風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第264回  夜明島渓谷 その1

『日本百景』 秋  第264回  夜明島渓谷 その1  〔秋田県〕


秋色に囲まれて
幽谷・夜明島渓谷の秀瀑 茶釜ノ滝

   みちのくの滝めぐり みちのくのたきめぐり  
       (森吉山県立自然公園・十和田八幡平国立公園)

『みちのく』と呼ばれる所は自然の宝庫だ。 さして高い山はなく、深いV字谷を形成するような渓谷はないが、豊富な森林が清らかな水を育み、そして山奥に秀麗な瀑布を密かに掛けている。 
だが、その神秘につつまれた滝たちを目にするのは容易ではない。

なぜなら、これらの滝たちが潜む“人知れずの地”へたどり着くまでに、山へ奥深くまで分け入らねばならないからだ。 時には沢を漕ぐ事や、鎖片手に大岩のへつりなどの困難が立ちはばかるのである。

だが、厳しい道のりを乗り越えた先には、神秘のベールをまとう美しき瀑布が心を虜にしてくれる事だろう。 目的を果たす為の道のりは長く嶮しいが、その先にある感動を求めて行ってみよう。
もちろん、装備や知識・体力などの準備を万端にして・・である。




夜明島渓谷 ルート詳細図

    行程表             駐車場・トイレ・山小屋情報
鹿角市街より車(0:50)→夜明島渓谷入口(0:15)→泊滝(1:30)→クグリ滝
(0:40)→茶釜ノ滝分岐
※ 分岐より左の本流沢を行くと雲上ノ滝、右の支沢を行くと茶釜ノ滝 いずれも所要20分
茶釜ノ滝分岐(2:10)→泊滝(0:15)→夜明島渓谷入口より車(0:50)→鹿角市街
〔鹿角市街より盛岡市内へ約100km・車で所要2:30,秋田市内へ約125km・車で所要3:00〕


神秘の香り漂う姿を魅せる
秋の茶釜ノ滝

『100名滝』の中でも最も訪れるのが困難な滝《茶釜ノ滝》。 最も紅葉が映え、この時期に訪れてみたい滝の№1の滝《茶釜ノ滝》。 そして、遡行の困難を物語るコミカルな伝説が伝えられる渓谷が、この《茶釜ノ滝》を擁する《夜明島渓谷》である。

その渓谷へ足を踏み入れれば、ガレ場の登りやヘツリの鎖場、オーバーハングの岩壁に架けられたハシゴの昇降、渡渉や飛沫を浴びながらの沢瀬のすぐ際の直遡行 etc・・と、変化に富んだ沢遡行が待ち受けている。

そして、訪れた季節が秋ならば、周りの樹々が赤や黄色に色着き、沢の岩瀬に落葉が絵模様のように貼り付いて目を楽しませてくれる。 そして、秋に訪れる事の真骨頂が、困難な遡行の末に魅せられる赤く黄色く色着く錦絵巻のような滝姿だろう。 周囲の紅葉と瀑布の白布、日の光を浴びて金や銀に輝く滝飛沫・・が合わさって、何とも言えない素晴らしい情景を魅せてくれるだろう。


錦絵巻の衣を纏い

この美しき情景は、「失敗したら消す=進歩の芽を自らで潰す」「気に入らなければデータを書き換える=虚実のモノに造り換える」などという、所有者に写真撮りとして最も醜い行為に走らせるような陳腐で下らぬ虚実画像製造機などではなく、『本物の情景』として原版の保持が適うフイルムカメラで撮りたいものだ。


光を浴びて輝く素晴らしい情景は
“本物”以外に表現の任は任せられない

『本物の情景』を撮って自らの心のライブラリーに刻む感動は、秋の最も美しいこの時期にこの地を訪れて自らで足跡を残す喜びは・・、何にも代え難い人生の深き体験となる。 
少し感情が入って脱線したが、自らで最高の情景を味わい、そしてその思い出を『形あるもの』として残しに出かけようと思う。

さて、東北の秋は、本州に増して時期が読み辛い。 特に秋田の内陸部であるこの《夜明島渓谷》は放射冷却の効果が強く、里よりも秋の訪れが早く、そして短いのである。 秋の最盛期であっても、ちょっと冷たい雨が降ると霜や霧雪となって凍結し、すぐに落葉してしまうのだ。


早すぎたら
紅葉が少々くすんで

もし、落葉した後なら落ち葉が岩に乗り、それが滑って足元を危うくし遡行をいっそう困難にさせるのだ。 これは、秋の時期を読み違えて完全に落葉し終えた時に遡行して、嫌という程に足元が滑って怖い思いをした自らの遡行体験に基づくものである。


