ木岳はとにかく凛々しい
北アルプス・裏銀座縦走路 きたアルプス・うらぎんざじゅうそうろ (中部山岳国立公園)
“槍ヶ岳”。 天衝く穂先がシンボルのこの山は、登山を志す者の『バイブル』的な存在の山である。
この“槍ヶ岳”へ、最高の景色を眺めながら伝っていくルートが、この『裏銀座縦走路』である。
“槍ヶ岳”。 天衝く穂先がシンボルのこの山は、登山を志す者の『バイブル』的な存在の山である。
この“槍ヶ岳”へ、最高の景色を眺めながら伝っていくルートが、この『裏銀座縦走路』である。
雪渓の登高あり、回路における電気抵抗の如く行く手を阻む荒々しい岩稜あり、そしてこの魅力的な縦走路を演出する北アの名峰群・・。 これらを全て踏破して槍・穂高の主脈へ向かうこのルートこそ、真に“雲上のプロムナード”の称号が相応しいだろう。 さあ、北アルプスの山旅の総決算として、“雲上のプロムナード”の完全踏破にチャレンジしてみよう。
北アルプス・裏銀座登山ルート 総図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR信濃大町駅よりバス(0:40)→扇沢(2:00)→大沢小屋(0:30)→針ノ木大雪渓
(2:30)→針ノ木峠・針ノ木岳へは往復1時間半
《2日目》 針ノ木峠(1:00)→蓮華岳(4:30)→七倉岳(0:20)→船窪
《3日目》 船窪(4:00)→不動岳(3:00)→烏帽子岳(0:45)→烏帽子小屋
《4日目》 烏帽子小屋(3:20)→野口五郎岳(2:30)→水晶小屋
《5日目》 水晶小屋(0:45)→水晶岳(2:30)→赤牛岳(3:15)→水晶小屋(2:40)→三俣
《6日目》 三俣(2:00)→双六小屋(5:40)→槍ヶ岳山荘・槍ヶ岳へは往復1時間
《7日目》 槍ヶ岳山荘(2:40)→南岳小屋(1:20)→大キレット・長谷川ピーク
(2:30)→針ノ木峠・針ノ木岳へは往復1時間半
《2日目》 針ノ木峠(1:00)→蓮華岳(4:30)→七倉岳(0:20)→船窪
《3日目》 船窪(4:00)→不動岳(3:00)→烏帽子岳(0:45)→烏帽子小屋
《4日目》 烏帽子小屋(3:20)→野口五郎岳(2:30)→水晶小屋
《5日目》 水晶小屋(0:45)→水晶岳(2:30)→赤牛岳(3:15)→水晶小屋(2:40)→三俣
《6日目》 三俣(2:00)→双六小屋(5:40)→槍ヶ岳山荘・槍ヶ岳へは往復1時間
《7日目》 槍ヶ岳山荘(2:40)→南岳小屋(1:20)→大キレット・長谷川ピーク
(2:20)→北穂高岳(2:50)→白出乗越
《8日目》 白出乗越(0:50)→奥穂高岳(2:40)→天狗ノコル(1:00)→間ノ岳
《8日目》 白出乗越(0:50)→奥穂高岳(2:40)→天狗ノコル(1:00)→間ノ岳
(1:30)→西穂高岳(2:10)→西穂山荘
《9日目》 西穂山荘(0:50)→西穂高口よりロープウェイ(0:15)→新穂高温泉よりバス
《9日目》 西穂山荘(0:50)→西穂高口よりロープウェイ(0:15)→新穂高温泉よりバス
(1:40)→JR高山駅
※ 前回の『第294回 針ノ木岳』からの続き
今日はキツイ行程だ
針ノ木岳の頂が
輝き始めたなら峠を出よう
《2日目》 “蓮華ノ大下リ”を経て船窪へ
