風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

TOP >  名峰次選 一覧 >  名峰次選・中部山岳 >  名峰次選の山々 第19回  毛勝山

名峰次選の山々 第19回  毛勝山

名峰次選の山々 第19回  『149 毛勝山』  富山県 
毛勝山系(中部山岳国立公園) 2414m コース難度 ★★★★★  体力度 ★★★★
 

暮空に茫洋とたたずむ毛勝山
 
   《メインサイトより抜粋》
『槍・穂高』、『剱・立山』・『後立山』を擁し、多くの登山者で賑わう北アルプスにも、玄人向けの“未開の山”があるのを御存知であろうか。 それが、今回取り上げる毛勝山 2414メートル である。 

この山の頂を踏むには、ルート設定が何もない《毛勝谷》の万年雪渓をつめていくしか手がない。 
しかも、頂上付近の雪渓は傾斜度50°となり、一般登山者にはかなり危険な内容となっている。 
それでも、頂を踏んでみたい。 その心が恐怖心より大きくなったなら、きっとそれは困難を克服する力となろう。 “山好き”の“山好き”たる心を持って、この頂にチャレンジしてみよう。
 

今回御紹介する山は
とっても危険です
 
   行程表              駐車場・トイレ・山小屋情報
魚津市街より車(0:40)→片貝山荘(0:40)→阿部木谷・車止め(1:00)→大明神沢出合
(0:50)→1600m二股(2:00)→毛勝山(2:00)→北西尾根・毛勝谷雪渓展望所 
(2:00)→1479.1m三角点(2:00)→阿部本谷林道分岐(0:20)→片貝山荘より車
(0:40)→魚津市街
 

湾曲に稜線を延ばす毛勝山
 
さて、今回はこの『日本百景』で取り上げた情景の中で、目的地までの難度が1~2を争う景勝を御紹介しよう。 この毛勝山の登高ルートは《毛勝谷》の万年雪渓を伝っていくのだが、この雪渓の頂上直下の傾斜度は何と50°と、かなりの恐怖感を伴うのだ。 少しでも気を抜けば・・、少しでも滑れば滑落事故は確実の所である。
 

最大傾斜度50°の毛勝谷雪渓
 
その事を踏まえて、確実な準備と確実な基礎訓練・確実な情報収集、そして正確に自分自身の力を把握してからこの難関に挑んで頂きたい。 準備無き者には、山は容赦なく襲いかかる。 だが、その困難に打ち勝つ術を持つ者が挑んだならば、山は最高の贈り物を目と心に届けてくれる事だろう。 それでは、この難関を克服した者のみが望めるという景色を眺めにいこう。
 
まず、この山に挑むにあたって、全ては“山のセオリー”に忠実に従うという事である。 整備の行き届いた山ならば、多少セオリーを外しても何とかなるだろうし、困難より逃げる事も可能であろう。
だが、ここは違う。 1つのミス、“滑った”“転んだ”というものが、命をも落とす大事故につながりかねないのだ。 従って、“山のセオリー”を守れない、又は守らなくてもいいとお考えの方は、この項目は見ないで飛ばして頂きたい。
 

旧北電発電所宿舎で
快適な山荘の片貝山荘
 
そのセオリーの1つ目は、前日アプローチの早朝早出である。 有り難いことに、登山口近くにある《北陸電力・第5発電所》には旧北電宿舎の《片貝山荘》があって、布団・TV付で快適に宿泊できる。
これを利用しない手はない。 前日はできるだけ早めに入って、登山口までの下見位は済ませておく位が望ましいであろう。 それでは、以上の事を踏まえて出発しよう。 

山荘前は車の駐車スペースがほとんどない。 従って、《阿部木谷》の車止めまでは車で向かった方がいいかもしれない。 《阿部木谷》の砂防ダム建設現場には広い駐車スペースがあって、現場作業の邪魔にならぬ所に車を止めて出発だ。 
 
“登山口”といっても道標・指標リボンなどは一切なく、《阿部木谷》の左岸堰堤沿いに林道跡と思われる踏跡を伝っていくだけだ。 歩き始めの林道跡はジグザグも切っていて石垣も見られそれらしいが、すぐにその形跡は消えてなくなる。 林道の形跡が消えた頃に雪が出てきて、やがて右手より雪渓が谷に合流する地点に出る。 

