風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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よも”ヤマ”話  第10話  御在所岳 その2

よも”ヤマ”話 第10話  御在所岳 その2 〔三重県・滋賀県〕’85・3 
御在所岳 1212m〔名峰次選 5峰目〕


朝陽台より望む御在所岳
『じゃらん』のウェブサイトより拝借

  今回の山行のあらまし〔再掲〕
一般の人が『御在所岳』をイメージするとしたなら、「ロープウェイで行けるお手軽な山」というのが大半であろう。 更に質問に「御在所岳のマニアックな所は?」というのを加えると、ほぼ全てが「《藤内壁》などのロッククライミング」を挙げるだろう。 そう、登山の観点で言えば、「ロープウェイを使ってお手軽ハイキング」の認識を持たれている山だ。

だが、そんな御在所岳でも、サバイバル要素を大いに含んだ登山ルートがあるのだ。
それはロープウェイが通じて観光地化された三重県側ではなく、裏側の滋賀県側の源流沢を遡行していくルートだ。

これは来年受験を控えてW・V部を引退する前の現役最後の定期山行で登ったのだが、正直言うと高校生の部活のレベルを完全に超える難度のルートである。 それは腰までつかる沢の渡渉や、渡し籠跡のロープを掴んでの渡渉、滝そばの濡れた岩場の登降、イバラが茂るトゲトゲブッシュの突破など、かなり『エキスパート』なルート内容だったのである。

それに加えて、山行をした時期が残雪も所々に残る3月下旬。 恐らく、今の学校なら絶対に許可が下りないコース選定なのである。 それを比良連山縦走山行で”やる気のない”事が白日の下にさらされた部顧問の先公は受験対策を理由に早々に引率を拒否し、兵隊だけでこの山行が催されたのである。


今回の山行の行程図

   行程表
《1日目》 JR近江八幡駅より鉄道(0:15)→八日市駅よりタクシー利用(0:35)→紅葉尾
     (2:00)→神崎川徒渉点(2:10)→ヒロ沢出合
《2日目》 ヒロ沢出合(1:40)→鈴鹿国境稜線・ハト峰峠(1:00)→水晶岳(2:30)→国見岳
     (1:00)→御在所岳(0:20)→御在所キャンプ場
《3日目》 御在所キャンプ場(2:00)→御在所岳登山口(0:45)→湯の山温泉駅より鉄道
     (0:25)→四日市駅

     ※ 前回『よも”ヤマ”話 第9話』からの続き

昨日の沢行は、ワンゲロ活動を2年こなして結構”体力猛者”となったワテらからしてもキツかったようで、沢から上がってすぐの樹林帯に分け入って、そこでテントを張ってパタンキューとなった。
そりゃぁ、何の計画や想定もナシに、沢の訓練もせずに”ブッツケ”で沢遡行をしたのだから、疲れるわなぁ。 今の軟弱な高校部活のレベルなら遭難があったかもね。

翌朝は5時に起きて出発は6時の予定だ。 だが、樹林帯の中は月明りさえ挿し込まない真っ暗闇で、空が明るくなり始めるであろう出発時の6時でさえ薄暗く、カンテラ無しには行動できそうにない状態だった。 「沢の源流域は光がほとんど差し込まない」というのは、この時の体験で覚えたよ。
お陰て、この先大人になってからの滝めぐりでは、どんな時でもカンテラと電池を携帯するようになったよ。

さて、なんだかんだ言っても高校生のジャリガキ。 この朝とは思えぬ薄暗い状況ではさすがに皆して心細くなる。 その心細さから抜け出るにはただ一つ、「稜線に上がって朝の光を浴びる事だ」と、スパートをかけて登っていく。 明確に憶えている事は、稜線への登りで「オールファイト」の掛け声を連呼しながら登っていった事である。

深い樹海の中を喘ぐように登っていくと、ひょっこりと稜線の上に飛び出る。 稜線上は、昨日の苦労がウソのようになだらかな草原の丘となっていて、広々としている。 庭園状の天然の石畳が敷かれた上を悠々と歩いていくと、絶景の展望台であるハト峰の頂上だ。 でも、絶景を眺めるより、樹林帯の暗闇から抜け出れた喜びの方が大きかった気がする。 まぁ、『沢行き山行』という事で、カメラは持って来ていなかったから、どんな絶景だったかは全く記憶にないのだが・・。