朝、テント場より望むと、槍・穂高を始めとする北アルプスの雄峰群が、かぎろい色の空にそびえ立っている事だろう。 そして、その横に富士山の美しい三角錐も・・。 夜明けの絶景の中で出発準備ができるのは、幕営山行の“特典”である。 それでは出発の準備をしながら、しばし小屋前で朝のプロムナードを楽しもうか。
朝、テント場より望むと、槍・穂高を始めとする北アルプスの雄峰群が、かぎろい色の空にそびえ立っている事だろう。 そして、その横に富士山の美しい三角錐も・・。 夜明けの絶景の中で出発準備ができるのは、幕営山行の“特典”である。 それでは出発の準備をしながら、しばし小屋前で朝のプロムナードを楽しもうか。
朝のプロムナード
餓鬼・燕・大天井・情念と続く
表銀座の山々の夜明け
富士と北アの山なみが
かぎろいの空に浮かんで
槍ヶ岳の衛士に水晶岳という
贅沢極まる眺め
やっぱり槍は
日本の山の盟主だね
正面で朝日に染まる蓮華岳を
撮ればそろそろ出発だ
さて、ひと通りの準備が整ったなら出発だ。 小屋前の狭い峠の上に立ち、四方の山々がオレンジ色に染まるのを確かめてから真っすぐに進路を取ろう。 まずは、蓮華岳の急登だ。 朝一からの急登にふくら脛が悲鳴を上げるが、それ程長くは続かないのでこらえよう。
朝一のキツい登りは
雲海に浮かぶ富士の朝景で
気合を入れて
やがて、峠に建つ小屋と針ノ木岳の頂が望めるようになると砕石帯の緩やかな丘の上に出て、コマクサの咲き乱れる好展望の中を行くようになる。 右を望むと、槍・穂高を始めとする北アの雄峰群。
今朝の青空と雲は
芸術的だった
左は鹿島槍や妙高・火打などの頚城の山々と、果ては秩父の山々も・・。 振り返れば、針ノ木岳とその背後には剱の勇姿が・・。 そして正面は、朝日を満面に浴びて光幻に輝く蓮華岳が、ひときわ大きくそびえ立っている。
素晴らしい山の情景に
なかなか前には進めない
花の落ちたチングルマの実は
光と露と風を受けてアートとなる
チングルマの実がおりなす
芸術街道を蓮華岳へ
“コマクサを前に散らばせて北アの山々”もいいし、チングルマの実に光を当てて輝かせるのもグットだ。 このようにカメラ片手で行くと、1時間もあれば登り着く蓮華岳に1時間半はかかってしまう事だろう。 やがて、蓮華岳の頂上へ。
絶景の数々に蓮華岳の頂を踏むまで
時間がかかってしまったよ
蓮華岳 2799メートル の頂上は細長く、一番端に三角点がある。 頂上からの展望は、雪渓谷を幾筋にも従えた剱岳が印象的だ。 そして、逆光に黒光りする鹿島槍も、稜線のうねりをはっきりと望むことができる“そそる”眺めだ。
蓮華岳発 絶景かな
剱に流れ雲がかかってしまった
圧巻は朝日を浴びる鹿島槍の二ッ耳と
谷を埋める白く輝く天の海・雲海のコラボ
これより下る
《蓮華ノ大下リ》に武者震い
いい眺めを思う存分楽しんだなら、さぁ、ここからが体力勝負だ。 標高差500mものイッキ下りを擁する《蓮華ノ大下リ》や、ことごとく乗越を越えるアップダウンが、これより2日行程5回に渡って続くのだ。 もちろん、ただ上下するだけではない。 鎖場やヘツリ、崖の際などの“オプション”たっぷりのルートでもあるのだ。
北ア・裏銀座縦走路 針ノ木岳~船窪 行程図
「足下を見下ろせども鞍部まで望む事ができない」、そんな急で長い大下りを下っていく。
滑りやすい砕石のザラ場をジグザグに切って進んでいくが、途中の慰みと言えば“白いコマクサ”位であろうか。
白いコマクサ
見ぃっつけた!