遅いと岩肌の樹木は
落葉を終えて坊主となる

また、落ち葉が積もった土手の踏跡は、雨が降ると土床も積もった落ち葉ごと押し流されてえぐり取られ、更にか細くなるのである。 時系列で言うと、夏に入渓者によって踏み固められた土床がこの季節に落ち葉の作用によって元に戻り、そして白一色の静寂の季節・冬を迎えるのである。 
即ち、秋の時期を見誤ると『坊主』という視覚的なものだけでなく、遡行の難度も跳ね上がる苦難に見舞われるのである。


時期が当れば
見事な錦絵巻を魅せてくれる

そして、秋が深まる10月の中旬ともなると日が昇る時間も遅く、早朝からの活動も難しい。 
さりとて、遡行の出発を悠長に構えていては、滝前の滞在時間を含めて往復で6~7時間という時間を設ける事ができなくなる。 それに加えて沢遡行としては難度は初級であるが、やはり沢の徒渉や鎖・ハシゴのあるルートである。 慌てたり、急いたりすると、決まって転倒・滑落・転落・落水などの事故を引き起こしかねないのである。

また、難路で秋という事で訪れる人も疎らである。 私は秋に数回この地を訪れたが、いずれも他の入渓者と合う事はなかったのである。 即ち、怪我や遡行困難の事態に陥っても助けはないのである。
この事から、秋に入渓する・・という事の難しさを端的に理解して頂ければ・・と思う。


時期が遅すぎると全てが枯れ落ち
それが岩瀬に貼りついて滑りやすく危険だ

これらの事を踏まえると、やはりこの渓谷の周囲の町で一夜を過ごし、そして短時間で入渓口にたどり着けるようにするのがベストだろう。 こうすれば悪天候の時などはアプローチを見合わせて踏みとどまる事ができるし、前日に渓谷遡行のタイムスケジュールなどのシュミレートも適うのである。
もちろん、遡行の下準備も・・である。

そこで、そのような事が適う・・となると、『道の駅』などでの車寝であろう。 
幸い、鹿角市街には『道の駅・かづの』という所があり、近くにコンビニや飲食店が数件あって、下準備の為の『アイテム』は全てそろっているのである。 これを使わぬ手はないだろう。


時期が合うと燃えるような赤や
橙色を魅せてくれる

前置きが長かったが、行程ガイドを始めよう。 夜が明けて行動できる時間は、夏で5時、秋で6時だろうか。 前述でも記した通り、渓谷での往復の所要時間を考えると遅くの入渓はお勧めできない。
なぜなら、朝早くの方が天候の見極めが容易だからだ。 今回のルートは、初級の沢とは言え鎖場や徒渉が存在するコースだ。 朝の天気次第で見送りの判断を下さねばならない事もある。

遅くの入渓だと時間に余裕がなく、得てして小雨交じりでも入渓しかねない愚行を犯しやすくなる。
また、午後は得てして天候が崩れる事もあるのだ。 事故や怪我を防ぐ為にも、自然を相手にするには心に余裕を持つべきだろう。 夏で5時、秋で6時には始動して、入渓開始は夏で6時半、秋で7時過ぎ位までにしたいものだ。

鹿角市街から国道282号を《八幡平》へ進み、市街の外れから分岐する県道191号を南下し、《長牛》という集落の所で右折して《夜明島林道》に入っていくといい。 文では簡単に記す事ができるが、この道はかなり見つけ辛く、またカーナビでも《夜明島林道》は存在しないので、初めて向かう方は道に迷ってしまうかもしれない。

道に迷えば、とにかく『県道191号』を見つける事である。 『県道191号』を見つけると、次に《長牛》の表示を見つけるといい。 林道に入ると、所々に『泊滝へ××km』との距離案内の標柱がある。
舗装道を約10km、そして林道のダート道を13km奥につめると、『秋田30景・夜明島渓谷』と記された大きな案内看板のある入渓口に着く。


夜明島林道は気象災害があると
簡単に崩壊する悪路だ

ここまで、車で小一時間って所だろう。 大きな看板の立つ入渓口は車3台ほど駐車できるスペースがあり、道もここまではダートながらも安定しているようだ(但し、台風などが通過した後は道床が流されるなど大荒れになる)。 コレより先は《太平湖》方面につながっているが、ほとんど通行がなく全く整備されていない。 安易にこの道を通ってレンタカーがドロドロとなり、心が縮む思いをした筆者が言うので本当である。

さて、渓谷遡行の準備をするがてら、大きな看板に描かれた図と看板の内容を見てみよう。 
図を見て、ある程度の滝の位置取りは憶えていった方がいいだろう。 ナンチャッテで向かって、道を違えて二度の訪問を余儀なくされ、それ故に秋の魅力に心を奪われた筆者が言うので本当の事だ(つまり作者は、最初に道を間違えて茶釜ノ滝に到達できず、再訪した時は図らずも秋色満開でその情景の虜になってしまったのだった)。