ハト峰の峠を越えると、国境稜線上の広々とした道を緩やかに上下していく。 1時間ほど稜線を遊歩していくと徐々に稜線の幅が狭まり、国見岳の鞍部を踏む頃には両側が鋭く切れ落ちた“窓”地形を示すようになる。 ここから国見岳へは、ちょっとしたロッククライミングが待っていたのである。 


国見岳は結構な岩場登りだったりする
※ グーグル画像より拝借

岩の突起が下向きに鋭く迫り出した岩場を、手足をフルに使ってよじ登っていく。 下を向けば、結構な高度感があり手ごわい岩場だ。 ここで、期待通りに『オチャメ』を発動するワテ。 それも、下手すりゃ『救助ヘリ』を呼ばれかねんような”グレードの高い”『ビッグ・オチャメ』である。

まぁ、『奇跡の体力』に近づきつつあるこの頃だけど、運動神経の方は元来の『クワムラハムの子』である事に変わりなく、この運痴な運動神経では「シクじって落ちる」という不安から高度感のある下を見ないようにしていた・・、つまり眼前の岩だけを見て登っていたのである。

そして、転落の恐怖から岩にノメルようにして這い上がっていたので、這い上がった弾みで頭を振り上げた瞬間、下向きに迫り出した岩に加速度をつけてぶつけてしまったのである。 上を全く見てないから、下向きに突き出した岩に激突してしまった訳である。 真に『脳天にゴン!』と直撃であった。

これは強烈に痛く、頭を抱えてのた打ち回りたくなる程に痛かったのであるが、何故かココでも『オチャメ』な目に遭遇すると途端に冷静になる・・というこのタワケの特性が発動して、岩をつかんでホールドしていた両手を離さなかったよ。 痛さに手を離して頭を抱えてしまったなら、恐らく転落してしまって下手すりゃ『額縁』だったろうし。

さすがにコレには、他の奴らも「大丈夫か!」と心配してたよ。 「とにかく、この岩場を乗りきった国見岳の上で手当てをしよう」という事で、一同に同意してそのまま登っていく。 まぁ、痛かった事は痛かったけど、興奮してたので、国見岳までの登りは何とかなったよ。

で・・、国見岳の頂上で小休止して『手当て』をする。 でも、『手当て』といっても、何の想定もせずに沢遡行をするような低レベルの部活『ワンゲロ』の連中だ。 マトモな『手当て』な訳がないのである。
そう・・、その『手当』の手法とは、「創部以来の伝統ある治療法」の『メンソレータム・ポマード止血法』である。


我が部の万能薬がコレ
ナイチンゲールさんもさぞ腹立たしかろう

これは何かというと、『ナイチンゲールの絵』のあのクリーム状の塗り薬を大量に手に取り、患部にポマードのように塗ったくって油膜を作り、それで血を止める・・という、凄ましい”荒くれ”治療法だ。
しかし、この『ワンゲロ』部・・。 これが「部の伝統の治療法」なんて、高校生の知的レベルを遥かに凌駕した低さだな。

でも、こんな無茶苦茶な手当てでも、不思議な事にいっ時の間は血が止まるのである。
そして、その結果に皆して歓声を上げるバカ者どもが、この『ワンゲロ』なのである。
さて、この『手当』を終えて、暫く休憩してから再び出発。 目指すは、国見岳の頂上からハッキリと姿を魅せるようになった盟主・御在所岳の頂だ。 それも、北東斜面にそびえる花崗岩の大岩壁・《藤内壁》が見渡せる絶好のビューポイントだ。


ロッククライミングの“メッカ” 藤内壁 
写真集『日本列島』より拝借

この景色に、皆一同に心が晴れやかとなって、この山行で最も輝いている時間帯に差し掛かる・・ハズだった。 ・・が、対向してくる登山者が一様に驚きの表情をしていたのである。 中には、指さして「アワワ・・」と驚く奴もいた。 そう・・、その驚きの視線は、全て殿(一応ケガ人なので、歩くのが多少遅くなってケツとなってたよ)を歩くワテに向けられていたのである。