周りを見渡すと、今朝出発した《針ノ木峠》が指呼の間にあり、しかも進む毎にどんどん上に見上げる位置となっていく。 これを見ると、思いっきり下っているのが実感できるだろう。
蓮華岳を見上げる位までの
半端のないタダ下りだ
やがて、砕石帯を抜け出して、ストンと落ちる崖の下りに差しかかる。 これより、鎖とハシゴが交互に現れるちょっとした難所だ。 荷物を一式担いでの鎖場下りは慎重を期さねばならない。
踏ん張るのに力を使う上に、重心が高くなり不安定となるからだ。 また、このガラ岩帯は滑りやすいので、ゆっくり下っていこう。 これを下りきると、狭いコルの上に立つ。 最初の鞍部である《北葛乗越》だ。
蓮華岳は今下った崖に隠れて全く見えなくなり、閉鎖感を感じる所だ。 狭いコルを横断すると、いきなりの急登が待ち受けている。 ハシゴも使ってイッキに150m登り返す。 登り返して尾根上に出ると、草付きの中を緩やかに登るようになる。 再び展望も良くなってきて、腰掛けるにちょうどいい岩も点在してくるので、ここらでひと休みするのもいいだろう。
北葛乗越を越えた先にある
テラスで一息着こう
荷物が重い事もあり、予想以上にヘバっている自身を認識できる事だと思う。 ともすれば、北アの一般ルートでこれ程キツい所も、そうはないのではないか・・と思うのだが。 さて、汗を乾かして息を整えたなら、目指すは眼前にそびえる北葛岳の頂だ。
標高差にして約200m近くある登りは、重い荷物を担いで疲れた体に結構効いてくる。 草付きがハイマツに変わり、開けたハイマツ帯をつめると北葛岳 2551メートル 頂上だ。 蓮華岳や針ノ木岳と程よく離れていて、展望は良好だ。 針ノ木岳のスラリとした山容と今まで苦労の末に下ってきた《蓮華ノ大下リ》がデカデカとそびえ立ち、真に対照的な眺めを魅せてくれる。
北葛岳の頂にて
山岳美を魅せる針ノ木岳と
下ってきた《蓮華ノ大下リ》が
真正面に立ちはばかる
大下りを神秘のベールで
覆い隠すようにガスが立ち込めた
そして、本日の終点である《船窪》も見えてくる。 ほんの近くに見える小屋との間には大きな乗越のアップダウンが存在し、頂上で直角に向きを変えた降り口には『小屋まで 3:00』と記した道標がある。
“3時間”はオーバーかもしれないが、まだまだ遠いのである。
越中側を巻くように潅木帯をどんどん下り、ハシゴでトドメを差すように下りきると、これまた狭い両端ともガレた鞍部に下り着く。 これが2つ目の《七倉乗越》だ。 このコルからも、前と同じようにハシゴをも使ってイッキに露岩帯を登りつめる。
越中側を巻くように潅木帯をどんどん下り、ハシゴでトドメを差すように下りきると、これまた狭い両端ともガレた鞍部に下り着く。 これが2つ目の《七倉乗越》だ。 このコルからも、前と同じようにハシゴをも使ってイッキに露岩帯を登りつめる。
これを肩までつめて左に展開する尾根を伝い、尾根上のコブを2~3越えると七倉岳 2509メートル だ。 ここまでくれば、小屋はもうすぐだ。 小屋の前には《不動谷》を挟んで不動岳がそびえ立ち、《不動の大崩壊》が生々しい崩落の爪痕を魅せている。
小屋でテントの手続きをして、テント場まで歩いて20分(登り返すとなると30分はかかるであろう)。
たぶん、手続き場所より最も離れたテントサイトではないだろうか。 そして、何よりも厄介なのが“水汲み”だ。
小屋でテントの手続きをして、テント場まで歩いて20分(登り返すとなると30分はかかるであろう)。
たぶん、手続き場所より最も離れたテントサイトではないだろうか。 そして、何よりも厄介なのが“水汲み”だ。
不動谷の崖っぷち
真に命賭けの水調達となる船窪の水場
冷たくていい水を得る事ができるのではあるが、その場所は《不動谷》の崩落箇所の“落ち口”にあり、ロープを握りながらの“水汲み”となるのだ。 何でも、過去にここで転落死亡事故が数回あったとの事である。
《不動谷》に落ちた落石がカンラカンラと響き渡る中での水汲みは、“そそる”ものがある。
朝、眠気まなこで水を汲みにいくのは危険だ。 明日の分も汲み置きしておいた方がいいだろう。
明日は本行程中、最もハードな行程が控えている。 それに備えて、早めに休息を取ろう。
《不動谷》に落ちた落石がカンラカンラと響き渡る中での水汲みは、“そそる”ものがある。
朝、眠気まなこで水を汲みにいくのは危険だ。 明日の分も汲み置きしておいた方がいいだろう。
明日は本行程中、最もハードな行程が控えている。 それに備えて、早めに休息を取ろう。
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