ルートはこの合流地点から河原の方へ一度下るのだが、その下り口が不明瞭で、また右手よりの雪渓も大きくかなり急で、予備知識がなければこれを本谷の雪渓と勘違いして登りかねないので気をつけよう。
堰堤の最上部までつめると河原までも雪が乗ってきて、やがて沢が右へ90°曲がる辺りから本格的な雪渓となる。 

ここは《板菱》と呼ばれ、両側の崖が切り立ち谷幅がかなり狭まっている。 この《板菱》の情景を覚えておけば、道に迷う事はないだろう。 雪渓は上の掲載写真のように上部まで広大な雪渓が残り、その上には毛勝山の稜線が朝日を浴びて輝いている。 
これからの困難を覆い隠すような明るい情景だ。 

 始めは明るく緩やかな
雪渓が広がっていた
大明神沢雪渓

さて、ここで雪渓の雪で顔を叩き、気合を入れてアイゼンを装着しよう。 当然の事とお解かりであろうとは思うが、アイゼンは前爪付の10本爪以上のものを用意したい。 そして利き手には、必ず先の尖った“突き刺す事ができる”ピッケルを所持している事と思う。 厳しい言い方かもしれないが、これらのことの準備想定ができない方もこの項目は飛ばして頂きたい。 

アイゼンはしっかりと装着しよう。 傾斜が緩い今ならば装着のし直しもできるが、頂上直下の急傾斜ではアイゼンの脱落が命取りとなりかねないからだ。 
従って、装着の練習は事前にしておくべきであろう。 
 “山のセオリー”、それは山で当たり前の事をするだけなのだが、いざとなると難しいものである。

《阿部木谷》の雪渓は《大明神沢》と呼び名を変え、緩やかな傾斜で伝っていく。 やがて、上から延びる左右2つの雪渓が段となった広い出合に着く。 《大明神沢出合》だ。 真っすぐ上に続くのが《大明神沢雪渓》、1段上の左手に延びる雪渓がこれよりつめていく《毛勝谷雪渓》だ。 ここの標高は1240m。 これより雪渓を1200mも登るのだ。 

アタック!
傾斜度50°に挑む

この《毛勝谷雪渓》、《1600m二股》という左右に雪渓が分かれる所までは心穏やかに登高できるが、ここより高低差800mが猛烈な傾斜となる。 《1600m二股》で左手の沢に入り登高していくが、登高する毎に傾斜が増していき、もう一つ雪渓を左手に見る頃には三角定規でいう長辺(60°角の辺)の角そのままの傾斜を登っているように感じられる事だろう。 

ここで禁物なのが下を見る事と、座り休憩だ。 もはや、「50歩進めば休憩」を余儀なくさせられるが、腰が痛かろうと何だろうと腰を下ろす事は滑落へとつながるのはお解かりの事と思う。 
傾斜は更に急となり、最後のつめでは傾斜度は50°を越えるという噂も聞く。こういう場所では風に飛ばされ転がる雪球も恐怖の対象となるのだ。 なぜなら、少しのアクシデントが、滑落につながりかねないからである。 

ジグザクを切っていくよりも真っすぐ行く方が距離が短く危険度が少ない為だろうか、もはやジグザグを切ることもなく50°の傾斜をつめていくと、丸い丘となってハイマツで塞き止められている雪渓最上部へ登り着く。
 

頂上から毛勝谷雪渓を見下ろす
 
この時の達成感は、言葉では表せない熱いものがある。 ハイマツの中に切られた通路に分け入ると、毛勝山稜線の西面に出て視界がバッと広がる。 まずは、ハイマツに沿って転がる露岩に“ヘタリ”込もう。
あれだけの緊張をしたのである。 これ位は許されるだろう。 

十分に“ヘタリ”込んで落ち着きを取り戻したなら、広い緩やかな稜線を10分伝って毛勝山 2414メートルの頂上へ。 さすがにあれだけの事を克服すると、頂上に着いた時の感慨は深く大きい。 
頂上からの眺めは、素晴らしくも戸惑う眺めが広がる。 
 

困難を越えた者だけが立てる
毛勝山の山頂

まず、剱岳が左手に《八ッ峰》を連ねる“不思議な姿”でそびえ立っている。 普段、《八ッ峰》は右手に延びているのを目にしているので、この鏡で映したような情景には戸惑いを覚える事だろう。
だが、当然である。 初めて、剱岳を北東側から眺めたのだから。
 

