風来梨のブログ

このブログは、筆者であるワテの『オチャメ』な日本全国各地への探勝・訪問・体験記です。

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第431回  毛勝山 その1 (上り)

『日本百景』 春  第431回  毛勝山 その1 (上り) 〔富山県〕

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毛勝山を極めるには
最大傾斜度50°の毛勝谷雪渓を
つめるしかない

   毛勝山 けかちやま (中部山岳国立公園)
『槍・穂高』、『剱・立山』・『後立山』を擁し、多くの登山者で賑わう北アルプスにも、玄人向けの「未開の山」があるのを御存知であろうか。 それが、今回取り上げる毛勝山 2414メートル である。

大日三山と極近くに対峙してそびえているにもかかわらず、茫洋としたシルエットを魅せるこの山には神秘性が漂うのだ。 “山好き”ならば、その神秘のベールが何なのか・・と、その頂を踏んでみたくなる事だろう。 だが、容易に頂へは近づけない。 この山には、一般的な登山道がないのだ。 

この山の頂を踏むには、ルート設定が何もない《毛勝谷》の万年雪渓をつめていくしか手がない。
しかも、頂上付近の雪渓は傾斜度50°となり、一般登山者にはかなり危険な内容となっている。 
それでも、頂を踏んでみたい。 その心が恐怖心より大きくなったなら、きっとそれは困難を克服する力となろう。 “山好き”の“山好き”たる心を持って、この頂にチャレンジしてみよう。



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毛勝山・毛勝谷〜北西尾根ルート 行程図

   行程表                駐車場・トイレ・山小屋情報
魚津市街より車(0:40)→片貝山荘(0:40)→阿部木谷・車止め(1:00)→大明神沢出合
(0:50)→1600m二股(2:00)→毛勝山(2:00)→北西尾根・毛勝谷雪渓展望所
(2:00)→1479.1m三角点(2:00)→阿部本谷林道分岐(0:20)→片貝山荘より車
(0:40)→魚津市街

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難関峰の頂に立って
今まで見た事のない
逆八ッ峰の剱を魅にいこう

さて、今回はこの『日本百景』で取り上げた情景の中で、目的地までの難度が1~2を争う景勝を御紹介しよう。 この毛勝山の登高ルートは《毛勝谷》の万年雪渓を伝っていくのだが、この雪渓の頂上直下の傾斜度は何と50°と、かなりの恐怖感を伴うのだ。 少しでも気を抜けば、少しでも滑れば滑落事故は確実の所である。 

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『日本百景』の山旅で最も危険に感じた
戸隠・西岳の『蟻ノ戸渡リ』
に双璧の難度の山へ

『日本百景』の中でもこの地と難度で肩を並べるのは、《知床岬》と《戸隠・西岳ルート》位であろうか。 その事を踏まえて、確実な準備と確実な基礎訓練・確実な情報収集、そして正確に自分自身の力を把握してからこの難関に挑んで頂きたい。

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そしてこの非合法の地・知床岬の
次に行くのが困難な道なき山へ

準備無き者には、山は容赦なく襲いかかる。 だが、その困難に打ち勝つ術を持つ者が挑んだならば、山は最高の贈り物を目と心に届けてくれる事だろう。 それでは、この難関を克服した者のみが望める・・という景色を眺めにいこう。

まず、この山に挑むにあたって、全ては『山のセオリー』に忠実に従うという事である。 整備の行き届いた山ならば、多少セオリーを外しても何とかなるだろうし、困難より逃げる事も可能であろう。 
だが、ここは違う。 1つのミス・・「滑った」、「転んだ」というものが、命をも落とす大事故につながりかねないのだ。 従って、“山のセオリー”を守れない、又は守らなくてもいい・・とお考えの方は、この項目は見ないで飛ばして頂きたい。 

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今は常駐職員のいなくなった
北陸電力・第5発電所には

そのセオリーの1つ目は、前日アプローチの早朝早出である。 有り難い事に、登山口近くにある《北陸電力・第5発電所》には旧北電の職員宿舎だった《片貝山荘》があって、布団・TV付で快適に宿泊できる。

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水洗トイレ・炊事場・布団完備の
元職員寮であった片貝山荘がある

これを利用しない手はない。 前日はできるだけ早めに入って、登山口までの下見位は済ませておく位が望ましいであろう。 それでは、以上の事を踏まえて出発しよう。 

山荘前は車の駐車スペースがほとんどない。 従って、《阿部木谷》の車止めまでは車で向かった方がいいかもしれない。 《阿部木谷》の砂防ダム建設現場には広い駐車スペースがあって、現場作業の邪魔にならぬ所に車を止めて出発だ。

『登山口』といっても道標・指標リボンなどは一切なく、《阿部木谷》の左岸堰堤沿いの林道跡と思われる踏跡を伝っていくだけだ。 歩き始めの林道跡はジグザグも切っていて石垣も見られそれらしいが、すぐにその形跡は消えてなくなる。 林道の形跡が消えた頃に雪が出てきて、やがて右手より雪渓が谷に合流する地点に出る。 

