2017-02-12 (Sun)✎
路線の思い出 第194回 石勝線〔夕張支線〕・鹿ノ谷駅 〔北海道〕
鹿ノ谷駅舎
「鉄道は必要ない」と断を下した町のハズレに
ホツンとあった大きな”廃屋”
《路線データ》
営業区間と営業キロ 輸送密度 / 営業係数(’15)
南千歳~新得・新夕張~夕張 148.5km 3870 / 183
〔夕張支線 新夕張~夕張 16.1km〕 ※ 夕張支線を含まぬ数値
〔夕張支線単独の輸送密度は
118人キロ/km(’13)〕
運行本数(’15)
夕張支線内は1日5往復
鹿ノ谷駅(しかのたにえき)は、北海道夕張市鹿の谷三丁目にあるJR北海道・石勝線(夕張支線)の駅で、単式ホーム1面1線を有する。 無人駅である。
北海道炭礦汽船(通称・北炭=三井財閥系の炭鉱運営会社で現在は所有した炭鉱の全閉山により国内石炭産業から撤退し、石炭輸入販売、ガラス加工業となっている)の全盛期は、駅周辺の鹿の谷地区は幹部用住居が存在する高級住宅地であり、夕張北高等学校・夕張工業高校に通学する学生で賑わった。
かつての夕張鉄道線との接続駅で、広い構内には同鉄道の車両区・保線区などを有し拠点となっていた。 平和炭鉱(夕張炭鉱の1つ)の閉山により夕張鉄道線が廃止となり、構内は大幅に縮小された。
なお、沿線自治体の夕張市が、鉄道施設の無償供与と鉄道廃止に伴うバスターミナルの整備など、バス利便の向上等を条件に夕張支線の廃止に同意した事で、’18年春以降に夕張支線廃止が予定されている。
それに伴い当駅も廃駅となる予定である。
『かつての栄光』から
幹線指定されていた夕張支線も
廃止転換対象に
国鉄分割民営化より約30年が経過したが、この分割民営化により発足したJR北海道は分割から20年位までは比較的元気があって、電車と併結できる程に高加減速が可能な新型気動車の新製など、活発な設備投資をしていたのである。
だが、近年の金利の超引き下げによって経営安定化基金の運用による金利も減少し、これで赤字を補てんしようとした目論見が崩れていったのだ。 これが、ここ4~5年前から急に、JR北海道が「業績悪化による負債で首が回らない!」叫び出した理由である。
分割民営化に差し当たってこの事を予測し、「北海道地域の鉄道に関しては民間経営は無謀である」という提言もあったようだが、一律的な分割民営化を推し進めるあまりに、これらの問題提起がうやむやになってしまったのだろう。
そもそも北海道地域は人口密度も低く、当然輸送需要も少なく、開拓期の石炭や木材など産出する資源の輸送の為に多くの鉄道路線建設が行われたものの、エネルギー革命による石炭産業の斜陽化と道路整備による貨物輸送の陸送(トラック輸送)切り替えなどで、北海道で鉄道が建設された主理由の貨物輸送が激減したのである。
かつて栄えた事を示す遺構といっていいだろう
撤去された貨物側線の跡が雪に埋まる光景は・・
清水沢駅にて
上に記したような理由で、この石炭産業の為の路線・石勝線の夕張支線も、「業績悪化による負債で首が回らない!」と叫び出したJR北海道によって路線の存廃問題が提起されたのである。
この夕張支線が運賃差額を設定する為の路線分類で『地方交通線』ではなく、石勝線の一部として『幹線』扱いな事からも判るだろう。 その通り、分割民営化直後ではまだ炭鉱の一部が稼働して石炭輸送が残存しており、この夕張支線は比較的に収益が安定していたのである。 そう・・、幹線と指定されても異論が出ない位に。
だが、その後も僅かながら残っていた炭鉱が全て閉山となって、路線の生命線であった石炭輸送がなくなり、炭坑閉山に伴って人口流出が激しくなって、2007年に財政再建団体指定と夕張という町自体が破産状態になってしまったのである。
そして現在は、法改正によって『財政再建団体』から『財政再生団体』と呼び名が変わって(といっても、国の財政支援がある代わりに地方債の発行ができない事や再生計画の提示義務など内容はほぼ同じ)、石炭産業に代る特産物の夕張メロン栽培や『幸福の黄色いハンカチ』のロケ地という事を前面に出した映画フェスティバル、『スポーツ振興の町』宣言など観光の町としての再生を図っている・・らしい。
『幸福の黄色いハンカチ』のロケセットを
再現したという『思い出広場』も