変な伝説の紹介と共に
軽く『急峻区間』に対する
“脅し”が入っていますね

また、案内図には《夜明島渓谷》の名の由来となる訳の判らぬコミカルな伝説(何でも、天狗がこの渓谷に吊橋を架けようとしたが、巨石や嶮しい峡谷に作業が捗らず、夜明けを迎えて虚しく立ち去った・・との事)が記されている。

そして、その続きに行程表が記されていて、ややオーバー目に入渓の危険性を警告しているが、実際には膝下程度の沢遡行で、これほど気をまわさなくてもいいレベルの渓谷である。 但し、好天時の事ではあるが・・。


これよりこういう所に入るので
秋ともなると”最初の1発目”は厳しい

徒渉靴に履き替えて、(秋ならば・・)気合を入れて出発。 なぜ気合が必要か・・というと、沢への入足一発目は、それはもう冷たいからである。 慣れれば心地良くなってくるが、一発目だけは背筋がピンと張り詰める程に冷たい。 ここは出発直後の十分跨ぐ事のできる枝沢で“一発目”を体験し、本番の沢までに慣れておくのも一手だろう。


沢の水の冷たさに慣れるべく
“一発目”はさっさと済ませておこう

秋ならば枯葉に埋もれる踏跡が続き、それが途切れると沢にぶつかって徒渉する・・というのが2回程続くと、左岸(進行方向右側)の軽くへつった踏跡に出る。 何でもない所だがロープが張ってあって、この先に見える《泊滝》までは、未装備者でも何とか探勝できるように配慮されている。

このヘツリを抜けると、近年の気象災害からか・・大きな流木が横たわって岩石と共に埋まっている沢ガレ地帯の上に、落差30m程の直瀑の豪壮な水量の滝が見えてくる。 《泊滝》だ。


2007年夏の泊滝
滝前がテラスとなっていた

以前(2~3年前)はこれほどの流木はなく、切り株で造ったベンチもおいてあるなど憩いのスペースだったが、今(’10年)は流木の堆積で憩いのスペースは埋められて薄暗い幽谷の装いを成している。


2010年秋の泊滝
気象被害により周囲は荒れていた

入渓口の看板でもこの《泊滝》までは一般の解放区との事で、『泊滝までの1.5kmは普通区間でコレより先が急峻区間』とある。 だが、この《泊滝》まではどう見ても500m位しかなく、この点でも大げさな看板である。 それはともかく、これよりは看板通りの急峻区間となる。
まずは、この《泊滝》の大高巻き越えである。 

滝の左岸(進行方向右手)のガレにロープが垂れ下がっており、これをつかみながら岩ガレを急登する。 ロープは始めの10m位で、これをよじ登るとジグザクを切ったガレ坂の急登となる。
これで左岸の屏風のような大岩崖に取り付き、ヘツるように斜めに登っていく。

だが、この岩崖のヘツリは一枚岩系のツルツルと滑るスラブ岩で、ロープは付いているが、下に《泊滝》が滔々と落ちる様を見やる中の高度感ある登りだ。 いや、登りよりも下りとなる帰りで、「最後の緊張する場面」となる事だろう。

下流側のハシゴは古く華奢で
オーバーハングのオマケ付

これを登りつめると《泊滝》の頭上50m程の高さのヘツリとなり、細いヘツリを針金とロープを手繰りながら滝の落ち口へ周り込む。 滝の落ち口が見える頃から急下降となり、ロープ片手に滝の上流20mほどの所の崖上に立つ。 ここから、この崖をオーバーハングとなったハシゴで30m下降する。

だが、このハシゴは古く、踏み代も細く、なおかつオーバーハングに迫り出した岩盤に張り付くように“くの字型”に取り付けられているので、高度感を感じるハシゴ下降となる。 これを降りると、《泊滝》のすぐ上部のトヨ状の沢を徒渉して対岸に架かるハシゴを登っていくが、この徒渉では決して滑らぬように。


ハシゴを下りるとこの沢瀬を徒渉する
やや水深深く、また流されると
すぐ側が泊滝なので危険

滑って流されると、20m先は《泊滝》で文字通り『ジ・エンド』となる。 沢を渡った対岸のハシゴは新しいモノに付け換えられたのか、しっかりして昇り良い。 2段のハシゴで30m程昇ると、右岸の岩崖をヘツるようにトラバースしていく。


なぜか・・上流側は
ハシゴが取り換えられている

この岩崖は真下が沢瀬で高度感があり、ロープやアングルが設置されている難所だ。 しかし、『百名滝』として名が知れ渡るようになってから足元の欲しい所に『足置き用』のアングルが打ち込まれるなど、初心者でも容易に通過できるように手配されている。 この難所をトラバースし終えると、斜めに降下して沢に降り着く。