ルートはこの合流地点から河原の方へ一度下るのだが、その下り口が不明瞭で、また右手よりの雪渓も大きくかなり急で、予備知識がなければこれを本谷の雪渓と勘違いして登りかねないので気をつけよう。
堰堤の最上部までつめると河原までも雪が乗ってきて、やがて沢が右へ90°曲がる辺りから本格的な雪渓となる。 

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板菱付近の雪渓
まだ傾斜も緩やかだ

ここは《板菱》と呼ばれ、両側の崖が切り立ち谷幅がかなり狭まっている。 この《板菱》の情景を覚えておけば、道に迷う事はないだろう。 雪渓は上の掲載写真のように上部まで広大な雪渓が残り、その上には毛勝山の稜線が朝日を浴びて輝いている。 これからの困難を覆い隠すような明るい情景だ。 

さて、ここで雪渓の雪で顔を叩き、気合を入れてアイゼンを装着しよう。 当然の事とお解かりであろうとは思うが、アイゼンは前爪付の10本爪以上のものを用意したい。 そして利き手には、必ず先の尖った“突き刺す事ができる『ピッケル』を所持している事思う。 厳しい言い方かもしれないが、これらの事の準備想定ができない方もこの項目は飛ばして頂きたい。 

この雪渓を登高するのに、簡易アイゼンやスキーブーツ・ストックなどはもっての外である。
これらを想定した方も同様に、この項目は飛ばして頂きたい。 アイゼンはしっかりと装着しよう。 
傾斜が緩い今ならば装着のし直しもできるが、頂上直下の急傾斜ではアイゼンの脱落が命取りとなりかねないからだ。 従って、装着の練習は事前にしておくべきだろう。 

『山のセオリー』・・、それは山で当たり前の事をするだけなのだが、いざとなると難しいものである。 
ワテは普段の生活では、人としての『セオリー』を到底守れているとは思えない。 ともすれば、そのほとんどの行為が『セオリー』とは違えている事だろう。 だが、『山のセオリー』だけは堅く守りたいと思っている。 この心がある限り、ワテは山に登る事が許されると思うのだ。 

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大明神谷出合の少し前当たりから
雪渓の傾斜は徐々にキツくなる

・・話は横道にそれたが、《阿部木谷》の雪渓は《大明神沢》と呼び名を変え、緩やかな傾斜で伝っていく。 やがて、上から延びる左右2つの雪渓が段となった広い出合に着く。 《大明神沢出合》だ。
真っすぐ上に続くのが《大明神沢雪渓》、1段上の左手に延びる雪渓がこれよりつめていく《毛勝谷雪渓》だ。 ここの標高は1240m。 これより雪渓を1200mも登るのだ。 

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1600m二股を越えると
雪渓は「ケツ座り厳禁」の
急傾斜となる
写真で見るとあまり急には
感じないけど

この《毛勝谷雪渓》は、《1600m二股》という左右に雪渓が分かれる所までは、傾斜も緩やかで心穏やかに登高できるが、《1600m二股》よりの高低差800mが猛烈な傾斜となる。 《1600m二股》で左手の沢に入り登高していくが、登高する毎に傾斜が増していき、もう一つ雪渓を左手に見る頃には三角定規でいう長辺(60°角の辺)の角そのままの傾斜を登っているように感じられる事だろう。 

ここで禁物なのが下を見る事と、座り休憩だ。 もはや、50歩進めば休憩・・を余儀なくさせられるが、腰が痛かろうと何だろうと腰・・、即ち尻を下ろす事は滑落へとつながるのはお解かりの事と思う。
傾斜は更に急となり、最後のつめでは傾斜度は50°を越える・・という噂も聞く。 

そういう事では、この危険な雪渓の登路であのような不埒者がいたのは返す返すも腹立しい事である。 
何と、最後の左手に分かれる沢の上をスキーで滑っている馬鹿者がいたのである。 この馬鹿者が滑り落ちてケガをしようが死のうが知った事ではないが、この馬鹿者がエッジを返す度に出る雪球や飛ばす石コロがこちらに降り注ぐ事が許し難いのである。

この雪球や石ころが当たって、こちらがバランスを失って滑落するような事があればどういう事になるか、この馬鹿者には理解できないらしい。 また、急傾斜を滑る奴がこちらに向かってくるのは衝突の恐怖もつきまとう。 普段ならば目くじらを立てる程の事でもないのかもしれないが、この急傾斜では別である。 

少しのアクシデントが、滑落につながりかねないのだ。 くれぐれも、このような不埒な行為は謹んで欲しいものだ。 ジグザクを切っていくよりも真っすぐ行く方が距離が短く危険度が少ない為だろうか、もはやジグザグを切ることもなく50°の傾斜をつめていくと、丸い丘となってハイマツで塞き止められている雪渓最上部へ登り着く。

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毛勝山の頂稜部より
傾斜度50°の雪渓を見下ろすと
デンジャラスゾーンは視界に入らず
大明神沢出合が見える