雪に埋もれて放置されていた
:
その光景は産業の斜陽で寂れた
『炭鉱の町』そのままだった
石炭産業の輸送の担い手として建設された路線は、観光の町として再生しようとする破綻した町に「石炭産業を失った今、鉄道は町として特段に必要がない」と断じられた訳である。 そして、その夕張の町は、「それよりも、鉄道に代る札幌や千歳空港からの観光客誘導の為の交通網整備の支援・投資を・・」と求めた訳である。
要するに、地域の利便よりも訪れる観光客の利便を図って財政を再生させたい夕張市と、在来線を切りたくて仕方がないJR北海道の思惑が合致した訳である。 こうして廃止時期を明確にしないままに、夕張市が路線廃止の代替条件として駅施設の無償供与と複合商業施設の入ったバスターミナルの建設を求め、その供用開始の道筋がついた時点での廃止を容認しているのが現況である。
前置きが長くなったが、そういった訳でJR北海道の経営困難を理由付けにした在来線の整理・淘汰計画が始まったのである。 この夕張支線も路線廃止を示唆され、運行本数も9往復から半減に近い5往復に減らされてしまったが、町の様子は特段に変わらないようだった。 見た感じでは、利用者たる沿線住民自体が「車もあるし、別になくてもいいや」という気になっているような。
利用客もないのに義務の如く停まって
ドアを開閉して去っていく
かつての特定地方交通線・・いわゆる『廃止ローカル線』の廃止時には、どの路線でも『廃止反対!』の横断幕を張るなど路線廃止に抵抗する姿が見られたが、今は冷めているというか、「関わりたくない、考えたくない」という思考が強くなったのか、地元では鉄道の廃止問題など話題にも挙がっていないようであった。 そう・・、これらの問題を危惧したり騒いだりしているのは、ワテのような他方の『鉄道好き』という外野だけなのだ。
こういう路線を詣でるのは
エトランゼの鉄道好きのみ
そして、その『外野』のワテも、減便されて「あまりにも使えなくなった」この支線に乗らずに、レンタカーで趣味の範囲として『撮り鉄』している。 まぁ・・、全てにおいて「不便な所は縮小されて先細りになり、より不便になる」という悪循環が繰り返されているのだ。
そのワテが撮影地に選んだこの鹿ノ谷と清水沢の間も、不便な鉄道にわざわざ目を向けなくても道路は整備されて支障はないし、町はかつての『寂れた炭鉱町』のイメージを脱していた。 かつての炭鉱経営者幹部が居住した高級住宅街だったという鹿ノ谷地区も、新たに建てられた住宅が建ち並ぶどこの街でも見かけるような一般住宅地となっていた。 そう・・、幹部でない庶民層でも、それなりの住宅を建てて居住しているようであった。
最近の廃止線では、このような情景をよく見かける。 それなりの乗客がいても不思議でない位に周囲に住宅が建ち並ぶのに、駅と鉄道のみがかつての『閉山して寂れた旧炭鉱町』という負の面影を引きずっている光景だ。
住宅が建ち並び、頻繁に車が行き交う街の外れにポツンと廃屋のような無人駅舎があり、単行の気動車が乗客もいない駅に義務の如く停車して街の中に消えていく姿を。 そう・・、街に住む人の頭の中から存在を忘れ去られるような光景がカメラのファインダーの中に広がっていたのである。
空気を運ぶ単行気動車が
住宅が建ち並ぶ中に消えていく
何かやるせなくなって、かつてときめいた「大自然の中を走る『風景鉄道』たる写真が撮りたい」と、撮影場所を変える事にした。 まぁ、列車本数が半減して移動に充てる時間は持て余す程にあった(移動の途中にユーパロ温泉のクアハウスに入れた位だし・・)ので、観た感じで最も森林帯をゆく清水沢駅との間を”索敵”する事にした。
国道の路辺が広がった『車を止めるスペース』を見つけるとそこに車を止め、並行する線路をつぶさに”偵察”していく。 まぁ、渋滞するような道では顰蹙を買う行為だが、車が行き交うと言っても人口8000人の田舎町の田舎道ではただがしれているのである。
で・・、鹿ノ谷地区と清水沢地区の境にある覆道を越えて暫くした所が、イメージバッチリの所だった。
雪が載って白の斑点模様に染まる樹林帯をS字カーブで抜ける・・、ずっと追い求めていた『風景鉄道』たる情景が広がっていたのである。
ずっと追い求めていた
『風景鉄道』が撮れる所を見つけた!