困難を越えての感慨深い眺め
 

白馬三山も美しく
 

 八ッ峰が左手に延びる
不可思議な情景
 
また後立山連峰も頂上の雪田の果てにそびえ立ち感慨深い。 ひととき、下りの事を忘れて、思うがまま頂上の情景を楽しむとしよう。 さて、下りであるが、本来ならば往路を下るのであるが、ワテはこれより述べる2つの理由から未開の尾根筋を下る事にした。 その尾根筋とは、《毛勝谷雪渓》の右岸に沿う《北西尾根》の下降である。
 
その2つの理由とは、あの雪渓の下りはかなりの困難を伴うが為の危険回避と、もう1つは展望を楽しみながら下っていきたい・・という事からである。 但し、この《北西尾根》とて、頂上直下は40°の傾斜であるので念の為。 それでは、下っていこう。

この《北西尾根》はなかり長大で、下りでも6~7時間かかってしまうので、カンテラの用意は必要だろう。 さて、困難はいきなりやってくる。 先程に予告した通り、頂上直下の傾斜40°の雪原下りである。
最近、こちらから2日がかり(このルートを登りで使うとなると、1日では無理であろう)で毛勝山を極める登山者もいるので、踏跡は一応ついている。 だが、ここは雪原なので雪は深く、足を取られて滑り落ちる危険が高いので気をつけよう
 

この北西尾根も
半端でない傾斜だ
 
そして、“いざ”という事も想定しておく事である。 これは筆者の体験談に基づくものであるが、筆者は御多分にもれずここで滑落をしている。 だが、“いざ”という時の対応で、まだしぶとく!?無傷で生き残る事ができたのである。 滑落自体は20m程であるが、滑り落ちた時の落ち着いた対応が運命を分けたと今でも思っている。 

ピッケルを思いっきり雪面に刺して体全体で押さえ込むのだが、滑り落ち始めにパニックとなると、瞬時にこれができずに谷底まで一直線に落ちてしまうのだ。 加速度がついたら、もう終わりなのである。
そういう訳では、何度も滑落している経験(恥なる経験だが)が生きたのである。 “経験は成功の母”というが、恥な経験であっても次につながればまた重宝と考えるのは、ワテが能天気だからであろうか。
まぁ、滑落しない事が最もいい事なのであるが。 
 

山懐に突っ込んで
いくような下山道

話は横道にそれたが、この頂上直下の下りを終えると傾斜は35°位と安定してくる。 だが、この35°の傾斜が延々と続くのだ。 このキツい傾斜が一段落するようになると、右手に《毛勝谷雪渓》の全容が見えてくるだろう。

見下ろす《毛勝谷雪渓》には、この難関に挑む登山者がゴマ粒のように見える。 それにしても、すざましい傾斜である。 また、見上げると、《北西尾根》の(先程滑り落ちた)斜面が見渡せて感慨深い!?
ここは手持ち望遠で、思いのままに切り取ろう。
 

毛勝山全景
中央が傾斜50°の毛勝谷雪渓 
 
この場所で望遠には三脚が・・とかいう御仁も、この山は諦めて頂きたい。 これらのコースを三脚を持って登る事の無謀さを判らないようでは、山岳写真自体を自粛して頂いた方がいいかもしれない。
“2㎏の三脚を担ぐ位なら、2㍑の水”。 これも“山のセオリー”の1つだとワテは思う。 

後は、右手が切れ落ちた雪原の尾根を伝っていくと《1479m三角点》の辺りで尾根より離れ、《毛勝谷》側の樹林帯の中に潜り込んでいく。 これより、延々と樹林帯の中を彷徨うが如く下っていく。 
精神的にも疲れているはずなので、早足での下山は無理であろう。
 
樹林帯を縫うルートはまだ登山道として確立されておらず、ブッシュや倒木でかなり荒れているのである。 慌てて転ぶよりは、カンテラをかざしてでも確実に下っていこう。 やがて、《阿部木谷》へ通ずる林道のちょうど中間点辺りに、飛び出るが如く下り着く。 たぶん、もう日は暮れているはずだ。
こうなれば慌てて帰る事もない。
 
今夜は《片貝山荘》に戻って、ひと晩グッスリと眠って翌朝車を回収して戻る方が得策だろう。
今夜はTVでも見ながら、次々と思い浮かぶ山の体験談をまとめたいと思う。 


あの場所から見た
あの景色を今も忘れない

   ※ 詳細はメインサイトより『毛勝山』を御覧下さい。
 






関連記事
スポンサーサイト



コメント






管理者にだけ表示を許可