明るい様相の夜明島渓谷の中で
唯一幽谷の趣を魅せる虎ノ尾滝

沢を渡って左岸に垂れ下がるロープをつかんでガレ場を登っていくが、こちらはガチャガチャしているだけで、登りに関してはロープは必要ないレベルだ。 
これを登って左岸(進行方向右側)の土手の踏跡を伝っていく。 しばらく伝うと沢は函状を成してきて、その中央を落差10m程の《虎ノ尾滝》が落ちている。 この滝は函状になった中にあり、明るい印象の滝が多い《夜明島渓谷》の中では幽谷の趣を示す滝である。

《虎ノ尾滝》を越えると再び土手の上の踏跡を通る。 途中《夫婦滝》で沢の辺に出て、滝のすぐ側にあるロープでよじ登ったりするが、概ねルートは左岸の土手の草付きの中にある。 土手上の草付きは通常ならさして問題のない所だが、秋も終期に近づいて落葉が道を埋めるようになると、道床が落葉と共に流されて痩せ細り、しかもヌルヌルと滑ってかなり厄介になる。

その上で、この土手の踏跡は沢から30~40mの高台につけられているので、滑ると途端に転げ落ちて『ジ・エンド』となる。 また、削られて痩せ細った踏跡は沢側に傾斜を生じて、そこを歩行する自体が恐怖に感じる事だろう。 これは、筆者が味わった体験なので、他山の石として留めて頂ければ・・と思う。


沢が直角に曲がって
クグリ滝を滑らせている

「《泊滝》から50分弱歩いたか」と思える頃に、沢が直角に曲がって滑り落ちる《クグリ滝》が見えてくる。 ルートは、ここから《胎内クグリ》と呼ばれる滝を形成する岩をくぐって《クグリ滝》の上部へ抜けていく。


逆光に光る紅葉に
魅せられながらの楽しい沢歩き

この上部に抜けると、明るく開けた沢の河原歩きとなる。 河原は広く、流木が積み重なって通路を塞ぐなど、開けている割には歩き辛い。


周囲は目を見張るような
素晴らしい情景が広がっていた

だが、秋の最盛期ならば周囲の樹々が彩られ、また沢がキラキラと日の光を浴びて輝く素晴らしい情景を目にする事ができるだろう。 こんな素晴らしい情景を魅せられると、ついついカメラを取り出してしまって思ったより時間がかかる。


所々で流木で埋まる河原を抜けると
白糸ノ滝が現れる

約40分ほど沢歩きすると、落水を帯の紋様に流す斜滝《白糸ノ滝》を右岸に見やる。
この滝を越えると沢は狭く急峻となっていくので、ここら辺りでひと息着くのもいいだろう。

《白糸ノ滝》を越えると両岸の岩盤が狭まって、瀬滝を連続で落とすトヨ状の沢となる。
その右岸はスラブの滑りやすい一枚岩が連なり、その上をアングルとロープを使って連続的に伝っていく。


白糸ノ滝を過ぎると
沢はトヨ状となり斜瀑が連続する

このトラバースはロープや鎖が設置され、欲しい所に『足置き』のアングルも打ち込まれているなど難所としては初歩的なレベルではあるが、落葉期に入って落葉の堆積があると更に滑りやすくなるので注意が必要だ。 また側に急流の瀬滝がある為、落葉で足元が滑ると肝を冷やす事になろう。


濡れて岩に張り付いた落ち葉は
踏むと滑りだすので厄介だ

連続的に4~5回の一枚岩のトラバースを終えると、沢の合流点に出る。 ここが、《夜明島渓谷》の二大瀑布への分岐である。 左の本流沢へ行くと《雲上ノ滝》で、右の支流沢へ入ると『百名滝』の《茶釜ノ滝》だ。 いずれも、この分岐から20分程である。 


夏にこの矢印を見逃した筆者は
秋にお得な思いをしましたが
秋に見落とすと来年まで
待たねばなりませんのでご注意を

なお、沢に転がる岩には《茶釜ノ滝》へ誘導すべく右の支流沢へ赤ペンキの矢印が打ってあるので見落とさぬように・・(先にも記したように、これを見落とした筆者は《茶釜ノ滝》を見る事が適わず再訪を余儀なくされ、再訪した秋に素晴らしい情景に魅せられるという『お得』を味わったのであった)。
それでは、本流沢の《雲上ノ滝》から探勝してみよう。

  ・・続きは、次回『第265回 夜明島渓谷 その2』にて

    ※ 詳細は、メインサイトの『夜明島渓谷』を御覧下さい。




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