「もう、ここしかない!」と、より広くなった路辺に車を移動して、ここで待ち構える。
狙うは、ライトを照らしてこちらに向かってくる新夕張方面行きの上り列車だ。
それでは、その様子をごろうじろ。
S字カーブの『風景鉄道』情景にて
1枚目
狙いを定めて待つ事数分で
『獲物』はやって来た
・・地元にも見放された夕張支線は、廃止に抗する事もなく須く路線廃止となるだろう。
黒ダイヤで沸いた栄光が夢だったかのように様変わりしていく町の姿と同様に、この線も廃止になって十数年の時が経ると、「確か・・あったよな?」程度に忘れ去られて『夢』となるのだろうか。
S字カーブの『風景鉄道』情景にて
2枚目
もう・・『獲物』を撮る事で
頭が一杯だった
「赤字だ!」と地域住民の利便を切り捨てて、既に航空機に押さえられて見込みが全くない都市間高速輸送『シンカンセン』に、成功した他地域の『シンカンセン』を夢見てムダ金をかけて更に窮していくのだろうね。
S字カーブの『風景鉄道』情景にて
3枚目
手巻きのフイルムカメラを使って大方40年
巻き上げるのは早くなった・・かな?
鉄道は一度廃止にすると、復活するのはほとんど不可能だ。 そして、枝や末端を根こそぎ切ったその代償で、本線格と呼ばれた路線も存廃問題に晒されているのである。 そう・・、見込みのない事に金をかけるより、もっと他に増収策があるだろう! ターゲットをわざわざ鉄道に金を落しにくる『鉄道マニア』に向けるのも一つの手だろう。 ただが『マニア』といっても、アテにならない観光客よりよっぽと確実なのだ。
S字カーブの『風景鉄道』情景にて
4枚目
そして毎年の夏・春・冬の各シーズンには、それぞれ十万人単位の『鉄道マニア』が北海道にやってくるのだ。 こういう奴らが北海道にやって来たなら、切符代だけでも1人当たり4~5万は使うだろうから、これをゲットできればかなりの収益となるだろう。
S字カーブの『風景鉄道』情景にて
5枚目
これよりこの撮影場所も
『葬式鉄』なる廃線ハンターの群れが
押し寄せるのだろうか
恐らく、これが最後の救済手段となるだろう。 その為にも、こういう奴らが北海道にやってくる目的である『路線』を「赤字だから」と削ってはならなかったのである。 そして、分割民営化時の予測である「北海道地域の鉄道に関しては民間経営は無謀である」という提言は的中したのだから、民営化を解除して再国有化すべきなんだろうね。
- 関連記事
スポンサーサイト
No title * by 風来梨
風旅記さん、こんにちは。
いつも思う事なんですけど、1ヵ月やそこらの外人相手の事には2兆も3兆も出すのに、日本人が困ってる事には何故に金を出せないのでしょうかね?
勝てる見込みもなく、オリンピックという1ヵ月のイベントが終わればほぼ使われる事もない競技場を1つ建設するのにJR北海道の年間赤字額相当が消えていきます。 また、その1つの競技施設の維持費に年20億かかるらしいです。
そんなのには金を出し、地方に住む日本人の利便は「赤字だ!」「無駄だ!」と切り捨てる。 何かおかしくないですか?
そんな下らねえ事に金を使うなら、日本の地方の再生と地域保全の為に使って欲しいと強く思いますね。 日本人が払った税金は、日本人の為に使うべきですよ。
いつも思う事なんですけど、1ヵ月やそこらの外人相手の事には2兆も3兆も出すのに、日本人が困ってる事には何故に金を出せないのでしょうかね?