それらの視線と驚きの表情に気づいて、せっかく調子出てきたのに「失礼なやっちゃな~」と不機嫌にタオルで左頬の汗をぬぐうと、タオルがドス赤色に染まったよ。 どうやら、『創部以来の伝統の治療法』は1時間と持たず破綻し、噴き出た血が左頬に汗の様に伝い出していたのである。 さすがに、この時は『オワァ~!』って叫んだよ。

そのうちに、驚く一人が「大丈夫か? キミ!」といって近寄ってきたが、これほどバツの悪い状況はなく、この時のワテの心理では「そのまま無視してアッチ行ってください」という気持ちで満たされていたよ。 もう、大阪駅のコンコースでハデに転んで、「大丈夫か?」と声をかけてくる人が悪魔に見えるその状況そのままであった。 「大丈夫です、ハイ」といって、助けを拒否して逃げるように立ち去ったのを覚えている。

前を行く奴らも「この状況では『仲間』と思われるのは得策でない」と直感的に感づいたようで、無視して黙々とスバートをかけて歩いていた。 なので、かなり早く御在所岳の頂上に着いたりして。

・・で、御在所岳の頂上に着いたが、スキー場あり~の、レストランあり~の、ロープウェイで上がってきた観光客がズック靴で徘徊している・・だのと、山の雰囲気は皆無であった。 そして、困った事にテント場がないでやんの。 仕方なしに、スキー場やリフトから離れた頂上の反対側にある展望台広場でテントを張る。


御在所岳の山頂案内図
たぶん望湖台でテント張ったと思う

こんな所にテント張ってる山ヤは誰一人おらず、往来する観光客の冷たい視線がヒシヒシと3張のテントに注がれる。 その内暮れて空も暗くなり、ついでに天候も荒れ模様となったてきて誰もいなくなり、観光客の冷たい視線からは逃れる事ができたよ。 

・・で、次回の『その3』は大団円の下山編なのだが、またもや人知を超えたレベルの『オチャメ』が炸裂するのは藪の中に・・。







 

















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No Subject * by hanagon60
頭から流血しながら登山を続けるとは若さですかねぇ。
時代が少々無茶しても許容してくれる時代であったのかもしれませんね。書かれておられるように、今の高校ではこのような山行は許してくれないでしょう。
私は今までヘルメットのおかげで二度命を助けられています。

Re: No Subject * by  風来梨
hanagon60さん、こんばんは。

恥ずかしながら、歳食った今でも転んでの花智を中心に、血を垂らしながら山を歩く事が度々ありますね。
まぁ、無茶が許されたあの頃がなければ、恐らく私のアイデンティティーは崩壊してますね。(笑)

頭を打つなど行動不能に陥る事ははなく、足へのケガも1度しかない事が幸いしておりますね。


>今の高校ではこのような山行は許してくれないでしょう。

今の高校でコレやったら、顧問の教師は教師生命を断たれますね・・、たぶん。

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No Subject

頭から流血しながら登山を続けるとは若さですかねぇ。
時代が少々無茶しても許容してくれる時代であったのかもしれませんね。書かれておられるように、今の高校ではこのような山行は許してくれないでしょう。
私は今までヘルメットのおかげで二度命を助けられています。
2020-07-18 * hanagon60 [ 編集 ]

Re: No Subject

hanagon60さん、こんばんは。

恥ずかしながら、歳食った今でも転んでの花智を中心に、血を垂らしながら山を歩く事が度々ありますね。
まぁ、無茶が許されたあの頃がなければ、恐らく私のアイデンティティーは崩壊してますね。(笑)

頭を打つなど行動不能に陥る事ははなく、足へのケガも1度しかない事が幸いしておりますね。


>今の高校ではこのような山行は許してくれないでしょう。

今の高校でコレやったら、顧問の教師は教師生命を断たれますね・・、たぶん。
2020-07-19 *  風来梨 [ 編集 ]