この時の達成感は、言葉では表せない熱いものがある。 さすがに、雪渓最上部で腹ばいになる勇気(剱の《長次郎雪渓》登高では興奮のあまりしたのだが)はなかったが。 ハイマツの中に切られた通路に分け入ると、毛勝山稜線の西面に出て視界がバッと広がる。 まずは、ハイマツに沿って転がる露岩に“ヘタリ”込もう。 あれだけの緊張をしたのである。 これ位は許されるだろう。 

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だらしなくてスンマセン
でも過度の緊張から解放されて
しばらく呆けておりますた

十分に“ヘタリ”込んで落ち着きを取り戻したなら、広い緩やかな稜線を10分伝って毛勝山 2414メートル の頂上へ。

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今までの緊張がウソのような
広く緩やかな稜線を10分ほど伝うと
憧れの毛勝山山頂だ

さすがにあれだけの事を克服すると、頂上に着いた時の感慨は深く大きい。 頂上からの眺めは、素晴らしくも戸惑う眺めが広がる。

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対峙する峰は
後立山の唐松岳か?

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白馬三山も全て裏側の
魅た事のない山容だった

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あの前にせり出した峰は
白馬鑓だろうか?
そして背後にそびえる山なみが
白馬三山だろう

まず、剱岳が左手に《八ッ峰》を連ねる“不思議な姿”でそびえ立っている。 普段、《八ッ峰》は右手に延びているのをみるので、この鏡で映したような情景には戸惑いを覚える事だろう。 だが、当然である。 初めて、剱岳を北東側から眺めたのだから。

感動の逆八ッ峰
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頂上の縁まで近づいて
始めての剱の逆八ッ峰を魅る

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雪をまとった逆八ッ峰は
迫力満点だ

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困難を越えての感慨深い眺め

また、後立山連峰も、頂上の雪田の果てにそびえ立ち感慨深い。 でも、山の位置が混同してしまう。
そうなのだ・・。 剱の八ッ峰だけでなく、後立山連峰の峰々の並びも全て逆なのだ。

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裏の黒部側から望む鹿島槍の双耳峰は
鋭く尖ってカッコイイ

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鹿島槍の左隣は唐松岳・・
違った! 全て逆だから
ここから望む鹿島槍の左隣の峰は五竜岳だ

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唐松岳は右隣の
この峰だな・・たぶん

ただ惜しむべくは雪質がやや汚く、雪原を前景に持ってきても、今イチ冴えない事であろうか。
ひとときの間・・下りの事を忘れて、思うがまま頂上の情景を楽しむとしよう。

  ※ 続く下山行程は、次回『第432回 毛勝山 その2』にて・・


にほんブログ村 旅行ブログ 山・高原へ
ヤフーから移転した記事のリンク修正と
文字のミディアム化と
それに伴う記事の文章校正

かなりエライですなぁ〜
何せ8年半分1560記事あるしィ
でも、ようやく半分が終わったよ

でも『ブロとも』の皆さんの
管理画面のブロとも更新で
ワテの修正した記事が
更新記事として羅列されてるようで・・


ご迷惑をおかけしますが
この作業をせねばヤフーのリンクは
全て「Yahoo!ブログ終了のお知らせ」
になっちゃいますので御容赦を


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No Subject * by hanagon60
毛勝山は今まであまり頭になかったのですが、改めて認識し直したのは昨年の剱岳、小窓尾根越しの姿でした。
これは5月頃の山行でしょうか?

Re: No Subject * by  風来梨
hanagonさん、こんばんは。

> 毛勝山は今まであまり頭になかったのですが、改めて認識し直したのは昨年の剱岳、小窓尾根越しの姿でした。
> これは5月頃の山行でしょうか?

仰る通り、5月の中頃です。 聞くところによると、毛勝山は雪渓のある時しか登れないらしいです。 また、次回の下山編で下りた北西尾根は一般ルートではないらしく、ガイドとかも見当たらないです。 たぶん、長大過ぎて、登るとなると水場皆無の尾根を2日がかりとなるからでしょうね。 下りでも空身で(奇跡の体力時でも)9時間かかりましたから。

でも、雪山経験者なら、何とかこなせると思います。

コメント






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No Subject

毛勝山は今まであまり頭になかったのですが、改めて認識し直したのは昨年の剱岳、小窓尾根越しの姿でした。
これは5月頃の山行でしょうか?
2020-05-16 * hanagon60 [ 編集 ]

Re: No Subject

hanagonさん、こんばんは。

> 毛勝山は今まであまり頭になかったのですが、改めて認識し直したのは昨年の剱岳、小窓尾根越しの姿でした。
> これは5月頃の山行でしょうか?

仰る通り、5月の中頃です。 聞くところによると、毛勝山は雪渓のある時しか登れないらしいです。 また、次回の下山編で下りた北西尾根は一般ルートではないらしく、ガイドとかも見当たらないです。 たぶん、長大過ぎて、登るとなると水場皆無の尾根を2日がかりとなるからでしょうね。 下りでも空身で(奇跡の体力時でも)9時間かかりましたから。

でも、雪山経験者なら、何とかこなせると思います。
2020-05-17 *  風来梨 [ 編集 ]