2016-09-25 (Sun)✎
『日本百景』 秋 第258回 鳥甲山 〔長野県〕
麓の秋山郷より望む
白嵓から鳥甲山の稜線
鳥甲山 とりかぶとやま (上信越高原国立公園)
天明の大飢饉での“飢餓の里”として知られている《秋山郷》を挟んで、名峰が対峙しているのを御存知であろうか。 1つは山上に大湿原を抱き、女性的なまろやかさと艶かしさを魅せる苗場山 2145メートル である。
天明の大飢饉での“飢餓の里”として知られている《秋山郷》を挟んで、名峰が対峙しているのを御存知であろうか。 1つは山上に大湿原を抱き、女性的なまろやかさと艶かしさを魅せる苗場山 2145メートル である。
もう一つは、標高差500mにも及ぶ直立大岩盤を従え、稜線を鋸歯のように光らせる峻峰・鳥甲山 2038メートル だ。 この山々がおりなす対象の妙は、麓の里から見上げても真に絵になる情景だ。
その絵姿を魅せる二つの峰に、その絵姿を魅せられた《秋山郷》の里より登ってみよう。
・・感動する情景を見つけ、その感動を得た地点を起点として、目指す頂でまた新たなる感動を得る。
これは、『日本百景』創作の基本概念をそのまま言葉に表したものである。 今回も、この基本概念に沿って、思う存分“山”を楽しんでみよう。
その絵姿を魅せる二つの峰に、その絵姿を魅せられた《秋山郷》の里より登ってみよう。
・・感動する情景を見つけ、その感動を得た地点を起点として、目指す頂でまた新たなる感動を得る。
これは、『日本百景』創作の基本概念をそのまま言葉に表したものである。 今回も、この基本概念に沿って、思う存分“山”を楽しんでみよう。
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
津南町市街より車(1:15)→鳥甲山・秋山林道登山口(2:30)→白嵓ノ頭
(1:10)→鳥甲山(0:40)→赤嵓ノ頭(0:40)→赤嵓ノ肩(1:30)→屋敷温泉
(1:30)→鳥甲山・秋山林道登山口より車(1:15)→津南町市街
この項目では、雄々しきバットレスを抱く男性的な山として、まろみを帯びて女性的な苗場山と対峙する鳥甲山へ登ってみよう。 さて、この山を登るにあたって最も悩むのが、アプローチの手段である。
鳥甲山も苗場山同様に信州の奥まった所に位置し、鉄道や主要国道が通っている《津南町》市街より登山の起点となる《切明温泉》までは、1日4本のバスが通うのみである。 また、このバス便は生活路線であり、とても登山目的のアプローチ手段としては使えそうもない。
鳥甲山も苗場山同様に信州の奥まった所に位置し、鉄道や主要国道が通っている《津南町》市街より登山の起点となる《切明温泉》までは、1日4本のバスが通うのみである。 また、このバス便は生活路線であり、とても登山目的のアプローチ手段としては使えそうもない。
従って、下山後に車の回収という不利な点はあるものの、マイカー利用のアプローチとしたのであるが・・。 もちろん、前日のアプローチは絶対条件である。 そしてこのコースは、日帰り行程といえども《カミソリ刃》の通過など、ナイフリッジに尖った岩峰の難所を越えていかねばならない。
それでは、奥信州の隠れた名峰に登ってみよう。
立ちはばかる白嵓の大岩壁
鳥甲山に沿って流れる《中津川》には、《屋敷》と《切明》の二集落のみにしか橋が架けられていない。 従って、登山口へは、これらのいずれかの集落より大回りせねばならない。 《切明》の橋から登山口まで約3km。 これだけ悪条件がそろえば登山者には敬遠されがちになり、静かな山旅が期待できるだろう。 登山口では、朝日を浴びた《白嵓》のバットレスが迫力いっぱいに魅せつけてくれる。
今日は、その上を目指して登っていく。
登山道に入ると、樹林帯の中を足がつりそうな位の急坂が待ち受けている。 これを約30分登ると、最初にして最後の水場が現れる。 ここでは、絶対に水の補給をしておかねばならない。 水場を過ぎてもなおかつ、それにも増して急な坂道が続いていく。 この急坂は、樹林帯を抜けて稜線の分岐である《万仏岩》まで続いている。
秋山郷の集落が下方に見える程に登ると
朝日を浴びて赤嵓がちょっと輝き出した
この《万仏岩》は標高1550m。 実に600m近く登っているのである。 ここまで登ると、ようやく《白嵓》と《赤嵓》のおりなす巨大なバットレスを望む事ができる。 また、周囲も信越国境の遠き山々が姿を現して、味わい深い山岳美を魅せている。
信越国境の秘峰が
味わい深い眺めを魅せてくれる
もう一つの盟主・苗場山も
朝日の斜光を背に姿を魅せ始めた
あの奥の山は最近まで
未開峰だった佐武流山かな
さて、コースの本番はここより始まる。 《万仏岩》と《布岩》のか細い岩峰を経て《白嵓》に登っていくのだが、この岩稜の通過にはハシゴあり・鎖場あり・・の岩登りを強いられるのだ。