勝てる見込みもなく、オリンピックという1ヵ月のイベントが終わればほぼ使われる事もない競技場を1つ建設するのにJR北海道の年間赤字額相当が消えていきます。 また、その1つの競技施設の維持費に年20億かかるらしいです。
そんなのには金を出し、地方に住む日本人の利便は「赤字だ!」「無駄だ!」と切り捨てる。 何かおかしくないですか?
そんな下らねえ事に金を使うなら、日本の地方の再生と地域保全の為に使って欲しいと強く思いますね。 日本人が払った税金は、日本人の為に使うべきですよ。
No title * by 風旅記
こんばんは。
結局地方は、何かを与えられて満足するしかないような構造になっているのかもしれません。
昔は、今ではその殆どが廃止されたローカル線だったのでしょうし、今は新幹線が来れば万歳、高速道や高規格道路も、という絵になっているように思います。
オリンピックでもなんでもいいのですが、その波及効果を出そうとすれば、交通インフラは必須、優先順位はつけなければいけませんが、むしろ国策として鉄道網を再整備し在来線を高速化するようなテコ入れがあってもいいはずです。
JRに民営化した後、国土をどのように発展させていくかの戦略がないですよね。
JR北海道が本当に破綻したら、国や北海道はどうするつもりなのでしょうか。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/
結局地方は、何かを与えられて満足するしかないような構造になっているのかもしれません。
昔は、今ではその殆どが廃止されたローカル線だったのでしょうし、今は新幹線が来れば万歳、高速道や高規格道路も、という絵になっているように思います。
オリンピックでもなんでもいいのですが、その波及効果を出そうとすれば、交通インフラは必須、優先順位はつけなければいけませんが、むしろ国策として鉄道網を再整備し在来線を高速化するようなテコ入れがあってもいいはずです。
JRに民営化した後、国土をどのように発展させていくかの戦略がないですよね。
JR北海道が本当に破綻したら、国や北海道はどうするつもりなのでしょうか。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/
No title * by 風来梨
風旅記さん、こんにちは。
宗谷本線や石北本線の路線維持が困難に
なった理由は、枝線や末端を切ってしまったから、「幹」も枯れてきているって現象です。 ニュアンスは違えど、波及効果と同じような事ですね。
ホント仰るように、JR北海道には、「乗ってもらおう」「利益を上げよう」という気概が無いですね。
でも、地方が寂れれば、必ず都会、そして国全体が困窮するハメになります。 だから金を出してでも、コレ以上寂れないように維持しなければならないと私は思いますね。 真に、末端を全て切ってしまったなら、やがて「幹」も枯れる憂き目にあう・・って事ですね。
コレは、都会一極集中の弊害ですね。
宗谷本線や石北本線の路線維持が困難に
なった理由は、枝線や末端を切ってしまったから、「幹」も枯れてきているって現象です。 ニュアンスは違えど、波及効果と同じような事ですね。
ホント仰るように、JR北海道には、「乗ってもらおう」「利益を上げよう」という気概が無いですね。
でも、地方が寂れれば、必ず都会、そして国全体が困窮するハメになります。 だから金を出してでも、コレ以上寂れないように維持しなければならないと私は思いますね。 真に、末端を全て切ってしまったなら、やがて「幹」も枯れる憂き目にあう・・って事ですね。
コレは、都会一極集中の弊害ですね。
夕張支線の廃止に関するニュースを読み最初に感じたのは、夕張市が自身が得をする条件に納得して同意さえすれば、鉄道を廃止できてしまうことに対する違和感でした。
もちろんそんなに単純な話ではないでしょうし、沿線自治体の同意が重要なファクターであることは他の路線でも同じではあったのですが、その話の進展にはもはや、全体感のある「俯瞰した」物事の見方や意思決定はなく、個別の局所の判断でインフラの放棄が決まってしまうことの怖さでもありました。
夕張市は、バスなどで札幌や千歳と直結するルートを拡充する方を望むのでしょう。新しい設備も欲しいのでしょう。何かを捨てて代わりを得る考え方なのだろうと思います。今や盲腸線として、鉄道のネットワークへの寄与度も限りなく小さいと判断するのも、やむを得ないのでしょう。
しかし、社会インフラとしての鉄道の活用や、ネットワークとしての鉄道の寸断の弊害を、日本・北海道全体として考える主体が既に不在になってしまっているように見えます。
駄文失礼致しました。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/