特にハシゴは岩より垂れ下がる不安定なもので、かなり登り辛いのである。 これを登りきれば《白嵓》に取り付いて、樹林が押し迫る中を急登で登っていく。 この登りとて、標高差にして400mとなかなかのオーダーである。
白嵓の登りは
標高差400mの崖上りだ
登っていく内に樹林帯層が潅木に変わり、そしてササに変わると、ひょっこりと《白嵓ノ頭》という道標が現れる。 あの《万仏岩》から遙か見上げる高みにあった《白嵓》 1944メートル の頂上である。
だが、頂上はクマザサに覆われて展望が利かず、いささか期待はずれである。
《白嵓》からは、鳥甲山との鞍部まで200m程大きく下降して吊尾根に渡り、《カミソリ刃》の岩稜に取り付く。 ここが最大の難所だ。 《カミソリ刃》通過のルートには、稜線を忠実に行くものと下を巻くものとあるが、前者はナイフリッジを馬乗りになって這うなどかなりの難所である。
自信のない方は、比較的楽な下を巻く(これとて、《白嵓》を真下に見ながらの50mのトラバースがある)方がいいだろう。
これを乗りきると、《屋敷温泉》からの道を併せてほんの一投足で鳥甲山の頂上だ。 頂上からは広大な台地状を頂上部に示す苗場山 2145メートル や、信越国境最奥の山・佐武流山 2192メートル などが見渡せるが、周りの潅木林が邪魔で今イチ冴えない眺めである。
これを乗りきると、《屋敷温泉》からの道を併せてほんの一投足で鳥甲山の頂上だ。 頂上からは広大な台地状を頂上部に示す苗場山 2145メートル や、信越国境最奥の山・佐武流山 2192メートル などが見渡せるが、周りの潅木林が邪魔で今イチ冴えない眺めである。
苦労した割には
展望は今イチの鳥甲山山頂
だが、心配はいらない。 これより《赤嵓》にかけての稜線はすごぶる展望が良く、しかもお花畑の群落が点在するこのコースの“メインイベント”であるからだ。 それでは、“メインイベント”に向けて下っていこう。
これより赤嵓バットレスの
真上を伝っていく
先程の頂上直下の分岐で《赤嵓》の方向へ進路を取る。 ここから、木の根がはびこる歩き辛い傾斜を急下降していく。 周りは樹木で囲まれているのだが、そのすぐ先は崖となっているので、両側へのハデな転倒は即転落につながるので注意したい。
色濃いリンドウは
秋山郷の飢餓の悲劇をもの語り
やがて、小さな看板が掲げられているだけで判り辛い《赤嵓ノ頭》を通過して、もうひと下り急下降すると、東面(苗場山側)が開けて《赤嵓》のバットレスの真上を伝うようになる。
赤嵓バットレスより
遥か下にある秋山郷を見下ろして
見下ろすとほぼ垂直に《赤嵓》バットレスが切れ落ち、右手にはその名の通り白いバットレスを抱く《白嵓》が、これまたほぼ垂直に《中津川》へ向けて切れ落ちている。
山峡を蛇行する中津川
《中津川》は大蛇の如くうねりを魅せ、その蛇行のそばには《秋山郷》の集落が“崖から落ちまい”と寄り添って点在しているのが見渡せる。 もちろん、頂上が広大な台地状を示す苗場山は、いの一番に目に飛び込んでくるだろう。 そして、花もこのきわどい崖っぷちに沿って咲き競ってくる。
山稜はもう・・秋の花盛り
ミヤマダイコンソウ
秋の花の代名詞
マツムシソウ
夏の花と違って
もの寂しげな気配を漂わせて
マツムシソウ・シモツケソウ・ミヤマダイコンソウ・ミヤマアズマギク・・など、彩り鮮やかな花が崖の際を染めていく。 しかし、崖っぷちなので、マクロレンズで近寄る訳にはいかない。
ここは、望遠レンズで引き寄せて狙うといいだろう。 この絶景とお花畑は、《赤嵓ノ肩》の前で樹林帯に突入するまで続く。
赤嵓の崩壊地が
荒々しい爪痕を魅せる
《赤嵓ノ肩》の前で木の根をつかんでの大下降をこなすと、《赤嵓ノ肩》の道標が現れる。
ここから樹林帯の中を一直線に斜降していく。
急傾斜を下っていくと
あれだけ下にあった秋山郷が
少しづつ近づいてきた
この急傾斜もすざましく、膝がガクガクと震え足首はコキコキと悲鳴を上げるだろう。 慌てて駆け出して、足を取られないよう注意願いたい。 これを1時間半、標高差にして650m下りきると、《秋山林道》を仕切る土手より車道へ飛び出る。
《屋敷》の集落へは、《秋山林道》の《屋敷トンネル》を抜けた所に集落への下降点がある。
本行程では、車を回収すべく《秋山林道》を約6km歩いていく。 道は舗装されているが、何の楽しみもない道だ。 もし、通行車輌がやってきたなら、ヒッチハイクを目論みたくなるだろう。
《屋敷》の集落へは、《秋山林道》の《屋敷トンネル》を抜けた所に集落への下降点がある。
本行程では、車を回収すべく《秋山林道》を約6km歩いていく。 道は舗装されているが、何の楽しみもない道だ。 もし、通行車輌がやってきたなら、ヒッチハイクを目論みたくなるだろう。
ヒッチハイクの成否にかかわらず、とにかく登山口まで歩いていこう。 車の所まで戻り着いたなら、早速に《切明温泉》にでも浸かりにいこう。
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